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第88剣『金策会議』

 バトルゴーレムの片腕を落とされた程度ではあきらめなかったバルノフ殿下は、切り札らしき別のバトルゴーレムを出してきた。重圧な盾を持った壁のようなゴーレムである。


「メイドよ、こいつには貴様の剣では通用しないぞ」

「試してみなければわかりませんが、斬れる自信はあります」


 鎮也の聖雷剣ならただ固いだけの相手など問題にはしない。


「ですが、せっかくの固そうな相手ですし、新しい剣を試させてもらいましょう」


 アリアは二振りの聖雷剣を鞘に戻すと右腕を広げて突き上げる。


「『招雷』」


 聖雷剣継承者だけが使える雷魔法と剣との契約を利用した技、一定の距離ならば離れた場所からでも聖雷剣を磁石が鉄を吸い寄せるように呼び寄せることができる。呼び寄せられる距離は使い手の技量によって変化するが、アリアはこれまで継承してきた者たちの中でもっとも使いこなしている女性だ。


 呼びかけに応えたのはアリアが先日継承したばかりの大剣型聖雷剣シリアル94『火熨斗剣(アイロナー)』が、屋敷の開けられた窓から飛び出してきた。


 アリアはアイロンの裏のような形状の聖雷剣を掴むと、飛来した勢いを殺さずに盾のバトルゴーレムへと滑るように詰め寄る。


「『炎圧剣』」


 スキル『炎圧剣』は刀身を火炎のように赤く染め、どんな鉄でもバターのように溶かして切断する。


 アリアが本来得意とする細剣二刀流は防御の薄い鎧の隙間などを狙うことが多く、重装甲の相手は苦手をしていたが、この『火熨斗剣』を手に入れたことでアリアの弱点は無くなっていた。


 装甲の薄い隙間を探すことなく、一番堅い盾へとその赤い刃を振り下ろす。


 刃はそこに何も無かったかのように盾のバトルゴーレムをすり抜けた。いや、すり抜けたように見えただけ、実際はボディが溶断されており、切り口は赤くドロドロに溶けていた。


 焦げ付いた匂いを放ちながら体を二つに分けて崩れ落ちるバトルゴーレム。


「……私が炎の技を使って、この威力ですか」


 あまりの威力に使ったアリア自身も驚いていた。海辺の妖精族であるアリアは火系の魔法やスキルとの相性が悪く一族内でも使用できるものは誰一人いなかった、苦手を通り越して習得不能だったはずなのに。


 鎮也の聖雷剣は世界の法則すらも塗り替えられるのかもしれない。


「バカな、そのゴーレムにいったいいくらつぎ込んだと思ってるんだ、一介のメイド風情が一生かかっても稼げない金額だぞ!」


 殿下ですら取り乱すほどの高価な品だったようだが、アリアはそんなことは右から左に聞き流す。


「燃え移ったら大変ですね」


 殿下のわめきよりも溶けだした赤い鉄が溶岩のように流れ落ちて、庭に草花に燃え移る方が心配なアリアは、珍魚落雁(アクアアリア)を再び抜くと水を呼び出して消火にかかる。


 とても高価だというバトルゴーレムに遠慮なく大量の水を放水した。熱せられたところに放水で急速に冷やされたボディは断面部分からボロボロと崩れていく。


「やめ、やめろ、やめさせろ!!」


 取り巻きがアリアへと襲いかかるか、剣も槍も火熨斗剣に刃がかすりでもすれば熱で溶け落ちてしまう。取り巻きでは太刀打ちできないと、残った二体のゴーレムもアリアにやめさせろとの命令を聞き入れ動き出すが。


「フヌ」


 慣れない人が薪割りをするかのような掛け声で執事長のキョットナが不動不知火を真横に振り抜いた。


 絶対防御が売りの不動不知火、キョットナはアリアが戦いを始めてから一歩も動いていなかったが、『雷速斬』と同じく継承者なら誰もが使えるようになる技、稲妻を纏った剣が円状に剣閃を描く『雷円斬』を使用した。


 キャットナはその場から動くことなく二体のバトルゴーレムの両足をこの一撃で切断した。重たい胴体が落下しバルノフの命令を実行することが不可能になる。


「これを、私がやったのですか」


 二日前までただの使用人であり普通の中年であったはずが、継承者に選ばれてからのわずかな時間で帝国の最新式ゴーレムより強くなっていた。


「貴様、ただの使用人ではなかったのか!?」


 筋肉質でもない細身の中年執事。とても剣を扱えるようには見えないのに、ゴーレムをたったの一撃で戦闘不能にした。


 そんなメイド長と執事長に見られたボルノフ殿下は顔をひきつらせて後退する。


「く、クソ、この事は父上が帰ってきたら言いつけてやるからな! ただで済むと思うなよ!!」


 ダメな殿下の代表的な捨て台詞を残してバルノフ殿下は取り巻きたちを置いていかんばかりの速さで逃げっていった。


「待ってください殿下!」


 もうどうしたらいいのかわからない取り巻きたちも殿下の後を慌てて追いかけていく、門を破壊されずすみ庭に残ったのは三体のゴーレムだけであった。


「なんか新しく継承した剣たちの試しみたいになってたな」


 成り行きで庭の騒動を見学する形となった鎮也の感想は、聖雷剣の試し斬りであった。


「シズヤ様、お騒がせしました。庭の片付けは私がやりますので話し合いをはじめていてください」

「おお、そうだった」


 メンバーはアリアを欠けた四人で、騒動前にしようとしていた金貨をどうするかの話し合いを食堂に移動して開始した。






「とりあえず、森の屋敷の素材を売れば金貨二百枚前後にはなると思う。咲耶も試験のついでに素材集めをするって言ってたから、金貨四百枚は稼いでくれるだろう」

「本人は五百枚くらいを狙っていそうですが、余裕を見て四百枚と考えておくのがベストでしょう」


 当たり前のように一回の依頼で金貨四百枚をそれもソロで稼ぎ出すと確信している鎮也とレオフィーナ、彼らの実力を知っているトレイシアやネコットもさすがに多すぎると感じているようだ。


「本当に一回の依頼で四百枚も集められるのですか?」

「咲耶殿の受けた依頼は一頭捕まえるごとに金貨五十枚でしたね」


 四百枚を稼ぐとなると単純に八頭は捕まえなければならない、しかし、咲耶が用意していったのは二頭分の檻しかなかった。


 仮に二頭を捕まえたとしても、残りの金貨三百枚分は素材で稼ぎ出すことになる。


 ランクAの冒険団でも一回の素材集めで稼げる金貨は三十枚程度が限界だと言われている。咲耶は個人でその限界の十倍を稼ぐことになる。


「大丈夫だよ咲耶なら、四百枚は必ず稼いでくれるって」


 絶対の信頼で繋がっている鎮也と咲耶だが、言葉だけを聞いていると、彼女の稼ぎを当てにするだけのダメ男にセリフに聞こえなくもない。


「森の屋敷の素材と合わせて六百枚、あと千枚ですね。マスター、私の方で五百枚は稼ぎますので残りの五百枚をお願いします」


 さらりとレオフィーナは咲耶よりも百枚多く稼ぐと宣言した。


「張り合うね」

「私は七星剣の第一星ですから、第二星の咲耶には負けていられません」


 普段は仲の良い二人だが、勝負ごととなると熱くなるところがある。


「それじゃ残りの五百枚をどうするかだな」

「あの、わたしにも一つ心当りがあります」


 ほとんど鎮也とレオフィーナの二人で話し合っていた場にトレイシアが遠慮がちに手を挙げた。


「お、それはどんな」


 控えめなトレイシアが自分から意見、自信があるのだろうと鎮也は期待する。


「それにはとうてつトウテツさんの瞬間移動のお力をお借りしたいんですけど」

「瞬間移動でお金を稼げるのか」

「はい、交易都市レフティアにはさまざまが商品が扱われているのはシズヤさんも知っていますよね」

「もちろん」


 ついこの間までそこで活動していたのだから。そしてトレイシアが育った街でもある。


「私が最初にシズヤさんたちと出会った牧場にハーブポークという食用豚が飼育されているんです」

「帝都でも人気が高い高級豚ですね、なるほどそれで瞬間移動ですか」


 トレイシアの金策方法をネコットは理解したようだ。


「瞬間移動でその豚を輸送するってことか?」

「はい、そうです」

「それがどうしてお金儲けになるんだ、確かに運ぶのにはコストは浮きそうだけど」


 帝都とレフティアとの距離は離れてはいるが直接街道で繋がれているし、交通手段も確保されている。それほどメリットがあるとは思えないが。


「ハーブポークの肉はとても衝撃に弱いんです。ちょっと傷がつくだけで味が落ちてしまって、馬車などで運ぶと、ほとんどがダメになってしまうんです」


 痛まないように肉を百個のブロックに梱包して輸送しても、到着してみれば、無事な肉は一個か二個の割合、これでは採算が取れずにどの商人もハーブポークの輸送には手を出していなかった。


 瞬間移動魔法を習得した魔法使いに頼むにしても、そこまで魔法を極めた人物なら依頼料だけで高額になりこちらも採算が合わない。


「ハーブポークを食べるなら、その街で飼育するしかないのですが、人口過密な帝都では豚を育てる牧場が少なく、ハーブポークなどの輸送に向かない肉などはレフティアの十倍以上の値になると聞いたことがあります」


 十倍とはかなりの差がある。それだけ輸送が難しいということ、どうしても食べたい食通などはレフティアまでわざわざ食べに行くらしい。


「その通りですネコットさん、でもトウテツさんの力があれば」

「レフティアから、その豚肉を仕入れられるわけか」

「はい」

「よしわかった、透徹は今日はシアの手伝いをしてくれ」


 大十手から一角兎の姿になった透徹はトレイシアに駆け寄ると肩までよじ登り彼女に頬ずりをする。


 調教師見習いであるトレイシアは仲間になって以来、鎮也の五剣獣の世話もしてくれていた。特にブラッシングが気持ち良いらしく、五匹とも例外なくトレイシアになついている。


「よろしくねトウテツさん」


 了解と返事をするように透徹はトレイシアの頬をペロと舐めた。


「仕入れられる数にもよりますが、金貨百枚なら稼げると思います」

「助かるぜ、豚の仕入れはアリアに協力してもらってくれ」


 これで残り四百枚。


「主様はどのような金策を?」

「そうだな、さっきアリアたちが倒したゴーレムを分解して売りに出すか、核なんか高く売れるだろ」

「アレは皇帝との謁見の交渉に使えそうなで、できれば残しておいて欲しいのですが」


 ネコットに依頼をしている皇帝との謁見、そして宝物庫を見せて欲しいという交渉に殿下がゴーレムで襲撃してきたなど、かなり役に立ちそうな材料であった。ゴーレムなんて巨大な証拠品として残しておけばもみ消しも難しいだろう。


「じゃあゴーレムは残そう、そうなると残りの金貨は久しぶりにアレで稼ぐか」

「アレですね」


 長い付き合いのレオフィーナは鎮也の考えを理解してくれた。


「シズヤさん、アレとは?」

「転がしだよ」


 トレイシアは転がしの意味が分からず、透徹を肩に乗せたまま首をかしげた。

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