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第87剣『早朝騒動』

 帝都の鎮也の屋敷、二次試験に出発した咲耶の見送りが終わった早朝。


 まだ街も目覚めていない早い時間、何もなければもう一眠りしたいところであった鎮也だが、あと二日で金貨千六百枚を稼がなければならないので、食堂で朝食を待ちながら作戦会議をすることにした。


 総勢六十人の使用人たちはそれぞれの仕事に取り掛かり、食堂に向かうのは鎮也、レオフィーナ、トレイシア、ネコットとメイド長兼冒険団員でもあるアリアの五人。


「シズヤさん、あと二日しかありませんが、金貨を千六百枚も集められるのですか?」


 昨日も一次試験を終わってから特に金策に動かなかった鎮也にトレイシアは少しだけ心配になったようだ。


「まあ、二日あれば何とかなるだろ」

「シズヤ様、森の屋敷に備蓄している。魔物の素材や魔核を売りましょうか?」


 メイドの部下ができ、名実共にメイド長へと戻った海辺の妖精族(アクアエルフ)のアリアが一つの金策を提案してくる。幼竜ルードを森の屋敷の庭で飼育するようになってから魔物は寄り付かなくなったが、それまでは襲撃が何度かありその全てをアリアとマルチゴーレムのリリィとロロォが撃退していた。


 倒された魔物の素材は鎮也が鍛冶の素材に使えるかもと備蓄されているが、今の所使う予定が無いモノばかり。


「そうだな、売っても問題ないか――」


 食堂に到着する前から、話し合いをはじめてしまっていたが、突如響いてきた騒音に話が遮られてしまった。


「なんだ?」


 まだ多くの者が眠っている時間に、それらを叩き起こすような地響き。


「マスター、屋敷の門にウチのでは無いゴーレムがいます」

「あれは今年開発されたグノリス・ロパライトの最新バトルゴーレムですね」


 レオフィーナが門の向こうにいるゴーレムに気が付き、帝都育ちのネコットがそのゴーレムの種類を教えてくれた。


「ああ、一回だけウーゴットの屋敷で見たな」


 鑑定眼を使って確認したので間違いない。ウーゴットの屋敷に襲撃を仕掛けた時、庭で倒したバトルゴーレムと同型機だ。


「でも、どうしてその最新のゴーレムがやってきたのでしょう?」


 トレイシアの疑問ももっともだ、こんな近所迷惑な行為をいったい誰が行っているのだろうか。


「おおかた、またあのお頭の軽い殿下でしょう」


 この屋敷に近所迷惑も考えずにやってくる人物は一人しかいないとネコットが断言する。


「ああ、先日もいたあの人」


 鎮也がこの屋敷に戻ってきた日にも騒いでいた偉い人。

 何でも歴代の皇帝でも手が出せなかったこの屋敷を手に入れて自分が有能だと証明したいらしい。


「様子を見てまいります」


 メイド服に鎮也から継承された二振りの聖雷剣を提げて門へと向かっていくアリア、仕事に戻った使用人のキョットナも門へ引き返していく姿が見えた。






「バルノフ殿下、このような早朝からいったい何事です。そのようなゴーレムまで引き連れて」


 門へ最初にたどり着いたのは、長年の経験で騒音の正体をいち早く察した執事長キョットナであった。


ネコットの予想通りバトルゴーレムたちを引き連れてきたのは皇帝の二男、バルノフ殿下と人相の悪い取り巻きたち。


 キョットナは門の外で腕を組み不敵に笑うバルノフ殿下に訪ねる。


「相変わらず我に対しても図が高いなキョットナ、貴族でもない使用人の分際で」

「これは失礼をしました」


 キョットナは急ぎその場に膝をつき頭を下げる。


「よい許そう、今日は機嫌が良いからな」


 腕を組んだまま高笑いをするバルノフ殿下にキョットナはとてつもなく嫌な予感に襲われた。


 そこにアリアも駆けつけてくる。


「キョットナ殿、何事です」

「これはアリア様」

「お、見たことのないメイドだな、新しく雇ったのか我を迎える準備はもう済んでいるようだな」


 バルノフはアリアの帝都では珍しいマリンブルーの髪に砂浜のような白い肌、そして小さく整った顔立ちの容姿を気に入ったようで口元が緩みだす。


 それに対して邪な視線にさらされたアリアは嫌悪感を表に出した。


「このお方は何を言っているのです」


 アリアはバルノフの事を全く知らない。殿下の看板がなければただの妄言を吐いている男にしか見えない。


「メイド風情が今日からこの屋敷の主となる我に失礼だぞ」

「はぁ?」


 この屋敷の主は鎮也以外にありえない、本当にただの妄言男だったとアリアは判断を下す。


「キョットナ殿、早々にこの妄言男にお帰り願いましょう。早急にこなさなければならない案件があります」

「も、妄言男だと」

「殿下向かってなんと言う暴言を」


 バルノフの取り巻きが騒ぎ出すがアリアにはそよ風ほどにも感じていない。相手が殿下と聞いてもアリアはバルノフの評価を変えることはない。


 奴隷として攫われた過去を持つアリアは欲望を剥き出しにする人族の男がもっとも嫌いな人種であった。


「主に向かってなんて失礼なメイドだ、キョットナ躾がなってないぞ!」

「なぜ、あなたがこの屋敷の主だと言い張るのですか?」


 アリアにはまったく理解できない。


「前回、我が帰ってから、この屋敷の多くの部屋で明かりが灯るようになったことは知っている」


 それは鎮也が帰還して使用人たちもこの屋敷で生活を始めたのだから明かりが多く灯るのは当たり前である。


「つまり、それは我を主として認め、迎えるための準備を始めたからであろう!」


 ものすごく理解不能な曲解をして、バルノフは自分がこの屋敷を手に入れたと思い込んだらしい。


「それは誤解です。屋敷が明るくなったのは長らく留守にしていた主がご帰還されたからで、あなた様を迎える準備では決してありません」


 キョットナがバルノフ殿下の勘違いを訂正する。


「…………なんだと」


 誰が考えてもバルノフのためではないとわかりそうなモノだが、この殿下には考えられなかったらしい。


「だったらその主とやらを叩き出せば、この屋敷は我の物だな」


 二体の帝国最新式のバトルゴーレムが動き出す。それに合わせて屋敷の警備ゴーレムも立ち上がった。


「無駄だ無駄だ、これらは我が帝国でも最高級品だぞ貴様らの使っている骨董ゴーレムとはわけが違う、門を破壊されたくなければ我を迎え入れろ」


 もはや夜盗と変わらない暴言である。

 殿下はなぜ、自分のモノになったと思い込んでいた屋敷にこんなバトルゴーレムを連れてきたのであろうか。


「お断りします。早急なお帰りを」


 二体のゴーレムがその巨大な拳を振り上げてもアリアの答えは変わらない。


「そうか、なら門は我好みに作り直してやろう!」

「それは困ります」


 門が壊されては困るのでアリアは破壊される直前に門を開いた。拳を振り降ろす目標を失ったバトルゴーレムたちはつんのめるように敷地内へと転がり込んできた。


 入れるために開いたわけではないのだが、勝手に入り込まれてしまった。


「ふん、ようやく門を開けたか、最初からそうすればいいモノを」


 バルノフと取り巻きたちも当たり前のように敷地内へズカズカと入ってくる。


「キョットナ殿、この屋敷の扱いは百二十年前に交わされた契約と変わっていなかったはずですね」

「はい、もちろんです」


 最終確認、百二十年前の皇帝から謝罪の意味も込めて貰い受けたこの敷地は例えどのような人物であっても手を出してはいけないと永久契約が交わされていた。


 つまりこの敷地内であれば、たとえ殿下であろうと招かざる客は、それなりの対応をしても問題にはならない、逆に帝国が加害者となる。


 だからこそ、歴代の皇帝でも手出しが出来なかった。先日ネコットに調べろと忠告されていたはずなのに、バルノフはそれを怠った。


 罰を受けても仕方がない、いや、もう受けなければならないことをしてしまった。


「それ以上踏み入ることは許しません」

「なに?」


 アリアが腰に提げていた二振りのシミッター型の聖雷剣『珍魚落雁(アクアアリア)』と『氷壺秋月(アクアアイス)』を引き抜いた。朝露に群れた庭草の水滴にその星色の刀身が映し出される。


「この地は我が主の所有地、早急に立ち去らなければ族として成敗します」

「この我を賊だと!!」

「このメイドが、先程から殿下に向かって無礼が過ぎるぞ」


 短気な取り巻きの一人が剣を抜いてアリアに斬りかかってきた。バルノフの取り巻きだけあってお頭のレベルの似たようなものであった。


 互いの実力も理解できず、アリアが女だと侮り真正面から斬りかかる。


 稽古よりもゴマすりを磨いてきたことがよくわかる稚拙な剣筋、これではアリアを捉えることなど一生不可能である。


「遅いです」


 水浴びをしたばかりの乙女のような独特の潤いを持つ濡れた刀身の珍魚落雁(アクアアリア)がきらめくと取り巻きの剣を切断した。


 キーンとおりんのような良い音を響かせ切断された剣先が落ちる。


「これが最後の警告です、早急にお帰りを」


 アリアの背後から警備ゴーレムが取り巻きたちを出ていくようにと追い立てる。


「くぅ、バトルゴーレムを使え!」

「まだ来ますか」


 バルノフが連れてきた最新式のバトルゴーレムが動き出す。森の屋敷のマルチゴーレムなら対抗できるであろうが、警備ゴーレムでは取り押えるのは難しいと判断したアリアは自らが前に出ることにした。


「キョットナ殿は取り巻きを頼みます」

「心得ました」


 キョットナもまた鎮也から譲り受けた聖雷剣『不動不知火(ふどうしらぬい)』を腰に提げていた。屋敷を取り巻きに荒らされないように頼み、アリアはスタスタとバトルゴーレムの足元へと進み出る。


「そんな無礼なメイドなど潰してかまわん」


 振り下ろされる巨大な拳、アリアならば交わすことは楽勝であるが、交わしてしまうと。


「庭が傷つきます」


 庭を壊させないためにアリアは避けることなく、稲妻をまとわせた二振りの聖雷剣でゴーレムの拳を切り裂いた。


 鎮也がカナリーの大剣に付加したスキル『雷速斬』を二振りで同時に放ったのだ。実はこのスキルは聖雷剣を継承した者なら誰でも使えるようになる初級の技であった。


 だから鎮也はカナリーに付加したこのスキルをお手軽スキルと表現していた。


 それでもあれだけ喜ぶカナリーに少しだけ罪悪感がしたのは鎮也だけの秘め事である。


「バ、バカな鋼鉄のバトルゴーレムをそんな細い剣で」


 鋼鉄でできているバトルゴーレムの装甲でも聖雷剣継承者なら紙と同じである。


「く、くっそ、あれを出せ!」


 バルノフ殿下が門の外へ命令を飛ばす。これだけやられてもまだあきらめていないようだ。


「兄上でも手に入れられなかった、この屋敷を必ず我が手に入れてやる!」


 やれやれとため息を吐きながらアリアは二振りの聖雷剣を構え直した。


 アリアは過去に屋敷を守りきれなかったことを深く後悔している。もうあんな思いは二度としたくない、鎮也と共に暮らす屋敷を脅かす者は誰であろうとアリアの敵、例え帝国すべてを敵に回そうとも二度と敗北をしないと鎮也から授かった聖雷剣に誓う。

久しぶりのアリア回でした。

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