異世界編3
緋色の髪の美少女と白銀の髪の美少女は、並んでソフトクリームを食べながら歩いていた。
彼女達が進む方向は、モーゼの十戒のように人が割れる。
そこだけ空気がダイヤモンドダストのように輝いているように錯覚する。
「次は負けないわよ、六花」
緋髪の少女は笑顔で言う。
「こちらこそ、緋咲さん」
銀髪の少女は無表情で返す。
「もう少し表情作れない?」
「ずっと笑顔って疲れませんか?」
笑顔と無表情で言い合う。
「生意気な1年生ね」
「私のが強いので」
「あら、またやってみる?」
「いつでも」
周囲の人々は、女神達の会話を邪魔しない。
少女達の半径10メートルに入ったものは、会話を止める。
周りの視線が煩いので、人通りの少ない方へ歩く。
女神達はそこのオムライス店へ入っていく。
「六花、おすすめは?」
「カレーオムライス」
「じゃあそれにするわ。店員さん」
「は、はひ!!」
「カレーオムライス1つ」
「私も」
「は、はい!!カリェーオムリャイシュ2つでしゅね!!」
緊張でがちがちの若い男性店員はかくかくと奥に戻っていく。
ドアがばんっ!と開かれる。
「大人しくしろ!強盗だ!金をだせ!」
銃を持った覆面の男が5人入ってくる。
同時に、銀髪の少女――皇乃女 六花は、5人と客室とを魔力で隔てた。
緋髪の少女――緋咲 楓はいつの間にか5人の前に立っている。
「な、なんだお前!」
「止めろ!撃つな!」
5人の1人が楓に銃を撃つ。
弾丸は楓の胸の前で魔力の壁にぶつかり、潰れて落ちる。
「来るな!来るな!」
バンッバンッ
弾丸は全て潰れて落ちる。
楓は笑顔で
「うるさいよ」
無造作に右手を前に翳す。
右手を閉じると、青い渦巻きと共に5人の銃が潰れた。
「動かないでね」
5人は青い光に抑え込まれて身動きがとれなくなる。
楓は携帯電話を取りだし、
「あ、警察ですか?今強盗がいるんで早く来てください………はい……はい………今、目の前にいます……なんか動きません……はい……――」
軽い感じで電話を始めた。
「あの、カレーオムライスまだ?」
六花の言葉に、皆宇宙人を見るような目をした。
∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈
「おい蛆虫」
「俺、人間なんだけど」
「うっせー。蛆虫は蛆虫だ」
「はいはい。で?」
「金寄越せよ。今日財布忘れたんだよ」
「はい、1000円。後で返してね」
「は?寄越せっつったんだよ。返さねーよ」
ゴリラのようなその男は、集から金を奪い取った。
先日会った、金髪縦ロールと同じ制服だ。
「返してくれないなら貸さないよ?」
そう言って集は手を伸ばすが、ばしんと力強く弾かれる。
手が痺れる。
「君、名前は?」
「あん?んで俺が名乗んなきゃ行けねーんだよ」
「名前が分からないと、取り返しようがないからね。高校違うし」
「知ったところで纏者でもねぇお前なんかじゃどうしようもねーよ」
「俺は無神 集、君は?」
「話聞いてたかこらぁ?」
「聞いてたよ」
「お待ちなさい蛆虫!」
「あん?」
聞いたことのある声だ。
「貴方のような蛆虫を見ていると吐き気がしますわ。お金を返してさっさと去りなさい」
「げっ………聖百蘭」
「あ、いつかのヘッドホンの人」
「聖百蘭 アテナですわ!」
「ちっ、ほら、返す。くそが」
ゴリラのような男はアテナに怯え、集に1000円を返して去っていった。
「ありがとう、アテナ」
「ふあぁぁ!……アテナと呼ばないでくださいまし!」
「じゃあなんて?」
「聖百蘭様、もしくはアテナ様ですわ」
「えっと、アテナ様」
「なんですの?」
「ありがとう」
「気にすることはありませんわ。強者は弱者を守る義務がありましてよ?」
「それじゃあ気にしない。じゃあね」
「え、いい今のは言葉の綾といいますか……」
アテナの言葉はイヤホンで音楽を聴いている集には届かない。
教室に着くと、皆目そらす。
白亜だけは集を同情的な目で見ている。
白亜は集に話しかけようと立ち上がろうとするが、友人達に必死に止められ、しぶしぶ止めた。
チャイムが鳴る。
朝のホームルームが始まる。
つまらない。
集は両手で口許を覆って、大きく欠伸をした。
そしていつも通り窓の外を眺める。
ああ、トイレに行きたい。
「えーっと、では、今日の日直………なにこれ?!」
集も気付いている。
教室の床に大きな魔方陣のようなものが光っている。
そして、以前感じたことのあるような揺れ。
これはおそらくあれだ。どこかへ跳ばされるやつだ。
「え、ちょ、なにこれ……」
「なになに、どうなってんの?!」
「式絶結界……展開出来ない」
「なんかのドッキリ?」
「綺麗……」
教室内は騒然としている。
「他の先生を呼んできます!」
担任の女教師は慌てて教室を出ていく。
魔方陣はどんどん輝きを増していく。
そして、教室が光で包まれる。
一瞬の浮遊感の後に、お尻に冷たくて固い感触。
光が収まると、そこは教室とは似ても似つかぬ豪華な部屋だった。
バロック様式のような豪勢な部屋に、大きなシャンデリアが垂れ下がっている。
「ようこそおいで下さいました、勇者様方」
月の女神のような笑みを浮かべ、白いドレスを着た透き通るようなピンク髪の少女が恭しく礼をする。
少女の隣には、女性の騎士が立っている。
「ここは………どこ?」
「え?誰?かっわいい!」
「どこだよここ!」
「なになに?何が起こったの?」
戸惑っている皆をおいて、集は前に進み出る。
皆の視線が一点に集まる。
少女も集を真っ直ぐ見つめ、これから聞かれることが分かっているのだろう、完璧な笑顔。
分かっているなら話は早い。
集は端的に質問する。
「それで……」
「はい」
「トイレは何処なのかな?」
「………」
「……あれ?………トイレ、は?」
「……トイレ、トイレですね?トイレなら、あちらの扉を出てすぐ左にあります」
「分かった」
集は急いでトイレに駆け込んだ。
廊下には甲冑を着た男がずらりと並んでいた。
家のトイレとほとんど同じ、洋式の水洗トイレだ。
ただお尻を洗う機能とかはない。
座ると大の方も催したので、少し時間をおいて集はトイレから出てきた。
部屋に戻ると、先程集がいた場所に白亜が立ち、ピンク髪の少女と何か話している。
話し終わったようで、少女が集の方に歩いてくる。
クラスの皆もそれについてくる。
「無神さんも、ついてきてください」
「はい」
さりげなくクラスの皆に混ざる。
泣き出したり、反抗したりする生徒が出てくると思ったが、意外に誰も反抗しない。
家族や友達に会えなくなって寂しくないのだろうか?
ピンク髪の少女に説得でもされたのか。
他に何か理由があるのか。
集は家族に会えなくなって寂しい。
反抗しても帰してくれそうにないので、無駄なことはしないが。
少女は、とある部屋の大きな水晶玉の前で歩みを止めた。
「では、これに手を翳してください。マナ量は大まかにしか分かりませんが、マナ適性ははっきり分かります」
皆は一列に並び、なにかそわそわしている。
「き、緊張するな」
「私は光魔法がいいわ」
「俺、炎がいい」
「絶対召喚魔法でしょ」
手を翳した生徒達は、ピンク髪の少女に適性魔法やマナ量を教えられて、様々な反応をしながら列を離れていく。
「凄いです!マナ量400万です!」
白亜の番で、ピンク髪の少女が嬉しそうにはしゃぐ。
可愛い。
「マナ適性は、風、炎、重力、無属性、それに召喚魔法です!」
白亜も驚いたように目を開き、嬉しそうに目を瞑って笑う。
こちらも可愛い。
「マナ適性は光、無属性の2つ。マナ量は50万です」
「よっしゃ!光魔法ゲット!」
前の女子が終わり、集の番だ。
前の生徒と同じように、水晶玉にゆっくりと手を翳す。
水晶玉の中央の辺りが薄く水色になった………気がする。
少女は水晶玉をじっくりとみて、申し訳なさそうに言う。
「えっと、マナ適性は氷、マナ量は100です」
「うわ、マジか!はははははは!!!」
典都が愉快に笑いだす。
「どうした?急に母母言い出して」
集の質問も無視し、典都は笑い続ける。
何かの鬱憤が晴れたかのように、笑う。
集の後に何人か続き、典都の番だ。
ゆっくりと手を翳す。
水晶玉の中が揺らめいているように見える。
「マナ適性は無属性、マナ量……300万です」
「「「おぉ~」」」
「はははははは!!どうだ無神!あん?」
「凄いよ、鎌戸君」
「ちっ、すかし野郎」
「はい?」
「次は私でしょ?早く退いて」
最後は、巫女装束を着せたら似合いそうな女子だ。
「っ……!マナ適性、無属性、重力、光、マナ量……3億です」
ピンク髪の少女は愕然とした表情で告げた。
皆も愕然としている。
ちなみに、マナ量が100万に達している生徒は、3人だけだ。
次に向かったのは、大きな剣が飾られている部屋だ。
「これは、代々勇者様が使ってきた聖剣、《ドラゴンスレイヤー》です。鍛冶神王と呼ばれる伝説の鍛冶師、ミュルタゴラスが鍛え上げた、強力な剣です。今では偽物が多く出回っていますが、この《ドラゴンスレイヤー》は王家が代々受け継いできた本物のミュルタゴラス製の聖剣です」
そんなことを言われても、ミュルタゴラスなど知らない。
「これは選ばれた者にしか使えませんので、順番に握ってください。複数人選ばれることはありません」
「うは!燃えるぜ!」
「選ばれし者……かっけー!!」
「あんな重そうなの持てないわ」
先頭はマナ量3億の少女だ。
握るが、何も変化はない。
ほっと安堵の声がどこからか聞こえてきた。
何人か終わり、集の番。
いちいち皆注目する。
握ると、聖剣 《ドラゴンスレイヤー》は呼応するように光り始める。
「「「おお!!」」」
そして何かがこの聖剣と繋がる感覚が確かにしたが、その瞬間、それを集の中の何かが拒絶する。
ばちばちっ!
集の手と《ドラゴンスレイヤー》の間に電撃が走り、互いに超強力なN極とN極のように反発し、聖剣は床に落ちた。
「あ、ごめん」
「いえ、お気になさらず………今のは一体………」
他の皆もぽかーんとしている。
ともかく、次は夕立 白亜だ。
床に落ちた聖剣を握ると、集の時と同じように光り始めた。
「「おお!」」
光は白亜も覆っていき、一瞬眩く光ると光が収まった。
こうして聖剣 《ドラゴンスレイヤー》は、白亜のものとなった。
「白亜さんなら納得」
「仕方ないわね」
「さすが夕立さん!」
「あの、王女様」
「スティアとお呼びください」
ピンク髪の少女は、王女様ならしい。
そして、スティアと言う名前らしい。
「スティアさん、私はこの剣をいつも持っていなければ駄目なんですか?」
「出来ればそうして欲しいです」
「こんな大きくて重そうなものをいつもですか?」
「ああ、それなら、この剣に認められた人はあまり重さを感じなくなりますし、あなたが持っている時、普段は普通の剣と同じ位の大きさになるので心配はいりません」
「そうですか」
一旦皆が落ち着いたので、次の部屋へ移動する。
白亜は小さくなった《ドラゴンスレイヤー》を持っている。
敬語は使わなくていいとスティアは言った。
そして集を前に呼び出し、並んで先頭を歩く。
「ナガミ様、もう他の方からお話は伺いました?」
「えっと、はい」
「そうですか。では、説明は不要ですか?」
「はい」
興味ないので、説明を拒否した。
「何か質問はありますか?」
「じゃあ、なんで日本語を話せるの?」
「初代勇者様がこの国の共通言語にしたのです。そしてこの言語は他の国にも広がり、今では世界共通言語です」
「共通言語?日本語って言わないの?」
「皆日本を知りませんので」
「へえ。それとその髪、地毛?」
「地毛です」
「他にもいるの?」
「お母様以外、見たことありませんね」
「魔法ってどうやって使うの?」
「どうと言われましても……皆感覚で使っていますからね」
「じゃあ練習とかどうしてるの?」
「それぞれ魔法を飛ばしあったり、実践的な練習をしているうちに、自然と新しい魔法が使えるようになります」
「人に教えてもらったりしないの?」
「個人の感覚ですので、教えるのは無理です」
「マナって増えないの?」
「増えません」
「マナを使ったらどのくらいのペースで回復するの?」
「0時0分0秒に完全回復します。それまでは一切回復しません」
「へー」
そんなことをしているうちに、着いた。
そこは玉座だった。
王冠を被った白髪のおじさんが座っている。
隣には妙齢の美女が立っている。
両脇には白銀の甲冑の騎士がずらりと並んでいる。
赤い絨毯の上で、クラス一同緊張する。
「説明は済ませたのか?スティア」
「はい、お父様」
「そうかそうか。勇者の方々、私はセイント王国国王、ゲイン・セイントだ。是非とも魔王を倒し、我が国、セイント王国を救ってほしい」
「「「はい!」」」
皆の熱気が凄い。
集は話についていけていないが、興味もないので、適当に皆に合わせる。
「まあまあ、なんと頼もしいこと」
王妃と思われる女性はにこやかに笑う。
「魔法使ってみたいんすけど、いいっすかー?」
坊主頭の男子が嬉しそうに質問すると、騎士達がざわめく。
するとだんだん坊主の男子は顔を青くし始め、
「も、申し訳ありませんでしたぁぁ!!」
土下座した。
「ふふ、可愛らしい」
王妃の一言で場が和む。
「良かろう。スティア、勇者方を訓練場へ」
「はい」




