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第61剣『カナリーを説得した』

「どうして地下にいたドラゴンが」


 伝説のドラゴンが自分たちのピンチを助けてくれた。ルーシアにとっては信じられない状況なのだろう。


「シアがテイムしたのでしょう、私たちはそれが目的の一つでしたから」


 ギガントオーグルを一体ずつ倒した咲耶とレオフィーナが柵の足場へと戻ってくる。


「聞いてないよ!」

「そういえば、説明していなかったかも、鎮也くんからも聞かなかった?」

「まったくぜんぜん!」


 鎮也たちがルーシアたちに話したのは、地下にドラゴンの子供がいる、とだけでテイムするとは話していなかったのかもしれない。

 鎮也たちもテイムするのが当たり前に考えていた節があり、言葉にも出していなかった。


「テイムについては自然と、できるならやろう、みたいな空気になっていました」


 ドラゴンに子供を託された時点で鎮也たちにとっては当然の目的になっていた。


 ギガントオーグルを吹き飛ばしたドラゴンはそのまま翼を広げて飛び上がり柵の内へと着地する。

 イクスやクラネットなど、ドラゴンの存在をまったく聞いていなかったメンバーは全身を震え上がらせてしまった。


「こいつは大丈夫、シアの言うことは絶対に聞くから」


 ドラゴンの背から鎮也が足場へと移り、トレイシアは安全だと証明するためにテイムしたばかりの幼いドラゴンの背中に残った。トレイシアが伏せの指示を出せば従順に従う姿を見せつける。


「鎮也くん、カナリーさんは?」

「そうだ、カナリーはどうしたの、一緒じゃなかったの?」


 一緒に地下にいたはずの三人、その一人だけの姿が無いことに心配になったのだろう。


「地下に意識のない人たちがいただろ、彼らの事もほっとけないから残ってもらった」

「よくカナリーが納得したね、残ること」


 カナリーの性格をよく知っているルーシアが説得できた鎮也に感心をする。


「ああ、それは――……」


 鎮也は説得した時のことを思い出す。






「君は私にここに残れと言うのか」


 気絶から目を覚ましたカナリーにお願いしたら案の定怒られてしまった。

 大の男でも逃げ出したくなるような鋭い眼光で睨まれる。


「地上にイクスさんたちを呼びにいったルーシアさんも戻ってきませんし、様子を見に行かなければ」

「だったら君たちが残ればいいだろう、私が様子を見てくる」


 鎮也が言葉に詰まってしまったので、今度はトレイシアが説得するも跳ね除けられた。

 仕方がないので、トレイシアが切り札を切った。


「でも、この子を残していると、もし、この人たちが目を覚ましたらパニックなってしまいますよ」

「この子?」


 トレイシアが上を示す。


 カナリーは何があるのだと、視線を上げると、そこには自分たちを見下ろす巨大なドラゴンの顔があった。


「なッ」


 鎮也たちが自然な態度で接したためにカナリーはドラゴンの存在を忘れていたようである。


 慌てて収納の魔道具である指輪から大剣を取り出そうとしたようだが、大剣はすでに外へ出ている。いくら出そうとしても出てこない。


「クッ、なぜ剣が出てこない!」


 それはもう外にあるからです。


「落ち着いてください大丈夫ですから」

「何が大丈夫だというのだ、君は早く下がれ、ランクFで叶う相手ではない!」


 一応鎮也の事を守ろうとしてくれているらしく、ドラゴンと鎮也の間に体を入れ盾になるように両手を広げる。


「ここは私が引き受ける、貴公たちは逃げろ!」


 自らを犠牲に後進を助けようとする姿勢は尊敬もできるのだが、今はその必要はまったく無い。


「お気持ちは嬉しいのですが、このドラゴンは襲ってきませんよ」

「へ?」


 両手を広げたまま間抜けな声を出すカナリー。


「シアがテイムしましたので」

「は?」

「はい、この子は私が面倒をみることになりました」


 証明するように幼竜はトレイシアに頭を差し出して、撫でてくれとせがんでくる。トレイシアがそれに答え魔獣用のブラシで撫でてやると、嬉しそうに眼を細めた。


「テイムってあれか、調教師(テイマー)が魔物を手懐け仲間にするテイムか?」

「はい、そうですよ、私は調教師見習いでもありますから」

「そうか見習いがテイムか、っておかし過ぎるだろう!!」


 カナリーがドラゴンを撫でているトレイシアを思わず怒鳴りつけてしまった。


「何がおかしいんですか?」


 撫でる手を止めて首をかしげるトレイシア。


「いろいろだ、いろいろ全てだ、見習いがテイムだと、しかもドラゴンを、ドラゴンの討伐ランクはAだぞ、一流の調教師でもBランクの魔物をテイムすることを生涯の目標にしているのだ、それを見習いがテイムだぞ、Aランクだぞ!」

「そうだったのか」


 調教師の事はよく知らなかった鎮也はここでやっとカナリー驚き叫んでいる理由を理解した。


「それじゃシアは見習い卒業でいいのか」

「いえ、私なんてまだまだです。これが初めてのテイムですし、一流の調教師なら数十頭はテイムしていますから」


 トレイシアがお世話になっていたレンタル魔獣牧場の夫婦も四十頭近い魔獣をテイムして牧場で育てていた。それと比べればまだ一頭しかテイムしていないトレイシアはやっと見習いとしての一歩を踏み出したばかり、と言うのがトレイシアの主張であったが。


「数ではない!!」


 その牧場主夫婦も最高ランクでCまでの魔獣しかテイムできていなかった。


「ゼェぜぇ、ゼェぜぇ~」


 鎮也の常識知らずとトレイシアの少しの天然が、カナリーを疲労させてしまった。


「落ち着きましたか」

「……疲れでな」


 狙ってやったわけでは無いが、疲労で興奮がさめたようだ。


「ああ、これ、折れてたので直しておきました」

「私の大剣、そうだ、ドラゴンに折られて、直っている?」


 どうやら折られた時の記憶を思い出した様子、そして直った大剣を見て首をかしげる。

 鎮也が直したのだ、繋ぎ目など一切残っていない。折れた現場を見ていなければ、本当に折れていたのかと疑いたくなるほど、外見は完璧に修復している。


「俺の本職は鍛冶師なので急造ですが繋いでおきました」

「そうか、私はどれだけの時間、気を失っていたのだ」


 大剣を扱う剣士であるカナリー、折れた剣を直すには長い時間と設備が必要なことは知識としては知っている。どう直すかの技術面は知らないようだが。


「多分、三十分も経ってないですよ」


 計ってはいないが多分それくらいだろう。


「さんじゅ、まさかこの場で修復したのか!?」

「はい、そうですけど」

「一体どうやって、設備も素材もないであろう!」

「まあ、そこは緊急事態だったので、省きました」


(素材が、ただの石を使ったのがバレませんように)


「省けるモノなのか、君は鍛冶師としての腕はすごいのだな」


 カナリーがそれほど鍛冶仕事に詳しくなくてよかった。

 信じられない事ではあるが、実際に大剣は修復されカナリーの手の中にある。冒険者ランク以外の事については、それなりにぶっ飛んでいても証拠を見せれば彼女は受け入れてくれた。


「少し重くなったか」


 それでも二キロ以上ある大剣を片手で振り回すカナリーはやはり剣士としての実力はそれなりにあるようだ。一般ではドラゴンに傷を負わせたのだから一流と呼ばれてもおかしくないほどの偉業をなしている。

 トレイシアのテイムに比べれば、過去にやり遂げた冒険者は何人か存在しているが。


「申し訳ない、材料もあり合わせになってしまったので、お詫びにスキルを一つ追加しておきました」


 素材に何を使ったかを聞かれる前に話題を別の方向へシフトさせる。


「スキル、だと」

「はい、追加スキルは『雷速斬』雷の速さで放てる斬撃ですね」

「はひ?」


 わけのわからない言葉を漏らすカナリー、ここでも鎮也とカナリーの常識にはかなりのギャップが生まれていた。鎮也としてはただ一種類の斬撃を増やしただけのお手軽スキルであったのだが。


 カナリーからしてみれば完成した剣にスキルを追加できるなど伝説の御業でしか聞いたことが無い、そもそもスキルが二つ付いた剣など、レア物扱いだ、帝国でも首都ロードイリアの騎士、それも中隊長以上でなければ所持できない業物の部類。一般に出回ることは殆どなく、カナリーも購入コストを考えて入手はあきらめていた。


 そんな代物が、折れた剣をその場で修理してもらったら出来上がりましたなんて、まともな言葉が出るはずもない。


「ホントに二つもスキルが付いているのか」


 カナリーの知る一般常識では完成した道具にスキルを追加しようとすれば、上書きされるか、下手をすればスキルを失う。

 本当にスキルが追加されたのか、軽量化のスキルが生きているのは手に持った瞬間に分かっている。多少重くなっても修正できる範囲だ。


「試してみればわかりますよ」


 鎮也は幼竜との戦闘で崩れた壁石の一つを示す、大きさは二メートルくらいの岩だ。


「最速の斬撃を放つ感覚で、最初の内は口でスキル名を唱えるとイメージしやすいですよ」


 カナリーは言われた通りに幼竜が暴れた時に崩れた岩壁で試し斬りをしてみる。


「『雷速斬』」


 問題無く一発でスキル『雷速斬』は発動した。

 カナリーの体が稲妻のように加速し、本人の感覚が追い付かないまま二メートルほどあった岩壁の残骸を斜めに両断していた。


 両断された岩壁の上半分がゆっくりとスライドして滑り落ちる。


「……ホントにできた、スキルが増えてる」


 自分で両断した岩が幻ではないかと確かめるように断面に手で触れてみる。


「本当にこれを私がやったのか」

「慣れれば、スキル名を言わなくてもできると思いますよ」

「そ、そうか」


 この斬撃があればギガントオーグルくらいなら討伐できるであろう。昨晩の戦いを見て感じたカナリーの足りない部分、すばやく放てかつ攻撃力持った技を鎮也は追加したのだ。


「スキルを使いこなすには何度か練習しないとダメですよ、幸いここには試し切りする岩が多いので練習してみては?」

「ああ、そうだな」


 生返事で返すカナリーは何度も大剣と岩の断面を見比べている。


「じゃ、俺たちは地上の様子を見てきますので、カナリーさんはここをお願いします」

「あ、ああ、わかった」


 生返事でも返事は返事である。了承を取ることができたので鎮也たちはカナリーが正常な思考に戻る前に幼竜が教えてくれた通路を使ってそそくさと地上を目指した。


 この通路は、巨大な存在を地下に運ぶための通路であったようで、鎮也たちが幼竜の背中に乗っても頭をぶつける心配が無いほど広かった。

 床には檻ごと運ぶための物か台車用のレースまで引かれていた。


 この地下室は本来の目的は何のために造られた物であったのだろうか。

 あの捕まっていた人たちをあそこに吊るした存在はどんな奴なのか、少しだけ心配になる鎮也だが修復した大剣を渡したのでカナリーだけでもめったなことが無ければ乗り切れるだろう。


「シズヤさん、繋ぎにどうして石を使ったんですか?」

「適当な素材がなかったんだ、まさかドラゴンの魔核を使う分けにはいかないだろ」

「ナイトオーグルの魔核ではダメだったのですか?」

「あ」


 魔法のカバンを確認してみると、確かに昨夜倒したナイトオーグルの魔核も入っていた。ナイトオーグルと遭遇したこと自体、すっかり忘れ去っていた。


「忘れてた」


 これを使えば、軽量化のスキルが弱まることも無かったであろう。

 ナイトオーグルを撃退した時は睡魔と闘っていたため、あまり記憶に残っていなかった。


「カナリーに悪いことしたな、今度お詫びに何か考えておいた方がいいかもな~」

「そうですね、それがいいと思います」


 謝罪の方法はどうすればいいかを考えていると、坂道の先から明りが見えてきた。

 そして地上に近づくにつれ、戦闘音らしきものが聞こえてきた。


「梟が攻めてきたのかな」

「みなさんは大丈夫でしょうか」

「咲耶とレオナがいるんだから、梟レベルで遅れを取ることはないだろう」


 例え大砲があろうとも、あの二人なら砲弾を切り捨てることも簡単だ。

 気になるとすれば対魔法結界が張られ続けていること、ウーゴットの隠し資産の中にでも残っていたのだろうか。


「新しい聖雷剣が見つかればいいんだけど」


 などとちょっとした期待を抱きながら地上にでると、目の前には大量の魔物エッジオーグルで溢れていた。出口は砦の柵の外に作られていたらしい、大岩の影に隠しカモフラージュしていた。


「なんだこの群れは?」


 エッジオーグルたちは鎮也たちに気づかずに砦から必死で逃げているようだ。


「咲耶たちに追い返されたな」


 これはもう出番は無いかもしれないと、砦の中へ戻ろうとしたのだが、トレイシアが空を飛んでいる悪魔を見つける。


「シズヤさん、あれ」

「空飛ぶ悪魔の石像、手に持ってるのって聖雷剣かよ」


 灰色に変色していも一目でわかる。あれは鎮也が作り出した剣であると。


 その悪魔像が地上に向けて大砲剣の砲弾を打ち込むと、三体のギガントオーグルが暴走して砦へと突っ込んでいく姿が見えた。


「シズヤさん、砦に向かいます」


 トレイシアが幼竜にお願いしてギガントオーグルを追いかける。


 あんな巨体が柵と激突すれば間違いなく破壊されてしまう。

 砦の柵から飛び出した咲耶とレオフィーナが二体までは倒すのが見えたが、一体が残ってしまい砦に迫る。位置的に鎮也たちが乗る幼竜が一番近くなった。


「あのギガントを止められる」


 幼竜は任せろと吠えギガントオーグルに飛びかかって突き飛ばした。


 ――これが鎮也たちが地上にでるまでの経緯である。






「カナリーさんは、誠意をこめて頼んだら聞いてくれたよ」


 カナリーを地下に置いてきた説明を上手くできないので鎮也は言葉を濁した。


「鎮也くん、これ」


 咲耶が取り戻したテイムダガーを鎮也へと渡す。


「取り戻してくれたのか、ありがとう咲耶」

「どういたしまして」

「レオナも感謝してるぜ」

「もったいないお言葉です」


 鎮也は咲耶たちが取り戻してくれたダガーを見る。鑑定眼を使わなくても製作者の鎮也にはこの聖雷剣がどんなスキルを持っているかは知っている。


「これも持っていたのか、もしかして山から魔物が消えていたのって」


 それ以上は口には出さなかったが、間違いなくこれのせいだったのだろう、複数の強い群れのトップを操れれば、山から他の魔物を追い出し、支配することも不可能ではない。


「マスター、あの悪魔像は他にも剣を持っています」

「そうみたいだな」


 手に持つ聖雷剣を見た瞬間から鎮也は戦闘モード全開であった。


「鎮也くん、行けるよね」

「もちろん」

「シズヤさん、あの片腕の悪魔はこの子にやらせてあげられませんか」


 グアーと鎮也に訴えるように鳴く幼竜、あの悪魔像が親の仇だと分かっているようだ。三体の中で片腕の悪魔像を睨みつけている。


「わかった、今日からはお前も『七星剣』の一員だ、お前の敵討ち俺たちが全力でサポートしてやるぜ」

「なので、ここは私たち『七星剣』に任せてもらっていいですか?」


 咲耶がこの場の指揮官になっているルーシアに許可を求める。


「ちょ、いくらなんでも、できたばっかりの冒険団に全部任せるのは」

「それじゃ、アレの相手をお願いしても」


 幼竜を突き飛ばされたギガントオーグルがゆらゆらと起き上る。

 もう敵は翼持つ悪魔像とギガントオーグルしか残っていない。

 相手をするとなると、この二種類のどちらかという事になる。


「…………やっぱり、お任せしていいですか」


 ルーシアはあっさりと冒険団のプライドを捨てた。

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