学戦祭編1
「凄いです!流石です!隆二様~!」
「様はよせよ」
雪白 つくしが頬を上気させながら三国 隆二を見上げる。
周囲からも視線を集めている。
数人の女性は熱の籠った眼差しで隆二を見ている。
「流石だね~、隆二っち」
小柄な男子も隆二を誉める。
「つくしもあれぐらい余裕だろ?」
「いえ!無理です~!」
つくしが艶やかな茶髪を揺らし隆二に抱きつく。
柔らかな双丘が押し付けられ、隆二の顔がだらしなく緩む。
それを見た赤場 快斗が若干不機嫌な顔をする。
「ち、近いよつくし」
「えー、いいじゃないですか」
つくしの明らかな好意に何故か隆二は気付かない振りをする。
快斗の調べによると、隆二は最近主人公が鈍感で耳が悪いアニメにはまっているらしい。
それが原因だと友人は言っているが、アニメを見ない快斗には何のことだかさっぱり分からない。
「快斗だったら余裕だよな?」
「いや~、あんなに瞬殺は無理だねー」
快斗は表情を取り繕い、無理して答える。
側ではもともと狂獣だった光がきらきらと漂っている。
映画館前の開けた場所だ。
突然三人の表情が強ばる。
続いて周囲の人達の顔も強張っていく。
「やべぇ、吐きそう」
快斗が蹲るが、地面の揺れで尻餅をつく。
丁度工事中の辺りの人達が発狂し出す。
空間自体が揺れている。
揺れが激しくなり、突如工事中の辺りの人達が消えた。
そして怪物が現れる。
先程倒した狂獣とは明らかに違う。
個体差という範疇ではない。
大きさや、角が生えていることや威圧感が明らかに狂獣ではない。
隆二は顔を恐怖で歪めながらも、生存本能から魔力を解放した。
つくしも快斗も魔力を解放する。
「皆さん落ち着いて逃げて下さい!私は騎士団です!」
突然大学生風の男が周囲へ叫び、怪物と対峙する。
怪物は動かない。
周囲を無駄がゆっくりと見渡し、視線が男へ固定される。
突如怪物の姿がぶれたかと思うと、男が三人の方へ吹き飛んでくる。
近くの電柱にぶつかり、ぐちゃっと潰れる。
つくしは何が起きたのか理解出来なかった。
「ふっひっ、は、きぃーー!」
隣の隆二は奇声をあげながら逃げていく。
「ちょっ!隆二君!助け!」
つくしは恐怖で動けない。
この怪物は狂獣とは格が違う。
周囲にはいつの間にか誰もいない。
いや、怪物の後ろに倒れている少年がいるが、少年はもう助からないだろう。
隆二に見捨てられたつくしは絶望する。
集は、一瞬の気絶から目覚める。
地面はコンクリートだ。
空は青い。
歓喜を押し殺し周りを見ると、少女が一人で狂親獣と対峙している。
怪物は原型を留めていない騎士団の男性を食べている。
怪物はつくしを見つめる。
完全に自分一人にターゲットが絞られているこの状況に、つくしは絶望する。
太股の内を熱い感触が伝っていることにも気づかない。
怪物の姿がぶれる。
つくしは目を閉じる。
自分が物凄い速さで動いている感覚。
殴られたのだろうが、痛みがない。
止まる感覚がするが、まだはっきりと意識がある。
まだ生きているという歓喜と共に目を開くと、見知らぬ少年の顔があった。
灰色のパーカーがたなびき、長めの黒髪が揺れている。
正直隆二よりもかっこいい。
何故か片目が青い。
いや、蒼く光っている。
非現実的な光景で、夢の中にいるような不思議な心地だ。
そして自分がお姫様抱っこされているということに気づく。
想像していたより恥ずかしく、頬が熱くなるのを感じる。
やけに眩しい。
少年は魔力を纏っていないので、纏者ではないのだろうという思考に到ったとき、つくしの顔から血の気が引く。
「ちょっ!死ぬわよ!」
声をあらげたことで、少年がつくしを見る。
必然的に見つめ合う形になり、つくしは少年の蒼い左目に吸い込まれそうになるが、なんとか耐えて警告する。
「私をおいて逃げて!本当に死ぬわよ!」
少年はつくしを見つめている。
飄々として何を考えているのか分からない。
ふとつくしは周りに漂う白いオーラのようなものに気づいた。
眩しいのはこれが原因だ。
よく見ると周りの景色を反射している。
銀色だ。
「大丈夫」
少年が耳元で囁く。
全身が痺れるような感覚がした。
少年はつくしをそっと置く。
周りを見て自分のいる場所を確認すると、そこは映画館の屋上だった。
すぐそこにあの怪物がいる。
つくしを探しているようだ。
少年は怪物へ向き直る。
「待って!お願い!死んじゃう!」
少年は振り返り、優しく微笑む。
「大丈夫」
そして少年の姿が消える。
どこへ消えたのか。どうやって消えたのか。
そんなことより、つくしの心を埋め尽くしているのは、恐怖だった。
あの少年が死んでしまう。
あの怪物は狂獣なんかとは次元が違うのだ。
あんな化け物に挑んで、生き残れる筈がない。
しかしその恐怖は、目の前の現実により霧散する。
「なに、こ……れ………」
怪物が細かな肉片になってぼろぼろ崩れていく。
一瞬煌めいた白銀の軌跡が虚空に消えていく。
肉片は崩れ落ちる途中で光になり消えていく。
夢でも見ているのかと思うほど、あまりにも非現実的な光景だ。
何をしたのか全く分からない。
「ね?」
突然つくしの目の前に少年が現れる。
左目から蒼い光が尾をひいている。
つくしは驚いたが、それよりも目の前の幻想的な少年にみとれていた。
「誰にも言わないでね」
「うん」
少年の言葉を深く聞かずに従順に頷くつくし。
「じゃあね」
「ま、待って!」
「ん?」
「名前、名前は?」
「名前?…無神 集」
「無神 集、ね、無神 集、無神 集、無――」
「え、えと、じゃあね」
「あ!待っ――」
少年は消えた。
数分後、騎士団が到着した。
「はぁ、はぁ……」
集のイデアが尽きた。
目眩がする。
療まであと少しだ。
吐き気がしたので、近くのコンビニのトイレに駆け込んだ。
数分後、すっきりした顔でコンビニから集が出てきた。
ふらふらとした足取りで歩みを進める。
時々立ち止まりながら、なんとか療の集の部屋へたどり着いた。
そのままばたりとベッドへ倒れこみ、死人のように動かなくなった。




