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第98剣『啖呵売』

 ヴィレック帝国首都ロードイリア。


 レオフィーナたちが二次試験に出発した翌日の早朝。帝都に残った鎮也たちは昨日トレイシアとアリアが交易都市レフティアで仕入れてきてくれたハーブポークを売るために外壁の外門近くの朝市に訪れていた。


 ここは外門へと続く大通りの広いスペースを使って早朝にだけ開かれる市場である。管理している組合に話を通せば誰でも出品が可能な市場。


 仕入れを担当したトレイシアははじめはハーブポークを高級料理店に直接売り込もうと考えていたらしいのだが、帝都でずっと交渉人として活動してきたネコットが朝市で売った方が何かと利益になると助言をしてくれたので販売先を切り替えた。


 二十頭のハーブポークを引き連れて鎮也にトレイシア、ネコット、そして豚の数が多いので手伝いのためにメイド長アリアの部下であるメイドたちを加えた大所帯で朝市に乗り込んだ。


 執事長キョットナも手伝いに来ると名乗り出たのだが。


「却下です。父上」


 ネコットに販売には売り子の見た目も重要と断られていた。


 さらにハーブポークはちょっとのストレスでも肉の味が落ちると言われているので、トレイシアが聖雷剣『魔杖剣・魔型(ダークラムザー)』を使いリラックスさせていた。


「―――――――――――――――――――――――――――

 聖雷剣シリーズ シリアル316

【名称】「ダークラムザー」

【和名】「魔杖剣・魔型」

【製作者】星尾鎮也

【使い手】トレイシア

【分類】杖剣   【レア度】☆☆☆☆☆(5)

【長さ】36センチ 【重さ】0.4キロ

【聖剣核】

【スキル】

『雷魔法(中)』…………使い手が雷魔法を扱えるようにする(効果:中)

『影魔法(上)』…………使い手が影魔法を扱えるようにする(効果:上)

『光魔法(小)』…………使い手が光魔法を扱えるようにする(効果:下)

『召喚』…………………契約した魔物を呼び出せる。

【補足】

 ラムザーシリーズ中期の聖雷剣。光と影の相反する力を同時に使用できる杖剣、このダークラムザーは影の力が強くなっている。聖雷剣シリーズの中では外見もダークよりであったが、使い手たるトレイシアが聖のイメージが強いため、ダークな面が上塗りされている。

―――――――――――――――――――――――――――」


 ダーク系の武具はトレイシアとはミスマッチだと鎮也も思ったが、実際に持ってみればいいワンアクセントになりトレイシアの魅力をあげていた。


 影魔法『催眠』と光魔法『癒し』でハーブポークは最高にリラックスしている。


 そう豚はとてもリラックスしているのだが、それを従えている調教師見習いでありシスターでもあるトレイシアは緊張でガチガチになっていた。


「シズヤさん、注目が集まってますね」


 逆に豚を引き連れ先頭をあるくトレイシアは朝市中の視線を一辺に集めてとても恥ずかしそうであった。


「まぁメイドと豚の集団なんて、帝都広しと言えどめったにない光景だろうからな」


 もっとも一番視線を集めているのはトレイシアであるが、あえて鎮也はそれを口にはしなかった。


「狙い通りです。シアさんはもっと堂々と胸を張って歩いてください、これだけ注目を集めれば、目利きの者ならこの豚たちがハーブポークだとすぐに気が付くはずですから」

「は、はい、頑張ります」


 言われた通りに胸を張るトレイシア。


 今のトレイシアの服装はいつもの作業着やシスター姿ではなく、ネコットがチョイスした胸元の開いたシャツにスリットの入った短めのスカートをはいていた。


「全て計算通りです」


 トレイシアは自分に注目が集まっていることに顔どころか首筋まで真っ赤になっている。


 いつの間にか豚の後ろに、男たちがふらふらと付いてくるようになっていた。


「主様は販売は手伝わなくていいのでシアさんとメイドたちを守ってください」

「了解」


 キョットナが手配してくれていた鎮也たちの販売スペースに到着した時には、恥ずかしさの限界を超えたトレイシアが男たちの視線から逃げるように鎮也の背中に隠れた。


 鎮也の作業着の背中をギュッと掴み、鎮也が動けばトレイシアもくっ付いて一緒に動く。


「ここまでは計算通りです」

「ホントかよ」


 鎮也は集まった男たちから突き刺さるような視線で睨まれる。


「もちろん」


 鎮也にはネコットが狙ったよりも多くの男たちが集まっているように感じられた。


「注目が多く集まるのはいい事です」

「どうするんだ、ここから」

「もちろん売ります。見ていてください主様、この場を使って金貨とコネを掴んでご覧に入れます」


 自信ありげにネコットがいつもの男性用礼服の襟を直すと、メイドたちが豚の前に台をセットした。ネコットはその台の上に立ち、大きく息を吸い込むと、ハーブポークを売るための口上をはじめた。


「さぁさぁお立会い、ちょっとよって見て行ってくだされ、わたくしはかの伝説の冒険者集団『七星剣』と同じ名『七星剣』を名乗ることが許された冒険者集団『七星剣』の専属交渉人を任されたネコットと申します。本日はこの帝都でもめったにお目にかかれない、幻の豚『ハーブポーク』を持参し参上いたしました。腕の自信のある料理人ならもちろん、食通の御方もご存じでしょうが、帝都では飼育がほぼ不可能なハーブポークを我が『七星剣』が誇る調教師見習いトレイシアがここより馬車で二週間もの距離にある交易都市レフティアより独自に編み出した運搬方法で仕入れてまいりました」


 台本もない長台詞をネコットはすらすらと語り出す。


 七星剣の名前も何度も連呼するのはネコットのことだから何らかの狙いがあってやっているのだろう。


 ネコットの口上はまだまだ続く。

 この長い口上で豚に興味の無い男たちを振るいに欠けているようだ。


 豚に興味のないトレイシアやメイド目当ての男たちは一歩さがり豚に興味のある料理人や仕入れ担当者などは一歩前に出てくる。


「しかし、この運搬方法も何度も使えるわけではありません、今回一回限りになる可能性も大いにある。つまり、つまり、この帝都でハーブポークを食べられる機会は今回しかないかもしれない、知っている方は知っているでしょう。知らなか方でも聞いたことはあるでしょう。このハーブポークの味を、口に入れた瞬間に全身を包み込む肉の躍動を、ただ焼いただけでも香辛料を使った肉にも負けない濃厚な味、それを調理すればドラゴンだってお代を払ってしまうほど。さらに遡ること三代前の皇帝も最高の味とお認めになられた、その証拠に今でも交易都市レフティアに百年続く牧場には皇帝よりの感謝をつづった手紙が飾られている。その牧場から直に買い付けた豚がなんとここに二十頭、腕に自信のある料理人の御方、主に献上してお褒めを頂きたい御方、出世だって約束されるかもしれない、ここにあるのはまさに未来が開ける極上の味、さぁ早い者勝ちだよ、豚一頭金貨一枚からスタートだ、さぁ買った、買った!!」


 ネコットの口上が終わると、集まっていた男たちから金貨二枚、金貨三枚と叫び声が飛び交いだす。


「俺に一頭譲ってくれ金貨五枚出す!」

「こっちには一番上等な豚を一頭くれ、金貨六枚だ!」


 大反響であった。


「すごい人気ですね」


 鎮也の背中に隠れているトレイシアが顔だけを出して市の様子を見る。


「ここまで騒ぎになるんだな、仮に一頭金貨五枚で売れても、二十頭もいるんだ」

「金貨百枚いきますね」


 ネコットの今回限りという文句も効いているのかもしれない。ハーブポークの値段がグングンと上がっていく。


 メイドたちは総出で、誰が一番高い金額を付けたか確認作業に追われる。


 このままいけば総額で金貨二百枚はいくかもしれない。これは予想外の収入である。しかし予想外の事はまだまだ続いた。


「金貨三百枚!」


 騒がしい朝市を黙らせる。


 莫大な金額が宣言された。


「金貨三百枚だ、そのハーブポークすべて金貨三百枚で私に売って貰おう」


 人垣が割れ、三百枚と宣言した男の周りだけ穴ができる。そこには高級な白い礼服を着こなすメガネの男が立っていた。


「金貨三百枚でのお買い上げ、ありがとうございます」


 ネコットは台から降りて、その男性にうやうやしく頭を下げた。


「ご希望があればそちらまでお運びしますが」

「結構だ、我々が自分たちで運ぶ、ハーブポークも扱ったこともあるのでな」

「そうですか」


 高圧的なもの言いだが、ネコットは気にすることなく相手の言い分を承諾した。高圧的な男のお供と思われる男たちが現れ、これまた高級そうな車軸にバネが備わっている馬車にハーブポークを慎重に乗せていく、扱ったことがあるというのは嘘ではないようだ。


「お前たちは『七星剣』と言ったな」

「はい」


 去り際に高圧的な男が冒険団の名前を確認してくる。


「覚えておこう」

「ありがとうございます」


 ネコットは高級馬車が見えなくなるまで頭を下げて見送った。


「やりましたね主様、ここまで狙い通りに事が運ぶとつい笑いがこみあげてきそうです」

「狙い?」


 あの男に名前を覚えられることがネコットの狙いだったのか、いったい何のためにと鎮也はトレイシアと目を合わせて首をかしげた。


「彼らに一頭でもハーブポークが売れればいいと思いましたが、それが全部買って行ってくれるとは」

「あいつらは何なんだ、やけに偉そうだったけど」


 貴族の関係者だとは身なりから分かるが、それ以上のことは鎮也には分からなかった。


「偉そうではなく偉いのですよ、彼らは城の厨房付きの仕入れ人です」

「城の厨房……ああ、なるほど」


 ようやく鎮也にもネコットの狙いが理解できた。


「主様、これでもしかしたら皇帝まで『七星剣』の名が届くかもしれませんよ」


 確実ではない、しかし皇帝とははるか雲の上の存在、それに至るまでの手段は多くて過剰になることはないのだ。


 どこか一か所からでも皇帝に七星剣の名が届き、合いたいと思わせたのならネコットの引いては鎮也たちの勝利となる。

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