第70剣『聖剣討論』
屋敷内へと通された鎮也たち。
内装も外見と同じく昔のまま保存されていた。森の屋敷ほどではないがなしかしい記憶がよみがえってくる。この屋敷は帝国の活動拠点であり、森の屋敷を建築するまではここで生活をしていた。
森の屋敷が完成後も帝都で仕事をするときはここに寝泊まりしていた。
この屋敷をずっと管理をしてくれていた一族とは、やはり過去の使用人たちの子孫なのだろう。
「そう言えば、名前をまだ聞いてなかったな」
「そうですね、失礼いたしました暫定主様。自分はこの屋敷を管理責任者キョットナの娘、ネコットと申します。短い間になると思われますがよろしくお願いします」
主かもしれないから暫定主様。もし主じゃないと判明すればまた偽者に逆戻りだ。
「俺は――」
「本物なら星尾鎮也様ですね。こちらの部屋でまず簡単な確認をさせてもらいます」
この世界の者では珍しく鎮也の名前をちゃんと発音した男装の女性。
「ネコット、本当にいいのか、あのゴーレムを操作できたんだ、本物に違いないぞ」
「父上は黙っていてください」
先程のオドオドしながら殿下に対応していたのが現在の管理責任者キャットナのようだが、娘のネコットの方が責任者に見える。
「この百二十年間音信不通だった主様がいきなり帰ってくるのは怪しすぎます」
それについては鎮也も同意見。自分でも百二十年のほったらかしは酷いと思ってしまう。だからだろう、鎮也に失礼な態度をとっても咲耶もレオフィーナも文句を言わずに静かにしてくれている。
鎮也たちはネコットに促され案内された部屋に足を踏みえると、突如として床が無くなり地下へと落とされた。
振り返った鎮也は落ちる瞬間、ネコットの手に握られたキラリと輝く短剣が見えた。
「キャァァー!」
足場を失い落下する恐怖にトレイシアが悲鳴をあげる。
「大丈夫だ」
落下しながら姿勢を整えた鎮也がトレイシアを空中でキャッチするとトレイシアにケガさせることなく固い地面に着地した。咲耶とレオフィーナも危なげなく着地する。
「ここは、いったい」
同じ屋敷の中とは思えない、土色の壁に凸凹な地面、まるで洞窟のような周囲にトレイシアが目を見開き、いまだに鎮也に抱きかかえられえていることに気が付いていない。
「シアさん、そろそろ離れてもいいと思うな」
「え? あ、ご、ごめんなさい」
トレイシアは慌てて鎮也の腕からから降りた。
「そこでやきもちを焼く咲耶はカワイイです、とても微笑ましい」
「レオナ!」
「お約束の反応ありがとう」
からかわれ怒る反応までがレオナにとってのお約束であった。
『さすがです暫定主様方、この状況になっても余裕を崩さないとは』
落ちてきた天上はいつの間にかに塞がっており、ネコットの声がどこからともなく聞こえる。まるで洞窟全体から響いてきているようだ。
「これが、主かどうかの確認なのか」
『はい、第一関門です。本物の主様ならこのくらい楽に突破できるはずですので』
それだけ言い残すと声は聞こえなくなった。その代わりに魔物の気配がいきなり現れる。
「マスター、これはアレですよね」
「そうだな……」
「鎮也くんが悪乗りして作った『これって魔剣じゃないの』シリーズだね」
「咲耶、そのネーミングはやめてくれ」
そんな余裕の会話をしていると前後から土の体を持つ魔物たちが現れた。
「なかなかいいじゃないか」
「シズヤさん、罠に落とされたのに嬉しそうですね」
鎮也たちの実力を把握しているトレイシアもこの程度の状況では恐怖は感じなくなっているが、嬉しそうな雰囲気の鎮也に疑問を持ったようだ。
「まあ、鎮也くんの気持ちはわかるかな」
「そうですね、なにせ初めてのことですから」
咲耶が前のレオフィーナが後ろの魔物たちを一撃で吹き飛ばす。
「何が嬉しいのですか?」
「それはな」
鎮也が大十手透徹を取り出すと、何をするかそれだけで理解してくれた三人娘たちは鎮也の空いている片腕を握った。
透徹のスキル『瞬間移動』を発動させると先程の落とされた部屋へ四人は戻ってくる。
「ちゃんとした使い手に聖雷剣が渡っていたのが嬉しいのさ」
突然戻ってきた鎮也たちに今までポーカーフェイスを貫いてきたネコットもはじめて驚きの表情となる。
彼女の手には落ちる前にも見た一振りの短剣が握られている。
鎮也は鑑定眼を発動させた。
「―――――――――――――――――――――――――――
聖雷剣シリーズ シリアル202
【名称】「コアメーカーⅡ」
【和名】「迷宮創造剣・二型」
【製作者】星尾鎮也
【使い手】ネコット(仮)
【分類】短剣 【レア度】☆☆☆☆☆☆(6)
【長さ】48センチ 【重さ】0.7キロ
【聖剣核】スピネル
【スキル】
『雷魔法(中)』…………使い手が雷魔法を扱えるようにする(効果:中)
『迷宮作製』…………ダンジョンを作製できる。
『魔物製作(地)』………ダンジョン内だけで活動できる地属性の魔物を作製できる。
『罠作成』……………ダンジョン内に罠を作れる。
『迷宮監視』…………ダンジョン内を監視できる。
【補足】
迷宮創造剣の二型。完成した初期の迷宮創造剣が気にいた聖剣鍛冶師鎮也は同系列の聖剣を何本か製作した内に二本目。従者である咲耶からは『これって魔剣じゃないの』シリーズと命名された。ダンジョンは異空間に作製されるため場所を選ぶ必要もない。
聖雷剣が使い手を認めているため、継承はされていないが力が減少することはなかった。
―――――――――――――――――――――――――――」
「やっぱり認められてたな」
トレイシアの三重奏剣の時と違い最初から認めた使い手とめぐりあっていた聖雷剣は灰色に変色することなく百二十年前の姿で残っていてくれた。
鎮也にとってそれがたまらなく嬉しかった。
「まさかここまで簡単に突破してくるとは、今まで門をくぐり抜けた者たちは何人かいましたが、迷宮を突破したのはあなた方が初めてです」
「やっぱり本物だったんだ、ネコット、早く謝罪をするんだ。この方たちこそ我々が待ち望んでいた主様だぞ」
顔どころか全身からヒア汗を出したキョットナが両膝をつき土下座のポーズをする。
「大変申し訳ありませんでした!!」
「まだです父上、自分はまだこの方たちを主とは認めていない」
「ネコット!?」
父親であるキョットナは一緒に謝るように言うが娘ネコットは拒絶した。
「外のゴーレムは起動用の魔法陣を書き換えただけ、腕のいいゴーレム職人なら理論的には可能です。ダンジョンを脱出したのも転移系の魔道具を持っていれば説明できます」
「疑り深いな、それじゃ何をもって証明すればいい?」
鎮也はネコットとの掛け合いを楽しんでいた。
過去の時代、鎮也に仕えてくれた執事長ネコッタという人物がいた。きっと彼女たちはネコッタの子孫だ。雰囲気がとてもよく似ている。特にネコットの胸のポケットに差し込んだ万年筆をいじるしぐさなどネコッタと勘違いしてしまいそうなほど、そっくりであった。
彼は間違ったことなら例え主でも遠慮なく物言いをつけてくれる性格をしていた。今も頑なに鎮也たちを信じないネコットもネコッタを想い起させる。
「最後は討論でいきましょう。自分が聖剣鍛冶師でなくては答えられない質問をします。それに正解すれば暫定主様の暫定をお取りしましょう」
「いいぜ」
部屋の中央に置かれたテーブルとイス、鎮也とネコットは対面で腰を下ろした。
咲耶たちは鎮也の後ろに、キョットナはネコットの後ろにそれぞれが立つ。
「質問は三つ、それにより裁かれるのはあなたか自分かが決まります」
ネコットは鞘に納めた迷宮創造剣・Ⅱ型をテーブルに置くと鎮也の方へ滑らせ自分は何も武装していないとアピールする。
「この通り、私は武器を放しました。決着はあくまでも討論でいきましょう」
「了解、咲耶持っててくれ」
「はい」
鎮也もベルトから透徹を抜いて咲耶に手渡す。
「では、さっそく問いの一。聖剣鍛冶師は雷の力を宿した聖剣を製作しました。雷属性の魔法自体が伝説の属性と伝えられているのに、その聖剣の使い手に選ばれた者は魔法の才能が一切なくても雷魔法を使えるようになるとか」
「その通り」
聖雷剣には雷魔法が使用できるようになるスキルが備わっている。だからこそ聖雷剣と名付けたのだ。
「その聖剣の素材となる金属はなんですか?」
良い質問かもしれない、それは製作した本人である鎮也と製作に携わった仲間しか知らないことだ、聖剣鍛冶師のファンであったトレイシアでも知らなかった話である。
「星色の合金鋼、オリハルコンとミスリルを精霊の釜で混ぜ合わせてた金属だ。この調合方法を知っていた最後のドワーフが亡くなり、もう二度と手に入らない金属であり、例え聖剣鍛冶師であっても新たな聖雷剣を生み出すことは不可能」
「そうなんですか!?」
驚きの声を上げたのはネコットの後ろに立っていたキョットナ、どうやら彼らが知らない情報が含まれていたらしい。問いの答えは星色の合金鋼とだけ答えればよかったようだ。
「その反応は、正解と受け取ってもいいのか?」
「そうですね、我々は金属の名前しか知りませんでした。まさか製造方法や製作者の情報まで出てこようとは、我々がそこまで詳しくなくて良かったですね。確認する方法がありません」
出題者も知らない回答、これでは証明になるか微妙。答え過ぎたがためにかえってあやしくなったのか。
「では問の二、その製作された聖雷剣の正確な数は?」
今度は簡単すぎる問題になった、聖雷剣の数ならトレイシアが持っている絵本『救国の英雄譚』にも載っていた。
「五百十二本だ」
今度は答え過ぎないように端的に回答した。
「正確です」
「これで証明になるのか?」
問いの一と二の落差があり過ぎる。残り一問で本当に正体を見破るつもりなのか、鎮也にはネコットが別の目的を持っているように感じられた。
「ご心配無く、今の質問は次の問い三への布石です。では最後の問い三、製作者ならもちろん五百十二本全ての聖雷剣を把握していますよね」
数が多くとも一振り一振りに思い入れや思い出がある。
それを忘れることなど無い。
「もちろん、すべて把握している」
自信を持って断言すると、ネコットが動いた。
「でしたらこれも、知っていますよね!!」
ネコットが胸ポケットの万年筆を抜き鎮也へ斬りかかる、ペン先からは光の刃が伸び、鎮也の首を落とす勢で振るわれる。
だが鎮也の首が胴体から離れることは無かった。
「当然知っているさ、このオジロをモデルにした聖雷剣だ」
鎮也の首にネコットの光剣が当たる前に、レオフィーナが割り込ませたオジロの光剣が受け止めていた。
例え光の速さの斬撃だとしてもレオフィーナたちが自分たちの目の前で鎮也への攻撃を許すはずがない。
鎮也は鑑定眼を発動させる。
「―――――――――――――――――――――――――――
聖雷剣シリーズ シリアル220
【名称】「ペンライトソード」
【和名】「光太筆強」
【製作者】星尾鎮也
【使い手】ネコット(仮)
【分類】特殊光剣 【レア度】☆☆☆☆☆(5)
【長さ】16センチ 【重さ】0.4キロ
【聖剣核】ダイヤモンド
【スキル】
『雷魔法(中)』……使い手が雷魔法を扱えるようにする(効果:中)
『光魔法(中)』……使い手が光魔法を扱えるようにする(効果:中)
『光剣』……………ペン先から光の刃が伸びる。
『魔文字』…………書いた文字や模様に魔力を込められる。
【補足】
万年筆型の剣。光剣はオジロがモデルとなっている。ペンとしての機能はインクの変わりに魔力を帯びた墨が入れられておりこの剣で製作した契約書などには強制力を持たせられる。もし契約に違反した場合は天から雷が落ちるであろう。
正式な継承はされていないが、剣は今の持ち主を使い手として認めている。
―――――――――――――――――――――――――――」
「暗器として作ったつもりはないけど、不意打ちには最適だよな、でも俺たちには通用しないぜ」
最初に迷宮創造剣・Ⅱ型を放したことで武器がないとアピールしてからの不意打ち、もし鎮也たちが万年筆に気が付かずにいれば首は飛んでいたかもしれないが、そんなことはない。
「俺たちは『七星剣』、本物の聖剣鍛冶師だからな」
鎮也は口元を吊り上げニヤリと笑った。
「どうして命を狙われてそんなに落ち着いているのですか?」
常識的感覚を持っていれば命を狙われて喜ぶ者などいない。
なのに鎮也が誰が見てもわかるほど喜んでいた。
「どうしてって、嬉しかったからかな、この時代にきて初めて聖雷剣を灰色にしていない使い手に出会えたんだから」
この光太筆強もネコットを使い手として認めていた。
「さて、これで討論はクリアでいいのか?」




