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第91剣『レオナ二次試験出発』

 鎮也とレオフィーナの二人はカナリーと別れてから金策を順調にこなし、目標であった金貨四百枚を超え五百枚に迫る勢いで稼ぎ出していた。


「こんなに儲かっていいのだろうか」


 鎮也は自分で提案した金策であったが、簡単にお金が稼げてしまったことに返って罪悪感がしてしまう。


「いいのではありませんかマスター、別に法を犯すことは一切していませんので」


 二人きりの時間を大切にするようにレオフィーナは鎮也と腕を組んだまま鎮也のモヤモヤした葛藤に答える。鎮也と違いレオフィーナの方は違法でないのだからとあまり気にしていないようだ。


「そうだけどさ、まさか、ここまでレアな品物が捨て値で売ってる店が多いとは」


 レア度3の鏡型魔道具が銅貨三枚で売られているのを見つけた時には仰天ものだった。少し離れた貴族向けの装飾品店に持ち込んだら金貨七十枚で売れてしまった。ランクAの依頼もびっくりな儲けである。


 それ以外にも似たようなケースがいくつもあった。その結果が金貨五百枚である。


「想像以上に鑑定できる商人が減ってるのかもな」


 百二十年前に同じことをしても絶対にここまで稼ぐことはできなかっただろう。


「それは有るかもしれませんね、それにしてもマスターが金貨五百枚を稼いでしまいましたか」

「これでレオナの目標は咲耶と同じ金貨四百枚でよくなったな」


 鎮也が想定していたよりも、多く稼げたのでレオフィーナのノルマが軽くなった。


「いえ、咲耶が四百枚、マスターが五百枚なら、私は六百枚を狙います」

「張り合う必要ないだろ」

「いいえ、今後のことも考えるといつ聖雷剣が見つかってもいいように、金貨は貯めておくべきです」


 間違ってはいないが、目標を百枚プラスしたのは確実に張り合っているからだ。


「マスター、素材を大量に狩ってきますので魔法のカバンを貸して欲しいのですが」

「ああ、そうだな」


 鎮也は腰に提げていた魔法のカバンをレオフィーナに渡す。八種類、同種は無限に入る魔法のカバンを借り受けるレオフィーナは本気になっているようだ。


「やっぱりこれからは一人一つ収納魔道具欲しいよな」

「あれば便利ですね、ですが、今日訪れた道具屋にはそれらしき物はありませんでした」


 以前のトレイシアが作れる職人がいなくなったと言っていた。


 つまり現時点で存在する物が全てであり増産はされないということ、品数は少なく見つけたとしてもレア度以上の値段がついていることは間違いない。


「買うより作った方が安上がりだな、魔法を応用すれば簡単に作れんだけど、それだと対魔法結界に入った時に壊れる可能性があるよな、そうなると魔導技術で作ることになるけど、収納系の魔導術式って俺はまだ知らないんだよな――」


 制作するなら、材料はどうするか、術式はどうするか、形はどうするか、ついいろいろと考え出してしまった。


「マスター、また職人モードになっています」

「おっと、すまん」


 また前方が見えなくなっていた。


「できれば職人モードに入るのは屋敷の工房だけにして欲しいものです」

「すまん、気を付けてはいるつもりなんだが、つい作りたいモノができると、脳が勝手に」

「は~、マスターを残していくのが心配になりました。いいですか冒険者ギルドからはまっすぐに帰るのですよ」


 盛大なため息をつかれ、小さい子供のような注意を受けてしまった。


「あ、ほらレオナ、冒険者ギルドが見えてきたぞ」


 説教がはじまりそうなので鎮也は慌てて話題を打ち切った。


「まったく」

「あはは、出発前に何か食べてくか?」

「そうしたいですが、時間が無いようですね」


 冒険者ギルドの前ではすでに、これから一緒に二次試験を受けることになるオルフェノたちが待っていた。


「それではマスター行ってまいります」

「心配は無いだろうけど、気を付けろよ、期待してるからな」

「もちろんです。このカバン一杯に素材を詰め込んできますので」


 レオフィーナが満ち溢れた自信で鎮也から借り受けた魔法のカバンを軽くポンポンと叩いてみせる。


「あっマスター、これが入ったままでした」


 魔法のカバンを確認したレオフィーナが中から今日稼いだ金貨五百枚の入った皮袋を取り出す。


「おお、忘れてた」


 今日は最初から買い物をするつもりだったので魔法のカバンを空にしていた、金貨を抜けばまた空の状態に戻る。


「これで問題ありません」


 レオフィーナの荷物は魔法のカバンと陽翼剣オジロと陰翼刀六黒だけであるが、これだけあれば大抵なことはこなせる。


「それじゃ、オジロも六黒もレオナのサポートよろしくな」


 レオフィーナの影から出てきた六黒が彼女に肩に止まって任せろと言うようにカーと鳴いた。






 時が遡ること少し前。


 出発の準備を終えた勇者候補のオルフェノ以下、神官モーリン、剣士ギガル、魔法使いストニの四人は待ち合わせ場所である冒険者ギルド前に集合時間よりも早く到着していた。


「遅い、何してるのよ、あの女は!?」

「落ち着いてよモーリン、まだ約束の時間じゃないんだから」


 待たされる形となったモーリンが姿の見当たらないレオフィーナに対して怒り出すのをオルフェノが必死でなだめていた。


「落ち着けですって、こっちはあの女が急ぎたいって言うから、大急ぎで準備してやったって言うのに!」


 正確にはモーリンたちを急がせたのはレオフィーナに早く会いたかったオルフェノである。それがまたモーリンには気に入らない事であった。


「私たちの労力を返せ、待ち合わせ時間の一時間前には私たちの分の紅茶を入れて待ってるくらいの誠意を見せなさいよ!」

「言ってることが無茶苦茶じゃの」

「ガハハ、面白いからいいじゃないか」


 怒るモーリンを止めるのはオルフェノの役目、ストニとギガルはノータッチで観戦していた。そもそもモーリンの不機嫌の原因はオルフェノにあるのだから、下手に手を出して火傷どなどしたくないというのが二人の本音だろう。


「面白がらないでよギガル、モーリンをなだめるの手伝って」

「そいつは無理、だからお断りだ~」


 酒を飲んでもいないのに酔っ払いのような受け答えでギガルがオルフェノをからかった。


「ギガル、出発前からオルフェノをあまり疲れさすでないぞ」

「わかってるよ、お、こいつはまた面白くなったな」


 ギガルが何気なく向けた視線の先に一組の腕を組んだカップルを見つける。そのカップルの女性の方が自分たちのリーダーであるオルフェノが待ち望んでいる女性であったのだ。


「おい、オルフェノ。お待ちかねの嬢ちゃんがきたぜ」

「え、どこですか」


 言い合いをしていたモーリンから視線を外してキョロキョロと落ち着きを無くして当りを探す。


「あっちだあっち」


 レオフィーナはまだ鎮也と一緒に少し先の道を歩いてきている。


「あぁぁぁぁぁ~~~~~~!!」


 その姿をオルフェノも目撃して叫び声をあげた。


「あら~、あれはどう見ても恋人同士ね、残念だったわねオルフェノ、彼女にはもう相手がいるみたいよ」


 先程と打って変わって上機嫌になったモーリンがオルフェノに慰めの言葉を贈り、やさしく肩をポンポンと叩いた。


「恋人って、そ、そんなのまだわからないじゃないか、もしかしたら、あの男性が足を怪我して支えてあげているだけかもしれないだろ、そうだよ、きっとそうだ、レオフィーナさんはとっても清楚でやさしい女性だから」


 レオフィーナ本人が聞いたら背中がかゆくなりそうな評価であった。


「そんな風には見えないけど、あ、二人が放れたわ」

「ほら、だったら恋人じゃないよ」


 恋人だからと言って四六時中ずっとくっ付いているわけではないだろう。


「なんか彼女が男性に渡したの~」

「ありゅ硬貨を入れる皮袋だな、相当に膨らんでるぞ数百枚はあるな」


 遠目なのでよくは分からないが、硬貨であることは間違いないだろう。その中身の硬貨の色までは分からないが、庶民が取引に使うときには銀貨や銅貨が多く用いられている。


「もしかしてカツアゲか、いけない急いで助けに行かなければ!」

「ちょい待ち」


 まったくカツアゲに見えない、オルフェノの妄想補正が入った言いがかりである。


 剣を取り駆け出そうとするオルフェノをギガルが襟首を掴み、モーリンが鳩尾に拳を叩き込む連携で止めた。


「グフッ!」


 お腹を押さえて崩れ落ちるオルフェノ。


「じゃから、出発前に疲れさすなと言っておるだろうが」

「俺はダメージは負わせてないぞ、やったのはモーリンの嬢ちゃんだ」


 ギガルをあくまでも襟首を掴んだだけ、首が軽くしまった所に追撃をかけたのは打撃が得意な神官のモーリンである。


「仕方ないでしょ、このままだと出発前にオルフェノが人殺しになりそうだったんだもん」

「そ、そんなことはしない」


 苦しみながらもレオフィーナを見るオルフェノ。


 ちょうどその時、六黒がレオフィーナの肩にとまる所であった。


「鴉?」

「あんな鴉さっきまでいた」


 影から六黒が出てきたのは丁度オルフェノが崩れ落ちた瞬間だったので誰も目撃していなかった。


「いなかったような気がするが、ちょっと遠いしな、影に入ってたんじゃないか」


 ギガルの言うのは影とは男性の後ろに隠れて見えなかったという意味だったが、実際は本当に影の中に入っていた。


「もしかしたら、あの少年は調教師かもしれんの~、さっき渡した革袋は鴉を借り受ける代金かもしれん」

「鴉なんか何に使うのよ」


 モーリンが鴉などに大金を払うなんて信じられないとこぼす。


「そうでもないぞ、空から偵察できるのは集団を相手にする場合はかなり有効な手じゃ」

「そうですよね、流石はレオフィーナさん、あの男は調教師だったのか、調教師なんだ」


 自分に言い聞かせるようにオルフェノは調教師と繰り返す。


「調教師ってつなぎ姿じゃないよね普通は」

「え?」


 男の服装は物作りの職人のようなつなぎ姿であった。


「それじゃ、あの男はいったい?」


 レオフィーナたちもオルフェノたちに気が付いたようで、男性に見送られ冒険者ギルドの前へとやってきた。


「レ、レオフィーナさん!」

「約束時間より早くきたつもりでしたが、待たせたようですね」


 オレフェノたちの前にきたレオフィーナの表情はつなぎ姿の男に向けた信頼を寄せる表情ではなく、キリッとした凛々しい一流冒険者の顔になっていた。


「いえそんな、僕たちも今きたところです!」

「何言ってるのよオルフェノずいぶんと待たされたじゃない!」


 二十分ほどを今きたと表現するか、ずいぶんと待たされたと表現するかは人によって個人差があるようだ。


「そんなの待ち合わせ時間よりも早く着いた僕たちの責任だろ、レオフィーナさんは悪くない」

「そう言っていただけると助かります、そちらの準備は終わったのですね」

「はい、準備は問題なく」


 オルフェノたちの足元には大きなバックが積み上げられていた。群れを相手にする上に移動手段も確保されている。昨日言っていた通り、思いつく限りの道具を用意したようだ。


「では出発しましょう」


 予定よりも早い集合になったが、出発できるのなら早い方がいい、相手の群れは今の動いているのだから。


「あ、あの、その出発前にどうしても一つだけ聞きたいことがあるのですが」

「なんです?」

「さ、さ、先程の、お、お、お夕食はすみましたか?」

「いえ、まだですが」


 つなぎ姿の男、鎮也の事をオルフェノは聞くことができなかった。


「意気地なし」


 モーリンが不機嫌そうにつぶやいた。

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