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第90剣『再びのカナリー』

「お久しぶりって、ほどでもないですね」

「そうだな、君たちが帝都に来ていることはルーから聞いていた。近いうちにレフティアで世話になったから挨拶に行こうと思っていたのだが、私たちも帝都に戻ってから何かと忙しくてな」


 出会った当初のカナリーは鎮也の冒険者ランクがFだと知り、厳しく鍛えるように新人扱いをしてきたが、折れた大剣を修復してからは態度が若干軟化していた。


 駆け出しの新人扱いから、優秀な腕を持つ職人へと認識を切り替えたのかもしれない。


「おっと、レオフィーナ殿は昇格試験の一次を突破したそうだな、おめでとう」

「お褒めの言葉、ありがたく頂戴します」


 鎮也がカナリーに対して敬語を使うので、レオフィーナもそれにならいカナリーには丁寧な対応をしてくれる。


「それにしても意外な所であったな、君のような職人が訪れる店ではないと思うのだが」

「掘り出し物探しですよ、そっちこそ、天下のランクA冒険団の団長が来る店じゃない気がしますが」

「お客さんたち、堂々と言ってくれますね」


 店員の前でずばりと店批判を展開する二人、確信犯のぼったくり店なので気にもしない。


「私はこの店に石できた武器があると聞いてな、それが欲しいのだ」


 カナリーは店員の言葉をスルーして鎮也の質問にだけ答えてくれた。


「石の剣って間違いなくこれのことですね」

「チィ、もう噂が広まってるのかよ」


 鎮也がカウンターの上に広げられている石の武器たちを指差し、店員は新しいお客であるカナリーが石の剣の事を知っていたことに悔しがる。


「これか、確かに石のように見えるな」


 鎮也の横に並んでまじまじと石の武器たちを観察する。カナリーの言う通り見た目も完全な石、これでだまされる冒険者などいるのであろうか。


「正真正銘の石ですよ、フルコス工場製の」

「フルコスって、そんなことまでわかってたのか!?」


 店員は作者を聖剣鍛冶師としか言っていないのに、生産場所をずばりあてられて仰天する。


「鑑定には自信があるんだ、ハズレてないだろ」

「どんな鑑定スキルを持っているんだ、あんた」

「マスターの目は誰にも負けません」


 ご機嫌になったレオフィーナが自分の事のように胸を張る。聖雷剣の贋物を暴いたことがとても嬉しいようだ。


「その鑑定で、この武器たちは石であると証明されたのだな、よかった、まさに探していた武器だ。この武器を全て売ってくれ」


 カナリーは石でできているとわかっていながら、購入を希望、それも五つ全てである。


「カナリーさん、これ見た目は剣ですけど、鉄など一切使われていませんよ」

「そこが重要なのだ、店員、この武器はいくらになる」

「もう噂が広まってるなら、誰にも売れないし、処分するのも面倒だから持っててくれていいぜ」


 もう安い営業すらしない店員が投げやりに言ってくる。正体が石だとバレたならもう買いに来る客などいないだろうと。


「それはいけないぞ、素材が石でも製作費はかかっているだろう。そうだな、一つ半銅貨一枚で購入させてもらおう」


 半銅貨とは、銅貨が人の手から手へと渡り長く使われていく過程で半分に割れた硬貨のことである。


 それでも硬貨であることには変わりないので、庶民の間では割れてない銅貨の半分の価値で買い物などに利用されていた。


「は、半銅貨一枚……」


 店員の顔が引き攣った。


 まっとうなことを言っているように聞こえるカナリーのセリフであるが、付けた値段は小さい子供のお小遣い程度であった。


 半銅貨一枚とは日本円に換算すると五十円程度である。


「マスターの鑑定ではあの石の剣はいくら位ですか?」


 レオフィーナが店員とカナリーに聞こえないようにこっそりと訪ねてくる。それに対して鎮也もこっそりとささやき返した。


「石を削るのって案外大変そうだからな、製作費で銀貨二枚か三枚くらいは掛かってるんじゃないか」


 ちなみに銀貨一枚は日本円に換算すると千円程度である。


「カナリーは案外買い物上手なのかもしれませんね」


 カナリーは制作費で三千円かかった石の剣を五十円で買ったことになる。


「悪意がない分、かえってたちが悪くなってるな」


 割れた銅貨を数枚店員に渡すカナリーは良い事をしたと得意顔であった。銅貨を受け取る店員の目じりにはキラリと光る小さな粒がこぼれる。


「不憫だな」

「同感したくはありませんが、不憫に見えますね」


 まさか聖雷剣の贋物を販売しようとしていた店に同情することになろうとは、鎮也もレオフィーナも思いもしなかった。


 カナリーが店員を泣かした後、鎮也は最初の目的であった店の隅で埃を被っていた見た目は悪がレア度の高い武器を数点見つけ、便乗するわけではないが、こちらも安く購入することができた。






 共に目的の物を購入できた鎮也とレオフィーナは、カナリーと一緒にアラカルト二号店を後にする。


「いや、君が店にいてくれて助かった。おかげで目的の武器が想定していたよりも安い値段で買えたからな」


 石の武器を収納した指輪型の魔道具を嬉しそうに一撫でする。


(やっぱりいいな収納型の魔道具、俺は魔法のカバンがあるけど、咲耶やレオナや仲間の分も欲しいよな、今は無理だけど時間ができた時に製作を考えてみるか)


「どうかしたか?」


 鎮也がカナリーの指輪を見つめていることに気付かれてしまった。


「え、いや、そんな石の武器をたくさん買ってどうするのかなと思って」


 やましいことは無かったはずなのに、つい言い訳をしてしまった。しかし、石の武器を何のために購入したのか、気になっていたこともホントである。


「ああ確かに気になるだろうな、これは今朝になって緊急の使命依頼が飛び込んできて、その依頼をこなす上で鉄を使っていない武器が必要になったのだ」

「鉄を使ってない武器が必要? ずいぶんと特殊な依頼なんですね」


 鉄を腐食させるガスでも洞窟内で噴出したのだろうか。


「ランクAにもなればさまざまな依頼をこなさなければならなくなるが、今回はただの討伐依頼だ。しかし討伐対象がメタルグロックでな」

「メタルグロックって、あの鉄食い蛙メタルグロック?」


 レオフィーナの凛々しい眉が歪んだ。


 鉄食い蛙メタルグロックとは、名前の通り鉄を食する蛙型の魔物である。剣や槍の刃から馬車に使われている金具や釘までも、鉄なら何でも食べてしまう。


 旅商人の馬車が襲われたりしたら、財産全てを食べられてしまう可能性だってある。


「そのメタルグロックだ」

「あのメタルグロックか」

「マスター名前を連呼しないでください」


 半身が剣であるレオフィーナにとってもっとも苦手な魔物といってもいいだろう。別にレオフィーナほどの剣になれば齧られたところで傷などつかないが、生理的に受け付けられないらしい。


 名前を聞いただけで、幽霊を怖がる少女のように無意識に鎮也の腕につかまってきた。


「なので鉄の武器が使えない、最悪は木剣で挑もうかとも考えたのだが」

「メタルグロックって確か、鉄並みの固さがあったんじゃ」


 鉄を食する蛙は全身鉄色で、肌の固さは鉄と同程度と言われている。それに木製に武器で挑むのは無謀に近い、叩けば木剣の方が折れるだろう。


「だから悩んでいたんだが、ビンザスがあの店で石のような聖剣を買ったと自慢していたことを思い出してな」

「やっぱりあそこで買ってたんだ」


 一号店にクレームを付けた現場は鎮也も目撃している。


 もしかしなくとも、あの二号店はアラカルトとは関係ない店なのだろう。品物だけでなく店名までもが偽物であった。


「幸いメタルグロックは鈍器による打撃も有効だとクラネットが調べてくれたのでな、こうして石の武器を買いに来たのだ」

「なるほど」


 確かに鉄と相性が悪い敵なら、石でできた武器も有効になる。


「石の剣か」


 鎮也の頭の中で自分が石による武器制作をするならどう工夫するか、いろいろな可能性を考え設計図を描き出す。もうこうなると鎮也は目を開いていても、前は見えていなかった。


「マスター、また職人モードに入っていますよ」

「おっとすまん」


 レオフィーナが現実に引き戻してくれなければ、考え事をしながら前方の壁にぶつかっていたかもしれない、いつのまにか分かれ道にさしかかっていた。


「ははは、面白いな君は、いつか君の一から製作した剣を使ってみたいものだ。では私はこの辺りで失礼するよ、君も精進して早く冒険者の階級を登ってくるといい」

「ありがとう、ございます」


 鎮也たちとは別の道を行ったカナリー、別れ際に鎮也の剣を使ってみたと言い残して。


「彼女、去り際にマスターのハーレムに入りたいと宣言しましたね」

「してないから!」


 女性の聖雷剣継承者は鎮也のハーレム候補、それはレオフィーナだけが言っているお約束である。面倒くさい勇者候補にまとわりつかれてから、お約束を控えていたようだが根本が変わることはなかった。


「でも、彼女なら聖雷剣を継承できるかもな」


 ちょっと思い込みの激しい所はあるが、あのまっすぐな性格、鎮也は嫌いではなかった。


「マスター、私と二人きりの時に別の女性のことを考えるなど、失礼だと思いますが」

「最初にハーレムとか言い出したのはレオナだろうが」


 鎮也の腕が強く抱きしめられた。鎧さえなければ柔らかい感触が伝わってくるのであろうが、あいにくレオフィーナはいつも通り青い軽装鎧をまとっている。


「それはそれ、これはこれです。とにかく、今夜からの辛い試験を乗り切るためにマスターには私の英気を養う義務があるはずです」

「わかったよ、わかったから、腕を引っ張るな」


 こうして二人はにぎやかに、夜の出発時間になるまで骨董店や古道具屋巡りを続けた。

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