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異世界編2

集が転校してから1週間たった。

最初はちやほやされたが、今は落ち着いている。

現在集は重大な問題を抱えていた。

何故か友達が出来ない。

話しかけると、露骨によそよそしく対応され、すぐにどこかへ行ってしまうのだ。

その時皆ちらちらと怯えたように典都を見ているが、それに集は気付かない。

昼休みなどはいつも机に突っ伏して寝たふりをしている。


ぼっちである。


「話しかける?どうする?」

「でも、鎌戸が怖いし……」


集にとって結構重要な会話だったのだが、この時には残念なことに寝ていた。


夕立 白亜が集をゆする。


「ねえ、君はどうしていつも寝ているの?」


「夕立さん!ダメだよ!あとで鎌戸に殴られるよ!」


「………むにゃむにゃ」


集は起きない。

白亜は振り返り、ずんずんと歩いて典都の前に行き、びしっと指を指す。


「鎌戸君、あなたは無神君が嫌いなの?」


あまりにも直球な質問。

典都の眼鏡の奥の瞳が揺れた。


「……ああ」


「どうして?」


「止めときなって……」


周りの女子が止めるが、白亜は止まらない。


「どうして?無神君が何かしたの?」


「………」


「無神君何も悪いことしてないよね?」


「………」


「どうして無神君を孤立させるの?」


「うるせーな!!」


典都から青白い光が溢れ出る。

魔力だ。

すぐに消える。


「うわ!鎌戸がきれた!逃げろ!」


「白亜さん逃げて!」


白亜は逃げない。


「君が悪い。無神君に謝りなさい」


「うるせーっつってんだよ!」


ぼわっと魔力が溢れ出る。


「………むにゃむにゃ」


集、熟睡中。


「先生呼んできたよ!」


「どうしたんですか?夕立さんに鎌戸君」


「………いえ」


「なんでもないです」


典都はともかく、白亜もことを大事にしたくなかった。

集のことを慮ってだ。


「仲良くしてくださいね」


女性の担任教師はほんわか締めくくった。


∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈


帰りのホームルーム。

典都がちらちらと集を睨む。

集は窓際の席で窓の外を見ているので、気がつかない。


「では、さようなら」


「起立……礼」


周りの人と話したりして残る人が多かったが、やることがない集はさっさと帰る。

寮はないので自宅にだ。

この学校を転校先に選んだ理由は、家に近いというただ一点。

徒歩で30分位で帰れる。

偏差値は知らないが、親が言うに、そこそこ高いらしい。

集は青いヘッドホンで音楽を聴きながらリズムに合わせて歩調を変える。


「お待ちになって」


「ふんふんふーん」


「お待ちなさい!!」


何か叫んでいるので左を見ると、金髪縦ロールのお嬢様が立っていた。

………以上。


「ふんふんふーんふん」


「お待ちなさい!!」


がしっと肩を掴まれる。

音楽を止め、振り返る。


「………誰?」


「ふふん、星花鸞学園一年、聖百蘭 アテナですわ!」


「………ですわ?」


「あなたは?」


「舞欄高校一年、無神 集ですわ」


「真似しないでくださいまし」


「分かったですわ」


「真似しないでくださいまし!」


「分かった分かった……で、何?」


「そのヘッドホンを渡しなさい」


「……はい?」


「いくらですの?」


「売らないけど……」


「この私が売りなさいといっているのです!」


「この俺が売らないといっているのです」


「立場をわきまえなさい!普通の高校に通う庶民のくせに、魔纏高校たる聖花鸞学園に通う纏者であるわたくしに歯向かうと言うんですの?」


「あ、充電があと20%しか……」


「その上、このわたくし聖百蘭 アテナは、聖花鸞学園の学園長の娘なのですわ!」


「おっと急に重力が前から」


集は駆け出す。


「お待ちなさい!」


アテナが追いかける。

差が開いていくので、アテナは魔力を解放した。

みるみる差が縮まり、


がしっ


「えっ……ずる……」


「ずるくありませんわ。これが庶民と纏者との差なのですわ」


「あっ狂獣」


「引っ掛かりませんわ!」


「ギャァァァーー!!」


「きゃっ!!」


「じゃ、頑張って」


そう言って集は、笑ってひらひら手をふりながら歩いて去っていく。

すぐそこに狂獣がいるというのに、あんなに平然と……

まるで狂獣の恐ろしさが分かっていない。


「とんだ庶民ですわ」


「ギャァァァァー!!」


「うるさいですわね!第二次解放!」




∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈


黒い大地に紅い軌跡が煌めき、続いて複数の白銀の軌跡が煌めく。

アポカリプス達は狂親獣を追いかける。

数分の逃走ののち、狂親獣は周りを囲まれた。


狂親獣の胸の水晶が黄金に輝き、空間が震える。

アポカリプス達は膝をついたり頭を抱えたり様々だが、立っているものはいない。


ふと狂親獣が消える。

空間の揺れがおさまり、アポカリプス達は立ち上がる。

狂親獣は滅多に姿を現さないが、姿を見たものは、それを殺すように王に命じられている。

アポカリプスが狂親獣を狩る理由は簡単、目障りだからだ。

死ぬと光になって消えていく狂獣は、当然食料にはなり得ない。

そんなものはいても邪魔なだけだ。

その狂獣を産み出しているのが狂親獣だ。

殺す以外の選択肢はない。

どうして消えたかなど不明だが、アポカリプス達にとっては好都合だ。


∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈


大きな樹に寄りかかって、ミュルタゴラスはただ呼吸をしていた。

目はうつろで、髪は全て抜け落ち、肌はしわしわだ。

傍らには2振りの聖剣。

しわがれた指をかさかさと動かし、聖剣へ手を伸ばす。

素晴らしい聖剣だ。

白い方は少し地味だが、黒い方は月のように美しい。

それでも、彼の心は満たされない。

なにやら地面が揺れている。

いや、体自体が震えている。

どうでもいい。

吐きそうだ。

吐いた。

どうでもいい。

急に景色が変わった。

空は赤く、地面は黒い。

目の前には、白い骨のようなものが5個立っている。

どうでもいい。

胸にあり得ないほどの痛み。

いつの間にかその骨に胸を貫かれていた。

ああ、死ぬ。

どうでもいい。


「げぼっ……見て……ごぼっ……みたかった……げぼっ」


――ああ、見てみたかった、あの剣を―――


∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈



アポカリプスは、突然現れた謎の物体を刺し貫いた。

改めて見ると、とっくに絶滅したはずの生物、人間だった。

全く訳が分からない。

狂親獣が人間になったとでもいうのだろうか。

ならば、今いる狂親獣は逆にもとは人間で、何らかの要因で狂獣化したということか。

ミュルタゴラスを刺し貫いたアポカリプスは思案する。


「おい」


他のアポカリプスが呼び掛ける。


「それ、何か持っているぞ」


見てみると、両手に剣を持っていた。

ただ黒い方は見たことのない形状だ。

2つとも美しい。

これは王に献上するしかない。

手近にある白い方を手に取ると、


『所有者申請――アポカリプス――個体名――ハーリ――検討――拒否』


仲間の声と同じように、頭に直接音声が流れ込む。

装飾が施されておらず一見地味な白い剣だが、よく見ると何か惹き付けられるものを感じる。


「おい!」


大音量が流れ込む。


「ジェネラだ!」


ジェネラとは黒い竜の姿をしており、王ですら勝てるかどうか分からないと言われる化け物。

逃げる以外に選択肢はない。

白銀の軌跡を残してアポカリプス達は去っていく。

ジェネラはアポカリプス達など気にもせず、そこを横切った。


残ったミュルタゴラスの死体と黒い聖剣の所へ、狂親獣がやってくる。

角を白く光らせて、聖剣を覗きこむ。

そして掴む。

狂獣と違い、狂親獣は指が3本あるので、なんとか掴める。

――ぶん――と振ると、聖剣が引っこ抜けて、とんでいってしまった。

どしんどしんとそこまで歩き、聖剣を持ち上げる。

突然狂親獣が震えだす。

遠くでジェネラが敵意剥き出しで唸っている。

狂親獣は、生存本能に従い、一生に一度しか使えない究極の逃げの選択をした。



∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈



世界を越えて転移した狂親獣は、周りの邪魔な木を適当に薙ぎ倒す。

そして数分木を薙ぎ倒しながら森を進んでいると、狂親獣の目の前に、何かが轟音と共に堕ちた。

舞い上がる粉塵を、蒼炎が凪ぎ払う。

そこには、狂親獣と同じ程の体躯を持つ青い竜がいた。


「GAAAAAaaaaaa!!!」


青い竜の咆哮が空気を震わす。


「GAAAAaaaaaaaa!!!」


狂親獣も答えるように咆哮する。

狂親獣が蝙蝠のような翼を広げ、紅い光のベールに包まれる。

青い竜――サファイアドラゴンが大きな翼を広げ、青い光のベールに包まれる。

刹那、2つの巨体が衝突する。

打ち勝ったのはサファイアドラゴン。

狂親獣は木々を薙ぎ倒しながら後ろへ吹き飛ばされる。

失速してきた狂獣は翼を羽ばたかせて空へ飛んだ。

サファイアドラゴンも追って飛ぶ。

そこに狂親獣が口から黒い塊を落としてくる。

正体不明の黒い塊を、サファイアドラゴンは全力の蒼炎で焼き払う。

上空まで続く蒼い柱が消えると、狂親獣は黒い塊諸とも、跡形もなく消えていた。




∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈




「邪念を振り払え!喝!」


ばーん!

木の板が僧の肩を叩く。

近くでは川が流れ、眠気を誘う優美な音を醸し出している。

湿った大きな石に座禅をくむ僧は、涙目になりながらも、一言ももらさず心を無にすることに努める。


「今宵はここまでじゃ」


「はい」


「戻るぞ」


「はい」


山道を歩き、ようやく八蛇寺が見えてきた。

そこでは数十人の僧が薙刀を振るっている。


「ええい!そんなものでは神気は使えぬぞ!」


そう言って、戻ってきた服装の豪華な僧は進み出る。


「とくと見よ!これが修業の果てに辿り着く境地じゃ!神気――解放!」


その僧を中心に青白い気のようなものが渦巻く。

俗に言う、魔力だ。


「これが神のくださる御技!ははぁ!なんとお美しい!」


皆頭を垂れる。

不意に、皆が頭を抱え出す。


「どうしたのじゃ!それほどまでに神気が美しいか!」


僧の言葉を聞いているのかいないのか、吐いたりのたうち回る者が出てくる。


「ええい!やめんか!」


異常な事態に、僧は怒鳴り散らすことしか出来ない。

今日の修業を終えた隣の若い僧は、ただ一心に祈っていた。


「神よ、どうか我が同胞を救い給へ」


「うわぁぁぁ!!」


のたうちながら叫ぶ者は、見るに耐えない。


「地面が揺れている?何が起こっているのだ。天罰か……神がお怒りになったのか」


突如、皆が消える。


「………は?」


そこに、角の生えた謎のもののけが現れる。

黒い刀を持っている。


「神を崇める者達が、神のお怒りに触れ、もののけにでもされたと言うのか……」


「神よ神よ神よ神よ……」


もののけの角が輝き出す。

紅の気がもののけを包む。

もののけ―狂親獣がぶるりと震え、刀を落とす。


「ドコカラ現レタ?」


「こ、これは………神の……御声……」


姿は見えないが、声はすぐ近くにいるかのようにはっきりと響く。


「ソノ刀、オモシロイ。ソレニソノ紅イノハナンダ?」


残念ながら狂親獣は言語を理解出来ない。

しかし、己の死を、本能が感じていた。

故に、最善の選択をした。

つまり、逃げた。


「フム、オモシロイ、逃ガシテヤルトシヨウ」


それきり、声はしなくなった。

残された僧は、残った黒い刀を、御神刀として八蛇寺に飾った。




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