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第76剣『いがいな継承』

「我、聖剣鍛冶師・星尾鎮也は、汝を聖雷剣の使い手として認める」


 キョットナの手元へと一振りの聖雷剣が引き寄せられた。ずっしりと確かな重みをキョットナへ伝える。心配していた本人をよそに聖雷剣の方が自ら歩み寄った。


 お前こそが選ばれた使い手だと。


 臆病そうな男であるが、その内に秘めた忠義と信念を感じ取ったのだろう。

 この男の中には間違いなく忠臣であったネコッタの魂が受け継がれている。


「聖なる雷の剣の使い手として、その尊き魂に恥じぬよう願う」

「私などに、本当に……いや」


 キョットナ首を横に振って弱音を飲み込んだ。彼とて男の意地がある。

 主の願いを自分の臆病を理由に否定したりはしなかった。


 聖雷剣はキョットナに何かを語りかけたのかは分からないが、彼が使い手になる事を決意したことは鎮也にも伝わってくる。


「シズヤ様、祖父ネコッタの名に恥じぬようお仕えさせていただきます」


 鎮也は鑑定眼を発動させる。


「―――――――――――――――――――――――――――

 聖雷剣シリーズ シリアル257

【名称】「フドウシラヌイ」

【和名】「不動不知火」

【製作者】星尾鎮也

【使い手】キョットナ

【分類】太刀   【レア度】☆☆☆☆☆☆(6)

【長さ】92センチ 【重さ】1.8キロ

【聖剣核】ホワイトサファイア

【スキル】

『雷魔法(中)』…………使い手が雷魔法を扱えるようにする(効果:中)

『見切り』………………多彩多様な攻撃を見切る事ができる。

『鉄壁』…………………多彩多様な攻撃からでも守り対処する。

『持久』…………………使い手の体力の減少を抑える。

『予感』…………………使い手のまたは守護対象の危機を予感する。

【補足】

 太刀型の聖雷剣。一歩も引かない守りの太刀。使い手の信念が強ければ強いほどこの聖雷剣はその真価を発揮する。使い手の精神さえ保てば三日三晩その場に留まり戦い抜くことができるであろう。

 普段は臆病でも内に秘めた信念に惹かれて剣自身が今の使い手を選んだ。

―――――――――――――――――――――――――――」


 継承は間違いなく成功した、使い手にキョットナの名前が刻まれている。

 守りの聖雷剣、これから屋敷の留守を任せるのにピッタリな剣かもしれない。


「これで譲渡は完了した」


 ここに初めての男の継承者が誕生した。でもまだまだ女性の継承者の方が多い、これではまだレオフィーナに継承者はハーレム候補だと言われてしまうだろう。


「別に女性ばかりを選んだわけではなく、いいなと思う人物に女性が多いだけだ、別にハーレムを望んで譲渡しているわけでは決してない」


 ここにはいないレオフィーナに対して言い訳をしてしまった。鎮也も男であるからハーレムにあこがれが無いわけでもない。


(ただ、面と向かって言われるのが恥ずかしいだけだ)


「シズヤさん、何か言いましたか?」

「いや、なんでもないぞ。ところでシア、ルードって男っぽい名前だけど、そいつはオスだよな?」


 ドラゴンの性別の見分け方を鎮也は知らない。これでオスなら少しは男性率が上がる。


「はい、そうですよ」


(よし、少しは男性率が上がった)


 どうでもいいことに喜ぶ鎮也、次はルードの継承の番である。


 ドラゴンであるルードでも聖雷剣が使い手と認めれば継承できる。フィンガー系やバスター系は人以外の使用を前提として製作した物もある。ここは剣と魔法の異世界、当然言葉を交わせる相手は人族以外にも多数存在している。


「ルード、さっきのお二人がやったように心を静かに耳を澄ませて」

「ここにはルードに必要な力を持つ剣がある。素直に自分の願いを解放してみな」


 鎮也が使い手になってほしいと薦める剣に選ばれれば、ルードも帝都の行き来が可能となる。


「慌てなくていいの、自分のペースでやってみて」


 トレイシアの指示を素直に従うルードは目を閉じた。調教師としてトレイシアはルードに全幅の信頼寄せられている。ルードにとってトレイシアは主であると同時に母親になっているのだろう。


 体は大きくともまだ幼い子供。

 母親の元で暮らしたいと思うかもしれない。

 その思いをかなえてくれる聖雷剣はここに存在している。はたしてその聖雷剣はルードを使い手と認めてくれるだろうか。


 そんなルードに数十本の中から一振りが反応を示した。


 今のルードにもっとも必要としている能力をもった聖雷剣。


 聖雷剣も必要とされていることが分かっただろう、ドラゴンの体格には不釣り合いのサイズだが、肝心なのは認めるかどうかである。


 一振りの聖雷剣が浮かびルードに吸い寄せられる、使い手と認めてくれたのだ。


「我、聖剣鍛冶師・星尾鎮也は、汝を聖雷剣の使い手として認める」


 だから鎮也も使い手と認める。


 鎮也は鑑定眼を発動させた。


「―――――――――――――――――――――――――――

 聖雷剣シリーズ シリアル102

【名称】「ファイアウォール」

【和名】「炎遠隔壁」

【製作者】星尾鎮也

【使い手】幼竜ルード

【分類】短剣   【レア度】☆☆☆☆☆(5)

【長さ】80センチ 【重さ】0.8キロ

【聖剣核】ファイヤークオーツ

【スキル】

『雷魔法(中)』…………使い手が雷魔法を扱えるようにする(効果:中)

『炎間移動』…………炎と炎の間を瞬間移動できる。

『炎の壁』……………どんな場所にでも炎の壁が作り出せる。

『識別炎』……………使い手が生み出す炎は燃やす対象を選べる。

【補足】

 短剣型の聖雷剣。転移系の剣でありその触媒として炎を用いる。使い手には炎に焼かれることなく炎を総べる。炎上している場所ではこの剣の使い手をとらえることは不可能であろう。

 短剣でありながら、使い手を人よりも大きいドラゴンを選んだ。

―――――――――――――――――――――――――――」


 炎遠隔壁(ファイアウォール)はルードへと吸い寄せられるが、ルードには短剣を受け取れる小さな手は無いので口先で受け取った。


「聖なる雷の剣の使い手として、その尊き魂に恥じぬよう願う」

「グガァ」


 鎮也に対して誓いを立てると答えたようだが、口を開いてしまったのでくわえた炎遠隔壁を落としてしまった。


「ルード、もう少し落ち着いて物事を考えようね」


 予感していたトレイシアがルードの落とした聖雷剣を床に落ちる前にキャッチしてくれた。

 申し訳ないとルードは大きな頭をトレイシアに下げる。


「今度、ルード専用の鞘を作ってやるよ」

「すみませんシズヤさん、お願いします」


 このままでは剣をどこかに無くしてしまうので心配になる。


「これで譲渡は完了した」


 ここに人以外の使い手が誕生した。

 鎮也はドラゴン用の鞘はどんな形にすればいいのかと設計図を今すぐに作りた欲求に駆られたが、今日はすでに予定が埋まっていた。





 ルードの鞘の件はひとまず置いておいて、森の屋敷での要件を全て終わらせた鎮也たちは予定通り帝都へと戻ってきた。


「それじゃあ鎮也くん、行ってくるね」

「行ってまいりますマスター」


 これから咲耶とレオフィーナは冒険者ギルド本部へランクAへの昇進試験を受けることになっている。


「おう、後で応援に行くから頑張れよ」

「うん、応援よろしく」


 ネコットから今日聞いたばかりの話しだが、ランクA昇進試験の一次試験は冒険者なら誰でも見学ができるらしいので、鎮也たちは咲耶たちの応援に行くとにしたのだ。


 受験者は試験の説明を聞くために試験開始の二時間前には冒険者ギルド本部へ来るよう通達されている。


「シア、ネコット、マスターを頼みます。動かなくなったら多少強引に扱っても構いませんので」

「頑張ります」

「了解しました」


 何故か試験を受ける方よりも、応援する側が意気込んでいる。

 その理由は鎮也が試験が始まるまでの時間を利用して帝都の武器屋を見て回ろうと言いだしたからだ。帝都でどのように武器が進化を遂げているのか、職人として非常に興味を持っている。


 後学のためにも勉強に行くのは悪い事ではない、はずである。

 ただ武器屋に入るとテンションが上がって暴走する可能性がある鎮也を一人で行かせるわけにはいかないと咲耶はトレイシアとネコットに鎮也の見張りを頼んだのだ。


 トレイシアは武器屋で暴走した時に鎮也の失敗談を咲耶たちから聞いたらしく、暴走すれば必ず止めますと、とても気合いを入れている。


(いったいどんな話しを聞いたのか、聞いても教えてくれないし)


「武器屋に入った主様は面白い行動をするのですね」


 男装のままの案内役ネコットが手で口元を隠しながらフフフと笑った。


「お前も聞いたのか」

「はい、とても腹筋が鍛えられました」


 大笑いしたということか、ネコットを大いに笑わすとは一体どんな話しだったのだろうか。


「他にも面白い話しを教えてくれるなら、教えてさしあげますが」

「さらに笑われるだけだろ、それ」


 交換条件のように聞こえるが、それではただ鎮也が一方的にネタを提供しているだけだ。


「おや、わかってしまいましたか」

「ネコットさんが一緒だと心強いです」


 口論では間違いなくネコットの方が鎮也よりも上であった。嘘を見抜く咲耶がいなければ鎮也に勝ち目はない。


「私も暴走を止めるのに協力しますので、よろしくお願いしますシアさん」


 トレイシアとネコットが鎮也暴走阻止同盟を結んだ。


「シアとネコットに挟まれては流石のマスターも簡単には暴走できないでしょう」

「暴走を前提に話さないでくれ」

「所持金がもうほとんど無いんだから、ちゃんと我慢しないとダメだからね」


 そう、使える金貨の殆どをネコットの交渉費用のために渡してしまったので手持ちは底をついている。


 でも、欲しいものを見つけた時の高揚とか、シリーズ物を集めていた時に最後の一個を店頭で見つけた瞬間のコレクター魂を少しは理解して欲しいと鎮也は訴えたいが、訴えることはせずに腹の底に飲み込んだ。


 やらなければならない目的があるのだから、趣味は余裕ができるまで封印する。


「もちろん分かってるから、咲耶たちは試験の事だけに集中しろよ、受かれば報酬も出るんだから」

「お任せくださいマスター」

「でも、試験なのに報酬が出るって不思議ですよね」


 トレイシアが不思議に思うのも無理はないだろう、他のランク昇進時には報酬が入ることがないのだから、しかしランクA昇進試験は一次試験と二次試験に分かれており、二次試験は実戦試験でありランクAの依頼を実際に受けることになる。なので達成できれば報酬も支払われるのだ。


「なるべく短期で高額な依頼をクリアするから、買い物はその後だよ鎮也くん」

「咲耶はマスターに甘い」


 なんだかんだと言っても鎮也のわがままを最初に聞いてくれるのはいつも咲耶であった。


「すまんがよろしく頼む」


 現在期待できる鎮也たちの収入源は咲耶とレオフィーナだけ、鎮也自身はまったく関わっていないのでさすがに引け目を感じている。


「ヒモ男みたいですね主様」

「俺もそう思ったから、言わないでくれ」


 咲耶たちが昇進試験をクリアする前に、ある程度の資金調達方法を考えようと鎮也は心に決めた。






 咲耶、レオフィーナと冒険者ギルド前で別れた鎮也たちは、鎮也が希望した通り武器屋へとやってきていた。


 さっきまで釘を刺されまくったので流石の鎮也のテンションも下がっている。


「ここが私のおススメの武器屋です。歴史は五十年ほどで老舗なり立てと言ったところです。店舗の規模も帝都内では中堅ですが二代目店長は目利きで品物レベルはかなり高く、父キョットナも現在の店長の代になってから、聖雷剣を二振りほど譲ってもらっています」


 交渉人のネコットはおススメの店を詳しく解説してくれた。

 聖雷剣を譲ってもらっている。つまりここの店長は聖雷剣などのレア度の高い剣を入手できるルートを持っているやり手なのだろう。


「それじゃ、もしかしたら別の聖雷剣もこの店に」

「いえ、それはないと思います。それらしき剣が入荷されれば父の元へ連絡が来ることになっていますから」


 現在連絡はきていない。

 キョットナたちはこんな所にまで地道にコネクションを作ってくれていたようだ。

 改めて後で感謝の言葉を伝えないといけない。


「いらっしゃいませ」


 店の扉をくぐれば落ち着いた雰囲気の店員が迎えてくれた。

 ライトゥスで会ったやる気のない店主と違い、商売っ気に溢れている。


 聖雷剣が無いことに少し残念に感じながらも鎮也は聖雷剣も目利きできる店長の店は、どんな剣が並べられているのか期待に胸を膨らませた。

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