異世界編4
一行は学校のグラウンドのような広い場所へ案内された。
そこでは騎士達が剣を打ち合ったり、黒いローブを羽織った人達が魔法を撃ち合ったりしていた。
皆、勇者一行を見ると稽古を止め、端へ移動する。
「では、ご自由に魔法をお使いください。その前に……」
黒いローブの人達が一人一人の前に立ち、手を翳す。
「「「《対魔法加護》」」」
緑色の光が生徒達を包み、すぐに消える。
「どうぞ、魔法をお使いください」
使えと言われても……
使い方などさっぱり分からない。
「うおぉぉ!!《火炎球》!やった!出来た!」
坊主の男子が魔法を成功させた。
「凄い!使える魔法が分かるわ!行っくわよーー!!《白光》!」
「うわ!眩しいわボケ!」
使える魔法が分かる?
頭の中に浮かび上がってくるとでもいうのだろうか。
確か、氷と言っていた。
集は、氷魔法をイメージする。
なんと、本当に使える魔法が分かる!
「《小凍》」
指先が少しひんやりした……気がする。
今のは、果たして成功したのだろうか。
人指し指を突き出したポーズのまま集は考える。
「《小凍》」
またしても指先がひんやりした。
これは気のせいではない。
成功だろう。
いくらショボかろうが、成功は成功だ。
「《小凍》」
ひんやりとしない。
うんともすんとも言わない。
どうしたのだろうか。
「マナ切れですね」
視界がピンクに染まった。
目の前に王女、スティアがいた。
「スティア様に近づくなぁぁぁぁ!!」
遠くから何か聞こえる。
「マナ切れ?」
「はい。なにしろナガミ様はマナ量が100しかありませんので」
「集でいいよ」
「ではシュウで。本来《小凍》はもっと冷やすことが出来ますよ。少し位なら何かを凍らせたり出来るんですよ」
「え?そうなの?」
「はい。魔法はマナ量がいくら多い人が使っても一定の威力なのですが、その魔法を使う際の適性マナ量を下回ればその分、効果は下がります。本来なら1回《小凍》を使ったらマナ切れになる筈だったのですが、シュウは無意識のうちにマナを節約していたのでしょう。2回も使えました」
「俺、マナ量低すぎじゃない?」
「はい。そうですね」
「そっか」
「……落ち込まないのですね」
「え?ああ、そうだね」
「うふふ」
スティアは優雅にドレスの裾をつまんだ。
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少女には実体がない。
その透き通るような空色の髪の奥の美貌には、誰も触れることが出来ない。
少女は体が欲しかった。
けれど、彼女の力は強大すぎた。
自分の契約者に相応しい人間など存在しないと、少女は半ば諦めていた。
他の精霊が羨ましい。
人間と契約し、自由にはしゃぎ回る姿を想像すると、なんとも妬ましい。
「もう一回、旅に出ようかしら」
少女は通算60万回目の世界4周空の旅をすることを決めた。
空を見上げる。
今夜の月は、美しい。
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「俺、実戦してみたいっす!」
坊主の男子が叫んだ。
「では、試合をしてみますか?」
「危なくないの?」
「安心してください。ちゃんと《対魔法加護》と《対物理加護》をかけます。それに治癒系の宮廷魔法師が控えておりますので、危険はありません」
「なら安心かな」
数分後、訓練場では、2人の生徒が対峙している。
「全身が淡く緑色に光ると《対魔法加護》が、紫に光ると《対物理加護》が解ける前兆なので試合を止めてください。その時点で勝敗が決まります!いいですね?」
「「はい」」
対峙しているのは、坊主の男子と巫女装束が似合いそうな女子だ。
「では、始め!」
審判はローブの女性。
「《火炎球》!」
坊主の男子――佐藤 盆太が放った直径30センチメートル程の炎の球を、女子――御鏡 麗子は眉ひとつ動かさず見送った。
《火炎球》は麗子の5メートル右を通過した。
「コントロールが苦手なようですね」
スティアは率直に感想を漏らした。
「これならどうだ!《火炎爪》!」
盆太に炎の爪がはえ、麗子に走る。
「さすが勇者様。この短時間で、第3階梯――中級魔法が使えるとは」
集達の近くで試合を見ている男性魔法師はしみじみと賞賛した。
今度は麗子が魔法を使う。
「《身体超化》」
麗子の全身が淡く光り、おさまる。
「おお!こちらも第3階梯!」
無意識ながらに少し解説してくれて、ありがたい。
麗子が一歩踏み込むと、どんっ!という大きな音と共に加速し、盆太にぶつかった。
盆太は吹き飛び、落ちてからも少し地面を削った。
盆太の全身が淡く紫に光る。
「終了!ミカガミさんの勝ちです!」
さすがマナ量3億だ。
魔力を解放したアリスにも迫る速度だった。
「おい無神!出てこいよ!」
いつの間にか典都が中央で集を呼んでいる。
「出たよ」
集と典都が対峙する。
「次の試合、やりますか?」
審判の魔法師が尋ねる。
「はい!やります」
「ん?やるの?」
「は?逃げんのか?」
「いや、やってもいいけどつまんないと思うよ」
「ははん、お前はそんなに弱いと?」
「そうだよ」
「いんだよ!やんだよ!な?」
「まあ、そっちがいいなら」
「やるんですね?」
「「はい」」
試合を終えた二人も皆に混ざり、視線が集達二人に集まる。
「「《対魔法加護》《対物理加護》」」
二人の魔法師がそれぞれに魔法をかける。
「準備はいい?」
「「はい」」
「では、始め」
「魔力、解放!」
典都を青い光が包む。
「あれは、勇者のオーラ!」
男性魔法師が驚く。
「勇者のオーラ?」
「はい。あれは、勇者のオーラと呼ばれる、選ばれた勇者しか使うことの出来ない力です。文献では、今までに3人使える勇者がいたそうです。《身体超化》と同程度の身体能力に加え、勇者のオーラを飛ばして攻撃するといったことなども出来るそうです」
白亜の質問にスティアが答えた。
そこに違う女子が顔を出す。
「あれは魔力よ!」
「……魔力?勇者のオーラは、魔力とも呼ばれているのですか?」
「そうよ。私達のいた世界、地球では、あれを使える人は全人口の約1割いたわ」
「そんなにいるのですか?では貴方達のいた世界では、あの力はそれほど珍しくはないのですか?」
「そうね。たまに使える人は見かけるわよ」
「そうなのですか」
「こっちの世界では、だいたいどれくらいの人が魔法を使えるの?」
「3割です。残りの7割の人はマナを持っていません」
「え?そうなの?!私達は全員魔法使えるけど」
「はい。勇者召喚された方は、皆魔法が使えます。しかもマナ量が通常よりも遥かに多いのです」
「普通ってどのくらい?」
「10万程です」
「へー、私その3倍はあるわ」
「はい。20万から30万の方がほとんどでしたね。相当に多いのですよ?」
「……無神君は?」
「……………」
視線の先では、集が突っ立っている。
「『飛斬』とか使わないの?」
「『飛斬』?なんだそれは?」
「いや、なんでもない」
典都が魔力を解放したのに対し、集は何もしない。
何も出来ない。
実はイデア切れの影響はまだ続いており、魔力もイデアも出すことが出来ない。
マナを使いきった現在魔法は使えないし、使えたとしてもあれでは……
【八岐大蛇】は過剰攻撃過ぎるし、知られたあとの質問攻めや諸々が非常に面倒臭い。
《天叢雲》や《スカルイクス》も同じく。
ということで、何も出来ない。
「何もして来ないのか?」
「ああ、マナが切れちゃってね」
「じゃあ一方的にいかせてもらうぞ!」
眼鏡をぎらりと光らせ、典都が集へ走る。
さすが纏者とあり、常人とは比較にならないほど速い。
だが先程の麗子ほどではない。
典都の拳を左にかわす。
顔面をめがけて殴ってみるが、魔力に阻まれる。
「避けやがったなくそがぁぁ!!」
典都の蹴りが集の腹に食い込んだ。
「ぐぇっ!はは、流石だね……」
「その笑顔で愛ちゃんを誑かしたのかぁぁ!!」
「がっ!ぐぼっ!ぐはっ!がががが!ぐぇっ!」
集の全身が紫に光っている。
「試合終了!ストップストップ!」
審判の女性が止めにはいる。
「君、大丈夫?《治癒光》」
治癒系の魔法師が集を回復させている間、女子達はひそひそと話していた。
「無神君可愛そう」
「慰めてあげようかな」
「え?そんなことしたら鎌戸が……」
「忘れてない?今の私達は魔法が使えるのよ!」
「でもそれは鎌戸もじゃん……」
「鎌戸君は纏者でしかも魔法も使えるんだよね……」
「しかもマナ量300万とか……」
再び沈黙。
「次に試合をしたい人はいますか?」
「はい」
白亜が名乗り出た。
「鎌戸君、今度は私が相手よ」
威風堂々と宣戦布告。
「ちっ、女に愛されやがって……くそが」
「カマドさん、やりますか?」
「……はい」
《対魔法加護》と《対物理加護》をかけてもらい、2人は対峙する。
「聖剣使ってもいいですか?」
「駄目です駄目です!カマドさんが死んじゃいます!」
「そう、ですか」
白亜らしくもない危険な発言だった。
スティアは冷や汗を流した。
「準備はいいですか?」
「「はい」」
「では、始め」
「魔力解放!」
「《浮遊》」
典都が魔力を纏い、白亜が宙に浮かぶ。
「ここまで届くかしら?」
「くっ……」
典都が悔しそうに唇を噛む。
「おかしいですね。文献によると、勇者のオーラで宙に浮くことも出来る筈なのですが……」
「ああ、それはかなり高度な技術だから、出来る人は限られるよ」
集が口を挟む。
スティアは納得し、再び2人を見る。
「《身体強化》!」
典都は魔力に加え、第2階梯―初級魔法で更に身体能力を上げた。
「はあ!」
思いっきり跳躍し、白亜に届く。
そこに、
「《炎剣》」
白亜の第3階梯―中級魔法が炸裂した。
典都は地面に叩き付けられ、緑色に光る。
「はい。ユウダチさんの勝ちです」
「くそっ」
「ふふ」
白亜は集にウインクした。
皆、心の中でこう思った。
――ざまぁみろ
隠しているつもりなのだろうが、ほとんどの者がにやついている。
「次に試合したい人はいますか?」
「はいはい!そろそろモンスターと戦ってみたいです!」
「では、魔の森へ行ってみましょう。あまり深くへ行かなければ、弱いモンスターしか出てこないので」
「姫様、それは……」
「もし危険なモンスターが出てきたときは、勇者方を何をおいても守りなさい」
「「「はい」」」
ということで、急な話だが、魔の森とやらに行くことになった。
確実に足手まといだが、集も連れていかれる。
スティアもついてくる。
城から少し歩いた所に、暗い森があった。
あれが魔の森らしい。
ちなみに皆剣を持たせられている。
白亜は《ドラゴンスレイヤー》だ。
森に少し入った所で、緑色の醜い顔をした小人がいた。錆びた剣を持っている。
「あれは?」
「ゴブリンといって、弱いモンスターです。あと、無属性魔法が使える人は、第1階梯―初級魔法に《種族名鑑定》があるので、それを使えばモンスターの名前は分かりますよ」
「それって人がつけた名前をその魔法に設定してるの?」
「逆です。この魔法で出た名前を私達が使っているのです」
「へえ」
「俺がいっていいっすか?」
「駄目でしょ。あんた炎魔法しか使えないじゃん」
「大丈夫ですよ。この森の木は燃えないので」
「よっしゃあ!行くぜ!《火炎球》!」
初級魔法で呆気なくゴブリンは死んだ。
「これなら行けるわね!」
皆が活気付く。
もう少し進むと、ゴブリンが2匹出てきた。
「《氷結吐息》」
「《鎌鼬》」
遠距離魔法で瞬殺。
あまりにモンスターが弱いので、緊張感がなくなってきた。
これは良くない。
少し強いモンスターと戦ってもらって、緊張感を持たせなければ……
「もう少し奥へ行きましょう」
スティアは少し危険を犯した。
大丈夫だ。
セイント王国が誇る宮廷魔法師が3人と宮廷騎士が3人もいるのだ。
少しくらい強いモンスターが出ても、なにも心配はいらない。
木が無くなり、開けた場所に出た。
「あれは?」
集が指さす。
「なにあの白いの……《種族名鑑定》……リッチ?」
「ありえん!リッチですと?!」
魔法師が驚く。
「皆さん、我々の後ろに隠れてください」
「いや!俺もやるっす!《火炎球》!」
「俺も!《鎌鼬》!」
「私も!《氷結吐息》!」
「駄目です!いたずらに刺激しないでください!」
スティアの警告はもう遅い。
「хзжнжаохмё」
骨のようなモンスター、リッチが何か呟き、その正面に紫の円陣が現れる。
生徒達が放った魔法は、円陣に当たるとそのまま跳ね返り、生徒達へ向かう。
「「「防御円陣」」」
跳ね返った魔法は、魔法師3人の前に現れた青白い円陣に防がれる。
「じゃあ俺逃げとくね」
集はさっさと逃げる。
「「「《上位加護》」」」
エリートたる宮廷魔法師3人の第4階梯―上級魔法により、エリートたる宮廷騎士3人が格段に強化される。
「「「《身体超化》」」」
更に強化。
「хωΟθΑΟзхαβ」
リッチが赤黒いもやに包まれ、凶悪な威圧的を放つ。
第7階梯―帝級魔法《獅子の黒血》だ。
一部の例外を除いて、人間には使うことの出来ない階梯の魔法。
リッチが襲いかかる。
騎士は左腕を犠牲にしてリッチを食い止めた。
すぐに回復魔法をかけられ、血が止まる。
そこに他の騎士が斬りかかるが、剣を掴まれ、粉々に砕かれる。
「《百炎花繚乱》」
宮廷の首席魔法師が持てる魔法で最高の魔法、第6階梯―王級魔法《百炎花繚乱》を唱えると同時に、騎士達はぱっと離れる。
そしてリッチは爆炎に包まれる。
爆炎が晴れると、あばら骨の数本折れたリッチが姿を現す。
赤黒いもやは消えている。
「くっ、なんて厄介なんだ……」
このリッチはリッチの中でも相当強い。
王級魔法を受けてこの程度の負傷など、少なすぎる。
そして恐らく、また襲ってくる。
「「「……………」」」
生徒達は目の前の凄絶な戦いに、ただ呑まれていた。
「ωнθωγακнω」
リッチのあばら骨が再生していく。
「私がやります」
「姫様!」
「フィオ、力を貸して」
「フィー!」
スティアの肩に緑色の鳥が顕現する。
「何あれ」
「可愛い」
リッチの再生が終わる。
同時に、スティアが魔法を唱える。
「《永久の黄昏》」
第8階梯―帝級魔法《永久の黄昏》。
帝級魔法、それは人類が到達した極致。
辺りを黄金色の光が照らす。
至るところに黄金の円陣が浮かび上がり、その中心から黄金の鎖が飛び出す。
「κηаΟΗхκΗаΟ」
リッチを半球状の青白い円陣が囲む。
黄金の鎖はそれを突き破り、リッチの骨の体を砕く。
半球状の防御陣は砕け散る。
リッチは無数の鎖に貫かれ、粉々に崩れ落ちた。
「「「…………」」」
生徒達は言葉もない。
完全にこの高次元すぎる戦いに呑まれている。
「ありがとう」
「フィー!」
緑色の鳥はすっと消えた。
「あ、あの、今の鳥は?」
「フィオ、私の契約精霊です」
「精霊と契約したらなんかいいことあるんすか?」
「マナを与えるかわりに、高次の魔法を使えるようになります」
「私でも契約できるかな?!」
「運が良ければ」
「どのくらいマナをあげてるの?」
「感覚なのでなんとなくですが、1日に40万と言ったところでしょう」
「そんなに?!私なんてマナ足りないじゃん……」
「もう少し少ないマナで済む精霊もいますよ」
「王女様はマナ量どのくらいなの?」
「150万です」
「え………」
「途中で提供出来るマナが無くなったらどうなるの?」
「契約者の生命力を凄まじい勢いで吸いとります」
「怖っ!」
スティアは生徒達を見回し、1人いないことに気付く。
「シュウはどこですか?」
「あいつならさっさと逃げたよ。はっ!ダッセー!」
「1人ですか。危険ですね……マルキ、探索魔法を」
「はい。《俯瞰の視覚》」
数秒後
「……どう?」
「……見つかりません」
「分かりました。私が探してみます。《千里眼》」




