表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/109

第80剣『一次試験開始』

 どうにかギリギリで試験会場である第一訓練場に駆け込むことのできた鎮也、トレイシア、ネコットの三人は最後尾の開いている席に腰を下ろした。


「何とか間に合ったな」


 額の汗をぬぐってフ~と息を付く鎮也。


「申し訳ありません主様、もう少し時間があれば、もっといい条件を引き出せたのですが、自分の未熟をお詫びします」


 席に着くなり鎮也専属の交渉人になってくれた男装の麗人ネコットが謝罪をしてくる。


 彼女は聖雷剣を見つけた武器屋、店名『アラカルト』にて発見した聖雷剣の取り置き交渉で最初は難色を示していた店長グイエンを説得し、三日だけ待ってもらうことを交渉で勝ち取った。


 だが、その交渉の結果、最初は金貨千五百枚だった金額が、取り置きの手数料を込みとして金貨千六百枚を支払うことになったのである。


 ネコットは金貨が百枚も上がってしまったことを謝罪しているが、鎮也にすれば三日の取り置きを約束させた事だけで十分であった。


「大いに助かったから、気にしないでいいぞ」

「お優しい言葉ありがとうございます。ですが専属になった以上、あの結果に満足するわけにはいきません。次の交渉ではきっとお役にたってみせます」


 どうあってもアラカルトでの交渉はネコットにとっては失敗であったらしい。


 それは違うと否定したい鎮也だが、この話題はどちらかが折れないと平行線と辿りそうなので鎮也が先に折れた。


「わかった、次は俺が度肝を抜くような結果を見せてくれ」

「はい、必ずや」


 ネコットが握り拳を作り決意を新たにする。


「シズヤさん、サクヤさんとレオナさんがいましたよ」


 話しの区切りがついたところでトレイシアが試験会場にいる咲耶たちを見つけてくれた。


 他の受験者たちが小さな集団で固まっている間を二人はそそくさと縫うように移動していた。


「あの二人は何をやってるんだ」


 向こうも鎮也たちに気が付き手を振ってきたので鎮也も手をあげて答えるが、どうして二人が移動しているのかが分からなかった。


「おそらくですが、他の受験者にからまれたのでしょう。サクヤ殿たちが初試験だと丸わかりですので」

「もしかして、足の引っ張り合い」


 咲耶とレオフィーナ以外は全員外套を羽織っている。あれが試験対策なら、唯一外套を用意していない咲耶たちが初回だと言うことは丸わかりだろう。


「冒険者のランクアップに対策が必要なんて驚きだ」

「昔は違ったんですか」


 トレイシアが不思議そうに尋ねてきた。どうやら百二十年の間に冒険者の中の常識も変化していたようだ。トレイシアは冒険者たちが試験対策をしていることを普通と思っている。


「試験何てなかった、依頼をこなしていたらランクAになってたぞ」


 確か鎮也がランクAに昇進した時の依頼は、帝都にドラゴンが接近していると緊急招集がかかり、それを単騎で倒した功績が認められたからだった。


 昔は実力さえあれば昇進できたのに、伝説のランクSになった時も試験など受けていない。


 ではなぜ昇進試験ができたのか、これは冒険者ギルド内でもトップの幹部しかしらない話しであるが、百二十年前、突如消えてしまった鎮也たちランクSの冒険者の後釜、冒険者の英雄を作ろうとした冒険者ギルドが、そこそこの実力がある者たちをスピード昇進させ高ランクの依頼を数多くこなさせ、ランクSを作ろうとしたのだが。


 その結界、力だけの荒くれ者が多くランクAになってしまい、力押し以外でないと解決できない依頼の多くを失敗してしまったのだ。


 冒険者ギルドには非難が殺到し信頼もガタ落ちした時期があった。


 そのためギルドのトップは方向転換、ランクAになる冒険者には気転もきく柔軟性を確かめるために昇進試験が行われるようになった。


 実は鎮也の知らないところで、試験が行われるようになった原因に間接的に関係していた。


「試験なんて学校受験みたいだな」


 そういえばこの帝都には昔、魔法学園なるものもあった。鎮也はレオフィーナがお約束だから入学しようと過去の時代の時に言い出したのだ。


 レオフィーナがどうしてもと言うので試験を受けて合格はしたのだが、鎮也は聖雷剣の製作の方が忙しく、それに入学してたった三か月で例の未来移動事件が起きたので在学していたという認識は殆どなかっが、鎮也もこの世界で一応の学生になっていた。


 叔父の影響でファンタジー好きになった鎮也である。

 異世界の魔法学園という響きに惹かれたところもあった。


 しかし、冒険者ギルドと同じように百二十年も通っていなかったのだ、とうに退学扱いとなっているだろう。無くなってからもう少し通っておけばよかったと思う学園生活。


 まさか冒険者の昇進ごとで学園の事を思い出すとは考えもしなかった。


「それにしても冒険者までが試験対策をする時代になってたのか」

「今ではこのように昇進試験の観戦もできるので、帝都を中心に活動している冒険者なら初回でも対策を立ててきます。対策を講じないのは自信過剰な若い冒険者と観戦をしたことのない地方出身の冒険者などですね」


 どちらにしろベテランのカモになりやすい者たちだ。


「新人潰しの格好のターゲットになるわけだ」


 咲耶たちが移動しているのは、新人潰しにあったわけではなく、勇者候補に何故かなつかれてしまったからであるが、それを鎮也たちが知りようもなかった。


「シズヤさん、始まるみたいですよ」


 受験者用の入り口が閉まり、会場に試験官らしき人物が現れる。


 ふわふわとした足取りで会場に現れたのは白と黒二色の闘獣士(マタドール)衣装に身を包んだ二人組。


「お初にお目にかかります、私は白の闘獣士にして魔獣使いのソウです」


 白い基調とした衣装と顔の右半分を黒い仮面で隠した男が先に名乗り一礼する。


「私は黒の闘獣士にして死霊使いのデスです。今回の一次試験は私たち兄弟が試験官を務めさせていただきますので、どうぞよろしく」


 続いて黒い闘獣士姿で左半分を白い仮面で隠した男が名乗っり、同じように一礼した。兄弟と言うだけあって二人の顔はよく似ている。


「剣技大会の門番、死神ソウ&デスじゃないか」

「コンビでランクAになった逸材にして凶悪の」

「クッソ、今回の試験はハズレくじだな、見送るべきだった」

「合格よりも、生き残ることを優先するぞ」


 咲耶たち以外の受験者たちが慄いている。中にはもう落ちることを覚悟している集団まであった。


「冒険者たちなんであそこまで脅えてるんだ?」


 参加した冒険者だけではなく、見学者の中にも恐怖の表情を浮かべている者もいることに鎮也は不思議に思う。


「試験官ということはランクAの冒険者ですよね、それなのに尊敬されるよりも恐れられているような」


 トレイシアも鎮也と同じ事を感じているようだ。確かに風貌は怪しい二人だが、ランクAとは冒険者にとってあこがれの対象である。


「黒い方は死霊使いと名乗ってたよな、職業柄嫌われているのか」

「いえ、あの二人は帝都でも有名な剣技大会の悪役(ヒール)なんです」


 剣技大会とは帝都でも有名なイベントであることは鎮也も話しには聞いている。コロシアムの中で放たれた魔獣を退治するのが剣技大会らしいのだが内容までは詳しくはなかった。

 

「悪役? つまり挑戦者を迎え撃つ側なのか?」

「はい、死神ソウ&デスは魔物と死霊を操り剣技大会の中でも最難関の敵役の二人です。大会参加者で再起不能に追い込まれた者の半数がソウ&デスにやられているとの噂もあります。どこまでが本当かはわかりませんが」


 コンビで大会の半分の被害を出しているのか、それは恐れられてもしょうがないかもしれない。


「あのネコットさん、それじゃもしかしたらこの試験からも再起不能者が出る可能性も」

「無くは無いでしょう。ですが昇格試験を受けに来ている者たちは冒険者ギルドでも貴重な戦力であるランクBの冒険者、いくら試験内容が試験官に任せられているからと言っても、そうそうに再起不能者を出すような危ない内容は許可しないと思います」


 ネコットの解説を聞いてホッと安心をするトレイシア、鎮也は咲耶たちを信じているので必要以上の心配はしていなかった。それに死霊使いならどうあってもあの二人を傷つける事が不可能なことを知っている。


 例え、あのヘンテコな闘獣士が本気で潰しに来ても返り討ちだ。


 武器屋のゴタゴタで遅れてしまったが、これからは約束通りちゃんと応援をしよう。






 緊張した受験者たちのいる会場では、まだ試験が開始されていないにも拘らず、みなが死神ソウ&デスを警戒していた。


 外套姿の受験者を見てニヤニヤとする二人の闘獣士、ここまで怪しい雰囲気をまとっている試験官を前にして無警戒でいられるほど、ここに集った冒険者たちはもうろくしていない。


「うんうん、なかなか受験者のみなさんいい顔をしているデスね、そうは思いませんかソウ兄さん」

「ソウですね弟よ、流石は冒険者トップになろうとしている冒険者の皆様です」

「さて、皆様安心してください。今回の僕たちは公正な試験官です。むやみに呪ったりしませんよ、敵対者でもないのデスから、呪ってほしい人は呪うデスけど」


 にこやかに呪うと言ってのける弟のデス。


 冒険者たちは警戒をさらに二人に集中させるさなか、咲耶は地面に不可解な魔力の流れを感じた。土の属性を持つ咲耶は大地の動きには敏感である。


「私たちは試験官、二次試験に進める人たちを選ぶのが仕事です、ソウ仕事です」

「デスから、このくらいの不意打ちは交わしてくださいデス」


 試験場の明かりが一斉に消された。


 すると試験場の地面一杯に紫色の光を放つ魔法陣が浮かび上がり、魔法陣から骸骨戦士(ポーンソルジャー)たちが這い出すように出現して冒険者たちに襲いかかってきた。


 警戒外からの速攻による不意打ちである。


「うわー!」


 半数近くの冒険者たちが対応できなかった。

 大量の道具を外套の下に忍ばせた、動きの鈍い冒険者から骸骨戦士に取り囲まれ飲み込まれていく。


 初撃を交わしてもそこら中から這い出してくる。

 纏っていた外套が破られ、負傷者が続出。


 どうやらこれが一次試験のようだ。骸骨たちは十、二十、五十と増えていき、たった数秒で受験者の数倍へと膨れ上がった。


 咲耶はヤマトの鯉口を切り、一瞬にして鞘から放たれた刃が骸骨戦士たちの間を駆け巡る。


「地面のおかしな魔力はこれの準備だったんだ」


 刃をカチリを鞘に収めれば、刀の間合いにいたすべての骸骨戦士が斬り裂かれた。


「お見事ですサクヤ」

「後よろしく」

「了解」


 咲耶が近場を倒しつくしたので、今度はレオフィーナがオジロで光剣を作り、放たれる光にスキル『破邪』を乗せると、二人を刀の間合いの外で取り囲んでいたすべて骸骨戦士が砂となって崩れ去っていった。


 破邪の力の前では低級の死霊ではまったく歯が立たない。

 鎮也が心配しなかったのもオジロの力を知っていたからだ。死霊使いにとってはオジロの光剣は天敵でしかない。


「まさか、これで一次試験が終わりじゃないよね」


 他の受験者はまだ戦っているが、オジロを使った以上、もう咲耶たちに被害がでることはない。


「それは無いですよサクヤ、二人いる試験官の内、一人はまだ何もしていませんから」


 骸骨戦士を呼び出している黒い闘獣士の弟デスは会場全体を見渡しているが、まだ何もしていない、白い闘獣士の兄ソウは咲耶たちを見つめていた。


 面白いモノを見つけたと言いたげな表情で。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ