第82剣『一次試験強制終了』
「こんな時は、マスターの鑑定眼がとても羨ましく思いますね」
豹柄恐竜ティラノレパード対レオフィーナを加えたオルフェノの冒険団四人。決着が付く前にレオフィーナは四人の武器を確認しなければならいない。
これまで戦いを観察して、受験生の中ではオルフェノたちの実力が間違いなくトップであった。だからだろう、Bランクの魔物を前にしても彼らはまだ余裕を持っている。
「そちらの実力がわかりません、指揮はそちらに任せます」
レオフィーナが前に出れば一撃で決着が付いてしまうのであえてオルフェノの指揮下に入ることを選んだ。向こうも突然の加勢した者に先方などを譲りたくはないだろう。
「まあ当然の判断ね、オルフェノは聖王国の聖騎士隊長から指揮の心得を伝授されているんだから」
神官モーリンがティラノレパードとの間に外敵を退ける神官固有のスキル『障壁の奇跡』を展開して、オルフェノの作戦を考える時間を稼ぐ。
「わかりました、あなたの命は僕が預かります」
「いえ、命までは預けません」
預けたのはあくまでも一時的な指揮権だけ、そこは勘違いしないでほしい。
「まずは僕とギガルが盾役として前に出ます。ストニは魔法の準備を、レオフィーナさんはストニが倒しきれなかった時のトドメ役をお願いします」
中年戦士がギガル、初老魔法使いがストニという名前らしい。
完全にレオフィーナはお客様ポジションに置かれてしまった。やはりオルフェノは自分たちだけで決着を付けたいらしい。もっともレオフィーナにとっても彼らの武器が全員分見れそうなので文句はなかった。
「オルフェノ、私は!?」
一人だけ名前の呼ばれなかったモーリンが自分にも役割をちょうだいと抗議する。
「モーリンはみんなのサポートを、君が後ろに居れば安心だ」
「まっかせてよ、ばっちり治療してあげるわ」
鼻息を荒くして誰かがケガをする前提でモーリンは了承した。
「あんた、オルフェノの足を引っ張んないでよ」
「善処しよう」
作戦が決まったところでティラノレパードが障壁の奇跡を破ってきた。レオフィーナは障壁を破るタイミングが良すぎると感じた。おそらくあのふざけた試験官が作戦会議が終わるのを待って破らせたのだろう。
チラリと視線だけで確認しれば白い闘獣士がレオフィーナたちを眺め薄い笑みを浮かべていた。
「行くぞ!」
オルフェノの掛け声で三人の男が動き出す。
まずは戦士ギガルが戦斧を振りかざし左側面から横凪の避けにくい攻撃を繰り出した。
筋肉質の戦士らしく豪快な攻撃でありながら、敵の特徴を見極めた有効な先制攻撃であった。
「あの戦斧は違いますね」
特殊な能力は付加されていない、手入れは行き届いているが通常の武器である。
ギガルの攻撃はティラノレパードの足に負傷を負わせた。深手ではなかったが動きを止めるのは十分な効果があった。
この攻撃はティラノレパードにダメージを負わせるよりも、次の攻撃に繋げるための布石である。
「セイヤァァァーー!」
大きな掛け声と共にギガルの反対側に回り込んだオルフェノが背中の長剣を引き抜き、もう片方の足も斬りつける。こちらも深手にはできなかったが斬りつけた傷口が凍り付き、片足が地面に貼り付き動きを封じた。
強烈な痛みに襲われたのだろうティラノレパードが苦痛の悲鳴をあげる。
「凍結のスキルが付加された長剣、なかなかの剣ですがあれも違いますね」
特殊なスキルを持つ剣であったが、オルフェノの長剣も聖雷剣ではなかった。聖王国が勇者候補に送った剣かもしれない。
「今だストニ!」
足が氷、動きを止めたティラノレパードに魔法を打ち込めと指示を出す。ギガルとオルフェノの攻撃はこの魔法を確実にぶつけるための準備であった。
ストニは旅に携帯するには便利な短杖を構え中級の火魔法を放つ。
「あの杖も違う」
素早く確認、これも聖雷剣ではなかった。
「燃え尽きろじゃ」
中級であってもタメには十分な時間があった、直撃すればBランクの魔物でも倒せるほどの威力は確実に持っていた。
しかし、足元の魔法陣が突然作動して盾を持った骸骨戦士が現れティラノレパードを守った。
「そんな!?」
オルフェノたちにとっては必勝の作戦だったのかもしれない。
ストニの火魔法は盾の骸骨戦士を突き破りティラノレパードに命中するが威力はだいぶ軽減されてしまった。これでは倒しきれない。
さらに動きを止めていた足の氷も今の魔法で溶けてしまい、動けるようになると、一番近くにいたオルフェノに尻尾を叩きつけてきた。
「グウ!」
避けようとしたオルフェノだが、真下から再び出現した骸骨戦士に足を掴まれ避けることができなかった。
魔法陣はただの境界線の役割では無く、まだ召喚するための触媒としても機能していたのだ、剣を盾にするが勢いを殺しきれずダメージを負わされる。
「オルフェノ!!」
モーリンが悲鳴を上げた。
オルフェノは何とか尻尾の攻撃を耐えたが腕がしびれたのだろう、手から長剣が抜け落ち膝をつくと、さらに拘束しようと骸骨戦士たちが掴みかかり身動きを封じられた。
「く、放せ!」
ティラノレパードは動けなくなったオルフェノに大口をあけ丸のみにしようと襲い掛かる。
モーリンが駆け出すが間に合う距離ではなかった。ティラノレパードの牙の方が早くオルフェノに到達する。今からでは神官の奇跡も届かない。
だが、光の速さで踏み込める人物がここに一人いた。
「ストニの魔法の後が私の出番でしたね」
光速の踏み込みでオルフェノの前へ割り込むと、光剣を一凪、それだけでティラノレパードの牙を切断した。
そしてオジロを逆手の持ち替えスキル『破邪』を発動、オルフェノを抑え込んでいる骸骨戦士を消滅させると、襟首を掴みオルフェノを子猫のように持ち上げモーリンの元へ後退した。
「オルフェノ!!」
レオフィーナから奪い取るようにオルフェノの体を抱き寄せたモーリンは首飾りを握り神官の技『回復の奇跡』を発動させる。
「これで全部コンプリート」
残念ながらモーリンの首飾りも聖雷剣ではなかった。
レオフィーナは会場の離れた場所にいる咲耶を向けて小さく首を振って聖雷剣は見つからなかったと合図を送った。
咲耶も頷いて答える。彼女の方でも収穫はゼロであったようだ。
確認作業は終了したので、もう試験を引き延ばす必要もない。
回復をかけているモーリンを狙って骸骨戦士が現れるのをオジロで撃退しながら会場全体の状況を把握する。
(さっさと片付けてマスターの元に戻るとしよう)
試験会場の各所では冒険団が連携してティラノレパードを追い込んでいるのだが、決定打を与えようとするとオルフェノたちと同じように骸骨戦士に邪魔され、先に骸骨戦士を倒しても魔法陣からすぐに補充され長期戦を余儀なくされていた。
「この魔法陣が邪魔ですね」
「それはそうじゃが、これほど複雑な魔法陣、どこが起点かわからんぞい」
魔法陣が邪魔だという独り言を魔法使いのストニに聞かれたようだ。
魔法陣には起点となる核があり、そこを破壊すれば効果を消すこともできるのだが、試験会場中に張り巡らされた魔法陣は巨大すぎてこの乱戦状態ではどこにあるか調べることもできない。
「なら、全てを壊せばいいだけだ」
全部壊せば起点を探す必要も無くなる。力技だがレオフィーナには可能。
「全てじゃと」
「ここは任せます」
治療中のオルフェノを守るために壁となっているギガルとストニにこの場を任せると、レオフィーナは会場の中央へと歩き出す。
「ちょっと、どこに行くのよあんたもオルフェノを守りなさいよ!」
「すぐに終わらせる」
「終わらすって何よ!?」
乱戦になっている冒険者の間をすり抜け、会場中央にたどり着いたレオフィーナはオジロのスキル『破邪』を全快にして地面に突き刺した。
すると、突き刺した部分から紫色の光を発していた魔法陣の色が白銀色へと塗り替えられていき、完全に紫を塗りつぶすと、弾けて消えた。
召喚されていた骸骨戦士たちは白い砂となって崩れさる。
「私の苦心の魔法陣が消されたデス」
「むむむ、これはソウ定外です、ソウ想定外」
試験官兄弟は両手を開いて、まったくおなじポーズで驚きを表現する。
「デスが、試験はまだ終わってないデス」
「ソウです、試験はあくまでもティラノレパードを全部倒した時が終了、ソウ倒した時が終了」
魔法陣を失い骸骨戦士は召喚できないが、受験者たちの体力はかなり削られている。この状態ではティラノレパードだけでも犠牲を出していただろう。本来ならば、だがレオフィーナたちはのんびりと試験官の計画に付き合うつもりは無かった。
「でしたらもう終わりですね」
「何を言っているのデ――」
最後まで言い切らない内に試験の終わらすための対象であったティラノレパードの一頭が三枚おろしのように斬り裂かれて吹き飛んだ。
さらにまばたき一回をする間に二頭目も吹き飛ぶ。
残る三体目はオルフェノたちが相手にしていた固体。二体が吹き飛んでいる間に急ぎ引き返したレオフィーナが、オジロの光剣で一刀のもとに斬り倒した。
「なんだ、三頭とも私が倒そうと思ったのに」
レオフィーナの隣に咲耶が着地する。あとコンマ何秒遅ければ咲耶が三頭とも倒していただろう。
「マスターの前です。サクヤだけにいい恰好はさせられません」
「魔法陣を壊して十分目立ってたよ」
「それはそれ、これはこれです」
試験会場では一瞬にしてティラノレパードが倒され、試験の達成条件が満たされた。
「「は?」」
試験官は揃って理解ができないと声を漏らす、ソウもデスも含まずに。




