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第101剣『暗幕尋問』

 三度目の遭遇となる占い少女。


 しかし前回までと違い、フードは深く被っておらず短い栗色の髪をした可愛らしい顔を出していた。それも急いで駆けつけてきたようで、わずかに息が切れている。


「お兄さんたちも、その絵本を買うつもりなの?」


 咲耶が持っている絵本の事を訪ねてくる。彼女もこの絵本を目当てに急いできたのだろうか。


「なんでぇ、お穣ちゃんもこの絵本が欲しいのか、だが残念だなこちらのお客さんが先に買うことになりかけてるんだ」

「ちょっと、まだ買うとは」

「じゃあ買わないのか」

「それは……」


 知り合いから盗まれた物だと判明したため、素直に返していいものかと咲耶は悩んだようで、きっぱりと買わないとは返事ができない。


「じゃあこうしようぜ、姉さんとお穣ちゃん、どっちかが高い値を付けた方に売るってことで、それなら誰もが納得できる解決策だろ」


 名案だとばかりにゲスな笑みを浮かべる山賊風な露天の店主。


「オークションか」

「いい考えだろ」

「確かにもめない方法かもしれないけど」

「あ、あの、私はそんなにお金ないんですけど」


 占い少女がこれまで見せてきた笑みが消えていた。神秘的な雰囲気はなくどこにでもいるか弱い少女そのもの、この盗まれた絵本にも何か関係がありそうだ。


「なんでぇ、それじゃ姉さん買ってくれよ」

「鎮也くん、どうする?」

「買ってもいいんじゃないか、それがちゃんとした商品ならのはなしだけど」


 もうこの盗人店主と付き合うのも面倒になってきたので鎮也は一気に核心にせまるように会話を誘導した。


「どう言う意味だ」


 山賊風店主の営業スマイルが崩れかけ声にすごみがまじる。


「ネコット、帝国では盗品の扱いってどうなってるんだ」

「当然のことですが持ち主が判明した場合には返却です。知らずに買い取ってしまった店側にも金銭的被害が出ていますので、持ち主との話し合いになりますが、分かっていて買い取り転売した場合は店自体が盗賊の一味とみなされる可能性がありますね」

「俺が盗賊だとでも言うのか!?」


 完全に営業スマイルが崩壊した店主。額に血管がもりあがる。


「山賊にも見えるな」

「誰が山賊だ!!」


 沸点の低い山賊風店主が鎮也の胸倉を掴もうと腕を伸ばしてくるが、その腕が鎮也に届く前に停止した。鎮也に危害を加えようとしたため咲耶が動き手刀を店主の喉元に突き付けていたのだ。


 咲耶の白い指から伸びている爪が店主の動脈を捕らえている。


「この絵本をどこで盗んだ」

「言いがかりだ、それは、先週くらいに買い取りをしたものだ、ウチは盗品なんて扱ったことはないぜ」


 両手をあげて抵抗しないとポーズをとりながら、まだ善良だと戯言を口にする。


「嘘だね」


 咲耶の『嘘探知』スキルが反応、店主の言葉が嘘だと判明する。もっともスキルで確認するまでもなく鎮也たちには嘘だと分かっているが。


「この本の持ち主を私たちは知っているんです。そして決して手放したりしない事も」


 普段おとなしいトレイシアが眉を吊り上げ強い口調で店主に詰問する。


「証拠がどこにあるってんだよ」

「このサイン入りの絵本はこの世に二つしか存在しません」


 魔法のポーチから同じ絵本を取り出してサインの書かれたページを見せる。店で売られていた絵本と同じサインが記されていた。


「私はこの二冊にサインが書き込まれるのをこの絵本の持ち主と一緒に見ていました。そしてサインをした人物から直接、この二冊にしかサインをしていないと聞いています」


 スキルの嘘探知では鎮也たちは納得できても第三者に説明するのは難しいが、トレイシアは誰が見てもわかる決定的証拠を突きつけた。


「そ、そうなのか、それなら確かに盗品かもしれないが、オレは盗品だと知らなかったんだ」

「それも嘘、そんなあぶら汗をかいて目を泳がせて言っても誰も信じないよ」

「シア、ちょっと人には聞かせたくないお話合いするから結界張ってもらえるか」

「わかりました」


 トレイシアは魔法のポーチから魔杖剣・魔型(ダークラムザー)を取りだし、スキル『影魔法』で周囲から認識されなくなる結界を張った。


「な、なんだこれ、どうなってやがる!」


 まだ朝だと言うのに、テントが黒い幕で覆われたかのように闇の中へと閉ざされ外の音が一切聞こえなくなった。この露店だけが朝市の会場から完全に切り離される。


「ちょっと外から隔離しただけだ、大丈夫中の音は絶対に外には漏れないから安心してくれ」


 山賊店主が全力で叫ぼうとも、隣の店にすら声は届かない。


「鎮也くん、なんか鎮也くんの方が悪人っぽくなってるよ」

「何言ってるんだ咲耶、最初は丁寧に尋ねてたのに嘘をつくこの山賊風の店主が悪いんだろうが」

「う、嘘なんてついてないぞ」

「それが嘘だ」

「チィ」


 店主は舌打ちをすると、店の陳列されていたツボを叩き割った。紫色の煙が立ち込め鎮也たちを覆い視界がふさぎ鼻を突く刺激臭がした。


「痺れガスだ、油断したな小僧ども!」


 ほとんどが盗品で占めていた商品の中で、山賊風の店主は万が一に盗品だとバレた場合に備え逃走用に魔道具を商品の中に隠していた。鎮也たちが煙に包まれたことを確認して逃げようとした店主だがまだ店の周囲は影の結界に覆われていた。


「どうしてまだ結界が残ってるんだ!」


 あらかじめ解毒剤を飲んでいればガスを吸い込んでも大丈夫、使い手が痺れて自由を奪えば張られた結界も解除されると考えたようだが、当てが外れて唖然している。


「どうして結界が残ってるって、それは油断をしていなかったからだよ」

「バカな無事だったのか!」


 煙の中から誰一人痺れることなく鎮也たちが姿を現す。占いの少女を含めてトレイシアの魔杖剣・魔型(ダークラムザー)とネコットの光太筆強(ペンライトソード)がスキル『光魔法』で痺れガスを浄化し無毒のガスへと変質させたのだ。


「ク!」


 また別のビンへと手を伸ばそうとするが、それよりも早くに大十手透徹を取り出した鎮也がスキル『飛打撃』を使い地面を叩いて振動を飛ばし店主がビンを掴む前に鎮也の元へと弾き割らないようにキャッチした。


「今度は催眠ガスかよ、芸が無いな」

「どうしてわかった」


 鎮也には鑑定眼がある。

 店主が使用しようとした物を見るだけでそれがどのような用途の物であるか瞬時理解、使わせても対応ができるが、だからと言ってむざむざやらせる理由はない。


「―――――――――――――――――

【名称】催涙手投げ瓶

【製作者】フルコス工場

【分類】魔道具 【レア度】☆(1)

【長さ】20センチ【重さ】0.3キロ

【魔核】なし

【スキル】なし

【補足】

 割ると中から催涙ガスが発生する仕組みになっている。見た目でばれないように外見は装飾品の瓶を装っている。

―――――――――――――――――」


「またフルコス工場かよ、本当にここはくだらないものしか作らないな」

「なぜ、そこまで、フルコス工場は公表していない、そのツボは先週できたばかりの新作だぞ」

「今度は嘘じゃないね」


 咲耶の嘘探知にはじめて反応しなかった新作で公表していないことは真実であった。製作者と説明をうけた購入者しか知らないはずの魔道具の効果を使用前に見破られては驚愕するしかないだろう。


「俺、ハイレベルの鑑定スキル持ってるの、製作者から所有者まで判別可能、だから見ただけで最初から盗品だとわかってたよ」


 本当は違和感がして鑑定眼を使用するまでわからなかったが、そんなことを教える必要はない。


「だましたな!!」

「だましたのは鎮也くんじゃなくてあなたでしょ」


 いつの間にか山賊で盗賊の店主の後ろに回り込んでいた咲耶が腕を捻り上げて組み伏せる。


「どこで手に入れたか今度こそ正直に話してもらおうか?」


 鎮也が店主の前にしゃがみ穏やかに口調で訪ねた。すごまれるよりも丁寧な方が恐怖を感じる場合がある。全力で咲耶の拘束を振り払おうとしてもピクリとも動けない状況が店主の恐怖を上乗せしていた。


「ビンザスさんから買ったんだ」


 ようやく観念したようで、鎮也の質問に答えだす。


「ビンザス? どこかで聞いたような名前だな」

「そういえば、私も交渉人という職業柄名前を覚えるのは得意なのですが、パッと顔が浮かんできませんね、確かに聞いたことがあるような名前ですが」


 鎮也とネコットが揃って首をかしげた。


「多分だけど、真紅のメンバーの男性じゃないかな、筋肉質の」

「筋肉…………ああ思い出した、二次試験で一人だけ落ちた自称『真紅の秩序スカーレット・オーダー』の団長候補の野郎だ」


 以前に冒険者ギルドで目を付けられた咲耶は嫌な印象と共に名前を憶えてしまっていた。


「やっぱりあの男ですか」


 そしてビンザスの名前を聞いた占い師の少女が怒りを孕んだような言葉をつぶやいた。この少女もビンザスの事を知っている様子。


「とりあえず詳しく説明しろ」


 少女のことも気になった鎮也だが、今はどうして真紅の秩序のメンバーの持ち物が同じメンバーに盗まれて売りに出されたかを聞き出すことを優先した。

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