第84剣『夕食をいっしょに』
帝都内壁の鎮也の屋敷。
食堂で夕食を取る鎮也、咲耶、レオフィーナ、トレイシア、ネコットの五人、給仕はネコットの家族であるキョットナたちがしてくれていた。
ネコットは使用人から鎮也専属の交渉人となり、冒険団『七星剣』への加入も本日済ませたので世話する側から世話される側へと格上げされた。これは鎮也が決めたことではなく、キョットナたちがけじめとして無理やりネコットも席に座らせていたのだ。
ネコットは少しだけ居心地が悪そうに父親たちに世話をしてもらっている。
しばらくは抵抗していたが、キョットナの使用人精神がまさり食事が始まればあきらめたように受け入れていた。
そして腹が満たされてくると、口の滑りもよくなる。
話題はやはり今日行われた一次試験の事であった。その中でもレオフィーナに告白紛いなことをした異国からやってきた勇者候補のことである。
「妙な勇者に好かれたなレオナ」
「まったくです。こんな役回りはマスターが担当のはずでしたのに」
お約束が違うと疲れた様子でレオフィーナはため息をつく。
「勝手に担当にするな」
「でなければサクヤのはずでしたに」
「私も担当じゃないよ」
お約束被害者一位二位のツートップが抗議の声をあげる。
「私とて担当ではなく視聴者だったのですが」
「あの人は、このまま仲間になってくれって言いそうな雰囲気でしたね」
トレイシアたちもギルドの出口でレオフィーナと咲耶を待っている時に勇者候補冒険団を見かけている。
「まったく、こまったモノです」
「やっかいな相手が聖雷剣を持っていそうな可能性が出てきましたね」
連続でため息をつくレオフィーナにあの手のやからが苦手だとネコットが同情をする。交渉人として理論的な会話が、ある意味一番通用しない相手らしい。
感情的にしゃべって、前に話した事と矛盾しても気にしない人種。
もし本当に聖雷剣を持っていたらどう交渉へと持っていくか、ネコットにとっても骨の折れる仕事になりそうだ。
「まさか仲間になって初日にこんなにも難しい案件に直面するとは」
あのような正義感の固まりは、自分の信念が一度ポッキリと折れないと他人の言うことは聞かないだろう。
食事をしているみなが一様に試験後のギルドの出来事を思い出していた。
一緒に二次試験を受けることになったレオフィーナはオルフェノたちと共にギルド本部への申請へと赴いた。
「二次試験に受ける依頼は私の選んだ物でよかったのか?」
「はい、僕もこの依頼が人々にとって一番役に立つ依頼だと感じましたので」
依頼書一番。東より移動してきたオーグルの群れの討伐。
推定三百匹、これだけの数に村や町が襲われれば全滅は必至。緊急性をようするためAランクへと認定されている。場所は帝都より馬車で一週間ほど離れているらしいが、偵察をしている遊撃手が、ギルド所有の転移魔道具を所持し群れを追跡しており、ギルド本部からなら一瞬で群れの近くへ向かう事が出来るらしい。
移動時間は考えなく良い、これがなければレオフィーナとて制限四日での達成は難しかっただろう。不可能ではないが。
「一次試験を通過したレオフィーナだ、二次試験は依頼書番号一番で頼む」
「僕たちも一緒に一番を受けます」
一緒にの部分を強調して受付に申請するオルフェノ。
「かしこまりました、皆様依頼書一番でよろしいですか?」
オルフェノの仲間たちは頷くがレオフィーナの隣にいた咲耶だけが否定する。
「私だけ二番希望です」
「エェェ~!」
オルフェノが仰天の叫び声をあげた。咲耶も一緒だと思い込んでいたらしい。
「どうして別にするんですか、あなたもか弱い女の子です。一緒の依頼にすれば僕がレオフィーナさんのついでに守れるのに!」
「ついで……」
Bランクのティラノレパードを二頭も瞬殺した咲耶をか弱いと称し、さらにはレオフィーナのおまけ扱いされてしまった。
「これは予想外、てっきりサクヤもハーレム候補としてロックオンされていると思ったのですが、違ったようですね」
狙いはレオフィーナ一択に絞っているようだ。
「ちょっとオルフェノ、勝手に人数増やさないでよ」
「だってしょうがないだろ、困っている人を助けるのが僕の使命なんだから」
咲耶は別に困っていない。困っているとしたらオルフェノの存在であった。
「サクヤ今のうちに」
「そうだね、二番でお願いします」
「ギルドカードの提示をお願いします」
素早くギルドカードを取り出し受付嬢に渡す。申請してしまえば変更ができないルールだ。オルフェノとモーリンが言い争いをしているうちに咲耶はさっさと依頼書二番で二次試験の申請をする。
「あっ~どうして!」
気づかれたが申請を通すのがギリギリ間に合った。
「我々には、やらなければならないことがあるので」
「今なら間に合います。急いで一番に変更してください」
やることがあると言っても聞いてくれなかった。とても面倒くさい青年である。
「サクヤ様の申請は受理しました。もう変更はできません」
「そんな、そこを何とか、彼女はレオフィーナさんの仲間なんですよ」
咲耶を守りたいと言い張っている理由はレオフィーナの仲間だからだそうだ。裏を返せば仲間じゃなければ守る対象ではないらしい。
「できません、ルールですので」
「そんな、じゃあ僕たちも二番の依頼に変更しましょう」
先程の人の役に立つ云々の話しはどうなった。
「いいですよねレオフィーナさん」
「よくありません、私が一番の依頼を受けるのはすでに決めたことです」
レオフィーナは捕縛が苦手だから殲滅依頼の一番を選んだのだ。彼らが二番に変更するのは止めないが、自分が変更する理由はない。その時は申し訳ないが咲耶に聖剣の確認をお願いすることになる。
「私は一番でお願いする」
「かしこまりました」
レオフィーナは受付に申請した。受付も大変ですねと目で励ましてくれて、申請を素早く処理してくれる。
「そんな……」
一人絶望するオルフェノ。自分の思い通りにならずに目に涙が溜まっていく、いじめているわけでもないのに、いじめた気分にさせられる。
一緒に依頼を受けると承諾してしまった事をレオフィーナは後悔しはじめた。
「……ぐっ、わかりました」
何が分かったのだろうか。
オルフェノは袖で涙を拭うと咲耶へ振り返り頭を下げる。
「申し訳ありません、僕にはレオフィーナさんを守らなければならない使命があり、一緒に行ってあげることができません」
「え、ああ、気にしなくていいよ」
いつからレオフィーナを守ることが勇者候補であるオルフェノの使命になったのだろうか。
「僕たちも依頼書一番でお願いします!」
「請けたまわりました冒険団『清浄の春』様は依頼書一番を受理します」
オルフェノたちの冒険団は『清浄の春』と言うらしい。
「はい、よろしくお願いします」
これでようやく受付が完了した。レオフィーナにしたら一次試験よりも疲れたかもしれない。
今日は帰ってゆっくりと休みたい気分であるが、期限が四日と区切られている。あまりのんびりもしていられない、依頼についての情報を早急に集めて明日の日の出には出発したいとレオフィーナは考える。
「出発は明日の朝にしたいのですが、よろしいですか?」
共に依頼を受けることになった『清浄の春』へ確認する。
「はい、もちろんです」
何も考えずに即答してくるオルフェノだが、彼の仲間の魔法使いストニが待ったをかけてきた。
「それは無理じゃぞ、相手は三百を超える相手、情報を収集、作戦を決めて準備を考えると本当なら一週間は欲しい所じゃ」
普通の冒険者ならストニの意見はとても正しい。
しかし今回の依頼は時間が区切られている。準備にそれだけ時間をかければ出発前に失格になってしまう。
「だが、それは無理だ時間がねぇ」
今度は中年剣士のギガルが否定する。
「確かにストニの意見は正しいがよ、今回それはハズレだ、準備は考える限りの強力な武具や多機能な物を大量に持って現地で臨機応変にいくしかない」
「それしかないの、しかし、それでも準備には明日一杯かかってしまうじゃろう」
最低限三百匹の内訳だけでも情報を入手しておかないと、遊撃手が追跡しているなら依頼書以上に詳しい報告はされているはずだ。
「早くても出発できるのは明日の夜だね、幸いテレポートで運んでくれるんだから、夜に行って明後日の朝行動開始でもいいじゃない」
神官のモーリンもストニたちの意見に賛成したので、これで二対三となった。
レオフィーナだけ先行するわけにもいかない、それでは聖剣を確認できなくなってしまうので、しかたなく彼らの意見を受け入れた。
「わかりました、出発は明日の夜で」
三百匹程度の殲滅なら一日もあればできる。問題はバラバラに逃げられないようにする対策だ、足止め用の策が必要、オジロの光魔法で結界を張るか、または鎮也からオジロとは別にもう一振りの七星剣を借り受けるか。
「あの、レオフィーナさん」
レオフィーナが準備に必要な物を脳内でリストアップしていると、またオルフェノに声をかけられた。
「なにか?」
てっきり準備に付いての打ち合わせだと考えたレオフィーナだったが、オルフェノの口からこぼれたのは、全く関係ない事であった。
「少し早いですが夕食をご一緒しましょう。ここからちょっと離れた場所においしいレストランがあるんです」
「…………は?」
時間がないから、明日の朝の出発ができないと話し合ったばかりなのだが、ちょっと離れた場所に夕食を食べに行こうとは何事だろうか。
「いつもこんな感じなの?」
外野で聞いていた咲耶が思わず、彼らの仲間に訪ねてしまった。
「いや、いつもはもっと常識的な判断ができるのじゃがの、今は頭に熱が上がり過ぎておるようじゃ」
レオフィーナに夢中になり、思考が一方しか向いていない。
そんな暇があるなら準備しろと、普段クールなレオフィーナが声を荒げて断った。
思い出しただけでもとんでもない青年であった。
「まぁ、レオナは大変だと思うけど頑張ってくれ」
「マスターのためなら」
決戦に赴くような覚悟でレオフィーナは頷いた。
「六黒、明日はレオナに付いて行ってくれ、殲滅戦ならお前の力は相性がいい」
カーと鎮也の影から浮かび上がってきた鴉が、主の願いに答えて飛び上がるとレオフィーナの肩へ舞い降りた。
「ありがとうございます」
依頼の内容はすでに鎮也たちにも説明してある。
三百匹を逃がさないための対策としてレオフィーナは陽翼剣オジロと陰翼刀六黒の二振りを持っていくことになった。これでレオフィーナの準備は完了。
対策に時間が必要なのはオルフェノたちだけであり、ギルド本部で今回の依頼の資料を読み戦闘になるであろう地形も頭に叩き込んであるレオフィーナは今すぐにも出発できる状態は整った。
「マスター、明日一日時間が開きましたので金策の方をお手伝いします」
「助かる」
そしてレオフィーナと咲耶も後三日で金貨千六百枚が必要になったことも聞いている。
これは是が非でも三日以内に帰ってきて報酬を受け取らなければならなくなった。
「鎮也くん、私は明日の朝一で出発するよ」
「そっちの頼んだ」
「うん、まかせて」
咲耶の捕縛依頼は上限がない、捕まえれば捕まえただけ報酬が上乗せされる。それでも多頭犬オルトハウンドは体が大きいため、調教師見習いでもあるトレイシアによると一人での捕縛は二頭か三頭が精いっぱいだろうとの話しであった。
こうして鎮也たち『七星剣』は二次試験と金策を同時進行で行う事になった。




