異世界編1
ミュルタゴラスは落胆していた。
隕石から採った謎の金属、緋緋色金。
何か特別な性質があるのかと思ったのだが、色がほのかに赤みを帯びていること以外、ただの鉄と同じだった。
期待した分、失望は大きい。
「これで妥協するのもありか……」
いけない……
なんて戯れ言を……
なんとなく緋緋色金で造った剣へ手を伸ばす。
すると、微かに震えているのが分かった。
振動は段々大きくなる。
これは……
「……共鳴か?」
あわてて外へ出る。
空に、穴が空いていた。
そこから異空間に繋がっているような、闇。
それが段々大きくなってくる。
近づいてきているのだ。
闇はミュルタゴラスの近くに堕ちた。
いっさいの衝突音がない。
おかしい……
これは物質なのだろうか。
闇はどんどん埋まっていく。
周辺の木々がぶれ、地面と共に消えていく。
地面などないかのように、一切速度が変わらない。
これはまずい!
彼の何かが警鐘を鳴らす。
あれを止めなくては、間違いなくこの星が滅ぶ!
どうしたら
……どうしたら……いいのか
その時、ふと右手の緋緋色金製の剣が目に入った。
振動している。
彼の鍛治職人としての勘が、これだと叫ぶ。
急いで戻り、緋緋色金の鎧、兜、盾などフル装備であの闇へ走る。
周りの景色が刻一刻と削られていくなか、全身緋緋色金尽くしのミュルタゴラスは欠片も削れることなく辿り着く。
大きなクレーターの中心、闇。
その下へ緋緋色金の盾を差し込む。
なんと、闇が止まった。
惑星、恒星、超新星爆発、ブラックホールですら軌道に影響を与えることのできなかった暗黒の物質が、今、止まった。
ミュルタゴラスは笑う。
それはもう、晴れやかに。
「最高の材料が手に入ったぞ!」
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優勝したのはあの金髪美少女、アリス先輩らしい。
急な話だが、今日集はこの学校を出ていく。
寮の荷物は業者の人が運び出してくれたらしい。
他の生徒は授業中。
皆に別れの挨拶もなく、集はひっそりと去っていく。
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「オーガだ!オーガが出たぞ!」
「オーガだと?!」
「ヤバイ!逃げろ!」
直後、木々を掻き分けオーガがその巨体を現す。
「うわぁぁぁぐぎゃっ………」
早くも一人、その丸太の様に太い腕に潰された。
オーガは潰した体を掴み、頭からかじりつき、咀嚼する。
冒険者、テイグはその様子を木の陰から眺めていた。
卑怯などではない。
ランクE冒険者であるテイグには、オーガに太刀打ちなどできない。
やはり、こんな奥まで来るべきではなかった。
他の冒険者達は散り散りに逃げる。
オーガはそちらを追いかけるはず。
故にこの判断は正しい………はず。
「グルゥゥゥ」
オーガが低い唸り声と共に振り向く。
咄嗟に木に身を隠すが、一瞬見られたかもしれない。
呼吸が止まり、心臓がありえないほど高鳴る。
「グルルルル」
唸り声からして、おそらくその場を動いていない。
これは判断を間違えた……かもしれない。
地面を踏みしめる音がした。
近づいてくる。
恐怖に耐えきれずに、走り出す。
「グラァァァ!」
オーガの雄叫びがテイグの心臓を締め付ける。
それでも怯まず、走り続ける。
後ろからドスンドスンという足音と、木の枝がバキバキ折れていく音が聞こえてくる。
冗談じゃない!
己の生存の為、体の限界などそっちのけで走り続ける。
木が無くなり、視界が晴れた。
丘になっている。
そこに一人の男がいた。
銀の甲冑を着ている。
男が叫ぶ。
「行くぞ!《ギガトロン》!」
男の持つ赤い剣が僅かに光る。
男が1歩踏み込む。
そこから、加速。
速い!
一瞬で視界から消え、後ろから断末魔が聞こえる。
もちろんオーガのだ。
「もう大丈夫だぞ!」
後ろからの声で、やっと走りを止める。
どっと疲れが沸き上がり、崩れ落ちるところを後ろから男の手が支えた。
「《癒しの緑光》」
緑の光がテイグを包み、癒す。
「すまねぇ、助かった」
「おうよ!悲鳴が聞こえたんでな、走って向かってたとこよ!」
「あなた、どこかで見たこと………あっ!有名パーティー、レッドマーズの団長様じゃねえか!」
「はっはっはっ!ようやく気づきおったか!」
「ところでその剣は……」
「これか!これは、魔剣 《ギガトロン》だ!なんと!鍛治神王、ミュルタゴラス製だ!」
「ミュルタゴラス製!?すげぇ、初めてみたぜ……」
会話の途中で木々がざわめく。
「……オーガだな」
「マジかよ」
「やりあうのは面倒くさい。取り敢えずここを離れよう」
団長、ナガスはテイグを連れて走り出す。
「なんでこんなとこにオーガがいるんだよ……他に強いモンスターはいなかったぞ……」
「分からん。ただ、ここには何かありそうだ」
しばらく走ると、小さな洞窟に着いた。
「こんなとこに洞窟なんかあったのか」
「もしかしたら未発見のダンジョンかもしれんぞ」
「ギルドに報告だ!報酬ガッポガッポだぜ!」
「少し入ってみないか?どうにもたぎっちまってな」
「おいおい団長さんよ、危険すぎやしないか?」
「大丈夫だ!少しだ少し」
「そうか。団長様が言うんなら大丈夫か」
そう言って、ナガスは楽しそうに、テイグは不安そうに洞窟へ入っていく。
少し進むと、壁自体が発光している。
「ダンジョンのようだな」
「帰らねーか?」
「最初のモンスターを倒したらな」
ゆっくりと奥へ進む。
「グルル」
後ろから唸り声。
弾かれたように振り返ると、オーガよりも一回り大きいモンスターがいた。
「ハイオーガかよ……」
「な、なんとかしてくれ団長様!」
「《火炎球》……効かないよな」
「うわぁぁぁ!」
ハイオーガから逃げる為、二人はずんずんと奥へ進んでいく。
「《身体強化》……おい!えっと」
「テイグだ!」
「テイグ!《加護》かけるぞ!」
「おお!すまねぇ」
「《加護》」
「おお!体が軽いぜ!」
「グラァァァ」
「まだ来るか……力を貸せ!《ギガトロン》」
剣が僅かに光り、ナガスが疾駆する。
ハイオーガの拳を真っ正面から切り裂く。
だが、直後に側面から殴られ、壁に激突する。
「力を貸すぜ!《爆発球》!」
ドガァァァンッ
ハイオーガに触れた炎の玉が、爆発した。
流石、第3階梯―中級魔法。
ハイオーガもなかなかのダメージを負い、膝をついた。
そこへ、ナガスが斬りかかる。
「はあぁぁぁぁぁ!」
ハイオーガは喉を切り裂かれ、息絶えた。
「テイグ、凄いなお前!中級魔法なんか使えたのか!」
「ああ、だがマナが切れた……」
「グラァァァ!!」
「今度はなんだよ!」
ハイオーガの死体の奥から、更に巨大な影が……
「オーガキングだと!しかも3体!?どうなっているんだこのダンジョンは!!」
「くそぅ!!死んでたまるか!!」
遠くからオーガキングが拳を振るう。
すると、その衝撃がまっすぐにナガスへ向かってくる。
「くっ《防御円陣》!」
パリンと《防御円陣》が砕け散る。
だがそれで衝撃は相殺出来たようだ。
後ろを向いたまま後退していると、突如地面が崩れた。
「お、おい……うわぁぁぁ!!」
「ヤバイヤバイヤバイヤバイ!!」
何十階層ぶんか落ち続け、地面に叩きつけられる。
ぐちゃっ
テイグは死んだ。
ナガスは魔剣 《ギガトロン》による肉体強化と、第2階梯―初級魔法《身体強化》。更に、第3階梯―中級魔法《肉体硬化》により、なんとか生き長らえた。
そこで彼は見た。
光輝く黄金の剣を。
一目見ただけで、凄まじい力を秘めているのが分かる。
魔剣 《ギガトロン》とは比較にならないほどの力を。
それが地面に突き刺さっている。
隣に悲惨なことになっている死体があるのに、彼はただただ剣に見とれていた。
しかし、彼の脳は嫌でも理解してしまう。
周りにうようよいるモンスターの存在を。
およそ20匹のワイバーン。
その奥に控える3匹のレッドドラゴン。
そして最奥で黄金の剣を守るかのように存在する、サファイアドラゴン。
国を易々と葬れるようなモンスター集団に、ナガスは生きることを諦めた。
「……は……はは………ははは………」
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「転校生を紹介します。無神 集君です」
「皆さん、よろしくお願いします」
舞欄高校1年1組に、転校生がやってきた。
「ちょっとちょっと、かっこよくない?」
「私結構タイプかも」
「ちっ、男子かよ」
「かわいい顔してるわね」
教室を見渡し、集は知っている顔を2人見つけた。
一人は、中学の時、何故か一方的に集を嫌っていた眼鏡の男子、鎌戸 典都。
もう一人は、初恋の相手――夕立 白亜。
思わず二度見してしまう。
「あー。やっぱり夕立さんで視線止まるわよね」
「白亜様に手を出したら、殺す」
「イケメンはやめるんだ!夕立さん!」
集と目があった白亜は、特に反応を示さず、こてっと首を傾げる。
グサッ
集は内心の悲嘆を悟られぬよう、精一杯愛想笑いを浮かべる。
「質問ある人?」
「はい!……好きな女性のタイプは?」
「えっと……笑顔が素敵な女性です」
「きゃあ~~~♡」
「ロマンチックね」
「ちっ……リア充死ね」
集としては無難な解答をしただけなのだが、クラスが何故か妙に盛り上がる。
「他にはいませんか?」
「はいはいはい!……彼女いますか?」
「いません」
「きゃあぁ~~~♡」
「さっきはリア充とか言ってすまなかった。清き同士よ」
「イケメン逃がすまじ」
何故こうも女性関係の質問ばかりなのか、甚だ疑問だ。
「他に質問ある人?」
「はい……幽霊の見える女子とか、どう思いますか?」
この少女、どこかで見たことがある気がするが、思い出せない。
取り敢えず、謎過ぎる質問に答える。
「えっと……素敵、かな」
「えっ♡……す、素敵?」
「………」
「………」
「じ、じゃあ、陰陽系女子とかどう思いますか?」
「えっと……んと………素晴らしいと」
「え♡」
ギャグのつもりだろうが、この微妙な空気、いかんともし難い。
「じゃあ次が最後の質問です」
「はい!……貧乳と巨乳!どちらが好きですか!」
「もちろん貧乳です」
………時が止まった。
散々騒いでいた女子達も、今は集の時間停止の術にかかり、固まっている。
皆の反応がよく分からず、集はこてんと首を傾げた。
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ミュルタゴラスは歓喜してした。
唯一無二の最高傑作。
最凶にして最強の剣が、もう少しで完成する!
あと少し、あと少しなのだ!
完成した剣がどんなものになるのかは、ミュルタゴラスにも予想がつかない。
「刮目せよ!世界よ!あと少しで……ん?なんだ?」
外が騒がしい。
洞窟を出ると、オーガが迫っていた。
「やる気か!オーガよ!」
ミュルタゴラスは、光輝く黄金の剣――聖剣 《ルシルセイバー》を構える。
だがオーガはミュルタゴラスには目もくれず、走り去っていく。
そして彼は凍りつく。
オーガを追うようにして、やつが現れた。
青く美しい鱗をぼんやりと煌めかせながら、やつ――サファイアドラゴンはミュルタゴラスを見る。
視線が移り、ミュルタゴラスの持つ黄金の剣に固定された。
……ダメだ。
ダメだ!この剣は渡さない!
ミュルタゴラスは《ルシルセイバー》を構える。
サファイアドラゴンが、口をゆっくりと開く。
そこから青い光が溢れだす。
――来る
蒼炎のブレスが放たれる。
空気をちりちりと焼きながら、破壊の権化となってミュルタゴラスへ迫る。
ミュルタゴラスは《ルシルセイバー》を地面に突き刺す。
黄金の剣は輝きを増し、黄金の光の奔流が渦を巻く。
蒼炎のブレスはその奔流によって消し飛ばされた。
「死ねぇぇえ!」
光がやむと、ミュルタゴラスがサファイアドラゴンの目前まで迫っており、隠し持っていた折り畳み式の魔剣、《デモゼルグ》で斬りかかった。
「GAAAaaaaaa!!!」
サファイアドラゴンが青い光のベールに包まれる。
突如サファイアドラゴンの姿がかききえ、《デモゼルグ》は空を切る。
「《俯瞰の視覚》」
脳に上からの俯瞰映像が流れ込む。
「しまった!」
サファイアドラゴンは、ミュルタゴラスの後ろで《ルシルセイバー》をくわえていた。
まずい!
奪われる訳にはいかない!
「こんのぉぉぉ!!《氷鎖の束縛》!!」
ミュルタゴラスの手から放たれた氷の鎖は、サファイアドラゴンの羽ばたく風圧で呆気なく粉々になる。
サファイアドラゴンは上空へ飛び上がり、《ルシルセイバー》をくわえたままどこかへ飛び去っていく。
「待てぇぇぇ!!………待ってくれ………お願いだから………お願い……だから……」




