第75剣『通用門』
屋敷同士を繋げる魔道具、命名『通用門』は鎮也が宣言した通り半日で完成、とはいかなかった。
結局初日は太陽が沈んでも完成せず、咲耶とレオフィーナによって鎮也は自室のベッドまで強制連行された。
翌日も丸一日かけてようやく『通用門』が完成したのである。
「マスター、当初の予定よりもだいぶ時間がかかりましたね」
「ああ…………、作っているウチにな、追加のアイディアが浮かんでしまって」
当初の頭の中にあった設計図通りに作れば予定通りに半日で完成していのだが、何せ頭の中での設計図だ、簡単に書き直しができてしまう。
思いついたアイディアを試してみたと思うのは、きっと物作りに携わる者全ての性癖だろう。
「で、でも、その分満足できる性能は取り付けられたぞ」
「それは、まあ、そうだけど」
鎮也が当初考えていたのは、屋敷の部屋と部屋を繋ぐただの扉型瞬間移動装置だったのだが、アリアが悪用されることを懸念していたので、対策も組み込むのに時間が取られてしまったのだ。
都合のいいことに、使わずに残していた魔道具の中に個人を識別登録する物があったのだ。
これを活用すれば悪用対策は万全に仕上げられると張り切ってしまった。咲耶たちが止めてくれなければ間違いなく徹夜していた。
「それじゃもう少しで準備終わるからキョットナたちは一列に並んでくれ」
「は、はい」
ここは帝都側の屋敷の一室。そこにはキョットナを先頭にネコッタの一族、子供から老人までの六十人が廊下まで一列に並んでいた。
先頭にいるキョットナは鎮也が制作した通用門の前に緊張でガチガチになりながら直立不動になっていた。
「そこまで緊張しなくても大丈夫です。シズヤ様の製作した作品に失敗作はありません」
通用門の設定の補助をしているアリアがキョットナを落ち着かせる。
(いや、けっこう失敗もあるんだけど、今は言わない方がいいな)
失敗なくして発展なし、鎮也もチートな体を持っていたとしても最初からうまくいったわけではない。だが本当の事を伝えてみんなを怖がらせる意味も感じなかったので鎮也は黙って作業を続ける。
なぜここに鎮也の屋敷で使用人として働くことになったネコッタの一族が集められたのか、理由は通用門に取り付けた悪用対策の装置のためである。
この通用門には個人識別認証を組み込んだので、今からその個人登録をするところなのだ。ついでにこれから一緒に暮らすことになる使用人たちの顔を一度に見てしまおうと鎮也は考えていた。
キョットナの後ろにいる年頃の娘たちが鎮也を見て、アイドルでも発見したようにキャーキャーと騒ぎだした。
「あの御方が伝説の聖剣鍛冶師様」
「曾御爺様の言っていた通り凛々しい御方」
「見た、今少しだけ目があったよ」
これまで女性にこんな反応のされたことのない鎮也はお尻がむず痒くなる。
「よかったね鎮也くん」
「モテモテですねマスター」
咲耶は拗ねたように、レオフィーナは面白そうにからかってくる。
「伝説だって補正が入ってるんだろ。ネコッタからもいろいろ吹き込まれているみたいだし、今まで初対面の女性に凛々しいなんて言われたことないよ」
鎮也の姿はいつものツナギ姿である。自分でもファッションを意識していない自覚はあるのだ、聖剣鍛冶師というフィルターが無ければ騒がれることなどない、鎮也はそう結論付ける。
「そんなことありませんよ、私は牧場で初めて会った時から凛々しい方と感じましたから」
「そ、そうか」
鎮也の結論をトレイシアに否定されてしまった。
確かにトレイシアに初めて出会った時、彼女は鎮也の事を聖剣鍛冶師だとは知らなかった。
まっすぐな言葉に鎮也のお尻はさらにかゆくなった。
「鎮也くん、耳まで赤くなってるよ」
「うるさい。いいから、設置を終わらせようぜ」
「もう終わったよ」
鎮也をからかうチャンスなどめったにない咲耶がここぞとばかりに鎮也をからかったが、やることはちゃんとしていた。
「そこのお嬢様方、そろそろ騒がしくするのはやめなさい、シズヤ様の作業を妨害しないように」
年齢がそう変わらないメイドのアリアが鎮也を見て騒いでいる娘たちを注意した。彼女たちの多くがこれからこの屋敷のメイドとして働くことになっている。つまりこれからはアリアの部下になるのだ。
アリアも第一印象が大事だと普段以上に頑張っている。
「んじゃ始めるぜ、まずはキョットナから」
「は、はい」
キョットナが通用門の前に立つ。
門の左右に設置した装置を咲耶とアリアが操作をして一人ひとり、通用門への登録を行っていった。
六十人全員の登録もそれほど時間がかからずに終了。
森の屋敷の説明もかねて登録したもの全員で森の屋敷へとやってきた。
都会の真ん中から急に深い森の屋敷への転移に驚き、自分たちの仕えることになる主人が伝説の人物なのだと実感を持つ使用人たち。
窓から見える庭にあくびをしながら寝ている幼竜ルードを見て先ほど騒いでいた娘たちが悲鳴をあげたりしていた。
「ここがかつて、祖父が仕えていた聖剣鍛冶師様の工房屋敷」
キョットナが感動で震えだす。
「祖父がずっと帰りたいと望んでいた屋敷に我が一族は戻ってくることができたのですね。これは一族の悲願が達成された瞬間です」
周りもはばからずに泣き出してしまった。
先ほど紹介されたキョットナの妻がハンカチを差し出してあやしている。
「昨日から思ってたけど、キョットナってそうとう激情家だな」
「そ、そんなことはありませんよ、ただ、祖父からこの屋敷のことを聞いて育ったので、私たち一族にとって聖地であり、帝都城よりも憧れの場所なのです」
この屋敷は城よりもすごい場所だったのか。
握りこぶしを作り政治家のように演説されてしまった。
「それじゃ、キョットナとアリアは一緒に聖雷剣の大広間にきてくれ、シアは透徹と一緒にルードを連れきて」
鎮也の腰に提げられていた大十手の透徹が剣獣である一角兎へと姿を変えた。
せっかく森の屋敷へとやってきたのだから、時間は有効に使おうと鎮也はすぐに動き出す。今日は午後から咲耶とレオフィーナの冒険者ランク昇進試験があるので昼前までに帝都の屋敷に戻らなければならない。
「わかりました」
トレイシアは兎の透徹を肩に乗せるとルードを迎えに庭へと向かった。
残りの使用人たちの案内を咲耶たちに任せて鎮也たちは大広間を目指す。
「あの聖剣鍛冶師様」
「その呼び方長いから鎮也でいいぜ」
「そんな、恐れ多い、では旦那様と呼ばせていただきます」
あくまでも使用人としての節度は守る。こういうところはネコッタの血筋なのかもしれない。
「ネコッタからもそう呼ばれてたな」
「そうですね」
ふと昔の記憶が蘇り、アリアも頷く。
鎮也の感覚にしたら、まだ一カ月前まで一緒に暮らしていた使用人たちとの思い出なのだが、それでも懐かしく感じてしまうのは、レフティアや帝都の変りようを見て未来にきたと実感したからかもしれない。
「それで旦那様、我々はどうして聖雷剣の大広間へ赴くのでしょうか?」
「あれ、説明をしていなかったけ?」
咲耶たちはいつも必要最低限のことを言えば理解してくれていたので、説明を省く癖がついてしまったかもしれない。
「簡単に説明すると、せっかく取り戻した聖雷剣があるんだ、次は使い手に継承させてやろうと思ったんだ」
「はぁ、それはそうですね」
キョットナは聖雷剣の継承と自分がどんな関係があるのか今一つピンと来ていないようだ。
「キョットナさん、シズヤ様はあなたに聖雷剣を継承すると申しているのです」
「わ、わたしにですかッ!?」
砂の一粒ほども自分が継承されるなど考えていなかった反応だ。
「ここで恐れ多いとか言うなよ、本当はネコッタにも継承させたかったんだが、俺のミスで間に合わなかったけど」
今はネコットに継承している光太筆強は、ネコットに継承しようと想い制作した聖雷剣であったのだ。
「私は祖父の変わりという訳ですか」
納得した顔になるキョットナだが勘違いをしてはいけない。
「それは違うぞキョットナ、誰かの変わりに聖雷剣を継承させるなど俺は絶対にしない、剣にとっても相手にとっても失礼だろ」
三人は聖雷剣の大広間へと到着した。
扉をあけ中へ入れば、そこにはこれまで取戻しまだ使い手の見つかっていない聖雷剣たちが飾られていた。
「俺は、俺と剣たちが認めた相手にしか聖雷剣は継承させない」
「私などで、よろしいのですか?」
「もちろん、咲耶やレオナも同意見だ。キョットナには聖雷剣を継承できる素質がある」
性格にはあの六十人のネコッタの子孫たち全員に素質がありそうだが、今日会ったばかりでまだ個人個人とゆっくり話していないので今日の継承は見送っていた。みんなの性格を把握していずれは継承と考えている。
「…………」
言葉を返すことができないキョットナ。
「それではシズヤ様、私は部屋の外でお待ちしておりますので」
「何を言ってるんだ、アリアも継承するんだぞ」
だから案内を咲耶たちに任せてキョットナと一緒に来てもらったのだ。
「え、ですが、私はすでに二振りも使わせてもらっていますが」
「それを言うならシアなんて四振りも継承しているだろ」
そう実はトレイシアは竜交渉剣と三重奏剣に続き三つ目、四つ目の聖雷剣を継承していた。翼持つ悪魔像から奪い返した交渉剣と魔杖剣・魔型である。
もしかしたらと渡してみたら、聖雷剣の方がトレイシアを選んだのだ。
だから、三本目だからと気にする必要はない。
「どうも、この中の一振りがお前を使い手にしたいみたいなんだ」
「そうなのですか!?」
アリアも驚くが鎮也もこの事に関してはけっこう驚いていた。アリアの事を使い手と望んだ聖雷剣がちょっとアリアとは相性の悪い属性だったから。
「シズヤさん、お待たせしました」
話しているうちにトレイシアが兎の透徹の力を借りてルードと一緒に瞬間移動してきた。
ルードの体格では入り口は通れないので仕方がなくの緊急措置である。
「これで今回の継承者が揃ったな」
鎮也は二人と一頭を大広間の中央へ招くと心を落ち着かせる。
「目を閉じて心を穏やかに耳をすませるんだ、自分に騙り掛けてくる声が聞こえないか?」
すでに二振りの聖雷剣を継承しているアリアが手本を見せるように、波紋一つない湖のように心を落ち着かせる。
衣擦れの音一つしない大広間で、飾られまだ使い手の決まっていない聖雷剣の一振りが放電を始めた。
「やっぱり、アリアを選んだ」
鎮也が鑑定眼を発動させた。
「―――――――――――――――――――――――――――
聖雷剣シリーズ シリアル94
【名称】「アイロナー」
【和名】「火熨斗剣」
【製作者】星尾鎮也
【使い手】アリア
【分類】大剣 【レア度】☆☆☆☆(4)
【長さ】180センチ【重さ】3.4キロ
【聖剣核】ヘミモルファイト
【スキル】
『雷魔法(中)』…………使い手が雷魔法を扱えるようにする(効果:中)
『炎圧剣』……………刀身が過熱して超高温になり赤くなる。
『熱霧』………………熱を帯びたスチームを噴出する。
【補足】
刀身が熱により赤くなり、鋼鉄でも溶かしながら切断できるヒートな剣になる。大剣の形はアイロンの裏のような形状になっている。この剣の間合いに入った相手は武器や防具では斬撃を防ぐことはできないであろう。
またシワになったシャツなども加減してスキルを発動させれば、アイロンのようにシワを伸ばせる。
―――――――――――――――――――――――――――」
補足の最後の一行がアリアには一番役立ちそうな能力であった。
「まさか、アイロン替わりに使われることを望んだなんてことはないよな」
水辺の妖精族のアリアは当然、水系を得意としている。炎系の火熨斗剣とは相性がいいとは思えないが、聖雷剣自身がアリアを選んだのだから鎮也は細かいことは言うつもりはなかった。
「さて、続けて継承していこうぜ」
「私に本当にできるのでしょうか?」
次はキョットナの順番である。
手本で見せたアリアの継承が、かえってキョットナの委縮させてしまった。自分には剣の声が聞こえないと思い込んでいそうだ。
「心配無いって、アリアみたいに自分を呼ぶ声を聞いてくれ」
「わかりました」
「大丈夫だ、ちゃんと耳をすませば聞こえるって」
だって鎮也にはキョットナを求める聖雷剣の声が聞こえているのだから。




