第73剣『討伐による決闘』
目的の森へと到着したカナリーたち『真紅の秩序』のメンバー。
もっともフルメンバーが揃っているわけでは無く、決闘騒ぎを起こした本人たちカナリーとビンザス、それを止め仲裁したルーシアと途中合流のできた女性メンバー槍使いのカルメと魔物使いのギブリーナが付き添っていた。
「ビンザスがカナリーに勝負を挑むなんて珍しいわね」
こげ茶色のロングストレートヘアの槍使いのカルメがどこか疑惑の瞳でビンザスを見る。勝てない戦いからは徹底的に逃げてきた男が取り巻きも連れずに格上の相手に勝負を挑むなど、この男をよく知るメンバーからしたらとても怪しく映る。
「きっと、あの自慢の新武装が相当強かったんでしょ、あの剣を買うために借金したらしいし、いつもの取り巻きがいないのは返済のために駆け回ってるらしいわ」
あきれ気味でビンザスが一人の理由を教えてくれる前髪で片目を隠したショートヘアの魔物使いギブリーナである。
「私の魔物を買うために貯めてるお金にまで手を出そうとしたのよ」
ギブリーナは魔物使いでありながら今は魔物を連れていなかった。
少し前の高ランクの依頼で彼女の使役していた魔物は失われていたのだ。女性メンバーでレフティア行きを決めたさい、カナリーたちと別行動を取り帝都ロードイリアに残ったのは新しい魔物を探すためであった。
カルメも残り魔物探しを手伝っていたのだが、ギブリーナは新しい魔物を手に入れることはできなかった。
「こっちだってまだまだ資金不足で、魔物一匹手に入れることができてないってのに」
帝都では魔物を売買する魔物屋までもが存在していた。カナリーたちがレフティアに行っている間、ギブリーナは魔物屋を何軒も回ったそうだが、望んだ魔物は高額だった。
「レフティアで高額な報酬をもらったからそれを回せるわ」
「助かるよルーシア」
そして今回の依頼主もその魔物屋関係のモノであった。
「今回の依頼をスムーズに片づけたら、魔物屋にいいやつ注文できるかもね」
「ルーシア、交渉を頼むよ」
「頼まれました」
三人の女性は依頼を前にしても普段と変わらず冷静さを失っていないが、前方を歩く二人、とくにビンザスは同じ冒険団の仲間に向けるモノとは思えない敵意をカナリーへ叩きつけていた。
「ルー、もう一度依頼を確認させてやれ」
頭に血が昇ったビンザスが依頼を把握できているか心配になったカナリーの意見であるが、それがビンザスを不機嫌にさせる。
「必要ねぇよ、剣技大会用に輸送してた魔物をバカな魔物屋が逃がしちまったんだろ、それの討伐勝負だ」
「いや、あくまでも討伐までで、勝負は依頼に含まれてないからね」
ルーシアが一応訂正するが、聞く耳など持っていないだろう。
「わかってるよ、何度もしつこいぞ!」
「では、討伐する魔物の種類は?」
「…………チィ!」
答えが舌打ちで帰ってきた。
カナリーが確認してよかった。本当に依頼内容を漠然としか聞いていなかったようだ。
「今回の得物は豹柄恐竜ティラノレパード。討伐ランクはB、このランクにしては小柄の魔物だけど動きが素早く森の中で逃げ回れると仕留めるのは相当難しいわ」
「つけ加えると、一日に自分の体重の倍は捕食する魔物だから、帝都近郊の森に住みつかれたら旅する商人たちには迷惑この上ないわね」
魔獣使いのギブリーナが詳しい特徴を解説してくれた。
「と、討伐ランクがBだと」
本当に聞いていなかった男が一人。
「いまさら怖気づいたか、怖いなら帰っていろ足手まといだ」
「な、このオレ様を足手まといだと!」
カナリーなりの親切のつもりなのであろうが、言い方からビンザスには徴発になっている。
なぜこのような二人が同じ冒険団に属しているのか、カナリー、ビンザス、それぞれが冒険団を立ち上げていれば、どんな間違いが起こっても一緒になることはなかっただろう。
しかし二人が所属している『真紅の秩序』は先代メンバーが創設した冒険団であり、カナリーたちのその冒険団の若手であったのだ。カナリーは先代の団長に誘われて、ビンザスはランクAの名声に引かれて自分を売り込んできた。
それがつい先月、冒険者ギルド本部でもめったに聞かないSランク級の災害が起こり、その解決に赴いた主力メンバーは解決と引き替えに帰らぬ人となっていた。
中心メンバーが一気にいなくなった『真紅の秩序』は現在はもうランクAの戦力はないであろう。それでもSランクを達成した功績からランクAに留まることができている。だが、それも長くは続かない。
実力主義の冒険者社会。お情けが許されるのも永遠ではない、だからこそカナリーはランクにこだわり自分にも他人にも厳しくランクAであり続けようとした。
もうこの称号だけが先代たちの生きていた証だからと。
団長代理を引き受けてからカナリーは必死に冒険団のランクを守ってきた。だが団長の名乗ることを先代の団長に引け目を感じ代理のままだった。そこをビンザスや取り巻きに突かれ、団長はビンザスこそがふさわしいと言うようになっていた。
そろそろその状況に決着をつけなければならないとカナリー自身も考えている。
「そこまで言うなら、そのBランクの魔物をオレ様一人で倒してやる。テメェは手を出すなよ」
「いいだろう、そこまで言うなら最初は手を出さない、しかしランクAの称号を汚すような戦いをすれば即座に私がかたを付けるぞ」
「そっちの出番は一生回ってこないぜ」
顔に皺を寄せたまま、ビンザスは口をにやりと笑わせる。
「お二人さん、目標を見つけたよ」
魔物使いのギブリーナが討伐対象の豹柄恐竜ティラノレパードを発見。
「こっちに近づいてくる。あちらも私たちを得物ととらえたようね」
槍使いのカルメが槍を構えるがそれをカナリーが止めた。
「奴との約束だ、最初は手出しをしない」
「いいの?」
「あれだけの見栄を切ったのだ、初手は譲る」
「へん、初手だけで終わりにしてやるぜ」
ビンザスは背中から大剣を腰からは長剣を引き抜き二刀流の構えをとる。はたからは不格好な構えでバランスが悪くとても戦えるようには見えない。
「やっぱり二本とも灰色の剣、それにあの自信、もしかしてだよね」
ルーシアのビンザスの持つ剣が鎮也たちが探している聖雷剣でないかとの疑いがさらに強まる。これで本当に一撃でティラノレパードを倒したなら間違いなく聖雷剣と判断していいいだろう。
ビンザスの視界にも魔物がとらえられた。
豹の柄で高速移動する二足恐竜。体格は二メートル弱、ギブリーナの情報通りBランクの魔物としては小柄であった。だがその分俊敏性が高く、木々の障害などものともしていない。
ビンザスはティラノレパード正面に立ち待ち受け大剣を振り上げた。
「うおりゃ~~~~!!」
スキル『剛力』を発動、片腕で灰色の大剣を振り下ろした。しかし攻撃は当たることなく地面を叩き陥没させる。
「まだまだぁだ!」
避けた魔物に今度は長剣で斬りつけるが、それも避けられ体を回転させた魔物の尻尾で反撃された。
「グホ!」
腹を強打されたが、腐ってもランクBにはなったビンザスは踏みとどまり、更に大剣を叩きつけようと振りまくるが周囲を破壊するばかりで一度も魔物をとらえない。
そうこうしているうちに、スキルの乱発で体力を失ったビンザスの動きは目にみえて遅くなる。
「ちくしょうが、当りさえすれば勝てるのによ」
初撃で終わらせると豪語していたが、どんなに強い攻撃でも当たらなければ意味がない。一応スキルの『剛力』と組み合わせた大剣の破壊力はそれなりにあるのでティラノレパードも警戒して一気には攻めていないが、体力が無くなり、スキルが使えなくなればビンザスはそこで人生のエンドを迎えることになる。
「当りさえすればッ!!」
何を思ったのか、短期をおこしたビンザスがティラノレパード目掛け大剣を投げつけた。
「今だ!!」
わずかだが体制を崩させることに成功、大剣を放し身軽になったビンザスが長剣を両手に持ち替え、渾身の一撃をティラノレパードに首筋に叩き込んだのだが。
「バカなッ」
攻撃は間違いなくヒットした。だが、ビンザスの攻撃は薄皮一枚傷つけることができなかった。当っても倒せなかった、戸惑い硬直したビンザスは尻尾の攻撃を避けられずに吹き飛ばされ地面に叩きつけられる。
そしてティラノレパードは唾液が垂らしながら大口をひらくとビンザスを頭から齧り付こうとする。
「あ、ありえん、認めないぞ! こんなこと!!」
わめくだけで腰を打ち付け動けないビンザスの前にカナリーが割り込んだ。
「称号を汚すような戦いをするなと言ったはずだぞ、強い武器を持って自惚れたか」
ティラノレパードは割り込んできたカナリーを警戒して襲ってくるのをやめた。あきらかにビンザスを相手にした時よりも強く警戒している。
「手を出すなって言っただろうが!!」
「汚すような戦いをすれば割り込むと言った」
カナリーの眼中にはもうビンザスは映っていない、ランクAの冒険者として帝都に被害を及ぼす魔物と対峙していた。
睨み合うカナリーと魔物。
先に動いたのはティラノレパードの方であった。自慢の足を使い素早い動きでカナリーへと襲い掛かる。対するカナリーも大剣使いでありながら、その速度に付いて行った。
足を止めることなく激突する両者。
カナリーは爪を弾き、鞭のように迫ってくる尻尾を大剣を片手で振り、切り落とした。
ビンザスの時とは違い、ただ振り回すのではなく、はっきりとした大剣の技として片手でやってみせたのだ。これだけでも二人の実力の差がはっきりとわかる。
尻尾を斬られたティラノレパードは逃げに転じた。
カナリーの大剣を恐れて岩影に逃げ込むが、カナリーがこのまま逃走を許すはずがない。
「『雷速斬』」
大剣を両手で構えスキル『雷速斬』を発動、体が雷と化して岩ごと影に隠れていたティラノレパードを斬り裂いた。
振り抜いた姿勢で止まるカナリーの大剣からはバチバチと小さな電気が発生している。
「あれがカナリーのレフティアで手に入れた武器」
「すごいじゃないかい、これなら剣技大会も楽勝だね」
鎮也に改修してもらった剛剣ダイベルク改の威力を初めて見たカメルとギブリーナが驚き興奮する。
「この勝負はカナリーの勝ちだね」
「勝負、ああこれは決闘だったのだな」
カナリーはランクAの冒険者として魔物を倒すことに集中、それ以外の戦闘に関係無い記憶は脳の片隅の追いやっていた。そのためルーシアに言われてから決闘であったことを思い出した。
「ふざけんじゃね、今の勝負は無効だ、そんな強力な武器、反則だろうが!!」
「武器だよりに魔物を倒そうとした男が良く言うよ」
カナリーに勝てる自信を持っていたのは、あの二本の剣があったからだろう。当てが外れたようだが自分がやろうとしたことを反則だとわめいたところで、誰も賛同しない。
「ちくしょう、あの武器屋オレ様に贋物を掴ませるなんて、何が伝説の聖剣だ、安物の大剣に負けるなんてありえないだろうが!」
「私は贋物でよかったよ」
本物だったらビンザスから剣をどうやって取り上げようか真剣に考えていたルーシアにとっては、とても喜ばしい事であった。
「とにかく今回の勝負は無効だからな、団長候補ナンバーワンはオレ様であることには変わりないからな!」
ビンザスがカナリーへ指を突きつけ無効と訴えてきた。
まるで子供の癇癪だ。
「そもそも団長候補ナンバーワンは自称でしょ、私たちは最初からそう思ってないから好きにすれば」
もはやあきれるしかない、カナリーの変わりにカルメが答えた。女性陣は最初からお前を認めていないと。
「ちくしょう、女が調子に乗りやがって」
実力がすべての冒険者の世界で性別は関係ない。
ビンザスは落とした二本の剣を拾うと帝都へと引き返していく。
「ちょっとどこに行くのよ、解体手伝いなさいよ!」
Bランクの素材はそれなりのお金になる。報酬と合わせればしばらくの活動資金には困らない。だが解体は大変であり男手はあった方が助かるのだが。
「この武器を売りつけた店だ、叩き返して払った金を取り返す!」
解体を手伝い気は一切なかった。
「ルーシア、私が付いていくよ、あの様子だと武器屋の主人に襲い掛かるかもしれないし」
「悪いけどお願いギブリーナ」
魔物使いのギブリーナがビンザスの後を追いかけていった。買った武器にケチを付けて暴れるなど、真紅にとってはマイナスイメージにしかならない。
「なんだか私は解体のためだけに付いてきたみたいね」
槍使いのカルメが解体をはじめながら愚痴る。
「だったらギブリーナと交代してもらえばよかったのに」
「冗談でしょ、ビンザスと二人で街を歩くなんて御免よ、ギブリーナはよくあんな損な役回りを買って出てくれたわ」
あの男と二人で歩くくらいなら、魔物の解体を百体連続でやった方がましと言うのがカルメの意見であった。
「帰ったらギブに飯をご馳走しないとな」
「そのあだ名やめてあげたら、本人はあまり気に入ってないよ」
「そうなのか? では夕食のランクを上げて謝罪の意味も込めるとしよう」
勝負に勝ち、明るい雰囲気で解体を始める三人の女性、一撃でBランクの魔物が倒せたのだ。こんな芸当ができるのは帝都ひろしといえどもそうはいない、皇帝よりレア度の高い剣を授かった聖騎士やカナリーと同じく個人でランクAになった冒険者くらいしか同じことはできないであろう。
カナリーがソロで出場する剣技大会が楽しみになってきた女性陣。きっと観衆の度肝を抜き『真紅の秩序』の名は再び帝都に轟かせてくれるであろうと。




