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第78剣『占い再び的中』

 探し物は先程の武器屋ある。


 言いたいことだけ言い残したローブの少女は、スタスタと現れた路地の奥へと消えて行った。


「主様、彼女は?」

「一昨日出会った占い師の少女だ、それ以外は知らない」

「でも以前の占いは当たりましたよね」


 占い代金を要求するわけでもなく、押し付けのように占いだけしてさっていく謎の少女。

 少女の目的は分からないが、確かめても損はないので鎮也は占いを信じることにした。


「まだ時間はあるんだよな」

「ありますが、戻られるのですか?」

「戻ろう、何か当たってる気がするんだよな、今回も」


 鎮也たちは武器屋へ引き返す。


 出てきたばかりの店に再来店、店内では倒された槍を片づけている店員の姿があった。


 何があったかは聞くまでもない、さっきのビンザスが倒していったのだろう。戦いの際、命を預けることになる武器たちを粗末に扱うなど許しがたい男だ。


「手伝います」

「私も手伝います」

「ふむ、主様の性格が徐々に把握できてきました」


 鎮也に続いてトレイシアとネコットも片づけに参加、それほど時間をかけずに店は元の整理された状態へと戻った。幸いにして修復が必要なほど傷が付いた武器はないようだ。


「ありがとうございます」


 一通りの確認を終えた店長のグイエンがお礼を言ってくる。

 

「いいですよお礼なんて、鍛冶師として見過ごせなかっただけです」


 武器は消耗品ではあるが、あのような乱暴者には鍛冶師の誰もが使ってほしくないと思うだろう。


「それでも当店が助かったことには変わりありません。ところで皆さんはどうしてお戻りに」


 お金もなく予定が有ると言って出て行った鎮也たちが戻ってくれば、それは不思議に思うのは当たり前。


「いや、なんというかな、さっき話した星の聖剣が入荷されたって聞いて」

「ッ! どなたに聞かれたのですか!?」


 鎮也が店を出てから数分しかたっていないのに、グイエンの反応から入荷したことは確かなようだ。


「通りすがりの占い少女から聞いた」

「はぁ?」


 この説明で理解しろと言うのは無理がある。

 しかしそれ以外に説明のしようがない。


「それは、すごい占い師がいたモノですね」


 グイエンはカウンターに入ると、下から二振りの灰色の剣を取り出した。

 間違いなく鎮也の聖雷剣がそこにあった。


「―――――――――――――――――――――――――――

 聖雷剣シリーズ シリアル9

【名称】「ワルキューレ(灰色化)」

【和名】「雷光戦乙女」

【製作者】星尾鎮也

【使い手】未登録

【分類】長剣   【レア度】☆☆☆☆☆★(6-1)

【長さ】128センチ【重さ】1.8キロ

【聖剣核】スターサファイア

【スキル】

※封印中『雷魔法(中)』…………使い手が雷魔法を扱えるようにする(効果:中)

『光魔法(中)』…………使い手が光魔法を扱えるようにする(効果:中)

『女性限定』……………女性限定で身体能力強化、男性は弱体化させる。

『雷光の槍』……………雷と光でできた破邪の槍を作り出せる。

『光ノ戦乙女(8)』……実体を持った光の虚像戦乙女を8体まで作り出すことができる。

【補足】

 長剣分類の中では細身の聖雷剣。モデルが戦乙女の剣なので女性限定と成っている。男性が持てば木の枝よりも攻撃力は低くなる。聖剣鍛冶師鎮也が聖雷剣シリーズの中で初めてレア度6に到達できた剣である。

  使い手は未登録であり、現在の所持者がふさわしくない男性であったためレア度がマイナス1、スキルの効果も軽減され灰色化している。

―――――――――――――――――――――――――――」

「―――――――――――――――――――――――――――

 聖雷剣シリーズ シリアル390

【名称】「ガイケン(灰色化)」

【和名】「鎧剣」

【製作者】星尾鎮也

【使い手】未登録

【分類】特殊大剣 【レア度】☆☆☆☆★(5-1)

【長さ】180センチ【重さ】8.6キロ

【聖剣核】ブラックダイヤモンド

【スキル】

※封印中『雷魔法(中)』…………使い手が雷魔法を扱えるようにする(効果:中)

『鎧化』………………刀身の鉄を任意の分だけ鎧として再構築できる。

『軽量化』……………剣の重さを軽減する。

『鉄食い』……………触れた鉄を吸収することができる。

【補足】

 大剣分類の中でも広い刀身と重量を持つ聖雷剣。刀身の鉄を鎧へと変形させられる。重装甲へと変形させれば刀身は殆ど残らずに細身の剣となるが、軽装甲程度ならそれほど小さくならず大剣のまま使用もできる。手甲だけ製作など使い手の発想が全てである。

 使い手は未登録であり、現在の所持者がふさわしくないためレア度がマイナス1、スキルの効果も軽減され灰色化している。

―――――――――――――――――――――――――――」


 鑑定眼でも確認できた。両方ともひどいありさまである。


「先程の男がお売りになられた商品です」

「すごく怒っていましたけど」


 聞きにくいが気になったことをトレイシアが恐る恐る尋ねた。店から数分で出てきたビンザスは決して売ったような態度ではなかった。


「どう勘違いされたのか、私どもがだまして売りつけたとクレームをつけてきたのです。ですが私どもはこの剣を扱った覚えはありません」

「妙な話しですね」


 話しを聞いたネコットが顎に指をかけて考え出した。


「この店に入った聖雷剣の情報は間違いなく父に伝えられているはず」

「当然です、そういう契約を交わしていますから」


 その契約交渉を取り交わせたのがネコットなのだろう。グイエンの性格から考えても裏でビンザスのようなスピーカー男に売るとは思えない。ビンザスは買った店を間違えたのだろうか、それはそれでおマヌケな行動である。


「ですから買い取りと言う形で引き取らせてもらったのですが、代金を受け取った後に納得がいかないと暴れ出したので、早々にお帰りいただきました」


 金はちゃっかり受け取ってから騒いだのか、つくづくどうしようもない。ただき出されても仕方ない。


「冒険者を相手に商売をしていればたまにあることですから」


 迷惑客用のスピード商談だったのだろう、あの手の客は下手に出れば付け上がる。鎮也の見立て通りこの店長は腕っぷしもなかなかだ。


「そこまで強引に出ると、後で訴えられるかもしれませんよ」


 交渉人らしいネコットの意見である。


「その時は交渉人を依頼してもよろしいでしょうか」

「今の私は主様専属の交渉人なので、私に依頼したいときには主様をお通しください」

「なんと、あの長期契約はしないと有名なあなたが専属交渉人ですか」


 グイエンの驚きを見て鎮也は自分の交渉人になってくれたネコットの評価を知ることになる。やり手だとは感じていたが、どうやらネコットは帝都でも有名な交渉人だったようだ。


「やっとお仕えしたいと思えるお方に巡り合えましたので」

「そうですか、それはよかったですね。では交渉の依頼をするときは鍛冶師殿をお通ししましょう」

「主様からの依頼を優先させてもらいますが、余裕のあるときでしたらどうぞ」


 店長グイエンはネコットの事を祝福してくれた。長い付き合いなのだろうグイエンの表情は子供を見守る親の顔になっていた。


「ではこの剣のことはいつものようにキョットナ殿にお伝えしておきます」


 このようにあの地下室のあった聖雷剣たちは集められていたのだろう。


「あ~、ちょっとまずいですよ主様」

「何がまずいんだ?」


 使用人に高額な買い物を頼むのは確かにまずいだろうが、ネコットがまずいと言っているのは別の事だと伝わってくる。


「今、父上は別の場所で販売されている聖雷剣の購入交渉をしておりまして、貯蓄資金の殆どをその交渉につぎ込んでいます。なのでこちらまで購入する金貨が用意できるとは思えません」


 なんとキョットナたちは、また別の場所で聖雷剣を手に入れようとしてくれていたようだ。


「知らなかった」

「引っ越しなどでゴタゴタしてしまったので、伝え忘れているのでしょう」


 鎮也も通用門の製作で工房に籠っていたから余計に話すタイミングは無かっただろう。


「どうします。私に払った交渉料を使いますか」


 ネコットに渡した金貨三百枚は、まだ使われずに手元に残っている。しかしそれは鎮也たちが目的としている皇帝への謁見のために必要なお金、使うわけにはいかない。


「いや、それはネコットの仕事で必要な資金なんだろ、それに金貨三百枚じゃ足りないよ」


 金貨百五十枚で買えたのはレア度4の聖雷剣である。


 この二振りはレア度5と6。三百枚ではレア度5の鎧剣すらも買えない。


「そうですね、値段を付けるとするならば鎧剣を金貨五百枚、雷光戦乙女を金貨千枚ですかな」

「……高いですね」


 あまりの法外な金額にトレイシアが息を飲む。


「金額はでかいけどなシア、この聖剣の値段ならそうとう安い方だぞ」

「そうなのですか?」


 金貨千五百枚が安い方と聞き体を震わせるトレイシア、毎日の食事代を気にして生活をした経験のある彼女には見たことも無い金額だ。


「レア度6の剣なんて出す所に出せば、もっと高値で売れるんじゃないか」


 例えばレフティアのオークション会など、正式な鑑別書を付ければ倍の金額はいくであろう。


 グイエンは教えていない聖雷剣の名前までも口にしている。鎮也と同じように高レベルの鑑定眼を持っているのだ。


 帝都で認められた商人の鑑別書なら信頼も置ける。オークションも盛り上がる事間違い無しだ。


 それなのにほぼ原価で売ってくれると言うのだ。ビンザスに渡した金額と大差ない値段であろう。


「キョットナ殿には若い頃からいろいろとお世話になってきました。これはその恩返しですよ、損はしていないので気にしないでください」

「それでもちょっと金額がキツイけどな」


 レフティアに置いてきた金の塊なら楽に千五百枚分くらいの金は用意できるのだが、それを回収するのは最終手段としたい。


「シズヤさん、金貨千五百枚はちょっとではないと思いますけど」


 確かにちょっとではない金額である。レフティアで受けたAランクの依頼でも報酬は冒険団一つにつき金貨二百枚であった。


 これから咲耶たちが受ける試験の報酬でも千五百枚には届かないだろう。


 かくなる上は、鎮也は最終手段一歩手前の方法を選択した。


「ここは取り置きってできますか?」


 絶対に買うからちょっと取っておいてください作戦を発動である。


「ふむ、取り置きですか」


 取り置き、店に絶対に買うから売らずに確保してくれとのお願い、店側のメリットが少なく迷惑なお願いであるのだ。グイエンが少し考え込んでしまった。料金を勉強してもらっている上での厚かましい頼みごと。


 そもそも冒険者相手には付け払いをさせるなと言うのが職種を問わず商人たちの常識である。いつ死ぬかもわからない冒険者相手にツケの約束をするのはお金を捨てるに等しい行為だ。


 取り置くはツケでは無いが、品物を売らずに店に残しておくなど、商売の得にもならない。特に高額な金額で仕入れた物ならできるだけ早く売りたいが店側の気持ちなのだから。


「主様、ここは私の出番ですか」


 専属の交渉人になってくれたネコットの初仕事は、まさかの取り置き交渉であった。


 咲耶とレオフィーナの昇進試験の応援を忘れた訳ではないが、試験開始十分前になっても鎮也たちの姿はまだ帝都の武器屋にあったのだ。

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