第77剣『帝都の武器屋』
店の中はジャンルごと明確に整頓された武器たちがずらりと並んでいた。欲しいモノがどの棚に行けば見つけられるのか、一見さんでもわかりやすい陳列である。
「本日はどのような武具をお探しでしょうか?」
清潔感のある服を着こなした店員が声をかけてくれる。
この店員の対応だけでもこの店がネコットに一目置かれているだけのことは有ると納得させられた。
「こちらの方々が帝都の武器屋を見てみたとの事でしたので、私が一番にこの店を紹介させてもらいました」
「それは、ありがとうございます。どうぞごゆっくりご覧になっていってください」
ネコットは遠回しに今日はただの冷やかしで買う気はないと伝えたのだが、店員は機嫌を崩すことなく迎えてくれた。言い方一つで第一印象が大きく変わるものだと鎮也は感心する。
ネコットは知り合いだという店長と話しをしてくると奥へ入っていったので、鎮也とトレイシアは剣が並べられた棚へと足を進めた。近くで見るとその品揃いの良さに下がっていた鎮也のテンションが回復していく。
「すごいなこれは」
レア度3の剣が何本も並べられているのだ。
鎮也が事前に入手した情報では量産性を追求したため、近年の職人の腕が落ちてレア度は最高で3までしか作れなくなっているとのことだった。つまりここには現在で最強と言われるランクの武器が並べられていることになる。
それも一本一本が丁寧に磨かれていて、レア度1のナイフであろうとおろそかに扱っていない。
「レフティアではここまでキレイな武器屋はありませんでした」
「そうだったな」
交易都市レフティアの武器屋はとにかく品物が多く、むき出しの剣が積み上げられている店まであった。あそこと比べ、本当に同じ職種の店なのかと疑ってしまうほどに店の雰囲気が違いすぎる。
町が変れば店も変る。
こんな発見をするのも旅の楽しみだと鎮也は異世界に渡ってから世界を巡る楽しさを知った。
二人は整頓された武器たちを一つ一つ博物館をめぐるようにゆっくりと眺めていく。
いろいろな技法で作られた剣たち、退化している箇所もあれば、進化している箇所もある。中には鎮也の知らない技法やアイディアを発見することができた。
次に剣を製作する時には参考にできるかもしれない。
「お、これは」
「いい剣なんですか?」
鎮也が一振りの短剣を手に取った。少しだけ刃の輝きが聖雷剣に似ていたのだ。
興味を持った鎮也は鑑定眼を発動させる。
「―――――――――――――――――
【名称】合金剣・試作六号
【製作者】ノエル・タターン
【分類】短剣 【レア度】☆☆(2)
【長さ】60センチ 【重さ】0.5キロ
【魔剣核】魔核C級
【スキル】
『柔軟性』…………鉄が柔軟であり、折れにくい。
【補足】
伝説の聖雷剣に影響を受けた鍛冶師ノエル・タターンが、聖雷剣の秘密が特殊な合金であると目を付け自分なりに製作した合金で試作した剣の六本目。
―――――――――――――――――」
これは聖雷剣の影響を受けた人物の短剣であった。
「まだ、発展途上だけど将来性を感じられる剣だ」
それに鎮也はノエル・タターンの名前はどこかで見たことがあるような気がした。記憶に残るということはどこかで印象的な作品を目にしているのだと思うが、それがどこだかは思い出せない。
「なかなか良い目をお持ちですね、流石はネコットさんの新しい雇い主だ」
合金剣を見ていたらネコットと一緒に身なりの整った背の低い老人がやってきた。
立ち振る舞いは針金が背中に入っているかのように真っ直ぐに伸びて、体はぶれず中心線を保っている。剣を売っている商人のはずだが、剣を振っても相当な腕を持っていそうだ。
「あなたがキョットナ殿が話していたお方ですか、私はこの店の店長グイエンと申します。お会いできて光栄です」
明言は避けたがどうやらこの老人は鎮也の正体に気が付いたようだ。
「そちらの短剣をお求めですか」
「いや、今日は悪いけど冷やかしだ」
興味は非常にそそられたが、無い袖は振れない。
「そうですか、その短剣は最近一人前と認められ個人工房を持ったばかりの新人鍛冶師の作品なのですが、彼女は研究熱心でして、いつか星の聖剣を超える剣を自分で作り出すと意気込んでおりますよ」
この剣を制作したのは女性で、それに。
「星の聖剣を超えるですか」
打倒聖雷剣を掲げているの。
まだ試作と名付けられている剣からは信念のようなモノが感じられた。もしかしたらこの剣を作ったという鍛冶師なら、失われてしまったレア度4を超える剣を作り出せるかもしれない。
「将来、シズヤさんのライバルになるかもしれませんね」
「俺にはいろいろと強い味方がいるからな、そう簡単には負けないさ、でも、嫌いじゃないな」
チートを使った鎮也と違い、一から積み上げてきた努力。
この短剣には鎮也でも込められない底力のようなモノを感じられた。
「グイエンさん、その星の聖剣ここには?」
「申し訳ありません、今は一振りもございません。仕入れられしだいキョットナ殿にはお知らせいたします」
キョットナは武器屋に太いコネクションを作っている。
「彼は剣を見る目を持っている人物です。私どももあのような方と商売できるのは嬉しいかぎり、いろいろと勉強させていただいています」
義には義を、グイエンは誠実な人物のようで鎮也たちは好感を覚えた。
もし次に鎮也が制作した剣を売りに出す時は、この店に卸すのもいいかもしれない。
「主様、そろそろ時間になります」
「もうそんな時間なのか」
店内を見ているうちに、いつのまにか一時間以上経過していた。
「まだ時間に余裕がありますが、ランクA昇進試験は見学する冒険者も多いので、座席は早い者勝ちになります」
見学ができるのは冒険者だけなのだが、自分たちのトップの実力を知るまたとない機会だ。目指す目標を確認するために新人は見学に訪れ、高ランクの冒険団は自分たちの新しい戦力になる存在はいないかと観戦にやってくる。
「なら急いでいかないとな、グイエンさん次はお金を持ってきます」
「お待ちしております」
最後まで丁寧な対応であった。
店長グイエンに見送られ店を出ると、一昨日冒険者ギルド本部で出会った『真紅の秩序』の男ビンザスを見かける。前髪で片目を隠したショートヘアの女性と一緒にいた。
「ねぇ、あんた考え直そうよ、それは間違いなくすごいモノだから」
遠慮の無い会話をしていることから鎮也は女性もレフティアには居なかった真紅のメンバーであろうと推測する。
女性は必死に何かを思いとどまらせようとしているが、ビンザスは肩を揺らしながら怒りを振り撒き歩いていた。とても言うことを聞きそうな雰囲気ではない。
「うるせぇ、これはなまくらなんだよ、そうでなかったら俺があんな腰ぎんちゃくに遅れを取るなんてありえねェ!」
ビンザスは背負っている乱雑に布でくるまれた物体を指す。
「これは間違いなくガラクタだ、これから最強のランクになるオレ様にはふさわしくない」
二日前、冒険者ギルドで会ったときは昇進試験の説明を咲耶たちと一緒にビンザスも受けていたらしい、咲耶たちはとっくに冒険者ギルドにいるのだが、あの男は行かなくて問題は無いのであろうか。
「だから、それの力を発揮させるのには条件があるんだって」
「そんな面倒な事ごめんだぜ、店長に突き返してやる」
ビンザスたちは鎮也が出てきた武器屋の入り口を蹴破るように入っていった。
「乱暴だな」
店にとって一番たちの悪い客だ。
「大方、討伐の失敗を武器の責にしたいのでしょう」
ネコットの意見に鎮也もまったく同意、どんなに武器が優れていても使いこなせなければなまくら剣と変わらない、それを販売側の責任するなど自分が実力不足と宣伝しているようなモノだ。
「大丈夫でしょうかグイエン店長」
トレイシアは心配そうに店へ振り返る。
「問題ないでしょう。自分の失敗を武器に責任転換するやからなどたいしたことはありません、あのグイエン殿なら簡単にあしらえますよ」
「同感、冒険者ギルドの近くで武器屋をやっているんだ、あの手の乱暴者相手の対処も心得ているだろ」
グイエン店長ならあの程度の客で商売に支障をきたすとは思えない。
そうこうしていると、怒鳴り込んだビンザスが武器屋から転がり出てくる。
「ちくっしょう、二度とこんな店きてやらないからな!」
ビンザスは捨て台詞を残すと、何処かへと走り去っていった。
「ちょっと、この脳筋待ちなさいよ! まったく少しは使えるかと思ったのにまったく役にたたないじゃない」
一緒に入って行った女性は愚痴りながらビンザスのさった方角へ追いかけるのでは無く、別に方角へ普通に歩いて行った。
「心配いらなかったろ」
「そうですね」
トレイシアは安心したと胸を撫で下ろす。これで心おきなくギルド本部へ向かえると思ったら。
「ちょっとそこ行くお兄さん、ちょっと待って欲しいな」
聞き覚えのある可愛らしい声に呼びとめられた。
路地裏からローブを纏った小さなが影がひょっこりと現れる。
「お兄さんの探し物がさっき出てきた店に納品されたよ」
その声の持ち主は一昨日、帝都の屋敷の事を思い出させてくれた占い師の少女であった。
少女は水晶玉を片手にさきほどの武器屋を指差した。
そこに鎮也が探している物があると。




