第69剣『過去の忘れていたモノ』
不思議な占い師の少女に占ってもらった鎮也たち四人は内壁の中にいた。
「内壁の中にも普通に入れるだな」
内壁の門の前には堀があり橋を渡らなければ入れないが、入門規制などは存在しなかった。一応の門番らしき兵は立っていたが、挨拶程度で素通りである。
「昔は内壁の中だけが国でしたから」
トレイシアが簡単にヴィレック帝国帝都の外壁建設の経緯を話してくれた。
人口が増え、壁の外にまで街が広がり、外壁は外にできた居住地を守るために建設されたらしい。
「それで咲耶、あの占い師の子の示した場所はまだ先なのか?」
「うん、内壁の中の東の端だって、もう少し先かな」
占ってもらった咲耶を先頭に内壁の中を進む一行。さすがに誰でも入れると言っても、内壁の中は外の街と違い豪華な建物が並んでいた。きっと貴族やお金持ちの商人などが住居を持っているのだろう。
見かける商店も高級感があり、市場のように外まで品物を並べることなく、店内にすべての商品を納めている。区画整備もきちんとされており、向かいたい方角に迷うことなく歩いて行ける。
鎮也たちは咲耶の案内で東の端へ。
「東の端?」
鎮也は何かが頭の片隅に引っ掛かった。
(その場所ってなんかあったような~)
思考を巡らせるが出てこない、何かを忘れているようだが、記憶がぼやけてうまく思い出せない。
「マスターどうかしましたか?」
「なんか、忘れてるような気がするんだけど、思い出せない」
「忘れているですか、そう言えば……」
レオフィーナも鎮也と同じように頭をかしげた。彼女また何かを忘れているような気になったらしい。
「咲耶は心当たりないか?」
「一つ、もしかしたらってモノはあるけど、まさか百二十年も経ってまだ残っているなんて思えないけど、でもあの子は忘れたモノが見つかるって言ったし」
咲耶は占い師の少女から教えてもらった場所に思い当たるモノがあるらしい。
「あの角を曲がった辺りで見えると思うけど」
「あ、あの先は」
「シア知っているのか」
何故か鎮也たちよりトレイシアに思い当たるモノがあったようだ。
「この先に帝都で有名な観光名所がありますよ。もしかしたらシズヤさんたちの忘れたモノってアレのことかも」
「アレ?」
角を曲がった先には古く趣のある屋敷と、その屋敷の鉄格子の門の前に豪華な馬車が停まっていた。
「何度言えばわかるのだ貴様らは! この我を誰だとこころえる!!」
おそらく豪華な馬車の持ち主だと思われる高貴な服の青年が、鉄格子越しに中年男性と青年、いや、男装をしたショートカットの女性を怒鳴りつけていた。高貴そうな青年の周りには兵士とは違う統一された鎧も纏う男たち、おそらく帝国の騎士たちが十人ほどいた。
「も、もちろん、心得ております、バルノフ殿下」
どうやら高貴な服の青年は皇帝の血縁らしい。中年男性は萎縮しながら答弁している。
「シズヤさん、バルノフ殿下は、皇帝の第二子にあたるお方です」
「なるほど、レオナのお約束が正反対のイベントとして遭遇したのか」
「マスターこれがお約束だなど、私は認めません」
馬車に乗った姫ではなく殿下が、襲われるのではなく、住民をある意味襲っているように見えなくもない。
「このバルノフが命じているのだ、すぐに門をあけてこの屋敷を我に明け渡せ、今日からここはオレの屋敷とする」
どうやら無理やりバルノフ殿下が屋敷を徴発しようとしているようだ。御付の騎士たちが腰の剣に手をかけた。
「お、おやめください殿下」
「煩い、この屋敷は兄上ですら手に入れることができなかったのだ、それを我の物にすれば我が兄上をよりも優秀だと証明できる!」
中年男性は必死で殿下を説得しようとしているが、聞く耳を持ってもらえないようだ。騎士たちが剣を引き抜く。
「愚かな」
今まで黙っていた男装の女性がぽつりとつぶやいた。
同時に屋敷の中から二体のゴーレムが立ち上がった。いくら鍛えた騎士であろうとも十人足らずの人数で二体ものゴーレムを相手にするのは無理がある。これでは力押しはできない。
「あれは」
過去の時代に鎮也の森の屋敷にもあった警備用ゴーレムとまったく同形のタイプ。鎮也が改修したマルチゴーレム一号機リリィのベースになった機体だ。
「あ、思い出した」
その二体のゴーレムを鑑定眼で見て、鎮也はずっと引っ掛かっていた事を思い出した。
「――――――――――――――――
【名称】帝国製警備用ゴーレム
【製作者】スハル・ロパライト
【所有者】星尾鎮也
【分類】警備用ゴーレム【レア度】☆☆(2)
【全長】270センチ 【重さ】3.8トン
【魔導核】帝国製ゴーレム核m1
【スキル】
『自立警備』…………定められた対象を次の指示があるまで守り続ける。
【補足】
百二十年前帝国一と呼び声高いゴーレム職人が作り上げた最高傑作、ボディの素材が現在では入手困難なため今では製造できないといわれ、対人戦においては現在でも通用する戦闘能力を有している。
百二十年前、所有者である聖剣鍛冶師鎮也から屋敷を守れとの命令を今でも遂行中。
―――――――――――――――――」
あのゴーレムは鎮也の所有物であった。
百二十年経ってもまだ現役で稼働していた。
「こ、皇帝の血を引くこのオレに武器をそれをゴーレムを向けようというのか!!」
「その皇帝から許しを頂いています」
例え皇族が相手であると臆することなく男装の女性は言い放った。
「ここは百二十年前より聖剣鍛冶師所有の屋敷、戦いで敗北した皇帝より謝罪と賠償として永久にこの屋敷と土地が与えられた治外法権地です。殿下であろうと手を出すことは許されていない、御兄上が手を出せなかった理由を調べなかったのですか?」
バルノフの兄上、つまり皇太子ですら手出しができない屋敷。それをたった十人程度の騎士たちを引き連れただけで奪えると思ったのであろうか。
「知るか、単に観光名所の古い屋敷だろうが」
「勝手にされただけです。ここは昔も今も聖剣鍛冶師鎮也の所有地、それ以外ではありません」
どうやら鎮也の屋敷は百二十年の間に帝都の観光名所になっていたらしい。聖剣鍛冶師のファンであったトレイシアが知っていたのも納得できる。
「やっぱりここ、俺の屋敷だったんだ」
忘れていたこの屋敷のこと自体、百二十年もの時間がたっているので、当然無くなっているものだと無意識に思い込んでいたのかもしれない。
二体のゴーレムが門を飛び越え騎士たちを囲むように着地する。
「先に剣を抜いたのはそちらです。その時点でこちらには攻撃する権利が与えられました。身を守るために」
「くっそ、引き上げだ」
ゴーレムに睨まれたバルノフ殿下は馬車に飛び乗るとゴーレムの間を縫って逃走していった、取り残された騎士たちは慌てて殿下を追いかけていく。
「まだこの屋敷が残ってたんだな」
破壊された森の屋敷と違い、この帝都の屋敷は当時のまま保存されていた。占い師の少女が言っていた忘れたモノとはこの事だったようだ。
「なんですかあなたたちは、観光の方ですか」
殿下がいなくなったので門へと近づいた鎮也たちに先程の男装の女性が迷惑そうに声をかけてきた。一緒にいた中年男性もまたかといった顔をしている。
「勝手に観光の名所にされているようですが、ここは本来ある偉人の屋敷で管理している我々は観光地として認めていません。早急にお帰りください」
観光客と勘違いをされてしまった。
「早急に帰れ、か。一応帰ってきた事になるんじゃないかな、俺たちは」
「はい?」
予想外の返答に男装の女性は首をかしげた。その仕草はかつて森の屋敷で仕えてくれた執事の一人とそっくりであった。
「ここ、今でも俺の屋敷なんだろ」
「まさか、あなたが伝説の聖剣鍛冶師だと言うのですか?」
驚くのもしかたがない。管理している人たちだってもう屋敷の主は戻ってこないと思っていただろう。
それなのに屋敷を管理してくれていてありがたい限りである。
「また、ですか、最近は減ったと思っていたのですが、まだ、こんなことをする勇気のある者がいようとは」
「勇気がある者?」
それは勇者のことであろうか。
「ああ、噂で聞いたことがあります」
「どんな噂ですかシア」
「聖剣鍛冶師の帝都屋敷を守る一族がいると、これも噂ですが屋敷を手に入れようと聖剣鍛冶師を騙る偽者を撃退しているとか」
撃退とは物騒な噂であった。
「聖剣鍛冶師の名を騙ることは、この帝都では皇帝の名を騙ることとほぼ同罪として扱われます。あなたたちもふざけたことを口にしないで、早々に立ち去りなさい、今ならまだの見逃してあげます」
完全に偽物と断定された。
「早く立ち去りなさい、偽者たちは一人残らず騙ったことを後悔して帝都から姿を消しているのですよ」
騙った者たちがその後どうなったのか鎮也は聞く勇気がもてない。男装の女性のシニカルな笑みに背筋が冷えた、つまり勇気がある者とは悲惨な噂を聞いてなお偽者だと騙ることのできる勇気だったのだ。
好意で見逃してくれるそうだが、偽者でもないのに騙ったと決めつけられるのは心外である。何か証明する方法はないかと考えた鎮也は、さきほどバルノフ殿下を退けた警備用ゴーレムが目に付いた。
「警備命令解除、待機しろ」
ゴーレムたちは鎮也の命令を聞き、警備モードを解除し門の横に直立して待機の状態に入った。
「なッ」
男装の女性と一緒にいた中年男性が驚きで喉を詰まらせたような声を出す。このゴーレムたちに命令できるのはこの屋敷の持ち主であった聖剣鍛冶師だけ。
「これで俺が偽物じゃないと証明できたかな?」
「なるほど」
男装の女性は一度目を閉じてから頷いた。
「面白い、今回の偽者はそれなりに聖剣鍛冶師のことを調べてきたようですね」
「あれ?」
ゴーレムを操作して見せても本物だと信じてもらえなかった。
「いいでしょう。お入りください、暫定主様。あなたがこの屋敷の主である可能性を討論いたしましょう」
門が開き、招き入れられるがそれはまだ主だと認められたわけではない。




