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第56剣『ぶっちゃけと隠し扉』

「どうして少年にはわかったのだ」


 プラトンウルフですら発見できなかった隠し扉をあっさりと見つけた鎮也に驚愕したカナリーが問いかけてくる。


「ああ、どう説明したらいいかな、わかるんですよ俺」

「わかる?」


 また聖雷剣がくだらないことに使われていたので、つい後先考えずに引き抜いてしまった。

 目立つとカナリーから説教されそうなので大人しくしてようと思っていたのに。


「鑑定スキルを持っているんで、使ってみたら何も無い空間に反応があたんです」

「商人が良く習得するスキルか、しかし鑑定スキルにこんな使い方があったなんて」

「団長、普通の鑑定スキルはそこまで能力なかったはずです」


 真紅の知識担当、博学の魔法使いクラネットがカナリーの勘違いを訂正する。


「鎮也くんの鑑定眼は超が付く一流だからね」


 鎮也はとても優秀なのだと釘をさすように咲耶は鎮也の能力を自慢する。


「そ、そうか、鍛冶師としてはサクヤどのたちが言う通り、優秀なのだな」


 今回は鍛冶師としての技能だったのでお説教はなかった。

 これは鎮也にとってうれしい発見だ。


「それに、わかった理由はもう一つあります」


 鍛冶師として動けば説教されないなら、そっち方面を全面に打ち出す形で動き出す。

 鎮也は透徹で引き抜いた杭を叩き割る。すると黒い杭の中から灰色の剣が姿を現した。


 鎮也は鑑定眼を発動させる。


「―――――――――――――――――――――――――――

聖雷剣シリーズ シリアル35

【名称】「ハレイジャクター(灰色化)」

【和名】「蜃気楼画」

【製作者】星尾鎮也

【使い手】未登録

【分類】長剣    【レア度】☆☆☆★(4-1)

【長さ】110センチ 【重さ】1.6キロ

【聖剣核】青水晶

【スキル】

※封印中『雷魔法(中)』…………使い手が雷魔法を扱えるようにする(効果:中)

『蜃気楼』…………その場には存在しない映像を映し出す。

『濃霧』……………濃い霧を発生させられる。

【補足】

 使い手のイメージを蜃気楼として作り出すことができる。正体は霧のため作り出した物に触ることはできない。霧は魔法ではないため探知されにくい性質を持つ。

 使い手は未登録であり、これまでの所持者がふさわしくないためレア度がマイナス1、スキルの効果も軽減され灰色化している。

―――――――――――――――――――――――――――」


「これ俺が作った剣なんですよ」

「それは、剣としてどうなのだ、いや、すごいなその剣は」


 見た目は灰色でボロボロに見えてしまうが、カナリーは聖雷剣に秘められた力を感じ取ったようだ。流石はランクAの剣士だけのことはある。


「ありがとうございます」


 鎮也も賛辞を素直に受け取った。


 別行動する前とは打って変わって覇気のある鎮也の態度にもカナリーは戸惑ってしまったようだ。洞窟調査の時に睡眠が取れた鎮也は体調がかなり回復しているので、カナリーを前にしても堂々と受け答えができている。


 冒険者全員の憧れであり頂点の存在ランクAを前にしても堂々とした受け答え。

 その立ち振る舞いはとてもランクFの新人ではなかったのだ。


「この扉を調べますか?」


 発見したのだから気配の正体を突き止めなければならない。鎮也たちはドラゴンの幼竜だろうとは検討が付いているがカナリーたちには知らせていない。この状況なら正直に話した方が問題が起きないではないかと鎮也は考え始めた。


「その前にルーシアからの報告を聞こう、重要なことなのだろう」


 問題があるとすれば、カナリーたちにバレた後の幼竜の処遇だろう。ルーシアの報告が終わるまでにどうするか決断しなければ。


「そうだね団長、この扉にことより先に聞いてほしいな」


 ルーシアは砦の庭に全員を集めた、『七星剣セブンセイバーズ』と偵察に出ているマラナを除いた『真紅の秩序スカーレット・オーダー』、ギルドナイトのイクス、最後に魔獣レンタル牧場主の老夫婦が集合する。

 ルーシアはそこで自分が掴んだ情報を伝える。救出にきたギルドナイトは『梟の暗視ウィル・サーチャー』によって既に亡き者にされていることも含めて。


「そんな、みんなはすでに……」


 彼女は報告はわずかな希望を抱いていたイクスの望みが絶たれた事を意味した。


「残念ですが」


 ルーシアは残酷な報告をしてしまったとイクスに頭をさげる。


「……罠を発動させて、ギルドナイトを全滅」

「シズヤどの、どうかした?」


 報告を終えたルーシアが難しい顔で考え込んだ鎮也に気が付く。

 彼女の説明は聞いた鎮也に疑問が浮かんだ。

 馬車の上では簡単な説明しか受けなかったので気が付かなかったが、丁寧に詳細を聞くうちにいくつかの矛盾点がでてきた。


「ギルドナイトたちは山頂付近で罠にハメられたんだよな」

「そうね、そういう計画だったわ」

「でも、俺たちが調べた洞窟にもギルドナイトがいた形跡があった」


 折れた剣が見つかっている。あの剣はギルドナイトと関係がなかったのか。


「咲耶」

「この剣のことだね」


 咲耶は鎮也のお願いを先回りして馬車から剣を取ってきてくれていた。それをイクスに確認してもらう。


「イクスさん、これはお仲間の剣ではないですか?」

「そうです、これは私の仲間の剣です間違いありません」


 イクスはギルドナイトの剣であると断言した。

 山頂で罠に掛けられたはずのギルドナイトの剣がまったく別の場所から見つかった。

 何かがおかしい引っ掛かりを感じてしまう、梟の計画のどこかが矛盾している。


「シズヤさん、梟の罠というのはあのドラゴンのことでしょうか」

「いや、あの成竜を手懐けるなんて梟には無理だろ、ってそうかドラゴンだ、梟の計画にはドラゴンが入っていないんだ」

「ドラゴンだと!?」


 計画を漏らした男もドラゴンの話には半信半疑であった様子、あいつらはウーゴットの隠したドラゴンを発見していなかったのだ。仮に見つけていたとしても、ウーゴットですら操れなかったドラゴンを下部組織が操れるわけがない。


「少年、ドラゴンとはなんだ、説明してくれ」

「ちょっと待ってください、考えを整理しますので」


 でも、だとすると、あのドラゴンを殺した悪魔の正体はとは何だ。

 強靭なドラゴンの皮膚を引き裂くことのできる悪魔とは。

 ランクAのギルドナイトでもドラゴンの皮膚を切り裂くなどできないだろう。聖剣でも持っていたのか、いや、折れた剣は聖剣ではなかった。


 そもそもギルドナイトは本当に梟の罠でやられたのか、もしかしたら、ドラゴンを殺した悪魔と遭遇したのではないか、イクスよりも腕が上の集団なら、例え罠にハメられたとしても一人か二人くらいは脱出してもいいはず。それは実際にウーゴットの罠を体験した鎮也だからこそ判断できる。


 でもギルドナイトは一人も帰ってこなかった。


 本当は別の何かにやられたのではないか、いくら考えても答えが出ない。

 何かとは何だ、何かとは悪魔か、悪魔とは何だ。

 結局はここで考えがストップしてしまう。


 まだ情報が揃っていないのだ。


 情報が足りないなら集めるしかない、どこで集める。

 知っている存在に聞くのが一番。

 そして唯一話しが聞けそうな存在が隠し扉の先に居るかもしれない。あのドラゴンの元から攫われた幼竜だ、攫われたのだから当然悪魔を見ているはず。


 もう隠し事は無しでいこう。カナリーたちにも協力を求め原因の究明に全力を注ぐべきだと鎮也は腹を括った。


 鎮也は思考をやめゆっくりと目を開いた。


「考えはまとまったか?」

「はい、お待たせしました、順番にお話しします」


 鎮也は洞窟で発見したドラゴンの死骸のこと、そしてドラゴンから聞いた悪魔の事を話した。


「死んだドラゴンと会話したのか!?」


 ドラゴンがいたことだけでも驚愕の事実なのに会話したなど、それも死体と、信じられないことをさらりと報告する鎮也たちは、それがどれだけぶっ飛んだことなのか理解できていなかった。


 真紅の女性たちは軽く混乱する。博識の魔法使いクラネットですら思考が追い付いてきていない。


「ドラゴンゾンビとして蘇りましたので、テイマーとしての素質があったシアが直接聞きました」

「はい、子供を悪魔に攫われたと」

「……ドラゴンゾンビ」

「子供助けたい一心で動く亡者へと変質してしまいました。子供は私たちが取り戻すと約束したので、そのあらぶった魂を鎮めてくれましたが」


 わずか数日でトレイシアもだいぶ鎮也たちに毒されてきたようで、冒険者ギルドでもランク付けすらされていない伝説の魔物ドラゴンゾンビを鎮めたとさらりと言ってしまう。


「…………ドラゴンゾンビ、正式な遭遇報告は無く存在するだろうとは言われていた幻の魔獣、強力なドラゴンの力と死なない体を持つ討伐ランクは推定S」


 討伐Sランクは国が軍を差し向けなければいけないと判断される相手である。クラネットは過去に辺境の国に出没したと書物では読んだことはあるが、それが本物のドラゴンゾンビであったかは立証されていないとも書かれていた。実体が掴めていない、だから討伐ランクが推定なのだ。


「そんなに高ランクなの?」


 遭遇したことが無いからわからないのか。


「ドラゴンゾンビは知能が低くて動きは単調だし、体の防御力も低下して、ブレスを吹けば自身のダメージ食らってたから、生きてるドラゴンより数段に弱かったぞ」

「まるでランクFの新人がドラゴンに遭遇したことのあるような口ぶりだな」


 少しは柔軟な思考をするようになったと思えたカナリーであったが、やはり冒険者ランクへのこだわりは完全には解消できていなかった。


「冒険者になる前に、素材集めの旅の道中に遭遇したことはあるぞ、あります」


 会話の相手がカナリーであった事を思い出し、慌てて語尾を言い直す。


「団長、話しがそれてるよ、今度ゆっくりとドラゴンと遭遇したときの武勇伝を聞かせてもらうことにして、今は仕事に集中しよ」

「そうだった」


 ドラゴンと交渉したことを話したら、話題が完全にそっちに行ってしまっていた。


「話を戻します、シアはドラゴンと会話ができます。そしてこの扉の先いるのはおそらく攫われた幼竜、そいつなら、この山に潜んでいる正体不明の悪魔を知っているはずです」

「ドラゴンが唯一の生き証人と言うわけか」


 こうして鎮也たちは扉の向こうにいるドラゴンの幼竜と会話することになった。






 発見された扉を調べてみると別の魔道具で閉ざされていたが、鎮也が透徹を使って簡単に解除してみせた。本当に鍵が掛かってたのかと疑いたくなるほど簡単な開錠。


「私のいる意味ない」

「気にしたらダメだよクラネット、あちらさんはきっと開錠の専門家なんだよ」


 普段『真紅の秩序』では魔道具系のトラップの解除はクラネットの仕事であったが、鎮也が十手で叩くだけで簡単に解除する姿に彼女は自信を喪失しかけた。補佐役のルーシアがすかさずメンバーのフォローに入る。いくら知識が多くてもクラネットが冒険団の中で最年少であることには変わりない。


 そんなクラネットを見て、悪いことをしてしまったと感じる鎮也、次からはもう少し慎重に動かなければと心に刻んだ。


「それも君の作った武具なのか」

「そうです、最高傑作の一つですね」


 クラネットよりも早くに開錠してみせた武具。

 この時初めてカナリーが鎮也のことを純粋にすごいと思ったのかもしれない、ドラゴンと遭遇したことがあると話してから、少しだけ疑惑を持たれていたようだが、解錠の手際でその疑惑も拭えたようだ。


「すごい武具だな」

「ありがとうございます」


 鍛冶師である鎮也、自分の作品を褒められれば当然嬉しい。


「しかし、いくら武器が強力でも扱う人間次第なのは変わらない、自分がランクFであることは忘れてはいけないぞ」

「は、はい、そうですね」


 それでもやっぱりカナリーはカナリーであった。


 もう慣れてきた鎮也は忠告を聞いた振りをして聞き流し隠し扉への人選を仲間に伝える。


「中は俺とシアで行くから、咲耶とレオナは砦の警護を頼む、悪魔の正体もわからないし、梟たちの襲撃もあるかもしれないからな」

「まかせて」

「了解しましたマスター」


 幼竜と交渉するためにトレイシアは外せないし、もしまた隠し部屋に聖雷剣が核に使われた魔道具があった場合鎮也が一番対処に適しているため、適材適所な人選であったのだが。


「ちょっと待ちたまえ、君が自分で行くつもりか」

「そうですけど」

「この先にはドラゴンがいるかもしれないのだぞ」


 団体のリーダー、カナリー様よりストップが掛かってしまった。

 しかし中に入るといった時点で止められる事を半ば想定していた鎮也は返しを用意していた。


「俺は魔道具などで仕掛けられた罠の解除担当です。この技術は冒険者としてではなく、鍛冶師として身に着けた技術の応用なので自信をもっています」

「私もシズヤさんが一緒だと心強いです」


 すかさずトレイシアがフォローしてくれた。


「そ、そうか」


 職人だと全面に打ち出せば反論が出来なくなるカナリー、ちょっと面倒ではあるが鎮也もカナリーの扱い方を覚えてきた。

 このまま鎮也たちだけで中に行ければ楽なのだが、相手のカナリーにも補佐役はいる。


「それじゃ護衛は必要だよね」


 話しを聞いていたルーシアが言い負かされたカナリーに変わり会話に参加してくる。


「交渉役と解錠役だけじゃ、心配だから護衛として私とカナリーが付いていくよ」

「そうだな、確かに護衛役は必要だ」


 うんうんと頷くカナリーさん。彼女とルーシアの同行も決定した。


「ソロティア、クラネット、ここは任せる」

「はいよ団長」

「了解です」


 隠し部屋への突入は鎮也にトレイシア、真紅からカナリーとルーシアの四人となった。

 即席のパーティーではあるが、トレイシア以外、狭い場所でも戦闘が可能なメンバーだ、何らかの仕掛けがあっても乗り切れるだろう。


 鎮也は鍵を解除した隠し扉を開く。


 扉の中には地下へと石の階段が伸びていた。明かりはなく暗闇へと伸びる階段はその先に何があるのか教えてはくれない。


 明かりを灯す魔道具を持ったルーシアを先頭に、鎮也はたちは幼竜に会うため地下への階段を踏み出した。

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