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第100剣『意外な再会』

100話目到達

 咲耶を出迎え、連結馬車まで加えた鎮也たちが帝都の中へと戻る。


「シズヤ様。サクヤ様が手に入れた素材を売りにいてもよろしいでしょうか」


 いったん屋敷に帰ろうかと考えていた鎮也にアリアが提案してきた。


「いまからか?」

「はい、先程素材を売った相手なら、まだまだ買い取ってくれそうでした。すぐに行けばまだ同じ場所にいるでしょう」


 金貨三百枚分の素材を買い取ったばかりだと言うのに、また同じかそれ以上の素材を買い取れる余力を残している商人なんてどんだけの大店なんだ。


「店主は信用のおける人物だと判断します」

「アリアが言うなら信じるよ」

「ありがとうございます、では早速」


 アリアが部下のメイドたちに指示を出しと、素早い手つきで素材が積まれた馬車を連結から切り離す。


「おい、それじゃ運べないだろ」


 馬は連結馬車を引いているトロンバトルナード一頭しかいないのだ。どうやらアリアは自分たちメイドだけで素材を売りに行こうとしている。鎮也は当然自分も行くつもりになっていたがアリアに止められてしまった。


「ご心配なくシズヤ様、馬車くらい運べないようではメイドは務まりません」

「いやメイドとまったく関係ないだろ」


 確かにメイドたちは人数がいるので全員で押せば馬車も動くであろうが、主人としてそんなことはやらせたくない。かと言ってアリアもこれはもう自分たちの仕事だと鎮也の同行させお手を煩わせるつもりは無いらしい。


 仕方が無いので鎮也は別の手段を取る。


「ヤマト、返ってきたばかりで悪いけど馬車を引いてくれるか」


 鎮也は咲耶の腰に差さっている海軍刀ヤマトにお願いをした。馬車だからと言って馬しか引けないわけでは無い、ヤマトの力ならば苦も無く馬車ぐらい引いてしまう。


 ヤマトは咲耶の帯から浮かび上がると聖獣の姿へと変身して馬車の前方へと着地する。


「すみません、シズヤ様。ヤマト様、よろしくお願いします」


 様付けしている存在に馬車を引いてもらう、シュールな光景ではあるが、鎮也の気遣いを受け入れこれ以上の反対はしてこなかった。






 アリアたちを一旦別れたので馬車は少し軽くなったが、それでも檻の積まれた二連結馬車は朝市の中を通過するには大きすぎるので、朝市会場を迂回して屋敷への帰路へついた。


「こんなに大きな市場があったんだね、レフティアにも負けてないかも」


 帝都の外に依頼で出かけていた咲耶は朝市の存在をしらなかった。朝から賑わっている市場を見てレフティアを連想している。


「確かにレフティアみたいですね」


 レフティア出身のトレイシアも同意した。大通りを埋め尽くすほどの人の山はレフティアのようである。


「市場が開いている時はそう見えますね、ただレフティアと違い朝市は毎日開催されるわけではありません。そこが違いと言えば違いですね」


 帝都出身のネコットが朝市の説明を詳しくしてくれる。小規模の市場は週に一回、大規模の市場は月に一回。今日はその月に一回の大規模の方であった。


「市場にもいろいろあるんだね、って、ちょっと鎮也くん馬車止めて」


 依頼を頑張った咲耶を労うために鎮也は御者を咲耶と変わっていた、その御者台の隣に座りのんびりと市場を眺めていた咲耶が急に停止を呼びかけ、本人は馬車が停まるより早く飛び降りていた。


 一つの店に駆け寄っていく。咲耶が目指す先にある店は、朝市の一番端にある薄暗い屋台、品物に統一性はなく、店主も商人というより山賊のような風貌をしていた。


「どうしたんだ」


 あんな店に何のようがあるんだと疑問に感じながらも鎮也は馬車を止めると、トレイシアとネコットと共に咲耶の後を追いかけた。


「鎮也くん、これ見て、ついに見つけたよ!!」


 咲耶が店先に陳列されていた一冊の本を手に取り鎮也に掲げて見せる。


「そ、それは――」


 鎮也が自分で書いたわけにでもないのに、鎮也にとっては黒歴史の書といっても過言ではない本であった。


「シアさん、間違いないよね!!」

「間違いないですね『救国の英雄』の初版本です」


 過去の時代、鎮也にメイドとして仕えていた少女セリーナが鎮也の帰りを待ち、鎮也の活躍を数段誇張して書き上げた絵本。初版本は五百十二冊しかなく、この絵本の存在を知ってから咲耶やアリアはとても欲しがっていた。


 そして咲耶が見つけた絵本は聖剣鍛冶師マニアでもあるトレイシアが間違いなく初版本だと太鼓判を押して咲耶を喜ばせる。


「すみません、これいくらですか」


 もう誰にも譲らないと両手でしっかりと握りしめながら本の値段を店主に訪ねる。


「ああ、それは夕べ入庫したばかりの品でな、とても貴重品だから金貨五十枚だ」

「五十枚!?」


 絵本一冊にとても信じられない法外な値段が付けられていた。


 山賊風店主が薄ら笑いを浮かべる。鎮也は店に並べられた商品を見回すとどれも値段が付いていない、もしかしたらこの店はお客を見てから値段を付けているのではと勘繰った。


 店主からも咲耶が降りてきた馬車は見えている。荷台の檻に入っているオルトハウンドを見て鎮也たちが高位の冒険者集団と判断したのだろう。


 討伐Bランクの魔物を捕縛できる冒険団なら金貨五十枚くらい安くはないが払えると踏んで、咲耶の態度も絶対に欲しいモノだと丸わかりであったし多少の無理をしても払ってしまうと踏んで高額な値段を吹っかけてきたのだ。


 確かにいつもの鎮也たちなら金貨五十枚、払えない金額では無い。しかし今は明日までに金貨千六百枚を集めなければならないのだ。


「う~金貨、五十枚か」


 咲耶の本の握りしめる手から力が抜けた。


「今回は縁がなかったな~」


 鎮也の聖雷剣がかかっている。咲耶は自分のわがままを優先させるわけにはいかないと残念そうに絵本を店へ戻した。


「いいのかその本は貴重品だ、今日中に売れちまうぜ、確実にな」


 山賊風店主は咲耶の揺れる心を攻めてくる。この男は本当にこの絵本の価値を知っているのだろうか。


「でも、今は金貨五十枚も払えないし」

「何言ってるだ姉さん、あの馬車はあんたらの物だろ、あの檻に入っている魔物を売っちまえば金貨五十枚くらい稼げるだろうが」


 やはり、鎮也が睨んだ通りこちらに金が用意できると踏んで吹っかけてきていた。


「主様、私が交渉しましょうか」


 ネコットが値切り交渉するかと聞いてくる。


「そうだな、こんな交渉ばかりで申し訳ないけど、いや、ちょっと待った」


 値切りをネコットに頼もうとした鎮也だが、咲耶の手から離れた絵本を見て表紙の汚れ具合に見覚えがあることに気が付いた。


 鎮也はすぐさま鑑定眼を発動させる。


「―――――――――――――――――――――

【名称】「救国の英雄譚(初版)」

【製作者】セリーナ・ビビ

【所有者】クラネット

【分類】書籍(絵本) 【レア度】☆☆☆☆(4)

【核】なし

【スキル】

『劣化防止』……絵本の劣化を防ぐ魔法陣が書き込まれている。

『隠し文字』……一定の条件を満たすと隠れた文字が浮かび上がる。

『ラストシーン』……隠し文字の条件がクリアされラストシーンが解放されている。

【補足】

 80~120年前に活躍した絵本作家セリーヌ・ビビの最大のヒット作、帝国の圧力にも屈せず、帝国とケンカした聖剣鍛冶師とその仲間たちの物語を皇帝の部分を魔王に変え、鍛冶師の活躍を誇張して書き上げた。初版本は聖剣鍛冶師が作りあげた聖雷剣にちなんで512冊が刷られた。

 今でも重版されている百年物のロングセラー。聖剣鍛冶師シズヤがサインを書いたことで隠し文字のスキルが発動。本当のラストシーンが登場している。

――――――――――――――――――――――」


 鑑定の結果は鎮也の予想通りのモノであった。


「咲耶、その絵本の表紙をめくってみてくれ」

「え、表紙?」


 咲耶は言われた通りに、もう一度絵本を取り上げ表紙を開くと、そこには鎮也のサインが書き込まれていた。


「これって鎮也くんのサイン、どうしてそれがここに」

「私の本はここにあります。つまりこの本の持ち主は」


 トレイシアが魔法のポーチから自分の絵本を取り出す。鎮也が絵本にサインを書き込んだのは世界にたったの二冊だけ、トレイシアの絵本が手元にあるということは、鑑定眼を持っていなくとも消去法でおのずと持ち主が判明する。


「鑑定眼でも所有者はクラネットとなっているよ」

「クラネットさんが、この本を手放すはずがありません」


 強く断言するトレイシア。同好の士として息の合っていたトレイシアと『真紅の秩序』の小さい魔法使いクラネット、同じファンとしてこのサイン本を手放すなど考えられないと主張する。


 鑑定眼も所有者はクラネットのまま、本人の意思で品を手放せば所有者の欄は空欄になるがこれはなっていない、つまり本人のあずかり知ら無い所で盗まれ勝手に売りに出されてるということ。


 山賊風店主は夕べ仕入れたばかりと言っていた。

 もしかしたら真紅の秩序に夕べ何か有ったのかもしれない。


「なぁ店主――」

「ちょっとそこのお兄さん」


 店主にどこでこの絵本を手に入れたか問いただそうとすると、遮るようにかわいらしい声が現れた。


「君は」

「二日ぶりですね、お兄さん」


 フードを被った幼い少女。三度目の出会いとなる占い師の少女が鎮也たちの前にやってきた。

日刊の投稿は今日で最後になります。

ここまで読んでくださってありがとうごうざいます。

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