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第57剣『みの虫』

 冷たい石作りの階段を下りていく鎮也、トレイシア、カナリー、ルーシアの四人、先頭を歩くルーシアが灯す明かりより先は闇に覆われまったく伺い知れない。


 階段は末広がりになっており、地上の明かりが届かなくなったころから四人が横一列に並んでも通れるほどになっていた。


「想像以上に広いね、これはホントにドラゴンだって閉じ込められる規模だよ」


 遊撃手のルーシアは斥候もこなす、少しの手がかりも見落とさないよう階段を探りながら進んでいた。


「地上の砦と建築方式が異なりますね作られた時代がそのものが違う、この地下室の方がずいぶん昔に作られたみたい」


 建築士見習いをした経験もあるトレイシアが地下室の構造を調べる。

 トレイシアの見立てでは砦はせいぜい三十年、この地下室は百年前後が経過しているそうだ。


「崩れる心配はあるか?」

「いえ、張もちゃんとしていますし、壁石の並びも計算されているようですから、そう簡単には崩れないと思いますが」

「幼竜が暴れたらわからないか」

「……はい」


 素直にトレイシアの話しを聞いてくれるといいのだが。

 仮に生き埋めになっても鎮也は他の三人を抱えて脱出できる。しかしそれをやればまたカナリーにからまれそうなので穏便に終わって欲しいと願うばかり。


「下が見えてきたよ」


 ルーシアが明かりを掲げて見せると、階段が終わり、石作りの床になっていた。左右に扉が一つずつあり、右側の扉は巨大な鉄製で左側は小さな木製の扉であった。


「シア、幼竜はどっちだ」

「鉄の扉の奥から気配を感じます」

「じゃあ木製の部屋から調べちゃいましょう」


 背後の安全を確保するために鉄の扉を開ける前に木製の扉の部屋を確認する。


 木製の扉の奥からは何も気配を感じない、ルーシアが一応用心して木製の扉をあけるが、予想通り中は無人であった。そこは小さな待機部屋のような作りで、テーブル一つに数個の椅子が置いてあるだけのシンプルさ。


「壁には除き穴があるね」


 部屋の安全を確認したルーシアが皆を招き入れる。


「ここは外敵に備えた、見張りの待機部屋か」


 カナリーが部屋の位置と作りから、見張り部屋と推測する。


「待機部屋は合っていると思いますが、見張っているのは外敵ではなく、鉄の扉のようです、地下牢だったのかもしれません」


 除き穴を確認したトレイシアが構造から外敵ではなく内側を監視するためにの部屋だと読み取った。


「昔に何かやっかいな奴を閉じ込めてったてことか」


 ウーゴットはこの地下室を見つけドラゴンを閉じ込めるのにちょうどいいと利用したのかもしれない。鎮也たちが入ってきた入り口では小さすぎてドラゴンは通せないので別の出入り口もありそうだ。


「過去の推測はもういいだろう、この部屋には何も無い事がわかった、次は本命の扉を開けるとしよう」


 鎮也たちは部屋を調べ終わり、背後の心配も無くなったと本命の扉の前へ移動する。


「こっちには鍵が掛かってるよ、私じゃ開けるのに時間がかかりそうだけど、君ならすぐにできたりして」


 ルーシアは早々に自分で鉄の扉を開けることを断念して鎮也に訪ねてくる。

 できるでしょと確信を持っているようだ。

 実際、鎮也にとって扉などは普通の鍵だろうが魔道具仕掛けだろうが関係ないが。


「では、解錠します」


 鎮也は透徹のスキルを発動させ、鍵の部分を叩けばガチャンと解錠された音が鳴る。


「すごい技術だ、君は職業を間違えていないか」


 冒険者以外の技能はほめてくれるカナリーさん。


「いや~……本当に簡単に開けてくれるね、でもこれは冒険者でも使える技能だよ」


 話を振ってきたルーシアさえあまりの簡単さにあんぐりと口をあけていた。それでも一応は鎮也のフォローもしてくれた。


「こいつの得意分野なんで」


 大十手透徹で鎮也は自分の肩を軽く叩いた。






 鉄の扉を軋ませ中へ入れば、そこはまた闇が広がっていた、しかし、開けた瞬間から聞こえてきた低い地鳴りのような音がこれまでと違っている。


 これは間違いなく魔物の唸り。


「魔物が潜んでいたか!」


 カナリーが指輪型の収納魔道具から瞬時に大剣を引き抜く。

 この時、鎮也はあれが収納の魔道具だったのかと場違いなことを考えてしまった。鑑定眼を使いたい衝動に駆られたが、ここは未知のエリアだ油断はできないと雑念を押し殺す。


「ルー魔物の場所はわかるか」

「ごめん、声が反響してよくわからない」


 ルーシアもどんな奇襲でも対応できるようにナイフを抜いていた。

 襲撃を警戒するランクAの冒険団の二人。

 対象的に弱っている幼竜の声だと確信がある鎮也たちは、それほど警戒してはいなかった。


「シア、この声って」

「間違いありません、幼竜です。相当に苦しそうですね」

「これがドラゴンの唸りなのか」

「近づいてくる気配なし、明かりを投げ入れるよ」


 ルーシアが最初から投げ入れなかったのは、もし部屋が魔物の巣窟であった場合、突然の光でパニックを起こした魔物の群れが混乱状態のまま突っ込んでくるのを警戒してのことだ。

 ルーシアが持っている魔道具の光源を強めて、部屋の中へと投げ入れる。さらに続けて同形の魔道具を取り出し連続で投げ入れると、部屋の全貌が照らし出された。


 石柱が並ぶ石の部屋、貴族の屋敷のダンスホールほどの広さがあった。奥には鉄格子の檻があり、中には鎖で繋がれた幼いドラゴンが横たわっていた。


 鎮也たちが檻へ近づいても反応はない。

 絶えず苦しそうに呻くだけで、鎮也たちには気づいてもいないようだ。


「これがドラゴンか」

「噂には聞いてたけど子供でもここまで大きいんだ、ギガントオーグルと体格かわらないね」


 カナリーたちにとっては初めてのドラゴンとの遭遇であった。

 幼くともドラゴンはドラゴン、史上最強の種族である。例え鎖に繋がれた檻越しの対面であったとしてもカナリーたちの声は恐怖をはらみ固くなっている。


「どうしてここまで苦しんでるんだ、ウーゴットに毒でも打たれたか」

「違いますシズヤさん、どうやらアレが原因のようです」


 トレイシアが毒を否定して天井を指差した。


「何かあるの?」


 ルーシアは明かりが天井を照らすように持ち替えると、天上にハメ込まれた紫の球体が浮かび上がる、紫の球体からは細い(くだ)が伸びており、鎖と一緒に幼竜の体に何本も巻きついていた。


 他にも球体から伸びた管にぶる下がる蓑虫のような塊が十個ほど垂れ下っている。


「おいおい何だアレ」


 生き物には思えない、鎮也は鑑定眼を発動させる。


「――――――――――――――――――

【名称】吸収球体

【分類】補給機 【レア度】☆☆☆(3)

【球体直径】120センチ

【核】ハイパラスライト

【スキル】

『吸収』…………生物からエナジーを吸収する。

『供給』…………悪魔像へエナジーを供給する。

【補足】

 悪魔像へのエナジー供給装置、パラスライトにはエナジーを保存する性質がある。吸収球体自体が自動で稼働する機械であり、識別信号を持たないエナジー保有者が近づけば自動で捕獲し吸収を行う。

――――――――――――――――――」


「悪魔像」


 ここでも悪魔という符合が出てきた。


 そして気になるのが鑑定できたのが球体だけであり、垂れ下っている蓑虫は鑑定できなかったこと、鎮也の鑑定眼で鑑定できるのは道具だけ、つまりあの蓑虫のような物は道具ではなく生き物。


「不気味な色してるね」


 ルーシアがもっとよく見えるように光源を最大まで強め紫の球体を照らすと、まるで眼球のようにギラリと光りを反射させると、ドラゴンへ伸びているのと同じ無数の管が鞭のようにしなって襲ってきた。


 鎮也は咄嗟に透徹で防ぐことはできたが。


「キャア!」


 トレイシアが管に巻きつかれた。


「シア!!」


 四肢を絡め取りトレイシアを天井に引き上げようとするが、そうはさせないと鎮也が透徹で管をたたき壊す。解放されたトレイシアを受け止め、蛇のように追いかけてくる管をはじき返しながら後方へ飛ぶ。


「大丈夫かシア」

「はい、ありがとうございます」


 トレイシアの返事ははっきりとしている事に鎮也は安堵する。

 鑑定結果にあった自動で捕獲とはこの襲いかかってくる管の事だったのだ。


「ちょっと、放しなさいよ!」

「ルー!」


 今度はルーシアの足に絡み付いた。

 巻き上げられる管に足を持ち上げられ、ルーシアは倒され地面を引きずられる。


「ルー! どけ、邪魔だ!!」


 大剣を振り回しカナリーはルーシアを助けようとしたが、何本もの管に邪魔をされ、逆にカナリーに腕も捕まってしまい捻り上げられ大剣の動きを封じられる。


 鎮也は透徹のスキル『雷魔法』を使い、稲妻を起こして二人を拘束した管へと打ち込んだ。稲妻は管を破壊し二人を助け出す。


「早く離れろ!」


 球体は動けないようで、離れれば管の攻撃も弱くなる。

 鎮也はさらに稲妻を作りカナリーにたちに迫る管を破壊し続ける。


「まさか君が使い手の少ない雷魔法の使い手だったとわな、その武器のおかげか」


 息を切らせてカナリーとルーシアが鎮也の元まで避難してきた。


「ちょ、ちょっと、待って、私、雷を使う鍛冶師の噂を、聞いたことあるような~」


 迫る管はすべて雷撃で撃ち落とし、安全地帯を確保しているが、このままでは何も解決しない。


「話しは後で、とにかくあれを破壊するぞ」

「そうだね」


 鎮也が強力な雷魔法を放とうとすると、管が引き寄せられるようにこれまでにない数で一斉に襲って来た。雷撃でも撃退が追い付かなくなる。これでは魔法の溜めに入ることができない。


「ランクFにばかり負担は掛けられない」

「そうだよね」


 カナリーとルーシアが鎮也へ迫る管を大剣とナイフで切り捨ててくれた。

 これで溜めは作れた。


「ありがとうございます!」


 鎮也は紫の球体破壊するために上級の雷魔法を放つ、眩しい光を放ち地面から伸びる稲妻が管を破壊しながら突き進み球体に直撃するが、稲妻は吸収されるようにかき消され、本体は傷一つ付けることができなかった。


「魔法が吸収された」

「シズヤさん、管に捕まった時、魔力を抜かれる感覚がありました」

「そういうことか」


 鑑定結果にエナジー吸収とあったが、エナジーとは魔力であると素直に受け取っていいのかもしれない。管が魔法を使おうとした鎮也を狙った事でも辻褄が合う。


「もしかして、あの蓑虫みたいなのは捕まった人なのか」

「その可能性はあるな、私も腕に絡まれた時に魔力を持っていかれた」


 魔力を持った魔物の可能性もあるが、蓑虫のシルエット的に人間に思える。


「壊してみればはっきりするな」

「魔法は利かないのだぞ」

「他にも方法はあります」


 大十手透徹を大上段に構え、迫る管に全力で打ち込んだ。そしてスキル『飛打撃』発動、管は直接球体と繋がっている。衝撃は管を伝い、球体へと届いた。

 振動が伝わる場所ならどこへでも衝撃を飛ばせるスキル。鎮也の全力の打撃は直接紫の球体へと叩きこまれ、縦に一本のひびが入った次の瞬間には落としたガラスのように砕け散る。


「一撃で破壊した」

「……今の攻撃はどうやったの」

「恐らくは、あの武器の固有スキルだろう、そうでなければランクFがあんなこと、できるわけがないからな」

「カナリーはホントに固いね」


 もうレオフィーナではないがお約束になっているなと鎮也は感じた。

 紫の水晶を破壊したことにより蓑虫を吊るしていた管も力を無くしずるずると体重に負けて垂れ下ってくる。


「それよりも早く蓑虫の中を確認しましょう」

「あ、ああ、そうだな」


 ゆっくり垂れてくる蓑虫へ近づきルーシアがナイフで覆っている管を切ってみると人の顔が現れた。


「もしかしたら行方不明のギルドナイトか」


 ルーシアの報告では山頂でやられたとなっているが、鎮也はその可能性は低いと考えている。


「数は合っているな」


 カナリーもこの人たちはギルドナイトではないかと思っているようだ。

 蓑虫の正確な数は十二個、そのどれもが人間であった。行方不明になったギルドナイトは十二人。


「イクスさんも一緒に来てもらえばよかったな」


 顔を知っているのは同じギルドナイトであるイクスだけ。


「私が走って呼んでこようか?」


 ルーシアが伝言に走ってくれると言い出した、確かにイクスには着てもらった方がいいかもしれない。山頂で罠にかかったと思われていたギルドナイトがどうしてこんな地下室にいたのか謎ではあるが、その究明のためにも、この人たちがどこの所属なのかをはっきりさせる必要がある。


「シズヤさん、まだこの人は息がありますよ」


 トレイシアが蓑虫にされていた人の生存に気が付いた。彼女は聖雷剣魂輪刀(ソウリントウ)の使い手、人の命にはとても敏感に反応してしまう。亡くなっていたのではなく、魔力を抜かれ続け仮死状態になっていただけであると気がついたのだ。


「シア、他にも生きている人がいないかを探すんだ」

「はい」

「ルーは地上に戻ってイクス殿とクラネットを呼んできてくれ」

「わかったわ、すぐに戻る」


 イクスはギルドナイトであるか確認するため、クラネットは回復魔法も使えるから呼んだのだろう。


「すみません、レオナも呼んでください」

「了解」


 レオフィーナが持つ陽翼剣オジロが回復魔法を使える。


 ルーシアが応援を呼ぶために地上へと続く階段を駆け上がって言った。

 鎮也たちは他にも生存をしていないか、助け出した十二人の間を駆け回る。


 この時、四人の誰もが捕まっていた人たちに気を取られ忘れてしまっていたが、この部屋にはまだ別の存在がいる。


 絶えず響いていた苦しそうな呻きが、いつの間にかに止まっていたことに、誰も気が付いていなかった。

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