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第72剣『交渉依頼』

 ネコット前に並び立つ鎮也、咲耶、レオフィーナの三人は継承の儀を開始する。


「我、聖剣鍛冶師・星尾鎮也と」

「七星剣第一星・レオフィーナ」

「七星剣第二星・桜咲耶は」


 三人がそれぞれネコットへと手を掲げた。


「「「汝を聖雷剣の使い手として認める」」」


 ネコットに握られた二振りの聖雷剣が星色に輝きだす。


「聖なる雷の剣の使い手として、その尊き魂に恥じぬよう願う」

「交渉人ネコットの名に誓って、聖剣に恥じる行動はとりません」


 星色の光はネコットを覆い体と一体になるように溶け込んでいった。


「これで譲渡は完了した」

「すごい、剣から力が伝わってきます。これが本領を発揮した聖雷剣の力」


 ネコットは光太筆強(ペンライトソード)を手の中で回転させてから瞬時の光剣を作り出す。展開速度はまさに光の速さであった。


「まるで手の延長のように扱える。このような剣を五百十二本も作り出すとは、伝説になるはずです。今なら魂魄をあなた様にささげた曾祖父の気持ちが少しは理解できます」


 光剣を消して万年筆に戻して胸のポケットへとおさめた。


「今頃気が付いたか、今からでも遅くない、聖剣鍛冶師様に謝罪をしてお世話役に戻る――」

「それはお断りします。私の夢は交渉人(ネゴシエーター)であり続けることなので」


 即効で拒否、曾祖父と気持ちは理解しても夢まではあきらめない。

 ネコットの中にはすでに揺ぎ無い信念が通っているようだ。


「マスター、この際のですので交渉人としてのネコットに仕事を依頼しては」

「仕事?」


 交渉人を必要とする要件などあっただろうか。


「私たちが帝都に来た一番の目的、皇帝との取次です」

「ああ、なるほど」


 ポンと鎮也は手を叩いた。ランクAになれば謁見可能にはなるが確実ではない。それなら別方向からのアクションを仕掛けることは良い手だ。


「なあネコット、俺たち皇帝と会いたいんだけど話し通してきてくれないか?」

「あのシズヤさん、頼み方と内容にギャップがありすぎませんか」


 まるで町会の会長に紹介してほしいみたいな軽いそうなノリで依頼する鎮也だが、その内容はとてもぶっ飛んだモノである。


「こ、皇帝ですか?」


 さすがのネコットも引き攣った顔になった。だがそれでもわずか一秒足らずで強靭な精神力を使いポーカーフェイスへと引き戻す。


「これはまたずいぶんと、私が受けてきた依頼の中で最大級の物ですね。どうして皇帝に会いたいか伺っても」

「宝物庫にあるかもしれない聖雷剣の事を聞きたいんだ、それであるなら返してもらう」


 返してもらう。すでに確定事項である。

 近隣諸国と比べても巨大な国力を持っている帝国の皇帝に対していっさい物怖じしていない。


「……伝え聞く以上にとんでもないお方だったのですね」


 謁見ですら難しいのに、宝物庫を見せろ、それで中の物をよこせ、どんな交渉をすればこんな条件を達成だきるのだろうか。


「一応謁見する方法はランクAに成ればいいって聞いたから、それで行くつもりだけど、皇帝に合ってからどうするかはまだ考えていない、できれば力押しはやめたいんだよな」


 あくまでもそれは最終手段、どうしようも無くなったら取るかもしれないが、後味も悪くなるしできればしたくない。


「マスターが正体を明かせば、先程のおつむの軽い殿下ならちょっかいをかけてくると思われます。それを理由に宝物庫を開かせれば」

「だから、そういうお約束展開にもっていくと結局最後は力押しになるだろ」


 この屋敷を明け渡せと言っていた殿下は、話し合いなどに応じるタイプには見えなかった。自分よりの弱い立場の人間は従って当然と思っているだろう態度、鎮也の正体をしれば過去の皇帝のように最強の剣を作れだとか、作った剣を全部よこせとか言ってきそうだ。


 そうなればまた帝国とケンカになるかもしれない。


「冗談です。流してください」


 レオフィーナは冗談であっても、本当に鎮也の正体が伝われば突っかかってきそうではある。

 鎮也の中であの殿下はブラックリストのトップに記載された。


「それでな、別の方法があるならネコットに依頼したいんだ」

「…………」


 ネコットは押し黙り返事がこなかった。


「あの~ネコットさん」


 さすがに難しすぎる注文だったのかもしれない。


「無理なら断ってくれていいぞ、さすがに皇帝に会いたいなんて難しいのはわかってるから」

「断る?」


 ネコットの目が深夜の路地で遭遇した猫のようにギラリと光った。これは今から縄張りを守るために戦いに赴くときの猫の瞳だ。


「断るわけありません、こんな高難易度な依頼、先輩の交渉人たちからも聞いたこがない、あの伝説の聖剣鍛冶師の代理人として皇帝と交渉して宝物庫を開かせる。こんなやりがいのありそうな交渉依頼は初めてです。血が沸騰するほどに騒いでいます」

「そ、そうか」


 鎮也が引いてしまうほどネコットは盛り上がっていた。

 さっきと違い本気のオーラが感じられる。


「普通ならば不可能ですが、聖剣鍛冶師がバックに付くならやってやれないことは無いでしょう。その依頼お引き受けしましょう、いえ、ぜひ私にやらせてください」

「そうか、助かる」


 これは以外に心強い味方を得たのかもしれない。


「つきましては準備と活動資金として、そうですね、根回しなどにもかかってしまいそうですし、金貨三百枚を用意してください」


 依頼した直後とんでもない金額が提示された。


「さ、さんびゃく!! ネコット、貴様、主様からお金を取る気か!!」

「当然です。これは交渉人として受けた依頼ですので」


 金貨三百枚とは大金だ、レア度4の聖雷剣も金貨百五十枚で買い戻すことができた。皇帝に会うにはそれだけ難しいのだろう。


「どうします。確かに冒険者ランクAになれば謁見申請はできますが、なり立ての新人Aに謁見の順番が回ってくるのはいつになるか分かりませんよ、早くても半年先です。運が悪い場合は一年以上先になるかもしれません」


 半年で早い方だと。

 鎮也は嘘であって欲しいと咲耶へ振り返るが。


「鎮也くん、ネコットさんは嘘言ってないよ」

「そうか~」


 願いかなわず本当であった。

 ここはもうしょうがないだろう。


「いいよな咲耶」

「しょうがないかな」


 鎮也は魔法のカバンから金貨の詰まった皮袋を取り出しネコットの前にドンと置いた。


「三百と少し入っているはずだ」

「これが全部金貨なんですか!?」


 口紐の間から覗かせている中には全てが金色の硬貨。

 娘と違いいちいちリアクションの大きいキョットナが驚きのあまりしりもちをついた。


「流石は聖剣鍛冶師、金貨三百枚くらいは簡単に用意できるのですね」

「そんなわけあるか、それがほぼ全財産だ」

「なんですと!?」


 レフティアで手に入れた金塊はオークションに出品されるかもしれない聖雷剣のために置いてきた。この金貨三百枚の殆どは、ギルドナイト救出の時に受け取った報酬分である。


 残りの手持ちは帝都までの旅の道中、入用な物を買い揃えて無くなっていた。


「まさか全財産を出会ったばかりの私に託してくれると」

「全財産っていっても、この屋敷とかはかけてないけどな」

「それでも所持金を使い果たすことには変わりない、私はそこまで信用されることをしましたか?」


 鎮也がネコットの胸を指差した。


「そいつが認めた人物だ、だから俺も信じる。それだけだ」


 ネコットの胸ポケットに収まっている聖雷剣がキラリと光った。


「…………なんと、まあ」


 目をぱちくりさせるネコット、鎮也が信じた理由はとても簡単であったが他人には信じられないモノでもあった。剣が認めた人物だから信じるなど。


「アハハハッ」


 クールなネコットが大口を開けて笑った。


「これは私が試していたつもりが、実は私が試されていたのですね、最高です主様」

「主様?」


 使用人になるのがいやで聖剣鍛冶師と呼んでいたネコットの鎮也へ対する呼び方が変わった。


「この交渉人ネコット、皇帝との謁見が叶い宝物庫を開かせるまで、あなた様専属の交渉人となりましょう。私もその依頼に全力で取り組みますので以後よろしくお願いいたします」


 胸の手を当て臣下の礼をするネコット、その姿は過去の執事長ネコッタに瓜二つであった。


「皇帝との交渉終わったらどうするのです?」


 レオフィーナが質問をすると。


「その時はきっと、もっと面倒でやりがいのある交渉事ができていると思いますよ。何せ伝説の主様ですから」


 この出会いの少し後にネコットは正式に冒険団『七星剣』へと加入する。






 鎮也たちが屋敷でネコットと話し合っていた同時刻、カナリーたち『真紅の秩序』メンバー数名が帝都近隣の森へと来ていた。


「まったく、ちょっと目を放した隙に決闘をはじめようとしてたなんて」


 カナリー団長代理補佐のルーシアが盛大なため息をつく、謝罪のために鎮也たちを探したが見つからず。肩を落として部屋へ戻ってくれば武器に手をかけ今にも戦いをはじめそうなカナリーとビンザスがいたのだ。


 なんとかいさめるも、二人の猛った怒りが収まらず、決闘ではなく魔獣討伐で勝負することになった。まだこの方が安全に決着をつけられる。


「ギルドにちょうどいい依頼があって助かったよ」

「いいのかビンザス、二日後にはランクA昇進試験が控えているのだぞ」

「へん、丁度いい肩慣らしよ」


 ルーシアの知らない大剣と長剣の二本を背中と腰に提げたビンザスが余裕の笑みを浮かべる。ルーシアたちがレフティアに遠征している時に手に入れた武器らしいが、これまでカナリーとの直接対決を避けてきたビンザスが正面から挑んでくるのはあの武器が原因かもしれない。


 贔屓目を抜きにしても戦いに関してはカナリーの方が実力が上なのはルーシアをはじめ真紅所属の団員全員が知っている。


「カナリーもいいの剣技大会に出るんだよ」

「それは来週の話だ、問題ない」


 剣技大会とは帝国最大の闘技場で年に一度執り行わる魔獣と腕自慢の集団が戦う催しモノである。参加者のほとんどは冒険者だが、中には名声を得ようと帝国騎士の若手なども参加する大きなイベント。


 訳あって名声が低下している『真紅の秩序』の名声を復活させるため、カナリーはただ一人、ソロで剣技大会にエントリーしていた。


 カナリーたちがレフティアに赴いたのも剣技大会に役立つ武器や魔道具を探すためであったのだ。


「レフティアに行ってよかった、想像を超える収穫があったからな」


 カナリーが収納の魔導具である指輪から鎮也に修復してもらった剛剣ダイベルク改を取り出した。

 磨き上げられた刀身はカナリーの自信にあふれる顔を映しだす。


「その安物の大剣が収穫かよ、帝国の一と呼ばれたオークション会もレベルが下がったんだな、それに引き替えオレ様は伝説の剣を二本も手に入れたんだぜ」


 上半身をひねり背中と腰の剣を自慢してくる。


「まさかその二振りで二刀流でもするつもりか」


 刃が広く重たい大剣は本来両手で使う武器である。それを片手で扱うだけでも難しいのにさらに長剣まで装備するなどバランスを崩しまともに扱えないだろう。


「並の冒険者には無理だろうが、二日後には最高の冒険者になるこのビンザス様にかかれば簡単なことよ」

「確かにあんたのバカ力なら振り回すことはできるかもね」


 ビンザスはスキル『剛力』を持っている。それを使えば大剣を片手で振ることはできるが、肝心の剣の腕自体は力任せの荒業なので二刀流をやっても子供のなんちゃって二刀流と大差ないレベルではないのか。


 ルーシアはビンザス自慢の剣を眺める。長剣の方は鞘に収まっていてわからないが、背負われている大剣は刃が見えており、その色が灰色なのが気になった。


 灰色に変色した剣を集めている人物をルーシアは知っていた。


「まさかね……」


 もしもそうなら、ビンザスを張り倒して剣を奪った方が真紅にとっては平和かもしれないとルーシアは考えたが確証が無いので我慢をした。


「もしあの人たちが探している聖剣だったら、今回の依頼ではっきりするはず」


 本物の聖雷剣ならカナリーが負ける可能性もある。

 ルーシアはいろいろな意味で、この対決を見守ることになった。

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