学戦祭編3
鍛治神王、ミュルタゴラス
そう呼ばれる一人の男がいた。
年齢は34。
毛髪の量が多く、無精髭を生やしている。
彼は人間ではない。
ドワーフという種族だ。
もじゃもじゃの髪をかきながら、彼は語る。
「俺の剣は人を選ぶ!そして選ばれた者は、栄華を約束される!」
「流石兄貴だぜ!格好いいぜ!」
惜しみない拍手を贈るのは、彼の弟、カロタゴラス。
「なあ兄貴」
「なんだ弟よ」
「今造ってる剣って、何?」
「それは………」
「いい加減教えてくれよ兄貴!」
「それは、出来ない」
「どうして教えてくれないんだよ!」
「言いたくないんだが……」
「頼む!教えてくれ!」
「いや……」
「もう材料集め手伝わないぞ?」
「……この俺をもってしても、作業が全く進まないんだ」
「え?……そんな、冗談はよしてくれよ兄貴!」
「本当だ!出来もしない剣を教える訳にはいかないんだ!」
そう言ってミュルタゴラスは工房へ閉じ籠った。
彼の造った剣は他のそれを圧倒する。
エルビオン帝国皇帝、メルビム・エルビオン。
エルビオン帝国第一皇子、ルクリック・エルビオン。
セイント王国国王、ハーグ・セイント。
セイント王国第一王子、リーグ・セイント。
魔王、デウス。
剣聖、ジークフリート・アルキタス。
勇者、白鴎 桂馬。
ミレイユ家当主、ロンゴ・ミレイユ。
バロイス家当主、ザルバ・バロイス。
竜騎士、アストレイア・マルク。
姫騎士、アナスエア・メイヤー。
セイント騎士団団長、アルフレッド・デュラン。
エルビオン騎士団団長、シリウス・ガンマ。
彼らを初め、ミュルタゴラスの剣を持つものは名だたる面子ばかりだ。
多くの国が彼を欲しがり、血眼になって探している。
しかし、彼はどこにも仕えるつもりはない。
彼はとある洞窟の最奥で弟と二人でひっそりと暮らしている。
今まで造ってきた剣とは一線を画す、最高の剣。
彼は今、それに挑戦している。
もし造り上げることが出来たとしても、誰にも渡すつもりはない。
なら何故そんなものを造るのか?
それは、愛する弟を喜ばせるため。
そして、自分自身の生きた証を残すためだ。
確かに彼は十分証を残している。
しかし、それでは駄目なのだ。
彼が望むのは、己の人生をかけて造った、最高傑作。
誰にも振られなくていい。
誰にも知られなくていい。
ただ造りたい。
彼は今日も作業にうちこむ。
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集は目を覚ました。
どうやらあの後、帰ってすぐに寝てしまったらしい。
二段ベッドの上を覗くと、大樹がすやすや眠っていた。
清々しい目覚めだ。
日はのぼっている。
時計を見ると、朝の6時だ。
急いで叩き起こす。
「大樹!起きろ!」
「……のわ……う……うん」
今日は本戦のトーナメント一日目だ。
本戦が全て終わった後、敗者戦が行われる。
教室には行かず、直接闘技場へいく。
移動中にも何度か睡魔に襲われる。
「あ、あの!集!」
この可愛らしい声の持ち主は見なくても分かる。
「どうした栞?」
「絶対に、次の試合は勝ってね!」
「うん、そっちもね」
「それで……あの……もし私が優勝したら……」
「したら?」
「そ、その……えっと……わ、私と……」
「?」
「いや……その時に言うわ!またね!」
「おう、またね」
栞は終始そわそわしていた。
次の試合に緊張しているのだろう。
結局、栞はトーナメント1回戦で運悪くアリスと当たり、敗北してしまった。
いつぞやと同じく真っ白になってしまったが、集が慰めると色が戻った。
心なしかピンクの量が多い。とくに頬の辺り。
それをフィールドから愛が不機嫌そうに見ていた。
対戦相手、雷同 堅はそんな愛を興味深そうに見ている。
「ready……fight!」
試合が始まる。
堅は普通の速度で歩いて愛に迫る。
ただし、左手を挙げて愛へ人指し指を向けている。
対して愛は動かない。
否、動けない。
堅の指先から青白い線が伸びている。
堅の足取りは軽い。
愛の目の前まで来て、拳を振りかぶる。
その拳に尋常でない魔力がこめられているのは見れば分かる。
勝ちを確信しながら拳を……
「第二次……解放……」
堅は後ろへ跳んだ。
ちょうど堅が今までいたところを愛の剣が一閃する。
愛の周りで莫大な魔力が暴れまわる。
残像を残すような速さで迫り、堅へ剣を振るうが、ぎりぎりでかわされた。
いや、少しかすった。
手首から少し魔力が漏れ出ている。
堅の『覇円』を受け流し、斬りかかる。
堅が初めて口を開く。
「少々厳しいな」
大きく後ろへ跳び、
「見せてやろう、その先を」
観客席で集が見ている。
負ける訳にはいかない。
……しかし
「第三次解放」
これは無理そうだ。
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あれから30年。
剣が出来る気がしない。
作業が全く進まない。
何より材料が足りない。
ミュルタゴラスは悩んでいた。
「あーーもーー無理ーーー」
訂正、鬱だ。
無理矢理にでも造ろうとすれば造れるのだが、理想とは程遠い性能になる。
どうしてこううまくいかないのか。
惚れた相手には逃げられ、この剣に使いすぎて金もない。
最近力も衰えてきた気がするし、この上なくカッコいい、ミニゴリラという偽名も、周囲からは笑われる。
そして何より――
――弟が、死んだ。
いつも側で励ましてくれた弟。
今思えば、ミュルタゴラスはそんな弟のために頑張っていたのだと思う。
本当に何もかもがどうでも良くなった。
自殺も考えた。
でも
――「兄貴の思う、最高の剣を造ってくれ!」
いつかの弟のそんな言葉が、ふと思い浮かんだ。
その言葉を心の支えにして今日まで頑張って来たのだが、もう無理なのかもしれない。
甘えではない。
本当に限界なのだ。
しかし、奇跡は起きる。
ある日、彼の住む洞窟の近くに隕石が堕ちた。
そして彼は出会う。
この星に存在しない未知なる金属
――緋緋色金と。
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集は静かに相手を見据える。
敗者戦でも負け続け、これが最後の試合だ。
つまり、これで負けたら集は普通の学校に転校させられる。
この学校の恥になるのだ。
観客席には誰もいない。
授業中なのだ。
「ready……fight!」
集は苦笑いで魔力を解放する。
腕輪が鳴る。
「勝者、1年1組、三輪 武」
最初の試合以外は全てこのパターンだ。
魔力を解放した瞬間に負ける。
どうしようもない。
集の転校が決定した。




