第65剣『ギャップッレシャー』
地上には寝てしまった幼竜の面倒をみるために、見張りも兼任してトレイシアとレオフィーナに残ってもらい、カナリーと捕まっていた人たちを迎えに行くために、鎮也たちは地下へと続く階段を降りた。
すぐに戻るつもりが戦闘になってしまい大分時間がたってしまった。
また文句を言われてしまうかもと覚悟した鎮也だったのだが。
到着してみれば、とてもご機嫌なカナリーさんが待っていた。
大剣を握るカナリーと捕まっていた十二人の人たち、そこまでは鎮也たちが出て行く前と同じなのだが、追加で倒れているギガントオーグルがいた。
見事に一刀のもと斬り伏せられている。
「おお、貴公たちか、ルーシアも呼びに行ったにしては遅かったな」
結論から言えば、捕まっていた十二人はイクスの確認で全員がギルドナイトであると判明、その全員が衰弱はしているが生きていた。彼らを捕らえていた紫の水晶はギルドナイトたちから魔力を吸い出していたようで、殺さないギリギリの状態を保ち、永続して吸収していたようだ。
生きていたのは運がよかったのではなく、殺さずにずっと飼い殺しにされていたのだ。それでも衰弱はしていく、救出があと数日遅れていれば死者も出ていた。
生きている間に救出できたのは喜ばしい事実であったが、それよりも、斬り倒されているギガントオーグルのインパクトが強かった。
「カナリー、それはいったい?」
「依頼中は団長代理と呼べと言っているだろ」
注意を口にするが、その顔には厳しさはなく喜びを隠しきれていない。ゆるみそうな口元を必死で我慢しているようにも見える。この砦にたどり着く前のカナリーには間違いなく一人でギガントオーグルを倒す力は無かった。
このギガントオーグルはおそらく幼竜と目を合わせて逃げて行った固体だろう、そいつが、鎮也たちが使った隠し通路を逆走してここまでたどり着いたと推測できる。扉は開けっ放しで閉じていなかった。
それが運悪く一人で待っていたカナリーと遭遇してしまった。
昨晩はあれだけ苦戦した相手だというのに、ギガントオーグルを一撃で倒している。
「貴公が直してくれた大剣のおかげだ、感謝する」
「シズヤ様に剣を直してもらったんですかッ!?」
クラネットが叫ぶような驚きの声をあげた。
「様付けはやめてください」
屋敷で働いてくれいるメイドならともかく同業者から様付けで呼ばれるのは勘弁してほしい。鎮也の背中や首筋がむず痒くなる。
「あの、えっと、私たち今は金欠状態で、あなたほどの人に剣を直してもらう費用が、ちょっとたりなくて、でも絶対払うから、少しまってもらっても……」
ルーシアがヒア汗を垂れ流しながら、修復費のツケをお願いしてくる。
伝説の聖剣鍛冶師、帝都で活動している一流の鍛冶師よりも料金が上だと想像してしまったのだろう。
鎮也としては別に料金を取るつもりはなかった、素材を妥協してただの石を使ってしまったのだ。それなのに金などとれるわけがない、反対に魔核を持っていたのを忘れていたことに申し訳なく感じている。
「何を言っているルーシア、これだけいい剣に作り直してくれたのだ、ランクFである彼を支援するためにも、多少は色をつけて払うべきだ、街に帰れば報酬も出る。それで払えばいいだろう」
「も、もしかして、パワーアップまでしてもらったの?」
ルーシアが油が切れたブリキのように首をギギギと軋ませながらカナリーへと振り返る。
「ああ、スキルを一つ追加してもらった。見ろ、そのおかげでBランクの魔物も一撃で倒すことができた」
ギガントオーグルの前で大剣を掲げ胸を張る。
「スキル追加ですって、それって失われた過去の御業じゃない、そんな技術に一体いくら払えばいいのよッーー!!」
魂の絶叫が轟く。ランクAであるはずの『真紅の秩序』はランクに見合わず金欠らしい。
「ああ、スキル追加の技術って失われてるんだ」
過去の時代には数人ではあるが鎮也以外にもできる職人はいた。やはり、元鉱山街ライトゥスでも感じたことではあるが、量産の技術が上がった変わりに個々の職人の技術は下がってしまったようだ。
「あ、あの、ホントに申し訳ないのですが」
絶叫に元気を使い果たしたルーシアは借金取りに奴隷として売られていく村娘のように萎縮しながら鎮也に懇願してくる。
「別にいいですよ代金は、スキル追加の事を黙っていただければ、今回はサービスってことで」
失われた技術を持っているなどと知られたら、煩い連中に付きまとわれそうだ。
「あ、ありがとうございます。決して誰にも話しません、墓の底まで持っていきます」
「鎮也くん、これから鍛冶仕事するときは周りに気を付けないとダメだよ、思いつくと周りが見えなくなるんだから」
「以後気を付けます」
いいことをしたつもりだったが、咲耶に怒られてしまった。確かに雷鎚による鍛冶仕事は人に見せるのはまずいかもしれない。
「サクヤ殿」
カナリーは今度は咲耶に話しかけてきた。
「昨晩は失礼した」
「昨晩?」
突然の謝罪、咲耶には何を謝れているのかわからないようす。
「テントの中で彼に冒険者はやめた方がいいと失言してしまったことだ、設備もない屋外で鍛冶仕事ができるなど、そうとうな技術だ、これなら冒険者に帯同してもおつりがくる、例えそれがランクFだとしても」
「わ、わかってもらえればいいですよ」
「ちょ、カナリー!!」
「団長代理と呼べ」
鎮也が聖剣鍛冶師だと知っているルーシアと知らないカナリーでは鎮也の見え方がまったく正反対であった。大剣を修復している間はカナリーは意識を失っていたので鎮也の雷電鍛冶は目撃していない。
それにかつてはランクSにまで登りつめた存在、実力的にも自分たちより上なのである。
「何が団長よバッカナリー!!」
「誰がバカナリーだ」
「あんたよあんた!」
低レベルな喧嘩をはじめてしまった二人はとりあえず放置して、鎮也たちはギルドナイトたちを外へと運ぶことにする。もう正体がバレたのだからと鎮也が透徹の瞬間移動で簡単に砦の庭へと運び出した。
意識の戻らないギルドナイトたちを丁寧に馬車の荷台に乗せ、動かないように体を固定させる。人数が多いのでかなり狭い。
六台で来た馬車の内、二台は『梟の暗視』が持って行っておそらく悪魔像に破壊されてしまっただろう、一台は魔獣用なので、残りの三台に押し込んだ。
「しかし瞬間移動ですか、便利ですねシズヤ殿の能力は、でもさすがにレフティアまでは無理ですよね」
それができれば楽で昏睡している仲間たちを早く運べるのにとイクスは残念な色をうかべるが。
「できますよ」
「できるんですか!?」
魔法にも瞬間移動できるものがある。有名なのでは影魔法の影から影に移動するモノだが、それは多くても二~三人が限界だ。でも鎮也の透徹は触れてさえいれば何人でもできる。ここにいる全員で手をつなげば瞬間移動はできる。
ただ。
「いくつか問題がありますけど」
「問題ですか?」
「移動先の待ち受け体制です、これだけの人数が転移できる場所を確保しておかないと、こちらは転移先の状況まで掴めませんので」
もし転移する先に人がいたら激突してしまう。三人くらいなら、転移した瞬間に回避することもできるが、これだけの人数になると事前にどいてもらっておかないと確実に事故がおきてしまう。
「それは、こまりますね」
「それともう一つ、こっちの方が問題なんですけど、あいつも一緒なんです」
鎮也は庭で寝ている幼竜を指さした。
「あ」
トレイシアがテイムしたのだからこれからは鎮也たちと一緒に行動することになるだろう、街中に突然ドラゴンが転移してくればパニックに陥る。街の近くまで転移するにしても透徹の瞬間移動は転移先のイメージで決まるので、鎮也はレフティア郊外のイメージをあまり持っていないのでできない。
来る途中の道のりは眠気で殆ど覚えていなかった。
連続瞬間移動で三人ぐらいずつ運ぶ手も浮かんだが、それはそれで騒ぎになってしまいそうだし、懐刀のギルドナイトたちがやられたとカイザンの隠したい情報も垂れ流しになってしまうだろう。
ここは正攻法で運ぶのが一番と結論がでる。
「素直に馬車で帰るしかありませんね」
それでも幼竜を街に連れて帰るわけにはいかないので相談の末、幼竜は鎮也の森の屋敷に居てもらうことになった、あそこなら周囲は魔獣の生息する森である。人目にはまずつかない。
最後にマラナが目撃した翼持つ悪魔像に襲われた『梟の暗視』たちの処理だが、意識のないギルドナイトたちを抱えている以上、山頂に調査に向かうわけにもいかない。
今回の依頼の一番の目的は行方不明になったギルドナイトの捜索と救出であったのだから、場所だけ報告をすれば後はギルドマスターのカイザンが何とかするであろう。
一応確認のために六黒の一羽に見てきてもらうが、これは依頼とは関係ない個人的な用件で、隠し資産の中にまだ聖雷剣が残っていないかを見てきてもらうためだ。
おそらくはもう残ってりる剣は無いと思われるで、この帰らずの山でできることはすべて完了した。
残るは帰りを待つカイザンへ報告だけ、ドラゴンをこのまま連れて行くわけにはいかないので鎮也とトレイシアは報告を咲耶とレオフィーナに任せて一行から先に離れることになった。
「鎮也くん、屋敷に戻ったらちゃんと寝るんだよ、取りもどした剣の研ぎなおしは起きてからでも問題無いんだから」
「わかってるよ」
流石に眠い、鎮也もこれ以上の無理は絶対にしたくない。帰ったら素直に寝る。
「残念です、アリアが女性を連れ帰ったマスターにどう反応するのか、見たかったです」
「アリアさん、先輩ですね。頑張ります」
何についての先輩なのかは鎮也は聞かない。レオフィーナが面白そうな顔をしているのできっと鎮也には精神的によろしくない部類なのだろう。
「貴公、今回の依頼は世話になった」
鎮也とトレイシアがこれから別行動になるのでカナリーとルーシアも挨拶にきてくれた。喧嘩はどうにか収まったらしい。
「こちらこそ勉強させてもらいました」
特に今の冒険者のレベルが知ることができたのは大きな収穫だ。
他にも完成品にスキルを追加する技術が失われ伝わっていないなど、鍛冶師としてこれから活動していく中で重要な情報も手に入れることができた。
「俺たちも近いうちにロードイリアに向かうかもしれませんので、その時はよろしくお願いします」
「おお、そうか、ではその時にでも仲間たちの武器も見てもらえるとありがたい」
「ちょっとカナリーまた!」
「何か問題でもあるのか?」
ルーシアが鎮也へ強い眼力で訴えてくる。
「この頭がカチコチの人に、話してよろしいですか」
「ああ、かまいませんよ、カナリーさんなら」
「ありがとうございます」
「何の話しだ?」
もう今回の依頼に参加したメンバーで鎮也の正体を知らないのはカナリーだけである。
「いい、よく聞いてよ、彼はあの聖剣鍛冶師なんだよ」
「聖剣鍛冶師? …………お、おお、あの伝説の鍛冶師か」
「やっと分かってくれた」
「貴公は、あの伝説の人物を目指しているのか」
「へ?」
流石はカナリーと言うべきなのか、かなりの勘違いをしてくれた。鎮也のことを聖剣鍛冶師を目指すランクFだと認識したらしい。
「それなら、なおのこと協力しなければな、次に会った時はみんなの武具の強化も頼む」
「何が頼むよ、今回は好意でタダにしてもらったんだよ、それを厚かましく」
「だから正式な代金を払えばいいだろ」
「それが私たちじゃ払えるわけ無いっていっているの!」
「何を言う、彼は腕が良いといってもランクFだぞ、ランクAの冒険団である我々が払えないわけがないだろう」
「あ゛~~~もう!」
こうしてにぎやかなまま『真紅の秩序』の他のメンバーとも挨拶を交わす、近いうちにまた出会いそうな予感が鎮也はしていた。イクスや牧場主夫婦にも別れの挨拶をして鎮也とトレイシアは一行から離れた。
瞬間移動でトレイシアと幼竜を連れて森の屋敷へと帰ってきた。
屋敷の玄関にはいつものメイド姿のアリアが鎮也の帰りを出迎えてくれる。
「お帰りなさいませシズヤ様」
「ただいまアリア」
いつ帰ってきても変わらないアリアの笑顔、この表情を見ると鎮也は帰ってきたと実感できる。屋敷の外見はもう昔の姿を取り戻している。
この世界ではやっぱりこの屋敷が鎮也の家であると実感できた瞬間であった。
「お疲れをいやすためにお風呂を沸かせてあります」
「もう風呂まで使えるようになったのか」
「はい、リリィとロロォが頑張ってくれました」
庭の外壁の修理も完全に終わっている。鎮也の想像以上の仕事速度だ。
「それでシズヤ様、後ろに居られる美しい方の紹介をしていただけると嬉しいのですが」
「は、はい、させていただきます」
言葉は丁寧なのに鎮也は後ずさりをしてしまいそうなプレッシャーを感じた。
「彼女はトレイシアと言って」
「トレイシアと申します、どうかシアとお呼びください」
すぐ寝るつもりだったが、ベッドに入れるのはもう少し後になりそうだ。
次回で2章終了予定です。




