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第93剣『レオナ前哨戦突入』

 月もだいぶ傾き、あと二時間ほどで朝日が昇るだろう時間に。


 レオフィーナはとてつもない苦行を強いられていた。


「――それでですねレオフィーナさん、僕が王様から勇者候補の資格を貰って実家のパン屋に戻ると、小さいころにいつも一緒に遊んでいた女の子が僕の家を手伝ってくれていたんですよ、すごい良い奴で帰ってきた僕を笑顔で出迎えてくれたんです」


 待ち伏せの配置についてからずっと、一晩中、レオフィーナはオルフェノの自伝、どうして勇者候補になりたいと思ったか、勇者候補になるためにはどのような事をしたか、などなどを永遠に聞かされていたのだ。


「聞いていますかレオフィーナさん。実は僕、その女の子のことをずっと男の子だと思っていたんですよ、小さい頃は髪も短かったですし、でも久しぶりにあったら、レオフィーナさんほどじゃ無いですけど髪が長くなっていたんですよ、びっくりです」


 聞きたくはないが、音を遮ることができないので耳に飛び込んでくる。


「その子、僕が旅に出る前に、絶対に無事に帰ってきてってお守りまで作ってくれたんですよ、ね、いい奴でしょ」

「……そうですね」


 どうしてだ、ここまでレオフィーナの大好物であるお約束の固まりのような存在なのに、感情が拒絶反応を起こしている。


「これがそのお守りなんですけど」


 オルフェノが首から下げていた手作りの青色の石がはめ込めたペンダントを取り出す。

 本当にお約束のオンパレードである。


「家で待ってくれている人がいるっていいですよね」


 待ってくれている人、レオフィーナは鎮也の顔が浮かんだ。


「そうか、わかりました」


 鎮也のことを考えたことで、レオフィーナはどうしてオルフェノのお約束には拒絶反応を起こすのかが判明した。わかってみれば簡単な事であった。


「私は、マスターが絡んだお約束が好きなんだ」

「どうかしましたかレオフィーナさん」


 自分の話しに夢中になっていたオルフェノはレオフィーナの独り言は聞き取れていなかった。


「自分の気持ちに気が付いただけです。あなたが気にする必要はありません、それより気配が近づいてきました、そろそろその蓋が無くなった口を閉じなさい」

「す、すみません」


 ようやく静かになったオルフェノは腰の剣に手をかける。やはり背中の聖剣はまだ使わないらしい。


 とりあえず、大人しくなったことを良しとして、レオフィーナも今は迫ってくる魔物に集中する。


 遊撃手の情報通り、迫ってきているのは五十匹ほどの群れであると感じ取った。

 それほど大きな気配がないがスピードがあるようだ。罠に誘い込む前に種類だけでも確認しておきたい。


 だが魔物の先頭が見えた瞬間、オルフェノが隠れていた茂みから立ち上がり剣を抜いた。


「こい魔物ども、この僕が相手だ!」

「まだ早い!」


 相手を確認もせずにオルフェノが魔物の前に姿を現す。


 魔物たちの意識が一斉にオルフェノへと注がれる。囮となって罠を張った渓谷まで誘導するのが二人の役割なので意識を引き付けるのは間違っていないが、確認がまだ済んでいない。


 飛び道具をもった魔物がいるかいないかでは、逃げ方自体が変わってくる。遊撃手の話しでは弓兵鬼アーチャーオーグルがいるかもしれないと言っていたのに。


 案の定、オルフェノ目掛け石の鏃の矢が飛んできた。


「無駄だ、効かないよ」


 オルフェノは剣で飛来する矢を斬り落とす。


 続けて三本飛来、それも気合で剣を振って斬り落とす。


「僕にそんな飛び道具は通用しないぞ」


 レオフィーナに自分の勇士を見せようとしているのかもしれないが、周りが見えていない。


「矢は囮だ」

「え?」


 オルフェノが弓矢に気を取られている隙に周囲の木々の枝伝いに移動した騎乗鬼ナイトオーグルが頭上から襲いかかってきた。


「うわ~~~」

「六黒」


 ナイトオーグルの顔に鴉の六黒が飛びかかりひっかいて姿勢を崩させた。渓谷まで誘い込まなくてはいけないので、この場で倒すことはできない。


 下手に倒して逃げられては困るからだ。


「行きますよ」

「は、はい」


 再び飛来する矢をオジロの光剣で弾き、レオフィーナは渓谷へオルフェノを急かして走り出す。オーグルたちは一応狙い通りに進路を変え追いかけてきた。


「うまくいきましたね」

「それは結果論です。せめて種類だけでも把握しておきたかった」


 走りながら後方を見るが、まだ月明かりしかない夜、オジロの光剣の明かりだけでは種類の把握できなかった。


「大丈夫ですよ、僕とレオフィーナさんがいれば無敵です」

「戦いに慢心を持ち込むな!」

「す、すみません」


 余裕を見せる事と、油断をする事は違う。


「また上だ!」

「え!?」


 追いかけてくる群れから何かの影が飛び上がり、上空から二人に襲い掛かる。


 降りかかる魔物を交わして、レオフィーナが光剣ではなく手甲の装備されている左腕で倒さない程度に加減して殴り飛ばす。


「足長鬼レッグオーグル」


 ダチョウのような足を持つ鬼、素早さと跳躍力が高い鬼型の魔物だ。このレッグオーグルは遊撃手から渡された情報には含まれていなかった。


 このような事があるからレオフィーナは種類の確認をしておきたかったのだ。レッグオーグルなら誘い込んだ渓谷の岩壁を駆け上がってしまうかもしれない。彼女の中で討伐順位一位のアーチャーオーグルの次にレッグオーグルと書き足した。


 罠を張っているストニたちが襲われたら作戦が破綻する。飛び道具を持つ魔物の次に厄介な存在だと判断した。






 その後、レオフィーナとオルフェノは付かず離れず、魔物の群れを誘導しながら罠を張っている渓谷へと逃げ込んだ。


 岩の壁を持つ狭い渓谷、かつては水が流れていたかもしれないが、今ではひやがり乾いた土色になっている。


 谷の上にレオフィーナが目を向ければ、ストニたちが待機しているのが確認できた。


 目線だけで合図を送ると、二人はそのまま渓谷の奥へ、魔物たちは谷の上の存在になど気が付かずレオフィーナたちを追いかけ渓谷に入ってくる。


「なんとか作戦通りになりましたね」


 渓谷の奥にまで入り込み十分な距離を稼いだ所でレオフィーナとオルフェノが足を止めて反転する。


「まずは本隊が到着する前に先行しているあの群れを殲滅します」

「まかせてください、僕たちならあんな魔物の群れなんかに負けません」

「本番はこの後です、体力の配分には注意」

「はい!」


 追いついた魔物たちは、まず飛び道具を持つアーチャーオーグルが一斉に弓を引く。


「六黒『分身』」


 上空から六羽へと分身した鴉の六黒がアーチャーオーグルの矢を防ぎ、その隙に群れの中へと踏み込んだレオフィーナがあらかじめ決めていた優先順位の高いものから狩っていく、まずは飛び道具を持つアーチャーオーグル、次は跳躍力を持つレッグオーグルを斬り倒す。


 この初動だけで五十匹の内、二十匹を倒した。


「す、すごい、ぼ、僕だって!」


 レオフィーナの踏み込みに付いてこれなかったオルフェノが遅れて参戦してくる。


 作戦では二人で五十匹の相手が無理そうなら戦士のギガルが増援で渓谷へ下りることになっていたが、その必要はまったくなく、群れの九割をレオフィーナが残りの一割をオルフェノが短時間で片づけた。






「…………ちょっと、何よあの女、強すぎでしょ」

「ありゃ、俺たちが四人で同時にかかっても勝てないかもな」


 谷の上で罠を張って待機していたモーリン、ギガル、ストニの三人はレオフィーナの戦いを見て呆然としていた。


 目にも追えない速さで群れへと踏み込んだかと思えば縦横無尽に光剣を振り、魔物が反撃する余裕も与えずに斬り倒していく。


「通り名が光剣の騎士だったか、ピッタリすぎるネーミングだな」

「剣の腕は聖騎士隊長以上じゃな」


 経験を積んだ二人の男はレオフィーナの底知れぬ実力に度肝を抜かれている。


「え、聖騎士隊長って、ボルケノ聖王国最強の剣の達人って言われてなかった」

「言われてるな」


 勘違いだったかなとモーリンが確認をしてくるがギガルが勘違いではないと答えた。つまりレオフィーナは聖王国最強の存在よりも強いことになる。


「それってあの光ってる武器のおかげじゃないの、きっとそうよ、だって聖騎士隊長ってオルフェノに剣を教えてくれた人でしょ、そんな人より上なんて」


 モーリンには認めたくない事実であるようだ。


「確かに武器もすごいようじゃが、使いこなす腕が無ければ持ち腐れじゃ、もしかしたら一人で討伐すると言っていたのも、あながちブラフではなかったのかもしれんの~」

「すくなくとも、俺が加勢に行く必要はないな」


 先行した群れの殲滅は作戦通り、いや、作戦以上にうまくいった。


 残るは本隊の到着を待ち討伐するだけであるが、レオフィーナのあまりの強さに三人の中にあった群れへの恐怖はいつの間にか忘れ去られてしまっていた。

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