天使編1
集のいる大陸の反対側の大陸。
その最東端にある、エルフの国、神聖シャンメリル。
耳の長い美男美女が手を取り合って踊っているところに、大きな穴が出現した。
そこから現れたのは、一匹の馬。
純白の翼を持ち、神々しく輝くその白馬は、周りの美男美女や、その奥の宮殿を睥睨する。
「《種族名鑑定》」
誰かが唱えたのを皮切りに、多くの者が同じ魔法を唱える。
出てきた名前は、見たこともないものだった。
――ペガサス
誰かが、ペガサスに《吸黒玉》を放った。
それはペガサスに直撃し、黒い爆発を起こす。
爆炎が収まると、ペガサスは《吸黒玉》を放った若いエルフを見つめていた。
ペガサスを囲むように渦巻く黄金は、彼らに生物としての格の差を感じさせた。
――ペガサスは魔法を使えない。
しかし、彼らは別の力を使うことが出来る。
光気と呼ばれるその力は、圧倒的だった。
ペガサスは、一匹で神聖シャンメリルという一つの国を滅ぼした。
エルフはもともとマナ量も多く、精霊の力無しで帝級魔法を使えるほど魔法に優れているのだが、魔法が効かない相手と戦うのは初めてだった。
一匹で国を滅ばしたペガサスであるが、穴から出てきたのは一匹ではなかった。
廃墟となった神聖シャンメリルに、約3万匹のペガサスがうろついている。
特に纏まりなくうろついていたペガサスだが、突然皆穴の方を向き、頭を垂れる。
穴から、一際大きく派手なペガサスが現れた。
純白の翼は6枚で、頭の上には黄金の輪が輝いている。
その一部始終を、黒装束の者が見ている。
メレン・シャドウ。
彼女はエルフではなく、人間だ。
忍という一族の唯一の生き残りである彼女は、その光景を冷静に観察する。
「《種族名鑑定》」
――光騎ペガサスレイン
二つ名つき、つまり最上位種だ。
《種族名鑑定》が効くということから、モンスターであることが分かった。
つまり、どこかに魔石が存在するはず。
それを破壊すれば、ペガサスやペガサスレインは倒せるはずだ。
もう十分情報は得ただろう。
メレンは周りのペガサス達を観察し、死角から死角へ影のように移動する。
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飛ぶという行為は、こんなにも気持ちの良いものだったのか。
そんなことを思いながら、集は雲の上を飛んでいた。
「ん?」
前方に、白い陸地が見えてきた。
「シンシア」
「呼んだ?」
「うわ!」
「うわってなによ。あなたが呼んだんでしょ」
そこに、ローブの男が飛んでくる。
「貴様ら、止まれ!」
なかなかの剣幕だった。
「マクヌール派の者か!やはりもう嗅ぎ付けたか!」
男が何を言ってるのかさっぱり分からない。
「その翼……魔王クラス……お前がマクヌール派の序列1位か!」
集はシンシアと顔を見合わせる。
「あの人、何を言ってるの?」
「さあ、分からないわ」
小声で話し合っていると、男が割り込んできた。
「何をこそこそ話している!」
「はぁ、あの人うるさいから私もう帰るわね」
シンシアはどこかへ飛んで行ってしまった。
「残るは貴様だけだ。さあ、大人しく帰……」
男は振り向く。
空間に、穴が開いていた。
その穴の前に、一人の男が立っていた。
「貴様……誰だ?」
「………」
その男の外見は、ある単語を連想させる。
――天使
そう、白い翼を生やし、頭の上に光の輪を浮かべた、あの天使だ。
「私はサマエル。虫けら共に挨拶に来ました」




