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第64剣『救国の絵本』

 見事の親の敵を討った幼竜は、力を使い果たしたのか翼の動きが小さくなり落下を始める。


「ダメ!」


 トレイシアが力を抜いてはダメだと叫ぶが、もう閉じた目蓋すら動かない。


「まあ、しかたなよな」


 格上の相手から勝利をもぎ取ったのだ、余力など残っていないだろう。鎮也はトロンバトルナードで落下する幼竜に追いつきスキル『加減速』を発動させ落下の速度を減速させると、ゆっくりと砦の庭に運んで丁寧に下ろした。


「大丈夫、息はしてる」

「よかった~」


 生きているなら治療は可能だ、対魔法結界も消えている。レオフィーナが持つオジロの力を使えばすぐに回復でるだろう。


 着地した鎮也の元に咲耶やレオフィーナ、真紅の面々にイクスが集まってくる。皆の顔には勝利を

 トレイシアとレオフィーナはすぐに幼竜に回復魔法をかけ始めた。


「すごすぎよ、あなたたち、ホントに出来立てのランクFの冒険団なの?」


 ルーシアが代表してカナリーの除いた真紅全員の疑問を投げかける。自分たちでさえ倒せない悪魔像たちを簡単に倒す集団が、駆け出しのランクなんてあんなのを見せられれば信じられないであろう。


「冒険団のランクはFですね」


 作ったばかりで、冒険団としてはこれが初めての依頼なのだ、ランクFなのは当たり前。


「前に『今は』って言ったよね、もしかして、一回ランクを失効してる?」

「するどいですねルーシアさん、確かに鎮也さんたちは一度ランクを個人も冒険団も失効してますよ」


 イクスはカイザンから事情を聞いていたので鎮也たちの正体を知っている。


「ってことは、過去にすごい冒険団だった、でも、そんな噂聞いたことが……」


 情報取集の課程で噂も集めているルーシア、鎮也たちほどのとんでも集団なら噂にならないのはおかしいと感じているようす。彼女が集めた噂では、咲耶たちの通り名と最速でランクBになったことくらしか出てこないだろう。


 でもそれは最近の噂である。過去に遡れば数えきれないほどの絵本になるほどの伝説の数々が出てくるだろう。


「ルーシアさんも聞いたことはありますよ絶対、この帝国で生活していて彼らの事を知らない人はいませんよ」

「そこまでなの…………ダメだ、でてこない」

「あっ」


 イクスは誰でも知っているほどの有名人だという、だがルーシアはいくら頭を捻っても鎮也たちの情報など出てこなかった。そんな彼女の隣で真紅の頭脳担当であるクラネットが、一つのヒントを見つけた。


「クラネット、何か知ってるの?」

「なまえ」


 ヒントは名前、彼らが名乗る名前は過去も現代も一つしか名乗っていない。

 その名前に誇りを持っているから。


「彼らの冒険団の名前、ギルドで噂になってた」

「名前って百二十年ぶりにギルドシステムに名乗ることを承認された『七星剣(セブンセイバーズ)』って、まさかッ!!」


 ルーシアの首が千切れんばかりの勢いで鎮也たちを方へ振り返る。


「本物の『七星剣』なんでありますでしょうか」

「ルーシア、変な敬語になってるよ」

「しょうがないでしょクラネット、だってアレだよ、伝説でおとぎ話だよ」

「ホント、なのか?」


 マラナも信じられないといった目を見開いた表情で訪ねてくる。


「ちょっとした事故で、百二十年の時間を飛び越えちゃってね、証拠を見せろと言われても難しいけど」

「鎮也くん、これなら証拠になるんじゃない」


 そういって咲耶取り出したのは冒険者ギルドカード、今使っているランクBの物ではなく過去の時代で使っていたランクSのカードである。


「それがあったな」


 鎮也も咲耶と同じカードを取り出す、三本の交差した線に三つの星が描かれている冒険者最高ランクのカード。


「ランクSカード!!」


 存在すら疑われていた伝説の称号。多くの者たちがシステム的にあるだけで、誰も到達できないと言われていた幻の階級。


「本物なの?」


 ルーシアが震える手でランクSのカードに手を伸ばしてきたので、その手の上に乗せた。


「触れる、幻じゃない」

「もう失効してるから、何の役にも立たないけどな」


 それは鎮也たちの勘違いであった、例え失効していてもカード自体はギルドで真贋が確認できる。本物と証明できれば再発行はできなくても過去にそれだけの偉業をなしたのだと冒険者たちには心理的効果は抜群であっただろう。

 例えランクFからのやり直しだとしても舐められることもない。


「騒ぎになりそうだから、これはここだけの話しで頼みます」


 舐められなくなっても、問題も転がり込んできそうなので、鎮也はこのまま正体を大ぴっらに打明けるつもりはない。


「あ、あの!」


 いつもは小さい声でしゃべるクラネットが、大きな声を出して鎮也に話しかける。


「これにサインお願いします!!」

「サイン?」


 鎮也は生まれてから十六年、サインなど求められたことなどなかった。

 クラネットが取り出したのは一冊の絵本、タイトルには『救国の英雄譚』と書かれていた。


「これって、絵本か……」

「それはッ!!」


 幼竜の治療を終えたトレイシアがやってくる。流石はオジロと魂輪刀(ソウリントウ)のダブル治療、治療を終えた幼竜は失った体力を取り戻すために寝息をたてていた。


「救国の英雄譚の初版本ですよね、私も持っているんです」


 トレイシアも魔法のポーチから同じ本を取り出した。互いに本を見せ合う二人。


「「同士!!」」


 通じ合うモノがあったようだ。


「あ、あの、シズヤさん、私にもサインをください」


 二人が並んで腕を精一杯に伸ばして本を差し出してくる。


「サインって、俺はこの本とまった関係無いんだけど」

「そんなことないよ、この本は鎮也くんの本っと言っても過言じゃないよ」


 何故か咲耶までもがトレイシアとクラネット側に立っていた。

 鎮也はこれまで剣は数多く作ってきたが、本など書いた記憶は無い。


「いや、本は作者のモノだろ」

「手に入れた読者のモノでもあります」

「クラネットさんって、ここまでグイグイくる性格だったんだ」

「いつもはおとなしい子だよ」

「ぜひクラネットと呼び捨てにしてください」


 本の内容をしらない鎮也は困惑するばかり。


「いいではありませんかマスター、サインぐらい、きっとこれが将来のハーレム契約のサインになるはずです」


 気配を殺して背後に回り込んでいたレオフィーナが耳元でささやいてくる。


「ハーレム候補って――」

「はい、これをどうぞマスター」


 言葉を遮られ、すでにインクを付けられた羽ペンを渡された。


 背後には満面の笑みのレオフィーナ、前には期待を不安を混ぜ合わせた瞳のトレイシアとクラネット、最後の頼みの咲耶は絵本を興味深げに見ている。

 誰も味方がいない、もう逃げられないと観念した鎮也は、しぶしぶと絵本を受ける。


「古そうな本だけど、ホントに俺が字を書いていいのか」

「とうぜんです、お願いします」

「シズヤさんだからこそ、書いて欲しいんです」


 ズズズゥと迫ってくる本の持ち主たち、この本はいったい何なのだと、鎮也は鑑定眼を発動させた。


「―――――――――――――――――――――

【名称】「救国の英雄譚(初版)」

【製作者】セリーナ・ビビ

【分類】書籍(絵本) 【レア度】☆☆☆(3)

【核】なし

【スキル】

『劣化防止』……絵本の劣化を防ぐ魔法陣が書き込まれている。

『隠し文字』……一定の条件を満たすと隠れた文字が浮かび上がる。

【補足】

 80~120年前ごろに活躍した絵本作家セリーヌ・ビビの最大のヒット作、帝国の圧力にも屈せず、帝国とケンカした聖剣鍛冶師とその仲間たちの物語を皇帝の部分を魔王に変え、鍛冶師の活躍を誇張して書き上げた。初版本は聖剣鍛冶師が作りあげた聖雷剣にちなんで512冊が刷られた。

 今でも重版されている百年物のロングセラー。

――――――――――――――――――――――」


「これセリーナが書いた絵本なのか!?」


 セリーナ・ビビ。過去の時代、アリアと一緒に森の屋敷で働いてくれていたメイドの少女。戦争孤児であったセリーナは行く当てが無いころに鎮也たちと出会っていた。


 アクアエルフのアリアと違い普通の人族であったセリーナ、アリアのような特殊な状況になっていなければもう鬼籍に入っているだろう。鑑定の補足でもそれを匂わせる結果が出ている。


 アリアからはセリーナを含めた森の屋敷の使用人たちは屋敷に残されていた金銭を持たせ逃がしたと聞いていた。過去の知り合いの足跡がこんな所で発見できるとは。


「あのセリーナが書いたモノでしたか、通りで詳しくもあり、マスターが五割増しでカッコよく誇張されていたわけですね」


 身寄りがないセリーヌは、引き取ってくれた鎮也にとても恩義を感じていた。


 絵本の内容は自分のことが書かれているらしい、鎮也にとってはとても恥ずかしいことではあるが、セリーナが作った物に興味が出たので手にとって一ページ目を開いて見れば、聖剣鍛冶師サインスペースと書かれた項目がそこにあった。


「……俺がサインする前提で作られているのか」

「そのサインスペースがあるのは初版本だけなんです」

「もしサインされた初版が見つかれば、金貨百枚以上の価値になると言われてる」


 金貨百枚。ライトゥスで聖雷剣を買った値段が金貨百五十枚だったことを考えると、相当な値段だとよくわかる。まさか鎮也をテーマにした絵本がそこまでの価格になろうとは。


「時代の流れってすごいな、金貨百枚か」

「「売るつもりはありませんけど」」


 姉妹のような息の合いかたであった。


「鎮也くん、サインスペースの下を見てみて」

「下?」


 咲耶に言われて下へ視線を落とすと、小さな文字で『いつか帰還した聖剣鍛冶師のサインがここに書き込まれることを願う』と書かれていた。


「セリーナ」


 鎮也の脳裏に森の屋敷にいたころのセリーナの姿が浮かんだ。都市は十二歳ぐらいだった最年少のメイドだった少女、面影はどこかクラネットに似ているかもしれない。

 彼女は絵本の形で百二十年の時を越えて鎮也の事を待っていてくれた。


 鎮也はセリーナの想いに答えるために、二冊の絵本に自分の名前を書き込んだ。すると絵本が光り一つの魔法陣が浮かびあがった。魔法陣は文字へと変化していきサインの隣に収まっていく。


『お帰りなさいませシズヤ様』


 魔法陣の文字はそう並びなおした。

 それはセリーヌが残した鎮也の帰還を出迎えるメッセージ。


「ただいまセリーナ」


 そして、この時は誰も気が付かなかったがトレイシアが後日絵本を読み直すと、物語のラストにも絵が書き加えられており、その内容は主の帰りを待ち望んでいたメイドが、帰ってきた聖剣鍛冶師の帰還を笑顔で出迎えるラストシーンであった。





「さて、カナリーさんを迎えに行こう」

「あ、忘れてました!」


 イクスが声をあげる。地下でギルドナイトらしき人たちが見つかったと聞いていたのに、悪魔とドラゴンの壮絶な戦いやその悪魔を簡単に倒す少女たちの戦いぶりを見せつけられて、頭の中から大事なことも含めて全て転がり落ちていた。

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