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第58剣『幼い竜』

 ガキン、と石の地下室に鎖が引き千切られる音が響いた。


「あ、ヤベ」


 管から解放された幼竜は拘束されていた鎖を壊して檻へと体当たり、鉄製の檻はそのたった一撃でひしゃげた。


「あいつのこと忘れてた」

「呑気なことを言ってる場合か!」


 思いがけない存在との遭遇に、鎮也たちの頭から幼竜の事はすっかり抜け落ちていた。


「ドラゴンの存在を忘れるとは、すごい神経をしているな!」


 大剣を構えるカナリーの腕は震えていた。

 幼竜は檻を破り外へと出てくる。これまで苦しめられた恨みか、目は完全に怒りに染まっており、鎮也たちを敵と認識している。


「シア、いけるか」

「興奮状態です。まともに話しができるかどうかは」

「落ち着かせないとダメか」

「君ら悠長すぎるぞ!!」


 鎮也とトレイシアはこの子供ドラゴンよりも大きい成竜と遭遇している。それと比べると迫力の足りない幼竜を前にしても恐怖はさほど感じられない。


 咆哮をあげ牙を剥き出しにして襲いかかってくる。


「ちょっと場所が悪いか」


 鎮也たちの足元には助け出した男たちが寝ている。この突進は避けることはできない。


 透徹を使い雷を起こす。

 あまり幼竜も傷付けたくはないので、発生させた雷を当らないよう幼竜の前に落として突進をやめさせる。このまま意識をこちらに向けさせて、意識のない男たちからひきはなさなければ。


 鎮也がジリジリと横へと移動していると。


「よくやった!!」


 足止めしたことを、攻撃のチャンスととらえたカナリーは勝手に一人で斬りかかってしまった。


「あ、おい」


 攻撃させるために幼竜を止めたわけでは無い。そもそも幼竜には手を出すなって冒険者ギルドの決まりがあっただろ。多分恐怖でそこまで頭が回っていない。


「覚悟!!」


 カナリーは横へと回り込み、前足の付け根を斬りつける。頭は固くても流石はランクAの冒険者、瞬時に柔らかい箇所を見つけ出していた。

 振り下した大剣はかすり傷程度ではあるが幼竜の足に傷を負わせた。


「カナリーさん早く離れて!」


 トレイシアが注意をするが間に合わなかった。

 痛みに悲鳴をあげる幼竜は、尾を横なぎに振って足元にカナリーを吹き飛ばす。


 真横に飛ばされたカナリー、石の壁に叩きつけられつぶれたトマトになってしまう所を鎮也が瞬間移動で先回りしてギリギリで受け止める。

 全身鎧を着ているカナリーを抱きとめるのはそれなりの衝撃だった。鎮也の体でなければ一緒に潰れていただろう。


「危なかった~無茶するなこのランクA様は」


 カナリーはとっさに尾の攻撃を大剣でガードしたようで致命傷は無く意識を失っているだけであった。彼女は守った大剣は折れてしまったが、ドラゴンの攻撃を受けて命が救われたのだから幸運な方だ。


 幼竜が自分を傷つけたカナリーへトドメを差そうと突っ込んでくる。


「悪かったよ傷つけて」


 鎮也はまた瞬間移動で突進してくる幼竜を前から消え、トレイシアの元へと戻る。

 目標を見失い壁へと激突する幼竜、ドラゴンならあれくらいではケガもしないだろう。


「シズヤさん、カナリーさんは?」

「大丈夫だ、意識を失っているだけ」


 トレイシアは魂輪刀を取り出し、カナリーへ光魔法の回復をかける。


 カナリーを見失った幼竜は辺りを見回し、鎮也の足元で横たわるカナリーを見つけた。口からはチカチカと火花が散っているが、ブレスを吐くことはまだできないらしい。

 まだまだ足を傷つけられた怒りは収まらと、爪で床石を削りながら突進してくる。


「そろそろ落ち着こうぜ、カナリーもダメージ受けたからお互い様でいいだろ」


 鎮也は再びの雷魔法で足止めをしようとしたが、イメージした上級魔法と違い小さい放電が起きるだけで、幼竜を止めるだけの威力は出なかった。


 この魔法がかき消される感覚はウーゴットの屋敷で経験していた。


「まさか対魔法結界か」

「シズヤさん」


 トレイシアが使っていた回復の魔法もかき消されている。

 対魔法結界で間違いない。


 これは幼竜が発動したわけではないだろう、ドラゴンにそんな能力は無い、地上の方でも何かが起きたんだ。


「面倒事は立て続けに来るものだな」


 幼竜が鋭い爪を持つ前足を振り下ろしてくる。


「こっちはお前と戦いに来たわけじゃねえ!」


 透徹で受け止めた鎮也は真っ向から力勝負を挑み、ドラゴンの足を押し返した。


(装備してたのが透徹でよかった、他の七星剣だったらキズ付けてたよ)


 たたらを踏み後ろへ下がるドラゴン。鎮也は透徹で何度も地面をたたき、その打撃を全て幼竜の足の裏へと飛ばした。


 足が跳ね上がり下手なダンスでも踊っているように前後の足が交互に跳ね、最後には立っていられなくなりひっくり返った。


「そろそろ降参しないか?」


 透徹を突き付け降伏勧告をするのだが。

 怒りの矛先をカナリーから鎮也へと切り替え立ち上がる。歯茎まで剥き出しにした形相、怒りのボルテージはさらに高まっていた。


「じゃあ、ダンスのテンポを速めるぞ」


 中途半端だと怒りに油を注ぐだけだと判断した鎮也は、叩く速度を上げドラムの高速連打のように床を鳴らす。

 前足が弾かれ、後脚が跳ね、左右同時に跳ね上がり、四肢の全てが天井を向かって跳び上がる。

 そうなれば、もはや立っていることもままならない幼竜は体ごと鞠のように何度も跳ねる。


 頑丈安心の石の部屋であってもドラゴンが跳ねれば揺れもする。天井からパラパラと石の欠片が降り始めた。


「シズヤさん、ちょっと弱めた方が」


 部屋の崩落が心配になったのと瞳から怒りが感じられなくなったので床を叩くのをやめた。


(このまま降参してくれ、これ以上は手加減が難しいんだ)


 トレイシアが親のドラゴンと約束したため、出来る限り穏便にすまそうとしているのだが、ドラゴンが相手ではどこまで手加減すればいいのかよくわからない。このくらいまでなら体には大した傷はできていないだろう。


 幼竜が顔を起こして鎮也を見る。


「まだやるか?」


 透徹を再び上段へ振り上げると、慌てた幼竜が腹を見せて尻尾を横に振ってみせた。ドラゴンが犬のような降参のポーズを取ったのだ。


「あの~シズヤさん、少しやり過ぎでは」

「……傷つけないように、大人しくさせたつもりだけど」


 体に外傷はなくても心にトラウマを刻んだかもしれない。


 対魔法結界の事も気になり、やり方が強引になってしまったかも、地上には咲耶もレオフィーナもいたのだから大丈夫だと思うが、ゆっくりはしていられない。


「シア出番だ」

「はい」


 トレイシアは魔法のポーチから竜交渉剣を取り出し幼竜へと歩み寄る。鎮也の方は、もう何もしないと両手をあげて後退する。これで少しはリラックスできるであろう。


 脅えて動けない子供に母親のようにトレイシアは優しく語りかけた。


「大丈夫です。私たちは敵ではありません、あなたのお母さんに頼まれて助けにきたの」


 竜交渉剣を通じてトレイシアは幼い竜と魂を繋ぎ会話をはじめる。


「あなたは、母親のことをもう知っていたのね、だからあんなに怒って」


 鎮也にはドラゴンの声は聞こえない、トレイシアが一人で語っているようにしか聞こえない、でも大よその会話の流れは丁寧に話すトレイシアの言葉だけで把握することはできた。


 幼竜は、母親である成竜がすでに亡くなっていることを知っていた。

 洞窟跡で最後の力で発した咆哮は届いていたのだ。


 レオフィーナはその咆哮に、友が迎えに行くとのメッセージも込めていたと言っていた。

 その友がトレイシアであることも理解してくれた。


 竜交渉剣がトレイシアと幼竜の間にできた絆を感じ取り輝きだす。テイムの条件が整ったのだ。


「ねえ、私たちと一緒に来ない、お母さんの変わりはできないけど、私があなたの新しい家族になるから」


 幼竜は鎮也に脅えて降参の姿勢を取っていた。

 この状況ならば竜交渉剣の力を使えば、無理やりにでもテイムすることは可能であったのだが、トレイシアはあえてそうはせずに幼竜の意思にテイムを受け入れるかどうかの判断を任せた。


 子供のような瞳に戻った幼竜はトレイシアをじっと見つめた後、顔を寄せ頬擦りをした。


「ありがとう、これからよろしくね」


 テイムは成功した。

 トレイシアにとって調教師として初めてのテイムがドラゴンとは、何ともすごいことである。余裕があれば新たな絆を深める時間をあげたいが、状況が不明でのんびりもしていられない。


「シア、悪いがゆっくりもできない、地上の方も気になる」


 もうだいぶ時間が経っているが、ルーシアが呼びに行ったイクスたちを連れて戻ってくる気配が無い、地上でも何かあったのは確実。

 急いで戻りたいが、この幼竜をこのままここに残すわけにはいかないし、気を失ったカナリーや捕まっていた人たちも放置できない。


「さてどうするか」

「シズヤさん、この子が通路を知っていました。この奥にこの子でも通れる大きな通路があるそうです」

「やっぱり別に通路はあったか」


 幼竜が入ってきた鉄の扉とは反対側に石の壁を示す。


 出入り口などあるようには思えないが、鎮也がチラリと幼竜へ視線を送れば、絶対にあると何度も首を縦に振った。でかい体なのに器用に動く。

 踊らされたことが相当怖かったらしい。


「もう攻撃しないから、そこまで怯えるな」

「大丈夫ですよ、シズヤさんはとても優しい英雄ですから」

「シア、英雄はやめてくれ、こそばゆい」


 どうもトレイシアは鎮也を持ち上げる傾向にある。赤くなった顔を隠すために、そそくさと教えてくれた場所に透徹の解錠を試してみると、すんなりとスライドして巨大な出入り口が開いた。


「ホントにあった」


 これで残る問題は助け出した人たちをどうするか、一度地上を確認しないと瞬間移動で運ぶわけにもいかない、かといって、意識の無い人たちを無防備なまま置いていくわけにもいかない。


 もしルーシアの情報通り『梟の暗視』の襲撃があればウーゴットの隠し財宝から持ち出した聖雷剣を使っている可能性が高い、鎮也がこの場に残ることは絶対に却下だ。


「この場をカナリーに頼めればベストなんだけど」


 ランクFとランクCの鎮也とトレイシアではカナリーに頼みごとをするのは難しい。

 逆に二人でこの場に残れと言われそうだ。


「どう、お願いすればいいか」

「シズヤさん、これは使えないですか」


 トレイシアは折れたカナリーの大剣を持ってやってきた。


「おおナイスアイディア、使えるかも」


 折れた大剣を直して、そのお礼にこの場に残ってもらえるようにお願いしよう。冒険者としてではなく、あくまでも鍛冶師として接すれば対等に話せることは証明されている。


 鎮也は魔法のカバンから雷蛇鎚ミュルニョルを取り出した。

 カナリーには申し訳ないが、時間が惜しいので能力よりも仕上げの早さを優先させえてもらう。


「折れる前より能力が高ければ文句はないよな」


 ミュルニョルのスキル『雷電鍛冶』発動。


 火が無くとも雷を用いて鍛冶仕事ができる。ミュルニョルから放たれる放電を浴びた大剣が重力に逆らって浮かび上がる。


 折れた個所には繋ぎが必要だ、以前にイクスのホウプソードを直した時には魔核を繋ぎに用いたが今ある魔核はドラゴンの魔核だけ、こいつを使う訳にはいかないので、鎮也は仕方なく床石を砕いて代用する。


「スキルを一つ付けるから、許してくれ」


 鎮也は気を失っているカナリーへ一言謝罪すると、修復に取りかかる。一握りに床石を砕いて雷光放つ砂に変える、それを折れた剣へと流し込みノリのように折れた個所を繋ぎ合わせた。


 大剣の形が整うと、鎮也はミュルニョルを振り下ろす、元の姿へと戻すために、繋ぎが見えなくなるまで鎚を振る。イメージするのはカナリーの戦闘スタイル、まだ数度見ただけであるがこれだけ巨大な大剣を女性の身で使いこなしていた。


 そんなカナリーと相性の良いスキルを付け加え、雷電鍛冶は終了した。


 完成した大剣は雷光の色と同じ青白いオーラを纏っている。

 鎮也は鑑定眼を発動させた。


「―――――――――――――――――――――――

【名称】剛剣ダイベルク改

【製作者】ルードアン

【分類】大剣  【レア度】☆☆☆(3)

【長さ】140センチ 【重さ】2.5キロ

【魔剣核】なし

【スキル】

『軽量化(小)』……剣の重さを少し軽くする。

『雷速斬』………雷を纏った神速の斬撃を放つ。

【補足】

 軽量化のスキルしかなかった剛剣ダイベルクを鎮也が修復して雷速斬を追加した。そのためスキルが二つも付加された剣であるのに魔核が無い特殊な剣が出来上がる。

 修復には鉄ではないただの石が使われたため、軽量化のスキルが弱まった。

――――――――――――――――――――――――」



「よし、全体的に能力アップしたからよしとしよう」


 サービスで刃こぼれも完全に直しておいた。

 少しだけ重量増加となってしまった。元のダイベルクを鑑定していなかったので修復前の重さは分からないが、それほど変わっていないであろう。


「う、うう」


 大剣の修復が完了した所でちょうどカナリーの意識が回復しかける。

 後はどうカナリーに残ってくれるかお願いするだけ、鎮也とトレイシアはカナリーの目覚めに備える。

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