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第96剣『本隊突撃』

「何て数じゃ、これは本来なら軍隊で討伐するものじゃぞ」


 渓谷に入ってきた鬼型魔物の群れはすでに五十匹を倒しているはずなのに、まだ六百以上の群れを保っていた。ストニの目算による数えだが間違いはないだろう。


 レオフィーナたちは渓谷を見下ろせる崖に上に身を隠して群れが全て渓谷に入り込むのを待つ。


「ホントにランクAの依頼かよ、ランクSレベルじゃねぇか」


 ギガルがランク認定が間違っているとぼやくがレオフィーナがそれを否定する。


「この程度ならまだランクAの部類ですよ、数が少し多いだけなので」


 ランクSに認定される災害など、通常の武器では倒せない相手位にしか出されない。


「まるで自分はランクSの依頼を引き受けたことがあるみたいな言い方ね」

「ええあります」

「は? ちょっと何言ってるのよ! 帝国ギルドの歴史は簡単に調べたけど、百二十年以上前に三回認定されただけじゃない、嘘言わないでよ!!」


 百二十年前にその三件をすべて解決したのはレオフィーナを含む鎮也たち『七星剣』である。


「落ち着けモーリンよ、何も彼女はこの帝国で受けとは言っておらんじゃろ」

「そうだけど」

「確かにランクSの依頼を受けたのは今の帝国ではまりませんね」


 あくまでも今の帝国で受けたわけでは無い、昔の帝国である。皇帝の代替わりしていることだし、嘘ではない。


「あと少しで群れが渓谷に入りきりますね、私は後ろに回り込みます。罠の発動はまかせました」

「本当に一人で大丈夫かよ」


 作戦は群れの進行方向の崖を崩して足止めをし、更に崖の上から魔法や魔道具で一歩的な攻撃で殲滅するというもの。用意した魔道具の量から片側しか封鎖できないためレオフィーナが崖を降りて逃げ道を塞ぐことになっていた。


 ギガルは一人で逃げ道を塞ぎに行くレオフィーナを気遣う。ごつい外見に似合わず気が利く中年戦士、レオフィーナにとっては勇者候補であるオルフェノよりもずっと紳士に見えてしまう。鎮也にはかなわないと枕詞は付くが。


 当初の作戦ではレオフィーナと一緒にオルフェノも封鎖に協力するはずだったのだが。


「………………」


 レオフィーナにフラれたショックでまだ魂が戻ってきていない。


 彼女の素晴らしさを永遠と語っていたかと思いきや、出会った時から語り先程の場面、フラれた瞬間も語ってしまい再びショックを受けて落ち込んでしまった。


 これにはモーリンもあきれてしまい、動き出しても足手まといだと、時間もないのでオルフェノは戦力に数えないと皆の意見が一致した。


「俺が一緒に下りられればいいんだがよ」

「私一人の方が力を振るえますので、お気遣いだけ感謝します」


 ギガルは後衛のストニとモーリンをガードしなければならないので動けないことを申し訳なさそうに謝罪してくる。


 だがレオフィーナは一人の方が動き安いのは紛れもない事実なので謝罪をするまでもないと答え、群れに悟られないように渓谷の入り口、群れの背後へと回り込む。






「今じゃ!」


 群れが全て渓谷に入り込んだ所を見極めて、魔法使いのストニが合図を出した。


「オウサ!!」


 合図と共にギガルが岩に仕掛けた爆裂する使いきりの魔道具を発動させる。


 崖の上に亀裂が入り、巨大な岩を含む落石を起こした。ストニの計算通り群れの前方に流れ込んだ岩たちは狭い渓谷を見事に塞いでみせた。


 もう一つあれば、残りの片側もふさげるのだが、高額な上に使い切りなため、一個だけしか用意できていなかった。


「次は私ね、あの女だけに手柄を立てさせないんだから」


 道が塞がれ立ち往生した群れの頭上に、使い切り魔法(スクロール)を取り出したモーリンが次々に魔法を発動させ、巨大な火の玉の雨を降らせる。


 連続した爆発が起こり、砂塵が群れを覆い隠すがモーリンは手を緩めずに魔法を打ち込み続ける。六百匹もいるのだ、所持する魔道具を使い切ったとしても倒しきれるとは限らない。


「大判ぶる前じゃねえか」

「スクロールも安くないんじゃぞ」


 魔道具『使い切り魔法』には中級魔法までしか込められないが、少しでも魔力操作ができる者なら誰にでも発動できる。


「魔物の素材で元を取り戻せばいいのよ、協力なしで倒した魔物は総取りしていいって、あの女が言い出したんだから」


 レオフィーナが担当するのは、第一弾の魔法攻撃を乗り切り逃走した魔物を渓谷内に押しとどめる役、この魔法攻撃が終わるまではレオフィーナは手出しができない、なのでモーリンはこの一撃目で殆どの魔物を倒してしまうつもりでいた。


 だからこそ、倒した者の総取りを許したのだ。


「ほらなにしてるのストニも魔法を使ってよ、ギガルも使い切り魔法(スクロール)なら使えるでしょ手伝いなさいよ」

「やれやれ人使いがらいの~」

「オルフェノの分まで自分が働くって張り切ってるんだろ」

「なるほどの」


 いまだに膝を抱えてうずくまっているオルフェノ、モーリンはオルフェノがきっと立ち直ってくれると信じているのだろう。


「そこ、無駄口は良いから手を動かしなさい」

「はいはい、オルフェノよ、これだけ醜態さらしても支えてくれる女ってとっても貴重なことに気が付けよ」


 ギガルはモーリンに聞こえないようにオルフェノにささやいて、使い切り魔法を発動させる手伝いをはじめた。


 それから数分後、持ち込んだ魔道具を使い切りモーリンたちの手が止まった。


「どうよ、これなら群れが全滅していてもおかしくないでしょ」


 三百は倒せるだけの準備をした、そのための道具の数々だった、少なくとも半数は確実に倒しているはず。密集していたので全滅させた可能性だってあるとモーリンは考える。


 だが、結界はモーリンの予測とはまったく逆であったのだ。


「……そんな、うそでしょ」


 あれだけの魔法を打ち込んだのに、魔物の群れにはほとんど損害を与えられていなかった。






 魔法が打ち込まれて起きた砂塵がはれると、魔物の群れは水の結界により守られ、さらには巨漢である巨大鬼ギガントオーグルたちが前面に立ち魔物の群れを庇っていた。


 情報ではBランクの魔物までしか確認されていないとの事だったが、Aランクのギガントオーグルも混じっていた、それも複数。


 ギガントオーグルの皮膚は確かに中級魔法では効果が薄いが。


「ギガントオーグルが自分よりの下級なオーグルを守った」


 強烈な違和感、魔物の鬼型は特に弱肉強食、力が全ての関係であり、弱者が強者を守る事はあっても、強者が弱者を守ることなど無いはず。


 魔法を防いだ件も含めてレオフィーナは魔物たちの動きに不自然さを感じた。


「統率が取れすぎている。どこかに指揮をとれる存在がいるのか」


 そうでなければ、力がすべての魔物が自分よりも下級な存在を守ったりはしない。


 鬼型の魔物たちは唯一残されたレオフィーナが待ち構える渓谷の入り口ではなく、自分たちに攻撃を仕掛けてきたモーリンたちに向かって崖をよじ登り始めた。


「六黒『分身』」


 レオフィーナの指示で分身した鴉の六黒は、レオフィーナの元を離れオルフェノたちの援護へと飛んでいき剣へと変身して先頭で崖を駆け上がっている長足鬼レッグオーグルを斬りおとしていく。


「指揮官はあのあたりか」


 群れの配置から大凡の指揮官の位置を割り出したレオフィーナは光剣オジロを構え突撃する。道中障害になる魔物を全て吹き飛ばし、高位のオーグルたちが集中する場所へ斬り込んだ。


「お前が指揮官だな」


 見つけたのは将軍鬼ジェネラルオーグル。


 ギガントオーグルと同じく討伐Aランクの魔物だ。体はギガントオーグルよりも小ぶりではあるが内に秘めた魔力は高く、知能は鬼型の中では群を抜いている。


 レオフィーナの強さを察知してのだろうジェネラルオーグルは自らを水の結界で守り、周囲の魔物に背後を突くように命じた。


 その命令はすぐさま聞き入れられ、レオフィーナの背後から無数の槍が突き出される。


「槍手鬼スピアオーグル」


 手が槍の先のように固く鋭ぐ、腕が三倍も伸びるのが特徴な討伐Bランクの魔物、どうやらこのスピアオーグルがジェネラルオーグルの側近のようだ。


「中々の陣形だ」


 さすがはBランクの魔物と言うべきか、レオフィーナの剣戟でも一振りで三体までしか倒せない。鍵爪鬼エッジオーグルなら同じ力の一振りで十体近く倒せたのに。


 迫りくる数の暴力をレオフィーナは剣と己の腕だけで弾き返す。

 だが、切り倒す数と増援の数がほぼ同数でなかなか指揮官までの道が開けない。


「仕方ない」


 レオフィーナは出来る限り素材を傷つけないように剣のみでの討伐を試みたが、さすがにそれは虫が良すぎたようだ。素材が痛むが魔法を使う事を決意。


 手甲を装備している左腕でスピアオーグルの槍手を弾くと、その腕に火魔法を発動させ、一気に薙ぎ払おうとしたのだが。


「レオフィーナさん! その場から離れてください!!」


 崖の上に輝く剣を掲げたオルフェノが立っていた。

 どうやってか、落ち込みから復活してしまったようだ。


 剣の刃には膨大な力が集まっており、それが巨大な技を放つ前兆であることはレオフィーナも察することができた。オルフェノはこの群れに向かって何か強力な一撃を打ち込むつもりだ。


 おそらく、前に話していたラストにしか放てないという聖剣による一撃必殺の技だ。


「まったく」


 それを見たレオフィーナは逃げるのではなく、ジェネラルオーグルへと突撃した、守りについているスピアオーグルから槍手が付きだされるがそれを手甲で弾いて最小限の動きでだけで交わして進路は変えない。


「クッ」


 強引な突撃だったために一度、スピアオーグルの槍手を手甲で正面から受けてしまった。鎮也からもらった鎧に傷が刻まれる。


 鎧は防具であり、攻撃を防ぐモノ、傷つくのが当たり前なのはレオフィーナも当然のこと理解している。しかし今回のこの傷は本来負う必要などなかったのだ。


「まったくあの勇者候補は!」


 ここまで強引な行動を取った理由はジェネラルオーグルに確認しなければならないことができたから、あの聖剣の一撃で吹き飛ばさせるわけにはいかない。


「どけッーーー!!」


 スピアオーグルを腕力で強引に吹き飛ばし、再びまみえたジェネラルオーグルを全力の一振りで水の結界ごと斬り倒してから、その場を離脱する。


 レオフィーナが離脱したその刹那のタイミングで魔物の群れに強力な一撃が打ち込まれた。


 狭い渓谷は目を焼き尽かさんばかりの光に包まれた。

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