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第99剣『大隊長』

 ハーブポークが予想以上の高値で売れ、撤収準備をしているところへ、森の屋敷にため込んでいた魔物の素材を別の場所に売りに行っていたメイド長のアリアが合流した。


 アリアの姿を確認したメイドたちはビシッと背筋を伸ばして整列する。


「あなたたち、ご苦労様です。作業を続けてください」

「「「はいアリア様」」」


 一糸乱れぬ返答で作業を再開させるメイドたち、アリアの部下になって間もないはずなのに見事なほど統率がとれていた。海辺の妖精族であるアリアは普通の人族に比べると華奢な体つきなので、知らない人が見ればここにいるメイドの中で一番の年下に見えるであろう。


 実際に隣で市を出している男たちは外見に似合わず堂々とメイドたちを指揮しているアリアを唖然とした表情で見ている。


 そんな好奇な視線など受け流すアリアは鎮也の元へとやってきて売れた素材の報告をしてくれる。


「シズヤ様、魔物素材はほぼ予定通りの金額で売れました」

「そうか、ありがとう」


 羊皮紙にアリアの几帳面さがわかる綺麗な字で売上の結果をまとめて渡してくれた。


「金貨三百枚か、こっちは予想通りだな」


 ハーブポークと違い素材の相場は大凡わかっていたので化けることはなかったが、落ち込むこともなかった。


 これで今日の朝だけで金貨六百枚の稼ぎ、昨日の転がしで稼いだ金貨五百枚を合わせれば金貨を千百枚稼いだことになる。


 目標の金貨千六百枚まであと五百枚。


 もしかしたら、レオフィーナの帰りを待たずに咲耶の稼ぎだけで到達してしまう可能性が出てきた。そんな事を考えていると、丁度良いタイミングで鎮也が咲耶が帰ってきた気配を感じた。


「咲耶が戻ってきたな」

「わかるんですか?」


 外門の方を確認したトレイシアは咲耶の姿を見つけることができなかった。


「ああ、咲耶やレオナの気配は離れていても感じられるからな」


 鎮也と七星の聖剣とのつながりは特別である。魂が繋がっているとでも言えばいいのだろうか、自分の手足のようにそこにあるのが当たり前に感じられ、鎮也には見えずとも、彼女たちの位置を感じ取ることができる。


 市の片付けも終わり後は屋敷に帰るだけとなった鎮也たちは、朝市に参加した全員で門を出て咲耶の帰りを出迎えることにした。






 外壁の門を潜るとほどなくして、鎮也の言った通り咲耶を乗せた連結した珍しい馬車が街道の先に姿を現した。昨日は空だった檻にも魔物と思われる巨大な犬が押し込められているのだが、それよりも連結した馬車が明らかに昨日と違う部分があった。


「主様、出発した時よりも馬車が増えていませんか」

「ああ間違いなく増えてるな」


 出発した時、咲耶が持っていた馬車は二台のはずであった。それがどういうわけか帰ってきたら三台に増えていた。


「咲耶も途中で作ったのかな」

「それができるのはシズヤ様だけだと思いますが」

「主様、普通は他の冒険団と交渉して手に入れたと考えるのが妥当ですよ」

「だよな」


 遠目にはわからなかったが、近づいてくると三台の連結した馬車には咲耶以外にも六人ほどの冒険者が乗っていた、彼らの馬車を一台借り受けたのだろう。


「檻に入っているのは間違いなく多頭犬オルトハウンドですね」

「あっちも予定通り、二頭捕まえてきたのか、三台目に乗せているのは素材だな」


 帰ってくる咲耶の姿を平然と見ている鎮也やトレイシアだが、今から帝都を出発しようとしている商人や冒険者からすれば驚愕の光景であっただろう。

 鎮也に続いて何の武装もしていないメイドたちですら檻に入っているとはいえ、討伐Bランクの魔物が近づいてきているのに恐怖していないのはとても怪奇だったに違いない。


「おい、近づくと危ないぞ」

「問題ありません、お気遣い感謝します」


 良心的な商人が危険だと警告してくれたが、庭でドラゴンを飼育している屋敷に仕えているメイドたちだ、いまさらBランクの魔物相手でも怖がる要素がない。


 アリアが代表してお礼を述べて心配ないと伝えた。

 商人は到着した馬車をさけるように帝都を旅立っていく。


「ただいま鎮也くん、出迎えてくれたんだ」

「帰ってくる咲耶の気配を感じたからな」


 連結馬車が鎮也の前で止まり御者台から黒い髪をゆらして和装の少女、咲耶が降りてくる。


「ありがとう」


 鎮也が咲耶を感じ取ったように咲耶も鎮也が近くにいると感じ取っていたようだ、門の外で鎮也が出迎えたことを驚いていない。


「立派なオルトハウンドですね」

「思ったより苦戦しちゃった、ケガを負わせずに捕まえるって難しいんだね」

「いままで捕縛依頼なんて受けてこなかったからな、ご苦労様」

「うん」


 鎮也に労われて嬉しそうにうなずく咲耶。


「シアさん、このオルトハウンドたち捕まえる時に沼に落としちゃって、できればギルドに渡す前にブラッシングして欲しんだけど」

「はい良いですよ、任せてください」


 檻の中で牙をむき出して威嚇してくるオルトハウンドを見て平然とブラッシングを引き受けるトレイシアもだいぶ鎮也たちに染まってきていた。


「それで咲耶、一つ聞きたいことがあるんだが」

「な、何かな」


 咲耶も鎮也の聞きたいことを理解しているようだが、知らないふりをしてとぼける。


「後ろの彼らは一体なんだ?」

「ああ、彼らはその、二次試験で受ける依頼がたまたま一緒になった冒険団だよ、たまたま帰り道が一緒になっただけ……」


 アリアの部下であるメイドたち以上にビシッ! と背筋を伸ばし直立不動で咲耶の後ろに整列していた。


「たまたまね~」


 鎮也が男たちを観察する。出発前と変っていない咲耶と違い、男たちは全身ボロボロで泥まみれであった。まさに激戦から帰ってきた冒険者の風体だ。


 鎮也の視線に反応して一人の男が一歩前へ進みです。


「自分たちはサクヤ隊長の指揮下に入った者であります」

「サクヤ、隊長ぉ?」

「あはは~、オルトハウンドを捕まえるのにヤマトの軍属化を使ったんだけど、何故か彼らの方に効き目が強く出ちゃって」

「人間相手にも効果があったのか」


 鎮也も知らない新事実であった。


 鎮也自身もヤマトの軍属化のスキルは過去にそれほど使っていなかった。それはなぜか、軍属化をする前に、ほとんどの魔物が一撃で倒せてしまったからである。


「どうすんだ咲耶」

「鎮也くん、どうしよう?」

「どうしようって俺に聞かれてもな」


 まさか幼竜ルードのように冒険団を屋敷に庭で飼育するわけにもいかない。


「先程からサクヤ隊長を呼び捨てにしている貴様」

「ちょっと、あなたたち!」


 いままで石像のように動かなかった男たちがズズズイと鎮也の前へやってきた。


「な、なんだ」


 あまりの暑苦しさに鎮也ものけぞってしまう。


「…………」


 ジーと鎮也を睨み付ける十二個の暑苦しい瞳。アリアなどは腰の聖雷剣に手をかけた。これ以上鎮也を不快にしていれば斬り伏せられていたかもしれないが。


「……もしやあなたは大隊長ですか?」

「へ?」


 てっきりサクヤ隊長に向かって生意気な口を叩くなとからんでくる事を想像していた鎮也だが、それはまったくの見当違いであった。


「だいたいちょう?」


 聞きなれない名称。


「そうです、サクヤ隊長よりも偉いなら、大隊長しかありえません。我ら六名、大隊長の指揮下にも入らせていただきます」

「いやいいから入らなくて、それに俺大隊長じゃないし」


 もはや軍属化と言うよりも洗脳に近い効果を発揮している。


「なんなりとご命令を、大隊長やサクヤ隊長のためならこの命惜しくはありません」

「いや惜しもうね命、とても大切だから」

「「「それがご命令とあれば!」」」


 とても暑苦しい、見ず知らずの冒険団の命など預けられても困るだけだ。


「咲耶、スキルの解除はできないのか」

「それが何度試してもダメだったのよ、そもそも彼らに対して発動させたわけでもないのに」


 咲耶は知らない、オルトハウンドに追い詰められ命が助かるならどんなことでもしますと天に祈りを捧げていた所へのスキル『軍属化』、助けられた感謝の念と絡み合い、とても強固な忠誠心が生まれていた。


「指揮下に入らなくていいから、元の冒険者生活に戻ってくれない?」

「「「それはできません、ご命令を」」」


 丁寧にお願いしてもダメだった。


「どうすんだよ咲耶」

「ごめん、どうしよう」


 きっと咲耶も帰路の道中にスキルを解除しようといろいろと試していたはずだ。それなのにこのありさま、鎮也にしてもお手上げ状態だ。


「シズヤ様、ここは何でもいいので命令を出せばいいのでは」


 すでに多くの部下を抱えることになったメイド長のアリアが助言してくれた。彼らは軍属なのでお願いではなく命令でないと動かないと察したようだ。


 下からお願いするのではなく、上から縛り付けるように命令した方が効き目があるかもしれない。


「命令ね~、じゃとりあえず、冒険者生活に戻って自己鍛錬をしろ」

「「「了解!!」」」


 今度はあっさりと承諾してくれた。


 男たちは鎮也と咲耶へ深く一礼をすると門を潜り街へと入っていった。


「これでよかったのか、命令なんて偉そうで嫌いなんだけどな~」

「まあ、自己鍛錬は冒険者に必要な事でもあるし、大丈夫じゃないかな」

「時間が経てば軍属化は解除されるかな」

「多分だけど、きっと解けるよ」


 希望を込めた会話、鎮也と咲耶は彼らが普通の冒険者に戻るようにと天に祈った。


「次に軍属化を使い時は慎重に場所を選ばないといけないな」

「だね」


 鎮也たち考えもしなかった、適当に出した命令の影響で、彼らは自己鍛錬をひたすらに続け、近い未来に帝国最強の冒険団の一角として数えられるようになることを。

99話、後1話で100話目達成。

ここまで毎日投稿が続けられるとは思っていませんでした。このまま続けていきたいのですが、年度替わりになり四月中旬まで相当忙しくなりそうです。なので毎日更新を明日の投稿で終了しようと思っています。

週刊で続けられればと考えていますが、今のところどうなるかまだ分かりません。ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございました。

投稿は間隔はあくと思いますができる限り続けていきます。

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