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第97剣『ハズレとアタリ』

「レオフィーナさん! その場から離れてください!!」


 オルフェノは背中の聖剣を引き抜き、その輝く刃から強力な一撃を渓谷へと打ち込んだ。


 光に飲み込まれる渓谷。


 落ち込んでいたオルフェノがなぜいきなりこのような行動に出たのかは、仲間にもよく理解できていなかった。


 ただギガルが一人で突撃したレオフィーナが魔物に囲まれたという言葉に体がとっさに反応した、そんな感じであった。


「ちょっと、オルフェノ、下にはあの女がいたのよ。フラれた腹いせに巻き込むつもりだったの!?」

「え、そ、そんなことないよ、僕はレオフィーナさんが危ないって聞こえたから、助けようと思って、まさかここまでの威力が出るなんて……」


 オルフェノはただレオフィーナを助けようと、彼女の前方にいた強そうな集団に全力で聖剣の力を叩き込んだのだ、しかし、発せられた威力は使用者オルフェノの想像をはるかに超えたモノだった。


「確かにいつもより威力が数段出ていたの~」


 モーリンたちが大量の魔法を打ち込んだ時よりも、規模の大きい砂塵が上がっていた。


「オルフェノの強い想いに反応して聖剣の威力が上がったのかもしれん」


 レオフィーナには迷惑でしかなかったオルフェノの想いは、屈折はしていたが強かったらしい、それが聖剣の威力を数倍に引き上げていた。


「あの女、大丈夫だったの」

「打ち込まれる前に、避難しようとしている所は見えたがな」


 ギガルが谷を覗きこみレオフィーナの安否を確認する。


「レオフィーナさん!!」


 オルフェノのレオフィーナを心配してふらつく足取りでギガルの横まで移動すると同じようにレオフィーナを探した。それにならうようにストニも、悪態をついていたモーリンもレオフィーナを心配して探す。


 徐々に砂塵が晴れていくと、渓谷に巨大なクレーターが姿を現した。


「…………これを、僕がやったのか」

「すげ~な、なんて威力だよ」


 作り出された現状にギガルは改めて聖剣の威力を感じ取った。


「魔物の半分は確実に消し飛んだの~」

「あの女は? まさか……」


 爆心地の近くにいた。モーリンは最悪の結果を想像したようだ。


「いや、どうやら無事のようじゃわい」


 ストニがクレーターの少し離れた地点を杖で示した。そこでは三体のギガントオーグルが何かを相手に戦っていた。


 巨漢に阻まれて何と戦っているかまでは見えないが、この渓谷で魔物たち相手に戦う存在など一人しかいない。


「レオフィーナさん、助けに行かないと」


 いち早く反応したオルフェノだが、足に力が入らず駆け出すことができなかった。


「あれ、足が」


 動かしたいのに痙攣してうまく動かないようだ。


「聖剣を使った反動じゃ、彼女はワシらが助けに行くからしばらく休んでおれ」

「おう、モーリンその小僧を頼んだぞ」

「わかったわ」


 ストニとギガルがレオフィーナを援護するために崖を駆け下りて行った。






 強烈な爆発。


 レオフィーナは陽翼剣オジロのスキル『光魔法』で光の結界を作り身を守っていた。結界のおかげでレオフィーナ自身には砂塵の砂粒一つ付いていない。


「まあまあの威力、でも、剣は灰色ではなかった」


 遠目に見えたオルフェノの聖剣は灰色になってはいなかった。この先はどうかわからないが現状のオルフェノでは聖雷剣に選ばれるとは思えない。


「それに弱体化していない聖雷剣にしては威力が弱い」


 間違いなくオルフェノは全力で技を使っていた。それに一撃必殺とも言っていた。それでこの程度の威力しか出ないとなると。


 砂塵が晴れるのを待ちながら得た情報と知識をすり合わせて結論を出す。


「彼の持っている聖剣は聖雷剣ではない」


 砂煙が収まりだし、視界が回復していくとクレーターができていた。魔物も半分ほどが消し飛んでいる。


 これだけの被害を受ければ、魔物たちも攻撃から逃げに切り替えたようだ。


「まだ統率がとれていますか」


 将軍鬼ジェネラルオーグルは一体だけではなかったようだ。


 逃げる魔物たちも散り散りになるのではなく、同じ方向へ列をなして逃げていく、レオフィーナは結界を解き追撃を始めた。


 魔物の行動から、指揮を取っている魔物を探そうとしたが、三体の巨大鬼ギガントオーグルに行く手を阻まれた。


「こっちは当りのようですね」


 明確な時間稼ぎ要員。


 これは明らかに魔物ではなく人間が取る戦法であった。


 この群れが出来上がった背景には人間がいる。そしてその者が聖雷剣を持っている可能性が高い。六百以上もの魔物を軍隊のように操るなどそれ以外に考えられない。


「マスターの剣は予想外の所からひょっこりと顔だしますね」


 三体のギガントオーグルから繰り出される剛腕を交わして、その突き出した腕の上に着地をしたレオフィーナは、クルリと一回転して剣を振り抜いた。


 この一撃で三体のギガントオーグルは崩れ落ちる。だがレオフィーナがギガントオーグルを倒すわずかな時間で、群れは見事に渓谷から脱出していった。


 レオフィーナが見たのは最後の数匹が渓谷から逃げ出していく後ろ姿だけ。


「六黒、あの群れを追跡してくれ」


 分身していた六振りの一つが鴉へと変身すると、群れを追跡していった。


 残った五振りは分身を解除してこちらも鴉の姿となりレオフィーナの肩に舞い降りる。


「なんでぇ、急いで助けに来るまでもなかったな」


 全力で崖を駆け下りてきたギガルがかすり傷一つないレオフィーナを見てあきれたような挨拶をされてしまった。ギガルよりも体力のない初老のストニは息を切らしゼェゼェと言っている。


「大丈夫かストニ、歳を考えろ」

「お前さんが急かすからだろうが!」


 息を切らせながらもストニはギガルに文句をつけた。


「駆けつけてくれたことには感謝します」


 救援にきてくれたことには変わりないので、お礼を述べたレオフィーナ。


「これで依頼達成だよな、あいつらが逃げて行った方角に人里は無いし、想定の三百は討伐しただろう」

「そうですね。依頼はこれで達成になるでしょう」


 聖雷剣が使われている可能性が出てきた以上、確認をしないわけにはいかない。


「なんじゃ、お前さんにはまだやることが残っておるような口ぶりじゃな」

「わかった剥ぎ取りだろ」

「それもありますね」


 たった今倒したギガントオーグルは討伐Aランクの魔物、魔核をギルドに売れば結構な値段になるが、それよりも確認が先だ。


「他になにがあるんだよ」


 クレーターに向かうレオフィーナに何を確認するんだと疑問を浮かべながらギガルとストニはついてきた。


「レオフィーナさ~ん」


 そしてオルフェノもモーリンの肩を借りながら遅れて崖から降りてきた。


「なんでクレーターなんかに向かってるのよ」


 崖もようやく降りてきたのに、更に降りようとしていることにモーリンがクレームをつけてくる。


「私の個人的な確認です。付いてこなくていいですよ」

「僕は付いていきます。気になりましから」


 フラれたばかりだと言うのに、とてつもない立ち直りの速度だ。


「あんたね、今は一人で動けないでしょ、あんたが降りるってことは結局私も下りなきゃいけないじゃない」

「ごめんモーリン」

「なんだったら俺が変わってやろうか?」

「いいわよ、オルフェノの面倒を見るのは私の役目なんだから」


 なんだかんだと文句を言いながらも結局、全員がレオフィーナに付いてきた。


 クレーターの中はきれいに吹き飛ばされ、何も残っていないとオルフェノたちは思っていたようだが、一つだけ吹き飛ばされずに残っている物があった。


 それは将軍鬼ジェネラルオーグルの死骸である。


 このジェネラルオーグルを斬り倒したレオフィーナは聖剣が打ち込まれる直前にオジロの光魔法を使って頑丈な結界を張っていたのだ。


「まさか、あの攻撃にも耐える結界魔法が存在するとは、まさに伝説の魔法だ」


 魔法使いのストニが信じられない結界の強度に驚愕する。魔法が衰退した上級の魔法のほとんどが伝説となっているようだ。


「その伝説の魔法を、素材を守るために使うなんてどんだけお金にがめついのよ」

「確かに素材の確保も大事でしたが、私が確認したかったことは別の事です」


 レオフィーナ結界を解除してジェネラルオーグルの死骸を調べ始める。肩にとまっていた六黒は何も言われずともレオフィーナが調べている側面の反対側へと回り込み、何かを探し始めた。


 そしてカーと一鳴き、翼で首筋を指し探している物が見つかったと伝えてくる。


「やっぱりあった」


 レオフィーナが六黒の見つけたモノを首筋から引き抜く。


 それは灰色に変色した針のようなモノであった。


「こっちは当りね」


 レオフィーナはこの群れを操っている存在が聖雷剣を所持している証拠を見つけた。

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