魔王編3
集は、クリスタルドラゴンと遭遇した。
クリスタルドラゴンの眼は銀色に戻っている。
漆黒の翼をはためかせ、集はクリスタルドラゴンの上に、黒い彗星となって移動した。
クリスタルドラゴンはまだ集がどこにいるのか気がついていない。
集は魔法をイメージする。
すると、それに近い魔法が頭に浮かび上がった。
集の拳がびりびりと電気を纏う。
これを叩きつけながら魔法を唱えれば良いのだろう。
属性は雷……第14階梯―深淵魔法――
「《雷神の鉄槌》」
ドガアアアアアアン!!!!!
空に、世界樹の如き黄金の柱が立ち上る。
下の地面には大きなクレーターが出来上がっており、その表面は高熱でどろどろと溶けている。
クリスタルドラゴンの体は灰すら残らず消えている。
衝撃波が波紋のように広がり、周りの山を破壊する。
不思議なことに、集には一切のダメージがない。
「あーー。うるっさいわ」
集は移動を再開した。
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アロースの町には、冒険者達や、帝国の騎士団が集まっていた。
「おいおい、その情報本当なのかよ?」
「本当らしいぞ」
「発見した班には姫様もいたらしいぞ」
「クロエ様も?おいおい、騎士学校は皇女様にどんな危険な授業してんだよ」
住民は皆避難している。
「クロエ様が!クロエ様がまだ!」
「大丈夫、戻ってくるって言ってただろ?」
「でも!」
「それに、あの“黒姫”だぞ。戻ってくるに決まってんだろ」
「皇帝は何をしてるんだよ!娘だろ!」
「信じてるんだよ、娘を」
辺りは混沌としている。
情報の真偽が分からないからだ。
「この俺様がいるからには、雑魚が何匹いようと全部燃やし尽くしてやんよ!」
炎剣系の魔法のスペシャリスト、フレイムが高笑い。
「はっ!雑魚はお前だろ、フレイム」
ミュルタゴラス製の魔剣(実は偽)の所有者、カインズがそれを鼻で笑う。
「あ?やんのか?」
「はは!やるか?」
「ここで争うな」
剣聖、リュークがたしなめる。
2人はしぶしぶ引き下がる。
そこに、森から人が魔法で飛んでくる。
「偵察が戻ってきたぞ!」
「おい!どうだった!」
「きかせろきかせろ!」
「はぁ、はぁ……やばいぞ、凄い数だ」
「どんくらいだ?」
「およそ6万だ」
「ま、まじか」
「どんなモンスターがいた?」
「安心しろ、殆どゴブリンとオークだ」
「えー!私捕まったらやばいじゃん!」
「そうだな。女は捕まったら死ぬより辛いな」
「嫌だったらこっそり逃げれば?ばれないでしょ」
「そうするわ」
集まっている数は約2万人。
ざわざわでとてもうるさい。
「勇者様はどこだよ?」
「魔王討伐に向かっただろ」
「おいおい、今は魔王よりこっちだろ」
勇者の姿が見当たらないことに、多くの者が困惑していた。
そして多くの者が、これから来るモンスターの軍団に恐怖していた。
若い冒険者の中には、股間を濡らして震えている者もいる。
「おい、あれ見ろ」
「え?もう来たのか?」
「ちげーよ、あれ、王国の騎士団だよな」
「本当だ」
セイント王国の騎士団が、姿を現す。
「我ら!セイント王国騎士団!同盟国エルビオン帝国に加勢する!」
「「「おおおぉぉぉぉ!!!」」」
大地が揺れるほどの熱狂。
「俺たち!セイント王国の冒険者も加勢するぜ!」
「「「おおおぉぉぉぉ!!!」」」
更に熱狂する。
この時皆、異様な高揚感を覚えていた。
高い建物に登り、多くの人に見えるように、互いの国の騎士団長が握手を交わす。
「「「うおおぉぉぉぉぉ!!」」」
こうして、セイント王国とエルビオン帝国は、より深く結び付いた。
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どうするべきなのだろうか?
自分1人で逃げるべきなのだろうか?
帝国は滅びる。
ならば、自分も祖国と一緒に死ぬべきなのだろうか?
クロエの顔からは、血の気が失せている。
もはや何をしたところで、無意味だろう。
「どしたのー?」
プリムの無邪気な声に、少し癒される。
少し冷静になった。
このモンスター軍団の後方には、化け物達がいることを伝えるべきだろう。
「うむ。そうじゃ」
自分のやるべきことを見つけたことで、何かから少し解放された気分になる。
崖の上から、モンスターで埋まった広い草原を見下ろしつつ、決断する。
さて、飛び立とう―――
「君、何してるの?」
本気で驚いた。
声も出ない。
隣に、見知らぬ少年が立っていた。
「ん?どうしたの?」
集は、不思議そうに黒髪の美少女を見下ろす。
「だ、誰なのじゃ?」
何故こんなに平然としていられるのか?
いつからいたのか?
誰なのか?
意味が分からない。
クロエの質問に、少年は答える。
「シュウだよ。よろしく」
気楽すぎる。
今の状況を分かっていないのだろうか?
恐らくクロエの事は皇女だと気づいていない。
帝国の人間では無いのだろう。
セイント王国の人間だろうか?
「なんでこんなにモンスターがいるの?」
少年はなんの気負いもなく、ただ質問する。
クロエは、目の前の少年が分からない。
こんな化け物達を見せられて、人はこうも飄々としていられるものなのだろうか?
今いるこの場所も危ないというのに。
「知らぬ」
クロエの答えに、集は興味無さそうに前を向く。
「ふーん」
ただ平然と前を見る隣の少年。
やはり、これがいかに酷い状況なのか分かっていない。
「どうなって……しまうんじゃ」
知らず知らずのうちに、絶望を吐露する。
「誰か、誰かなんとかしとくれ、頼むのじゃ」
「ん?ああ、分かった」
集は魔法をイメージする。
大陸の俯瞰映像が見え、そこに半径10万キロメートル程の円が脳に浮かぶ。
それを徐々に狭めていき、現在集達がいる場所も除外し、モンスターだけに絞り混む。
アメーバのような奇妙な形になる。
奥の方に、翼――《戯れの堕天使》を生やした人間っぽい何かがいるので、そこも除外。
「よし」
クロエは少年を観察していた。
独り言に介入してきたかと思ったら突然黙りこみ、間をおいて目を開けるという謎の行為。
何がよしなのだろうか?
目の前の少年は、手をゆっくりと前へ伸ばす。
優しく風が吹き、少年の髪がさらさらと揺れる。
よく見ると、端整な顔立ちをしている。
少年のすました顔を見ていると、不思議と心が落ち着いた。
何故かこの時ばかりは、クロエはモンスターのことを忘れていた。
風が気持ち良い。
ここだけ時間がゆっくりと流れているように錯覚する。
少年は、口を小さく開いた。
「《神羅氷結零世界》」
そして世界は凍りつく。
約6万、全てのモンスターが、一部の例外もなく凍る。
世界が真っ白に染まる。
氷の彫像となったモンスター達は光となって消えていき、残った氷がぼろぼろと崩れ落ちる。
第15階梯―禁呪《神羅氷結零世界》。
たった1つの魔法で、魔王軍は壊滅した。
集も予想以上の効果だったようで、頬をぽりぽりと掻いている。
仕方がないが、死ぬほど寒い。
「……………」
クロエは目を見開いて固まっている。
「あっ」
集は気づいた。
これは、れっきとした自然破壊だ。
現在集にはお金が無いので、賠償金を求められたらまずい。
「じゃあね。《戯れの堕天使》」
だから、さっさと逃げることにした。
クロエは集が去ったあともしばらく動かず、数時間後、魂が抜けたように崩れ落ちた。




