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第60剣『翼の悪魔』

 破壊され穴の開いた門を塞ぐ形で立つ二人の少女。

 足の速い群れの先頭にいたエッジオーグル数十匹が鉤爪を振りかざし襲ってくる。


「二人とも戻って!」


 上からルーシアが逃げろと言ってくる、投石を始めるが人数はたかが数人なため効力はほとんどなかった。


「ここを突破されたら、砦の意味がなくなるよ」


 レオフィーナがオジロで咲耶を守り。

 咲耶は弓を引くように六黒を横水平の引き半身のなると、踏み出した足を軸に体を半回転させ、投擲刀・六黒を全力で投げ放った。


 スキル『六分身』発動。


 投擲された六黒は六枚へと分離して円盤のように回転しながら先頭できたのエッジオーグルを斬り裂いていく、この未来にきて最初に戦った時の相手もエッジオーグルであった。あのときも六黒はこのスキルで数十匹を仕留めている。


 正面からくる単純な敵など、六黒の刃から逃れることはできない。


 六方から咲耶に手に戻る六黒たち、魔物の先鋒はこの一撃で全滅した。


「……すごすぎない」


 目を大きく見開くルーシア。


「されが、史上最速でランクBになった月光の舞姫」


 対魔法結界のせいで、ほぼ無力にされられたクラネットが投石のために持っていた石が手から零れ落ち危うく足に当るところであった。


「あたいのいる意味あるかな」


 放つ目標を失った弓使いのソロティアがつがえた弓を一旦下ろしてしまう。


「盾も、必要、ない」


 盾使いマラナも、振り上げた石をどうすればいいのか悩みだす。


「シズヤ殿がいなくてもあの方たちの強さは変わらないんですね」


 先程の脅えを返してくれとイクスがぼやく。


 だが、緊張感が薄れてしまったメンバーに、空からまだ戦いは終わっていないと知らしめる号砲が鳴り響いた。


 門を破壊した凶弾が再び飛来したのだ。しかし――。


「セイ!」


 斬光一閃。


 レオフィーナから放たれた光の斬撃が、その凶弾を簡単に斬り落とす。


「貴様にその剣を持つ資格なし、マスターの剣返してもらおう」


 光刃を悪魔へと突きつける。


「流石は光剣の騎士、噂に違わぬ光剣さばき、彼女も最速でランクBになった逸材」


 もはや解説役になりつつあるクラネット。


「クラネットさん、あの悪魔について何か知ってる!」


 だからという訳ではないが、咲耶はこのメンバーの中で一番の博識であるクラネットに悪魔の事を訪ねた。咲耶の放った一撃のおかげで魔物たちの突撃が止まり、六黒を奴らの前で旋回させることで強引に膠着状態を作り出した。


 いくら咲耶たちでも範囲魔法を封じられて現状、数で一気に攻め込まれたら混戦になってしまう、そうなったら負傷者が出るのは避けられないだろう。


 戦いが止まった今のうちに情報があるなら聞いておきたい。

 少なくとも、聖雷剣を装備して仕様することのできる知識を備えた悪魔など、咲耶もレオフィーナも聞いたことがない。


「推測だけど『翼持つ悪魔像(ガーゴイル)』だと思います」

「翼持つ悪魔像だって、冒険者ギルドで緊急討伐対象トップにくる魔物じゃないですか、討伐Aランクの凶悪魔人ですよ!」


 同じAランクであるドラゴンも子供に手を出すなどこちらから刺激をしなければ、人里が襲われる確率は低い、しかし翼持つ悪魔像は違う。人を殺すためだけに存在するかのように、人を探して飛び回り発見すれば例外なく襲い掛かってくる。


「最初に存在が報告されたのは百年ほど前、体が黒い石でできた翼を持つ悪魔の石像、食のためでは無い、ただ近くにいる人間を殺戮するだけの魔物、まれに魔力をもった人間を攫うとも文献で読んだことがある」


 最初の発見が百年前、百二十年の時間を飛び越えた咲耶たちがまったく知らないのもしかたのないことであった。


 ドラゴンと違い手出し禁止ではなく、最優先の殲滅対象となっている。咲耶たちが聖雷剣を取り戻すために倒しても何の問題も無い事がわった。

 幸い単体の力では成竜よりも弱いことが判明している。


 ただ二つだけやっかいなことがあるらしい。一つ目は人を効率よく狩るための知識を持っており、道具などを使用する点、この知識が聖雷剣も使える理由だろう。そして二つ目は――。


「もう一体でたぞ!」


 イクスが大砲の剣を装備した翼持つ悪魔像とは違う、別の固体を発見した。


「違う、二体追加だ!」


 短眼鏡で確認したソロティアが三体目も確認したのだ。


 二つ目のやっかいな点、それは翼持つ悪魔像が目撃されるときは決まって複数であること。

 合計三体の翼待つ悪魔像の出現。それぞれが違う武器を装備していた。


 そのどれもが灰色の剣。


 咲耶たちは発見できた事を喜ぶべきか、悪魔などに使われていることを嘆くべきか、複雑な気分になってしまう。

 あのどれもが聖雷剣で間違いない、全て見覚えがあるものだった。


 一体目は『梟の暗視』から奪った強大な大砲の剣。土を込めるだけで砲弾を生成してくれるとてもお得な咲耶と同じ土属性の大剣、もっとも重たすぎて剣としては使用者が限定される。梟たちも剣としては使用できていなかった。


「シリアル47『キャノンバスター』だねあれは」


 二体目はこれまた大剣持っていた、悪魔像はギガントオーグルと負けない体格を持っているにも関わらず、剣のサイズが翼持つ悪魔像の体にマッチしている。


「巨人用に作られた超大剣シリアル186『ロイヤルバスター』都合よく巨人用の剣を見つけたようですね」


 レオフィーナはとても面白くなさそうにつぶやく、ロイヤルと名が付く聖雷剣は鎮也のこだわりで、騎士などが装備しても見栄えるように美しい装飾が施されているのだ。ロイヤルシリーズはレオフィーナにとってお気に入りのシリーズであった。

 それがよりにもよって、真っ黒い悪魔が装備しようとは、とても腹立たしい。


 そして最後の三体目、片腕しかない悪魔像、コイツはなんと片腕だけなのに三本もの灰色の剣を装備していた。片腕には黒い箱が付いている灰色の杖剣、おそらくあれが対魔法結界を発動させている装置で、残りの二本は額と足にそれぞれ角や爪のようにハメ込まれていた。


「黒い箱が付いているのはラムザーシリーズのどれかだね」

「角はテイムダガー、足は具足剣(ぐそくけん)ですね」


 ラムザーシリーズはもう二本も対魔法用の魔道具の核として見つけている間違いないだろう。


 テイムダガーはトレイシアに継承した竜交渉剣の原型になった小剣。


 具足剣とは手に持つ剣ではなく、鎧などと同じように足に直接装備するタイプの剣である。


「テイムダガーでこの魔物の群れを操ってたんだ」

「シアみたいな対話ではなく、強引に傘下にしたようですね」

「片腕ってことは、ドラゴンの口の中にあった腕はあいつのってことか」

「あのドラゴンにトドメを刺したのはあの具足剣でしょう」


 片腕の悪魔像がどうやら指揮官らしく、一番後ろの攻撃しにくい位置取りをしている。

 対魔法結界も魔物を操っているのも、すべてが片腕の悪魔像。あれを倒せれば状況は一気に好転しそうである。


「六黒を一斉に向かわせてみようっか」

「このまま睨み合っているよりはいいですね」


 六黒を動かすのは守りの境界線を失うことになるが、攻め込まれる早く指揮官を倒すことができれば、操られている魔物は散っていくだろう。しかし咲耶が六黒に新しい指示を飛ばすよりも先に悪魔像たちの方が動いてしまった。


 膠着を破ろうとしたのは悪魔像側も同じであったのだ。


 三体の翼持つ悪魔像のヘソが赤く光る。


「いけない、みんな、避ける!!」


 マラナが叫んだ、彼女だけが、赤く光るヘソを一度見ていたから。


 しかし警告を受けても、もうどうしようもなかった。三体の悪魔像のヘソから三本の赤いレーザー光線が放たれたのだ。

 光の速さで迫ってくる赤い光、人間の感覚で認識できる速度を超えている。


 一本は境界線を作り出している旋回していた六黒たちを吹き飛ばし。

 一本はソロティアのいる見張り台を破壊し。

 一本は門に開いた穴を守っている咲耶とレオフィーナへと打ち込まれた。


「このッ!」


 レオフィーナは自分たちに向けられた赤いレーザー光線を光剣で受け止める。

 普通の人間ではないレオフィーナは、赤いレーザーの軌道を見切っていた。

 だが、光線の威力は想像以上に強く、後ろにいた咲耶を巻き込み、後方へと弾き飛ばされ門の穴から砦の中へ押し戻されてしまった。


 破壊された見張り台も傾き倒れ、ソロティアは投げ出され砦の庭に叩きつけられる。


「カハッ」


 背中を強く打ちつけたソロティアはせき込み立ち上がることができない。


 一瞬にして砦は守りの要であった盾と目を失った。

 片腕の悪魔像は角になっているテイムダガーを光らせ突撃の命令を出す。


「投石!!」


 柵を突破されれば終わりだと、ルーシアが投石指示を出す。ルーシアがクラネットがマラナがイクスが、出来る限り石を投げるが焼け石に水状態、手数が足りずにエッジオーグルが穴へ殺到する。


 ついに砦の中に魔物の侵入を許してしまった。

 もはや魔物の侵入を止める手立てはないと誰もが思ったが、以外な二つの影が、穴をくぐってきた魔物たちを踏み潰しれくれた。


 それは剣の角を持つ二頭の聖獣、潜り抜けたエッジオーグルに突撃をやり返すトロンバトルナード、咲耶たちがやられたように穴の外へ弾き返した。それでも入り込んでくる魔物の喉元に食らいつくヤマト。


 今回の仕事は運搬と探索の担当を務めていた二頭であったが仲間のピンチに自分で判断して参戦してくれた。さらにヤマトはいつの間にかに手なずけていた探索要員の五匹のプラトンウルフも率いており、連携してエッジオーグルをなぎ倒していく。


「レオナ、大丈夫」

「申し訳ないサクヤ、巻き込んでしまった」


 吹き飛ばされた咲耶とレオフィーナは無傷で立ち上がる。


「油断したね、聖雷剣以外から攻撃がくるなんて」

「レーザー光線を発射するとは、マスターなら作品のジャンルが違うと言いそうです」

「確かに、光線なんてSFだーって言いそう」


 そのレーザーで吹き飛ばされた六振りの六黒が咲耶の元へと戻ってくる。七星剣があの程度の攻撃でやられるわけがない。


「レオナ、私が時間を稼ぐから、ソロティアさんを」

「了解」


 咲耶は六黒の一振りだけを握ると、一足飛びで柵の足場へと飛び上がり、五振りの六黒が咲耶の後を追いかける。


 守り手がいなくなった柵で必死に投石をするルーシア。

 エッジオーグルたちは、その長い鉤爪を柵に食い込ませ、上がってきた。


「上ってくる奴から中心に石を当てて!」


 一匹落とせば、三匹を登ってくるジリ貧状態。

 懸命に死守するルーシアの隣に着地した咲耶は追いかけてきた六黒を操作して壁をよじ登ってくるエッジオーグルたちを斬り落とし、さらに分身した六黒がそれぞれ狙いを定め、縦横無尽に飛び回り穴周辺を一層する。


 中に侵入したエッジオーグルもトロンバトルナードが蹴りだし、防衛線の崩壊は防ぐことができた。


「反則ですよ、その武器」


 投石をやめたルーシアがその場でへたり込んでしまった。彼女やクラネットたち『真紅の秩序』のメンバーの指はボロボロになっていた。限界を超えて投石していたのだろう。

 投げるために加工されていないただの石であった、全力で投げるために強く握れば、すぐに傷だらけになってしまう。


 意思で操作もできる半自動の投擲刀をうらやましく思われてもしょうがない。


「鎮也くんの自慢の七星剣だからね」


 六黒は恐れて逃げ散るエッジオーグルたちを追跡していく。


「どうやら、あの光線は連射できないみたい」


 砦周辺から魔物を追い払うことに成功した咲耶は上空にいる翼持つ悪魔像を睨む。


 ここでまたあの赤いレーザー光線を撃たれれば、せっかく守り切った門がまた破られてしまうかもしれない、だが今のところ発射の兆候は無い、発射するまでには結構な時間がかかるようだ。


「お待たせしましたサクヤ。次の発射までに、叩き落としたいところですね」

「レオナ、ソロティナさんは?」


 手当てを頼んでいたレオフィーナも柵の上へと戻ってきた。


「背中を強打していました、この戦いにはもう参加できませんが致命傷ではありません。砦の中に避難してる夫婦に預けてきました」

「すみません、ありがとうございます」


 クラネットが頭を下げてくる。

 彼女もすぐに助けに行きたかったに違いない、でもこの場を離れることができなかったのだ。


「クラネット、話しは後、ギガントが動くよ」


 ルーシアが注意する。ついに後方にいたギガントオーグルが動き出したのだ、身長がこの柵の高さと同じぐらいはある強大なオーグル。


「大型の魔物でレーザー発射までの時間を稼ぐつもりですね、サクヤ」

「あのテイムダガーだけでも外せれば」


 ギガントクラスを正面から相手にするよりもテイムダガーを奪った方が確実と判断した咲耶は六黒を操り、滞空している片腕の悪魔像の真下からテイムダガー狙って飛ばす。


 しかし、それを察知した別の悪魔像がロイヤルバスターを振るい六黒を弾き、片腕の悪魔像の守りについた。悪魔像たちも片腕の悪魔像が大事だとちゃんと理解しているようだ。


「でも甘い」


 弾かれただけで六黒の攻撃は止まらない。

 大きな弧を描き今度は上から六黒が襲いかかり、額にハメこまれていたテイムダガーを弾き飛ばす。


「見事ですサクヤ。オジロ行きなさい」


 レオフィーナが陽翼剣オジロを投げると、空中で剣獣の姿である剣の角を持つ尾白鷲へと姿を変え飛翔する。

 その羽ばたきは力強くて早い、数秒で片腕の悪魔像の真下へと飛び込み、落下するテイムダガーをキャッチした。


「まずは一振り目、よくやったオジロ」


 オジロはレオフィーナの腕へと舞い戻る。


「ナイスキャッチだよオジロ」


 咲耶もオジロに行動をほめたたえる。

 これで魔物の群れは統率を失うであろう、六黒に脅えながらも逃げなかったエッジオーグルたちだが束縛から解かれると、残る義務も意思もない魔物たちが逃走をはじめる。


 逃げるエッジオーグルに釣られてギガントオーグルも反転するが、大砲剣を持つ悪魔像がギガントオーグルの後方へ砲弾を撃ち込み、無理やりに砦へと方向を変えさせた。


 砲弾に驚き、砦へと突っ込んでくる。


「ちょっと、卑怯よ!」


 ルーシアが柵の上で叫んだ。


 暴走する魔物に威嚇は通用しない、咲耶とレオフィーナが飛び出し、二体までは斬り倒すが、残りの一体が二人の間をすり抜け柵へとせまる。


「みんな逃げるよ!!」


 ルーシアたちが柵から飛び降りようとしたが、横から現れた巨大な影がギガントオーグルに体当たりをして突き飛ばす。

 孤立無援であったはずの砦に、救援が駆けつけてくれたのだ。それも巨大なサイズの助っ人はルーシアの予想を完全に超えていた。


「え、あれって」


 赤い鱗を持つ、ギガントオーグルにも負けない体格の存在。


「地下にいたドラゴン?」


 そのドラゴンの背中には鎮也とトレイシアが乗っていた。

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