第89剣『灰色転がし』
「転がしと言っても土地転がしみたいな、たちの悪い物じゃないぞ。不当な評価を受けている品物に対してちゃんと評価してくれる店に届ける行為だ」
「マスター、言い訳みたいですよ」
鎮也がやろうとしている転がしとは、鎮也のスキル鑑定眼を使って古道具屋などに埋もれ捨て値で売られているレア度の高い道具を見つけ出し、転売しようと言うモノ。
他にも似たようなことをやっている目利きの者たちはいるが、鑑定眼の精度では鎮也より上の者と出会ったことが無い、商人たちは自分の得意分野以外の鑑定スキルは格段に下がるらしい。
武器なら武器屋、農具なら農具屋と鑑定できる範囲は狭いのだ。しかし鎮也の鑑定眼は生物以外なら何でも鑑定できる。
「過去の時代もこの技で金欠を脱したからな」
「マスターが武器屋で暴走した結果、思いついた金策方法でしたね」
鎮也とレオフィーナはしみじみと昔を思い出した。
二人が目指しているのはキョットナが教えてくれた評判のあまりよくない店。なじみの武器屋からあそこは品物を鑑別できない店主が商いをしていると聞いたことがあるらしい。
トレイシアはアリアと共に透徹を使いレフティアへと向かい、ネコットは皇帝と謁見するための根回しに出かけたので武器屋へと向かっているのは鎮也とレオフィーナの二人だけである。
二人だけになったレオフィーナはいつも軽装の右腕を鎮也の腕に絡めてきた。
「マスター分の補充です。今夜からかなり大変な人物の相手をすることになるので」
「まあ、そのなんだ、ありがとな」
頑張れと言うのは違う気がした鎮也はレオフィーナに感謝をのべる。
「マスターのためですから、私はマスターの剣。マスターの望みをかなえることが私の望みです」
レオフィーナが絡めた腕の力が少しだけ強くなる。
普段は反対側に咲耶がいて、彼女の前では甘えた態度の少ないレオフィーナだが珍しく二人きりになり鎮也へと甘えてくる。
「咲耶がいないのは新鮮な感覚だな」
「そうですね、いつもならこのあたりでサクヤのやきもちが発動して組んだ腕も放されてしまうのですが」
組まれた腕は放れることなく二人はキョットナに書いてもらったメモを読みながら目的の店の前へと到着した。
到着したのだが。
「ここだよな? キョットナの言ってた武器屋って」
鎮也は自信が持てずレオフィーナへと確認する。
「そのようですね、教えられた場所は合っています」
レオフィーナは渡されたメモを読み直すが場所は間違っていない、しかし、教えてもらった店の名前が違うのだ。
老舗武器屋アラカルト二号店。看板にはそう書かれている。
「アラカルト、マスターが聖雷剣の取り置きをお願いしている店ですね」
「ああ、二号店じゃないけどな」
武器屋アラカルト。店長が目利きの商人であり頑固そうな人物であった。あの人の支店が目利きのできない評判の悪い店とは鎮也には違和感しかしない。
「入って見ればわかるか」
もしかしたら、あまりの評判の悪さに以前の店はつぶれてしまったのかもしれない。そう思い店内に入ってみた鎮也なのだが。
「なんじゃこりゃ?」
思わずつぶやいてしまうほどに、このアラカルト二号店は一号店とは似ても似つかない内装であった。店名以外に類似を見つけることがほぼ不可能なほど酷かった。
「キョットナの教えてくれた評判通りみたいですね、店内は」
違うのは店名のみ。
鑑定眼を持たないレオフィーナでさえも、この店の酷さは一目瞭然。
陳列はバラバラでジャンル分けもされていない。掃除もろくにされていないのだろう、多くの商品に埃が積り、最悪なのは剥き出しの刃が通路側に突きだされている危ない棚まであった。
「レフティアの裏通りにある店だって、もうちょっとましな陳列してたぞ」
過去見た中でワーストワンの店かもしれない。
一号店では入店すればすぐに店員が声をかけてきたが、この二号店では店員の姿すら見当たらない、店の奥に気配はするのでいることはいるのであろうが、出てくる様子も無い。
「あまり期待できなそうだけど、一応見て回るか」
「了解」
ざっと見た所、値段は見た目の豪華さを基準に着けられており、宝石などの飾りが派手なほど高値になっている。本当にアラカルトなのだろうか。
もしかして、昨日一号店に怒鳴りこんだビンザスはこの店で聖雷剣を買ったのかもしれない。
とりあえずこの店で金貨120枚と一番の高値が付けられている剣に鑑定眼を発動させてみる。
「―――――――――――――――――
【名称】バルノフ殿下宛
【製作者】フルコス工場
【分類】装飾品 【レア度】☆(1)
【長さ】101センチ【重さ】0.5キロ
【剣核】なし
【スキル】なし
【補足】
豪華な宝石がはめ込まれた剣型の装飾品。とある貴族への贈り物として使われた代物で実用性ゼロ。核のようにはめ込まれている宝石も見た目だけで核にはなっていない。
―――――――――――――――――」
分類が剣ですらなかった。
(名称が宛先になっている道具なんて初めて見た。最初から贈り物として製作されたのか)
「いらっしゃいませ、その剣に目を付けるとはお客様はお目が高いですな~」
鎮也が鑑定結果にあきれていると、ようやく店の奥から安い営業スマイルの男が手もみをしながら現れた。
「そちらの剣はかの名工ガジル・タターンが製作したと言われる。名剣の一振りらしいです」
ガジル・タターンの名は鎮也には覚えがあった。レフティアのギルドナイトイクスの愛用していた剣の制作者、立派な剣であったと記憶している。
だが、それに比べてこの剣は同じ人物の作品には見えないし、鑑定眼でも違うことが判明している。店員も別物とわかっているからこそ、断言せずに気付かれても言い逃れできるよう逃げ道を作りながら売り込んでくる。
「俺は探しているのは、装飾品ではなく実用的な剣なんだが」
「実用的ですか……見た目などは」
「気にしない、剣は性能が一番だ」
鎮也はこれが装飾品だと見破り、それなりの目利きができるぞと遠回しに店員に伝えた。
「それなら、これはどうですか、めったに手に入らない極上の品なので店にも並べていないのですが、目利きのお客様には特別にお見せしましょう」
一度店の奥へと戻った店員が、五つの武器を抱えて戻ってきた。
その全てが灰色である。
「マスター」
店員とのやり取りを聞いていたレオフィーナも店内の物色をやめて鎮也の元へとやってくる。
「これは美しい剣士さま、どうですあなたもご覧になっていってください、これらは全て伝説とうたわれた聖剣鍛冶師の最高傑作たちです」
店員が自慢げにカウンターに広げたのは灰色の刃を持つ五つの武器たち。
「……灰色、いや石色だな」
「お客様は目利きなご様子、それならこの品の価値がお分かりでしょう。これこそが伝説の聖剣であり、あの伝説の聖剣鍛冶師が生み出した最後のシリーズです。その伝説の聖剣がみな灰色をしているということは、最近になってわかった新事実なんですよ」
その事実を突き止めた人物はそうとうな目利きのようだが、せっかく発見した新事実もこの店員には商売の種としてしか使われていない。
「確かに今の聖雷剣シリーズは灰色になっているのは多いな」
『今の』の部分を強調してしゃべる鎮也。
剣が使い手を選ぶため、使い手を認めなければ灰色へと変色して能力を引き下げる。しかし灰色の剣が全て聖雷剣かといえばそうではない。
灰色イコール聖雷剣にはならない。
鎮也は並べられた剣の内の一つに鑑定眼を発動させた。
「―――――――――――――――――
【名称】石の剣
【製作者】フルコス工場
【分類】長剣 【レア度】☆(1)
【長さ】101センチ【重さ】2.2キロ
【魔剣核】なし
【スキル】なし
【補足】
岩を剣の形に削り出した武器。鉄などは一切使われていない純度百パーセントの石の刃をもっている。聖雷剣が灰色をしていることを知ったフルコスが自身の工場で製作させた。
―――――――――――――――――」
今度は分類で一応剣と判断されていはいるが、あからさま過ぎる贋物であった。
「……ある意味すごいな」
あきれを通り越して感心してしまった。石を剣の形に削り出す努力をするなら、もっと他の事を頑張ればいいのに、さっきの装飾品もそうだったがフルコス工場とは無駄な物ばかりこさえているようだ。
「どうです、見事な灰色でしょ、見た目を気にしないお客様にはぴったりの剣だと思われますが、金貨五百枚でならお譲りしますよ」
ただの石に法外な値段が付けられた。
「マスター叩き斬っていいですか」
「落ち着けレオナ」
「分かりました燃やします」
「燃やすのもノーだ」
レオフィーナの手がオジロにかけられている。決して冗談ではなく本気で斬るつもりだ。斬る対象が店員か石の剣かは分からないがとにかく本気だ。
彼女は聖雷剣をないがしろにする者には容赦しない。
「お客さん、仲がよろしいですね」
レオフィーナを必死で抑えつけているのを、店内でイチャつくバッカプルを見るように冷やかしてくる店員、自分の命の危機に気が付いていない。
「ここは俺に任せて、押さえろな」
「マスターがそこまで言うなら」
鎮也がレオフィーナの手を握れば、彼女は鎮也に火傷を負わせないために火を呼び出せなくなる。
どうにかレオフィーナを怒りを抑え込んだ鎮也は、彼女を怒りを和らげるためにも、しっかりとこれは聖雷剣ではないと証明しなければならなくなった。
「それで、この伝説の聖なる剣はいかがなさいますか?」
安い営業スマイルを続ける店員が尋ねてくる。
「あのな、聖雷剣が他の聖剣と違い灰色になっている事実はある。でも、他の剣との共通点もあることを知っているか?」
「他の剣との共通点ですか?」
店員には共通点が一切わからないようだ。
「それはな、聖雷剣も鉄でできているってことだ」
鎮也が魔法のカバンからスキル『伸縮』で片手に収まるサイズまで縮めた雷蛇鎚ミュルニョルと取り出す。
「マスターこれを」
「おう」
そしてレオフィーナが持っていた解体などに用いる小型の万能ナイフを鎮也へと差し出す。
鎮也はナイフを受け取るとミュルニョルで一度叩いて、スキル『雷付加』で磁力をナイフに付加した。
「これは鉄なら吸い付く能力を持ったナイフだ」
「鉄に吸い付くですか、まさかそのナイフは磁石になっていると」
「ご名答」
物は試しにと、近くに展示されていた剣に近づけてみるとナイフが鎮也の手から離れて剣の刀身へ吸い付いた。
「ほらな」
そして鎮也は張り付いたナイフをはがして、今度はカウンターに並べられた石の剣に近づけようとすると、ここでやっと店員も鎮也が何をしようとしているのかに気が付いた。
「や、やめてください、この剣は高いいんですよ、剣がナイフとぶつかった時に傷でもついたらどうするんです、価格が下がってしまいます」
「安心しろ、もしナイフが張り付いて傷物になったら金貨五百枚で買ってやるから」
現在金貨五百枚なんて大金は所持していない鎮也だが、鑑定眼で石だと判明しているから強気にでる。
「あなたはどいてください」
石の武器を体を使って覆い隠す店員をレオフィーナが持ち上げてどかす。
「や、やめろー!」
鎮也が磁石になったナイフを近づけても、刃に吸い寄せられることはなかった。
「これでもまだ伝説の剣だと言い張るか?」
「…………チィ」
沈黙後、店員は営業スマイルをやめて舌打ちをした。
「お客さん、目利きできるならウチみたいな店にくるなよ、ここは金持ちのボンボンや武器の価値のわからない冒険者を相手にする店だぜ」
抵抗をやめたのでレオフィーナに解放された店員は見事なほどの開き直りを見せてくれた。
「それで、オレをどうするつもりだ」
安いレア武器を探しに来たはずがいつの間にか店員の詐欺まがいな商売を暴いてしまった。予定などなかった展開に鎮也はこの先のことをまったく考えていなかった。
どうした物かと悩みだすと、店の入り口が開き新たな客が来店してきた。
「おや、君は鍛冶師くんではないか」
レフティアで共に緊急招集を受けた冒険団『真紅の秩序』の団長代理であるカナリーが店に訪れ、鎮也たちは意外な場所で再会をした。




