第63剣『ドラゴンの仇討ち』
親の敵の片腕の悪魔像。
幼い竜は果敢にも挑みかかるが、相手は魔力を封じられていたとはいえ成竜をも倒した存在、戦いは片腕の悪魔像の方が優勢であった。
生まれてすぐにウーゴットに囚われていたことも影響しているのだろう、幼竜は飛行にもまだ慣れていないようだ。
何とか互角に渡り合えているのは背中に乗るトレイシアが竜交渉剣を介して幼竜へ的確な指示を出しているからだ。
竜交渉剣を握るトレイシアは今まさに幼竜と一体になっている。例え宙返りしようが、逆さで滞空しようがトレイシアが背中から落ちることは無い。
片腕の悪魔像のヘソが赤く光った。
レーザー光線を前兆だ。
トレイシアは竜交渉剣を口にくわえ、魔法のポーチから三重奏剣を取り出し、悪魔像の放ったレーザー光線を弾く、幼竜はお返しとばかりにブレスを吐こうとしたが、火花が口元で散るだけでブレスを吐くことはできなかった。
まだうまく自分の力のコントロールができていない。
地下で鎮也たちにブレスを吐こうとしたときも出すことはできなかった。
「落ち着いて、あなたならできるは、力をしっかりとためるのよ」
落ち着けばできるとトレイシアがアドバイスを出す。
しかし、戦いの中で落ち着くのは難しい、悪魔像が足の装備している具足剣を突出し飛び蹴りを仕掛けてくる。
鎮也は敵討ちのため手を出すことを控え、少し離れた上空に待機していた。
トレイシアたちがピンチになればいつでも飛び込めるように、でも限界までは幼竜の自分がやりたいという願いを尊重していた。だが。
「さすがに相手が悪いか」
親が叶わなかったのに、歩き出したばかりの子供に勝機は無い。
鎮也は鑑定眼を発動させ、勝てない要因の一つとなっている答えを映し出す。
「―――――――――――――――――――――――――――
聖雷剣シリーズ シリアル113
【名称】「ドラグーンエッジ(灰色化)」
【和名】「飛龍鍵爪」
【製作者】星尾鎮也
【使い手】未登録
【分類】装着剣具足型 【レア度】☆☆☆★(4-1)
【長さ】120センチ 【重さ】4.8キロ(左右セットの重さ)
【聖剣核】レッドアゲート
【スキル】
※封印中『雷魔法(中)』……使い手が雷魔法を扱えるようにする(効果:中)
『加速』…………使い手の移動速度を加速させる。
『足技』…………足技が強化され、変幻自在な蹴りを繰り出せる。
【補足】
足装備型でクツのように二対で一つの聖雷剣、持ち手は無く足の直接装備する。聖剣鍛冶師鎮也が飛龍の爪をイメージして製作いた剣であり、誰でも装備できるように装着部分を魔法で加工されている。
使い手は未登録であり、これまでの所持者がふさわしくないためレア度がマイナス1、スキルの効果も軽減され灰色化している。
―――――――――――――――――――――――――――」
飛龍鍵爪から放たれる足技は飛龍の鍵爪と同じ威力がある。これなら間違いなくドラゴンでも切り裂ける。幼竜などかすっただけでも致命傷だ。
幼竜は一太刀目はギリギリで交わせたが、飛龍鍵爪は二枚刃だ、次の逆足からの二の太刀が襲いくる。一太刀目でバランスを崩して避ける余裕はない、トレイシアが三重奏剣で何とか弾くが勢いは殺せずに地面へ吹き飛ばされる。
「翼を広げて!」
トレイシアの言葉に反応して翼が広がり落下を止める。
何とか地面に激突する前に強引に体制を整えることはできたが、幼竜に疲労が見えはじめた。
片腕の悪魔像は手を緩めることなく追撃してくる。
ここがチャンスと幼竜が渾身の力を込めたブレスを突っ込んできた悪魔像にぶつけるが手に持った黒い杭を盾にされブレスは直撃することなくかきかき消されてしまった。
対魔法結界は魔力を帯びたブレスをかき消すこともできる。
せっかく出すことに成功したブレスも、当らなくては意味がない。
「――――――――――――――――――――――
【名称】魔法封じの杭
【製作者】ウーゴット
【分類】魔道具 【レア度】☆☆☆☆(4)
【長さ】35センチ 【重さ】1.2キロ
【魔道核】聖雷剣トロワラムザー
【スキル】
『吸着』…………刺した物体から抜けなくする。
『魔力封印』……刺した相手の魔力を封印する。
『※◎▼◇』……未収得
【補足】
ウーゴットが三つの属性魔法を使用できるようにする聖雷剣トロワランムザーの性質に目を付け、刺した相手の魔力を封印する魔道具に組み込み完成した強力な魔封じアイテム。性能は強力だが完全制御できていないため、周囲の魔法も打ち消してしまう。
―――――――――――――――――――――――」
鑑定眼の結果はドラゴンに刺さっていた魔法封じの杭とほぼ同じ、違いがあるとすれば魔導核に使われている剣がトロワラムザーⅣからトロワラムザーに変わったことだけ。
今展開されている対魔法結界は狙って作ったわけでは無く、予想外の副産物によるもの、効果がドラゴンに刺さっていた杭よりも強力そうなので、ウーゴットの技術では安定して同じ性能が作れなかったのだろう。
魔法封じの杭によって最大の攻撃であるドラゴンブレスも封じられ、このままでは勝ち目がなさすぎると判断した鎮也は介入を決めた。
片腕の悪魔像が飛龍鍵爪のスキル『加速』を使い逃げる幼竜の先に回り込み、足を振り上げる。鎮也はトロンバトルナードをスノーボードように切っ先を下に向けって滑空した。
振り下ろされる刃に間に割り込み、トロンバトルナードを盾に飛龍鍵爪を防ぐ。
「シズヤ、さん!?」
追いつめられ、息を切らせながら鎮也の名前を呼ぶトレイシア、今のは危なかった、助けに入らなければ二人ともやられていた。
それでも幼竜は追いつめられていても、手を出さないでくれと鳴いて訴えてくる。
ドラゴンとしてもプライドが手助けを嫌った。もしかしたら主となったトレイシア以外の助けは借りたくない、はっきりと意思が伝わってくる。
「敵討ちの手出しはしないさ」
鎮也もその意思はしっかりと受け取った。譲れないモノは誰にでもある。
それを奪うつもりは無い。
でも、手助けはしないが、鎮也にも譲れないものがある。
片腕の悪魔像が装備する聖雷剣たちを見た。
「ただ俺が先に、コイツに盗られたモノを返してもらおうと思ったんだ」
これは手助けではなく、鎮也の目的の品をたまたま悪魔像が持っていただけだ、それを敵討ちより先に済ませてしまおうと考えただけ、結果的に手助けするように見えても、手助けではない。
これが鎮也の主張であった。
鎮也はトロンバトルナードの切っ先を悪魔像へと向け突撃する。
回し蹴りで飛龍鍵爪を繰り出してくるが鎮也にとっては遅い攻撃、トロンバトルナードでクルリと一回転。悪魔像の足技はかすりもしない。挑発するようにトロンバトルナードの刃の腹で悪魔像の頭部へ着地してみせる。
怒りの感情があるかはわからないが、悪魔像の攻撃目標のトップが鎮也へと切り替わったようだ、表情も気のせいかもしれないが、怒っているように見えた。
急上昇すれば迷わずに悪魔像は追いかけてくる。
スキル『加速』を使い追い付こうとするが、こちらにもその上位互換にあたるスキル『加減速』がある。加速だけではなく減速も自由自在、それも刃触れた物全てが対象になる。
幼竜との約束通り、悪魔像には手を出さないが、装備している聖雷剣は返してもらう。
わざと減速して追いつかせると、悪魔像は案の定飛龍鍵爪で攻撃してきたので、トロンバトルナードで受け止めスキル『加減速』を発動相手の『加速』を減速させて無効かし、隙だらけになった頭部に透徹を打ち込んだ。
透徹のスキル『飛打撃』を使い振動を飛ばして足の装備されている飛龍鍵爪を内側から弾き飛ばす。
「もういっちょ!」
続けてもう一発、今度は片腕に握られていた魔法封じの杭も弾き飛ばす。
これで悪魔像の装備は無くなった。
落下する杭を追いかける鎮也、片腕の悪魔像も追いかけようとしたが地上から舞い上がってきた六黒に進路を妨げられる。咲耶たちの援護だ。
先に落ちた飛龍鍵爪もオジロが回収してくれていた。
以心伝心、何も伝えなくても咲耶たちは鎮也の望むことをしてくれていた。
悪魔像が聖雷剣を使っているのを見て荒れていた鎮也の感情を穏やかにしてくれる。
「これが俺の最後の仕事だ」
落下する魔法封じの杭に追い付き透徹で魔道具の部分だけを破壊した。
中からは灰色のトロワラムザーが出てくる。
これでこのあたりに張られていた対魔法結界が消滅、魔法の使用が自由になる。
「シア、交代だ」
「はい。さぁ、あたなの出番だよ、いってらっしゃい!」
幼竜が鎮也を追い越して片腕の悪魔像へと向かっていく、トレイシアは三重奏剣をしまい背中から飛び降た。それを鎮也が受け止める。
これは幼竜の敵討ち、トレイシアも最後の戦いは幼竜へ全てを任せたのだ。
「いいのか?」
「あの子が望んだことですから」
主となったトレイシアの力も借りず、己の力だけで決着は付けたいと、子供だとしても最強の種族であることのプライドは持っていたようだ。
片腕の悪魔像と幼竜、単純な戦闘力ではまだ悪魔像の方が上だが、それでも幼竜は鎮也たちに助けを求めず自分の力だけで敵討ちに望む。
「シズヤさん、どう見ますか」
「四対六かな」
この勝負の鎮也が見立てた戦力比率、幼竜が四である。
「そのくらいなら、きっと跳ねのけてくれます」
トレイシアは幼竜を信じた。
空中ではドラゴンと悪魔が激突する。
体をかみ砕こうと大口をあける幼竜の横っ面を殴り付ける悪魔、よろめく幼竜だが恐れることなく再び襲いかかる。
力は悪魔像の方がやや上、早さは同程度、体格はドラゴンの方が大きい。
ここまでほぼ互角なのだが、悪魔像の方が戦術的な戦いをしている。
何度も激突していく内に、明らかに傷が幼竜にだけ増えていく。
原因は毎回一撃での必殺を狙う幼竜と確実にダメージを与えていく悪魔像との戦い方の差、幼竜の攻撃は当たりさえすれば決着が付けられるのだが、それを許してもらえず、逆に体が傷つけられている。
「幼竜も単調な攻撃だけど、何か悪魔像もNPCみたいな単調なパターンで動くな、もしかしてプログラムでも組み込まれてるのか」
鎮也は悪魔像の動きが日本にいた時にやっていたアクションゲームの敵役のような動きだと気が付く。攻撃の種類の数が少なくパターン化していた。相手が幼竜だから通じるが、経験を積んだ冒険者ならだれでも気が付きそうだ。
「これなら逆転できるかも」
トレイシアは先ほどの戦いでアドバイスをしていた。そのことを忘れていなければ幼竜に勝機が出てくる。
それまで体力がもてばであるが。
最強の種族であるドラゴンの鱗がはがされ無数の傷を体に刻むが、それでもあきらめていない。
親と違い、縛りがある戦いではないのだ、それも相手は片腕を失っている。
その片腕は親が命と引き換えに食いちぎったもの。
人間には嗅ぎとれないが、幼竜には、無くなった悪魔の片腕の部分から親の匂いを嗅ぎ取っていた。
一目で分かった、こいつが敵であることを。
幼い竜は力をためる。
主になってくれた少女の言葉を信じて、悪魔を確実に葬るための力をためる。
翼も傷つけられ幼竜の飛行速度が落ちる。
それでも、鎮也たちは助けに入らない。入らないでくれと訴えられたから。その信念を尊重して、負けそうな戦いを見ているのはつらいが、我慢をする。
トレイシアの腕が本人の気がつかないウチに鎮也の腕を強く握りしめていた。
彼女も信じてはいても心配なことに変りはない。
幼竜が姿勢がぐらついた。もう素早い動きはできない。
悪魔像のヘソが赤く光る。レーザー光線を前兆。
避ける余力は幼竜には残っていなかった。
「まずい!」
鎮也が助けに入ろうとしたが、それをトレイシアが止めた。
「大丈夫です、あの子はこれが狙いです」
赤いレーザー光線が放たれる。光の速さで迫る凶悪な凶器を幼竜は真正面から受けた、レーザーはドラゴンの体を貫き、血が飛び散った。
幼い竜の負け、勝負があったかに思われた。
だが、体に穴をあけられても幼いドラゴンは落ちることはなかった。
口にありたっけの火気を集め、全力のブレスを悪魔像へとぶつけた。一対一の戦いになってから一度もブレスを吐かずにこの瞬間のためにずっと力をためていたのだ。
片腕の悪魔像の黒い体が黒い墨となって燃え尽きていく。
幼いドラゴンは執念で悪魔像から勝利をもぎ取り、親の仇を晴らした。
天の親へと聞こえるように、雲をも震わせる勝利の咆哮をあげた。




