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第81剣『一次試験本番』

 一次試験開幕奇襲を退けることのできた冒険者は大凡半分、咲耶とレオフィーナはかすり傷一つ負わされることなく乗り切っていた。


 乗り切れなかった冒険者は召喚された骸骨戦士に地面に押さえつけられており、比較的軽傷で再起不能なほどの重症を負わされた者はいなかった。


 奇襲のやり方はほめられたものではないが、噂ほどのひどい被害は出なかった。


 もっともそれが以後も続くとは限らない。


「重畳デスね、半数以上のこるとは、今回の受験者たちは優秀デス」


 黒の闘獣士にして死霊使いデスが残っている冒険者を手を叩いて称えた。


「ソウですね、最初は開幕のあいさつだけでわたしの出番がなくなったらどうしようと思いましたが、ソウの心配は無かったですね」


 言葉に無理やり自分の名前を入れて話す白の闘獣士にして魔獣使いのソウが体をひねりながら喜びを表明した。


 今の奇襲はレオフィーナの睨んだ通り一次試験の始まりにすぎなかったのだ。


「残念で残酷ですが、今現在、両の足で立っていない受験者は失格になります、ソウ失格」

「ご退場デス」


 死霊使いのデスが指示を出せば、失格者を抑え込んでいた骸骨戦士たちが失格の冒険者を担ぎ上げ場外へと運んでいく。


「失格のみなさん、ばいばいデス」


 これからが本当の一次試験、会場に残ったのは十七人となっていた。


「ではここからが本当の一次試験デス、そうデスねソウ兄さん」

「ソウですね、ここからが本番、ソウ本番」


 弟の死霊使いが前座なら、兄の魔獣使いが本番、名乗った職業からどんな試験が行われるか推測できない者はいない。


「ヘン、前振りが長すぎるぞ、いいからその本番とやらをはじめな」


 ご機嫌で話す試験官に対してヤジを飛ばす受験者がいた。


 その人物とは『真紅の秩序』所属の男ビンザスであった。この男は咲耶とレオフィーナを除き、骸骨戦士の奇襲を唯一無傷で乗り切っていた。


「レオナ、あの人が無傷って怪しくない?」

「あの男だけ明らかに襲われていなかったですね」


 オジロを掲げているだけで、余裕のあった咲耶とレオフィーナは冒険者たちが使う武器の中に聖雷剣が含まれていないかと観察をしていると、腕を組み仁王立ちしているビンザスの姿がいやでも目に入ってしまった。


 道具の持ち込みは自由だったので、もしかしたら死霊避けの魔道具を持っていたのかもしれないが、雰囲気に余裕があり過ぎる。まるで自分だけは絶対に被害が出ないと確信しているようだ。


 ビンザスは指を試験官の二人へ突き付ける。


「どんな魔物でも出して来いよ、ヘンテコ闘獣士ども、この試験をトップで通過する『真紅の秩序』の次期団長候補ビンザス様が瞬殺してやるぜ」


 ビンザスはこの試験最中に見学にきている冒険者たちに向かって自己を宣伝しているようだ。ここで宣言通りに試験を瞬殺でクリアできれば、ビンザスが団長候補だとの噂は一気に広まるであろう。


 本人は決まったと思っているのだろう、咲耶に気が付き、どうだと流し眼をしてきた。


「う~、悪寒がする」

「サクヤも変な男に目を付けられましたね」


 咲耶の背筋に鳥肌が立ってしまった。


「さぁ、早く自慢の魔物をだしな、まあ剣技大会なんかで遊戯をしている連中の魔物なんて実戦で鍛えたオレ様にはみんなザコだろうけどな」


 調子に乗っているビンザスは気づいていなかった。ヘンテコやお遊戯と馬鹿にされた闘獣士兄弟の目が僅かに細くなっていた事に。


「ソウですか、では団長候補様へのリクエストにお応えして、ソウ応えて、一次試験の本番の開始、ソウ開始」


 魔獣使いのソウがホイッスルを取りだし、ピィ~~と高い音を鳴らした。


 すると会場へと続く三つの入り口からそれぞれ豹柄をした二足恐竜タイプの魔物が姿を現した。


「て、ティラノレパード!」


 ビンザスが魔物を見て叫びをあげた。


 その魔物とは普段は人里離れた森の奥で生息する魔物であり、高ランクの冒険者しか遭遇することない魔物だ。先日、真紅が討伐した個体は、剣技大会用に捕縛され搬送されていた道中に逃走したティラノレパードだった。


「流石は団長候補です、ソウです、この子たちは討伐Bランクの魔物、豹柄恐竜ティラノレパード、ランクAを目指す皆さんならBランクの魔物の相手なんて楽勝ですよね、ソウ楽勝のはず」


 魔物使いや調教師などがテイムできる最高ランクであるBランクを三体も操ってみせるソウの実力が相当な物だと証明している。


「そうデス、楽勝デス、それでは一次試験のルール説明、ティラノレパードを全て倒すまで魔法陣から出てはいけません、出たら失格デス」

「制限時間は、ソウありません、ですから、持ち込んだ食糧も好きな時間に食してけっこうです。ソウいつでもランチタイム」


 もう骸骨戦士の召喚が終わっているのに地面の魔法陣が消えずに残っていたのはフィールドの境界線を現すためだったようだ。


「フハハ、こいつらを倒せば一次クリアかよ、楽すぎるぜ!!」


 ビンザスは近くにやってきた一体のティラノレパードに向かって突撃する。手には宝石がちりばめられた大剣が握られていた。使いこなせなかった聖雷剣を売ったお金でかったのかもしれないが、あの剣は咲耶でも一目で分かるほど戦闘に向いていない。


 装飾用の大剣であった。買うと高いが攻撃力は普通の剣と同等くらいしかない。


 もしかしたらビンザスは値段だけで剣を選んだのではないだろうか。


「スキル『剛力』発動!」


 上段の振りかぶった大剣にスキルを乗せてティラノレパードに振り下ろすが、俊敏が最大の特徴であるティラノレパードは、真正面からの斬撃を横に飛び退いて交わした。


「なに!?」


 当たり前の結果であったのに、ビンザスは驚きの叫びをあげる。


 目標を見失った大剣は地面に叩きつけられ床を削るだけの結果になった。そして攻撃をかわしたティラノレパードは反動を使って人の首など吹き飛ばすほどの威力を持った尻尾をビンザスに叩きつける。


「ウガーー」


 運よく引き戻した大剣に尻尾があたり、首が飛ぶ代りに大剣が砕けてはめ込まれた宝石が散らばった。一体いくらの金額で買ったのかは本人にしか分からないが、その大剣のおかげで首が飛ばずに済んだのだからよかったのであろう。


 ビンザス自身は魔法陣の外、場外にまで吹き飛ばされる。


 本番開始第一号の失格者、秒殺すると宣言したビンザス自身が秒殺された。


「お~とこれは意外です、ソウ意外」

「次期団長候補様が最初の脱落者デス、候補はあくまでも候補だったのデスね~」


 吹き飛ばされたビンザスの手足がピクピクと動いているので、生きてはいるようだ。


「どうしますサクヤ」


 あのような自滅男は放っておいて、咲耶とレオフィーナはどう動くかを背中を合わせて相談する。


 三体のティラノレパードはビンザスを吹き飛ばした後は魔法陣の外円をゆっくりと反時計回りに歩き、襲う相手を選んでいる状態だ。


「遮蔽物の何もないここじゃ必ず乱戦になるわ、その時に分かれて確認しよう」

「了解」


 確認とは聖雷剣のことである。


 ティラノレパードが三体も相手となれば受験者たちは出し惜しみはしないだろう。


 現に残った冒険者たちは、外套を脱ぎ捨て、各々の装備を取り出している。聖雷剣の中には見た目剣の形をしていない物も含まれているので、遠目からでは確認できない場合もある。咲耶たちは一人一人チェックしていくとこに決めた。


 残った人数は咲耶たちを覗いて十四人、戦闘中に全員分の確認をできない数ではない。


「私は右から行くね」


 咲耶はいつでも抜刀できるようヤマトに手をかけ。


「では私が左ですね」


 レオフィーナはオジロを抜き、光剣の刃を伸ばした。


 全員の戦闘態勢が整ったことを見届けた魔獣使いのソウが、魔法陣の中へとティラノレパードをけしかける。


「行きなさい、ソウ攻撃!!」


 それぞれが別々の冒険団へと襲いかかってきた。


 そのため固まっていられる集団はなく、フィールドである魔法陣の上に散開させられる。


「囲め、囲め、場所が狭いぞ、背後も意識しろ!」

「他の冒険者とぶつかるなよ、互いに注意し合うんだ!!」


 それぞれの冒険団のリーダーが指示を飛ばす。


 今の総攻撃でリタイアした冒険者はいなかった。生き残った受験生たちは巧みな連携を見せて初撃を交わし逆にティラノレパードを取り囲んでいた。


 この人数がバラバラになれば混戦は必至、咲耶たちには好都合な展開になってきた。


 咲耶とレオフィーナは示し合わせた通り左右に分かれて冒険者の装備を確認していく。


 ティラノレパードの標的にならないように目立たず素早く、フィールドを横断、まずは手に持つ剣や槍を、さらには手甲や兜、指輪までも確認する。


「鎮也くんの作る剣は、形が千差万別だから探すとなると大変だよね」


 認めていない使い手が装備しているなら灰色になっている可能性が高いと注意深く見ていくが、咲耶サイドでは一つも見つけることができなかった。






 それはレオフィーナも方も同じだった。


 ティラノレパードの対応に四苦八苦している冒険者の間を潜り抜け観察したが、聖雷剣を持っている者は一人もいない。


 残る確認対象はオルフェノがいる冒険団だけ。


 彼らの冒険団は三体の中で一番大きい個体と対峙していた。他の冒険団がこの個体の注意をオルフェノたちへ向かうように誘導したのだ。


「また、私たちだけハメようとして、ホントに未熟者の嫉妬いやね!」


 神官のモーリンが自分たちに最大の敵を押し付けた連中へ文句を繰り返している。


 前回はどうだったかレオフィーナには知る由もないが、今回の場合は嫉妬ではなく自業自得である。


「加勢する」


 残るはこの冒険団だけなので、レオフィーナもオジロを抜いて加勢の体制を取った。

 確認するのが四人だけなら一緒に戦った方がやりやすいと判断したからだ。


「あなたは、助かります!」


 レオフィーナの加勢をオルフェノは嬉しそうに受け入れた。中年剣士と初老魔法使いも歓迎的な雰囲気だが神官のモーリンにだけ歓迎されなかった。


 レオフィーナをキィと眼力の籠った瞳で睨みつけてくる。


「私たちだけでも十分なのに」

「何言ってるんだモーリン、レオフィーナさん一緒に頑張りましょう!!」

「了解」


 気合いが全快になるさわやか青年オルフェノ。

 レオフィーナは若干の罪悪感に襲われながら素早くオルフェノたちの装備の確認をはじめた。

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