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第94剣『レオナ苦行継続』

 先行していた群れを全て倒し終えたレオフィーナとオルフェノはモーリンたちが待つ崖の上へとやってきた。


「ここまでは作戦通りですね」


 結果は見ていたであろうが、一応レオフィーナは作戦参謀役のストニへ経過を報告する。


「あ、ああ、そうじゃの」


 ストニたちの方も罠の張り終えているようだ。後は先行を追いかけ群れの本隊が到着するのまで待ちである。


「もう本隊が到着するまでやることは無いわね、今の内にお腹に何か入れておきましょう」

「いえ、肝心なことを決めていないことに気が付きました」


 食事の準備をしようとしていたモーリンに待ったとかける。

 レオフィーナにとってとても重要な事を決めていなかった。


「他に何かあったかの~」


 参謀役でもある魔法使いのストニが頭をひねる。


「報酬と討伐した魔物の素材を換金した時の取り分です」

「そういや~それも二次試験の課題に含まれていたよ~な」


 試験管であるソウ&デスの言葉をギガルが思い出す。配当も自分たちが決めるようにと言っていた。

 別々の冒険団が共同で依頼を受けたさいもっとももめる問題の一つが報酬の分け方である。


「そうじゃった、他の者と組のは久しぶりじゃったので忘れておったわ」

「そんなの話し合うまでもないじゃない、報酬の総額を頭割すればいいのよ」


 モーリンは総額を人数で割るというもっとも簡単で明確な提案をしてきた。


「モーリンの考えが一番もめない方法だとは理解している。しかし、私たちは早急にお金が必要な状態にあるのだ、私一人で四人分の働きをするので報酬を半分譲ってくれないだろうか」

「半分、ちょっとそれはがめつくない!」


 レオフィーナの提案にモーリンが噛みついてきた。人数割りなら確かに聞こえはいいかもしれないが、冒険団として考えてみると、レオフィーナ一人に対してオルフェノ一行は四人である。


 実質、冒険団に入ってくる報酬比率は一対四となり、一人で参加しているレオフィーナは圧倒的に損をする計算なのだ。


 だからレオフィーナは分配を人数で割るのではなく、冒険団で割ろうと提案した。


「もしかして、お仲間の女性と分かれて依頼を受けたのは」


 オルフェノが咲耶が別の依頼を受けていたことを思い出したようだ。どんなに頼んでも同じ依頼を受けなかった二人の態度にようやくお金が必要であったことに気が付いてくれた。


「サクヤとは報酬を多く稼ぐために分かれました」

「そうだったのですか、でも危険すぎます。いくらお金が必要だからって一人で行くなんて」

「問題ありません、私の仲間は強いですから」


 魔物の群れを瞬殺したレオフィーナをして強いと言わせる女性。オルフェノを除いた三人の背筋に鳥肌が立つ。


「もしかして、あの子もお主と同じくらい強いのか?」

「そうですね」

「どっちが強いの?」

「全力で戦ったことがありませんので分かりませんが、紙一重の勝負になるでしょう」


 もっとも負けるつもりはないが、と心の中で付け足した。


「おいおい、冗談だろ、帝国の冒険者はレベルが高いって聞いてたけどよ、こんな実力者がゴロゴロしてるのかよ」

「さぁ、私たちも帝都に来たばかりなので帝国の冒険者のレベルは知りませんが、私たちは特別だと思いますよ」


 ランクAの冒険団の実力がカナリーたち『真紅の秩序』と同レベルならレオフィーナは間違いなく『七星剣』の方が実力はあると断言できる。


「随分な自信じゃない、確かに直接の戦闘は強そうだけど罠の設置は一切手伝って無いじゃない、だから結論、報酬を半分渡すのは却下よ」


 予想はしていた事だが、レオフィーナの提案はことごとく聞き入れてはもらえない。


「モーリン、そんな冷たい言い方、僕は半分渡してもいいと思うよ」

「ダメよ絶対、私たちだって帝都までの路銀で蓄えが少なくなってるのよ、冒険団の財布を預かる者として認められないわ」

「で、でも」


 レオフィーナの頼みごとは聞いてあげたいのだろうオルフェノがモーリンを説得しようと試みるが、それが返って彼女の考えを頑なにしている。


「しつこいよ、オルフェノは一緒に旅する私たちにこれからずっと雑草を食べてけって言うの」

「そんなこと、う、うう~」


 ものすごい暴論を並べられ、完全に言葉をつまらせる勇者候補。


「わかりました、報酬は人数割で結構」

「いいのかよ」


 ギガルが理不尽な分配を聞き入れたレオフィーナを逆に心配してくれた。


「冒険者ランクが同じでは多数決にはかないません。抗議するだけ時間の無駄です」


 もし一個でもレオフィーナの方がランクが高ければ意見は通せたかもしれないが、この依頼を受けているのは全員がランクA昇進試験の受験者であるランクB、結果、物事の決定は数が多い冒険団の意見しか通らない。


 レオフィーナは勝てない舌戦は早々にあきらめて、次の意見を述べた。今度は数に負けないように搦め手で挑む。


「では討伐した魔物の素材方の話しですが」

「それも頭割に決まっているじゃない、当たり前でしょ」


 この件に関してもモーリンには取り付く島もない。


「確かに協力して回収した分はそれでいいでしょう、ですが、それ以外の素材はどうするのです」

「どういう意味よ」


 レオフィーナが渓谷の下を指差す。思考の末に考え付いた数に対抗するための作戦を開始する。


「例えば、先程倒した先行していた群れなどの素材です。あれはどうするのです」

「何言ってるのよ、いつ本隊がくるかわからないのにのんびり回収している暇なんてないでしょ」


 まだ余裕はあるだろうが、一度下りれば谷を登る時間も計算しなければならない、本隊が渓谷に迫っていることを確認できてから行動しては遅れを取ってしまうかもしれない。


「もったいないけど廃棄よ、どうしても欲しいなら一人で降りて素材を剥ぎ取れば、私たちは手伝わないから好きなだけ持って行っていいわよ」

「ちょっとモーリン!」


 物の言い方は酷過ぎると、オルフェノが抗議しようとしたが。


「それを聞けて安心した。では、これからの討伐に関しては互いに協力しないで行きましょう。私一人が倒した魔物の素材は持って帰らせていただきます」

「なによ、それ」

「共同で倒したなら人数割、個人で倒したら個人のモノそれで行きましょう。私に対しても魔法や道具による支援は一切しなくていいので、では解体に入らしていただきます」


 レオフィーナは多少強引ではあるが、個別討伐で行こうと押し通したのだ。


「そんなレオフィーナさん、今から谷を降りるなんて危険すぎます」

「誰が降りると言いました、素材の剥ぎ取りはここで行います」

「はい?」


 レオフィーナの肩にいつの間にかいなくなっていた鴉の六黒が舞い降りた。


「六黒ご苦労さま、さっそく始めましょう」


 六黒はカーと一鳴きすると飛びあがり、翼を広げた影の中から五十匹の倒した魔物を浮かび上がらせた。


「これは収納系の影魔法か、鴉が使えるなど信じられんわい」


 影魔法シャドースペース。影の中に使い手の魔力の比例した大きさの空間が作り出せ、物を収納できる。ただ、対魔法結界に触れた途端に解除されてしまうので、街中での使用が難しくなった魔法でもある。


「その鴉は魔獣か?」

「聖獣です」


 そこは強く否定する。聖剣から剣獣化した存在が魔獣であってたまるものか。


「六黒、種類が多いので魔核から優先してやっていこう」


 さっそく解体に取り掛かるレオフィーナ。


「あのレオフィーナさん、僕も手伝いますよ、旅の道中いろいろな魔物と遭遇しているので剥ぎ取りの経験も豊富です」

「結構、あなたが手伝えば人数割になってしまいますので、絶対に手を出さないでください」

「そ、そんな~」


 今度はレオフィーナの方がオルフェノの提案をはっきりと却下した。






 一人黙々と解体しているレオフィーナから少し離れた場所で休息を取るオルフェノ一行。その中でモーリンが苦々しくレオフィーナを睨んでいた。


「あんな魔法が使えたなんて、卑怯な女」

「卑怯な条件を提示したのはお前が最初なんだから文句つけるなよ」


 ギガルが携帯用の干し肉をかじりながらモーリンをいさめる。


「私が卑怯ってないよ」

「報酬の件だよ、頭割なんてあちらさんが一方的に不利じゃねぇか」

「そうじゃの、こういう場合は冒険団の数で均等に分けるのが基本、減額するのは、依頼中の働きを見て決めるもんじゃ、それを最初から報酬を五分の一にすると宣言したのじゃぞ」


 短気な冒険者なら怒り狂っていたかもしれない。


「だって仕方がないじゃない、私たちの方が人数多いんだもん」

「向こうが仲間に入れてくれと申し出た場合はそれでもよいじゃろうが、今回はオルフェノのわがままで同行することになったのじゃぞ」


 レオフィーナが一人で受けるはずだった依頼に強引にねじ込んだのはオルフェノである。それなのに報酬の殆どをオルフェノたちが貰っていく形になった。


「彼女からしたら面白くはないじゃろうな」

「共同を解消したいと言ってもおかしくないな」


 ストニとギガルの意見は正しい、オルフェノの聖剣の事さえなければレオフィーナは今すぐにでも単独行動へ切り替えていただろう。


「そんな、一人じゃ危ないですよ」

「いい加減にしてよオルフェノ、あの女は私たちの仲間じゃないんだよ、それなのに勝手に二次試験の依頼を選んだり、共同依頼にしたり勝手な事ばかりやって」


 共同依頼を喜んでいるのは実質オルフェノ一人かもしれない。

 そのことにようやく、鈍感で鈍い勇者候補様も気が付くことができた。


「ごめんモーリン、確かに周りが見えなくなっていたかも」


 はっきりと仲間からも迷惑をしていると告げられたオルフェノは反省の態度を示した。


「わかってくれればいいのよ、彼女は仲間じゃないんだから、優先順位は仲間より下にして、いいわね」

「……仲間じゃない」


 仲間じゃない、仲間じゃない、この言葉がオルフェノの中で何度もリピートされる。仲間じゃないから報酬の件で揉める。仲間じゃないからモーリンが認めてくれない。仲間じゃないから一緒に解体作業ができない。仲間じゃないからオルフェノはレオフィーナを手伝うことができない。


「そうよ、あの女は仲間じゃないの、たまたま一緒に依頼を受けただけの存在よ」

「……仲間じゃない、じゃあそこを変えてしまえば」


 だったらその根本を変えてしまえばいいじゃないかとオルフェノはひらめいてしまった。


「そうか、だったら、仲間になればいいじゃないか」

「え? ちょっとオルフェノ」

「ありがとうモーリン、そうだよ、仲間になれば一切の問題は解決するじゃないか」


 妙案が浮かんだと、オルフェノは立ち上がると、レオフィーナの元へ向かっていく。


 同時に解体作業をしていたレオフィーナは、背後からとてつもない悪寒に襲われたらしい。解体の作業を思わずやめて、腰のオジロへ手を添えてしまった。

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