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第55剣『七星と真紅が合流』

 ドラゴンより幼竜の救出も依頼された鎮也たちは急ぎカナリーたちと合流するために追い駆けた。もし、幼竜と接触して戦闘にでもなっていたら面倒な事になる。


 馬車を引く馬を咲耶の土の馬からトロンバトルナードに変え、剣獣になったヤマトに匂いを追いかけてもらいながら山道を疾走した。


 さすがに鎮也が改造した魔改造馬車であっても悪路で車体全体が跳ね上がれば揺れる。


「キャア!」


 トロンバトルナードの速度をはじめて体感したトレイシアが跳ねる車体に体が浮かび上がった。


「シア」


 体制を崩しそうになった所を鎮也が肩を抱いて支える。


「大丈夫かシア」

「はい、ありがとうございます」

「いいですよマスター、揺れる乗り物に乗れば女性が倒れそうになり、男性がそれを支えるのがお約束です。マスターの手がシアの胸辺りにあれば完璧になるのですが」


 ラブコメ的なお約束をレオフィーナは御者台に座り手綱を握りながら求めてきた。


「レオナ、ちゃんと前を向いて手綱を握ってよ」

「大丈夫ですサクヤ、馬がトルナードですから御者なんて本当は必要ありません」

「ぐぅ~」


 咲耶もトロンバトルナードなら速度を出しても安全だと知っているので言い返せない。

 揺れる馬車でも慣れている咲耶は安定感があり鎮也の支えを必要とはしなかった。


「マスターこれからも揺れますから、シアを支えてくださいよ」

「わかってるよ」


 鎮也は少しだけ咲耶に睨まれながらそれでも唯一の男としてトレイシアを支え続けた。


「すみません、シズヤさん」

「気にするな」


 高速で移動する鎮也たちはカナリーたちよりも短い時間で分岐路に到着した。馬のいない馬車が二台だけ止められている。

 ヤマトの嗅覚はここで救出隊が二手に分かれたことを突き止めてくれる。


「痕跡が分かれたから、カナリーたちも分かれたのか」

「山頂に続く道はそのまま馬車で行ったみたい、獣道の方は徒歩だね、荷物持ちに馬だけ連れてったんだと思う」


 咲耶がヤマトと一緒に残された痕跡を調べる。


「真紅と梟で分かれたのでしょうね、そのまま馬車で行ったのが梟でしょう」


 レオフィーナが残された馬車を確認したが大砲が残されていなかった。まさかあんなでかい大砲を徒歩で運搬などはしないだろう。


「ヤマト、カナリーさんたちがどっちにいったか分かる」


 予想通りヤマトはカナリーたちが向かったのは徒歩の獣道だと鼻で指して答える。


「どうする鎮也くん」

「カナリーたちと合流しよう。あの梟たちは胡散臭いからな」


 どう見てもまっとうな冒険団には見えなかった、実力優先で集めたカイザンの人選ミスだ。


「シズヤさん、山頂への道から誰か走ってきますけど」

「本当だな」


 トレイシアが頂上からドタドタと走ってくる男に気付く。

 何度も転びそうになりながら涙と鼻水で顔をグシャグシャにして、猛然とダッシュしてきた。


「多分だけど梟の一人だね」


 咲耶は男に見覚えがあったようだ、鎮也は眠気が強かったので梟のメンバーの顔は誰一人覚えていなかった。

 その男は何かから逃げているよいにも見えるのだが、追いかけてくる存在はいない。いったいなぜ一人で山道を降りてきたのだろうか。


「どけどけどけぇ~!」


 男も鎮也たちに気が付き道を開けろと叫んでいる。


「どいてくれ~! オレには時間がないんだぁ~~」

「時間がない?」


 意味不明な事を叫びながら、梟の男は鎮也たちの横を通り過ぎていった。ただ時間を気にしていたので、魔物などに追いかけられているわけでは無い事はわかった。


「マスター止めて尋問しなくてよかったのですか?」

「なんか切羽詰ってそうだったし、止めるの悪い気がした」


 理由はわからない、けど鎮也はあの男に尋問するのは可哀想だと感じてしまった。


「鎮也くん、また誰かきたよ」

「みたいだな」

「敵意はありませんね、真紅の誰かですか?」

「え? 誰もいらしてないような」


 トレイシア以外の三人が山頂への道のすぐわきの茂みを見つめる。トレイシアにはあの男以外誰も降りてきたようには見えなかったが、鎮也たちの言うとおり茂みには、もう一人の人物がいた。


「気づかれちゃったか、隠密行動にはけっこう自信あったのに」

「いえ、なかなかだったと思いますよ」


 茂みから顔を出したのは『真紅の秩序』の団長代理補佐、遊撃手のルーシアであった。


「何か私よりも実力者ですって感じするよ君、自慢の隠密も見抜かれちゃったし本当はランクでも私より上じゃない?」

「今はただのランクFの新人ですよ」

「ああ、今は、なんだ」


 鎮也の含みのある言い回しにルーシアは何かを感じ取ったようだ。かつてはランクSであっても、現在はランクFであることは本当の事、嘘ではない。


「まあ冒険者同士の詮索はご法度だもんね、この話はここまでにしよっか」

「そうですね」


 一応、現状では相手の方が高いランクなので鎮也は丁寧な受け答えをする。


「時間が勿体ないから、移動しよう。私はカナリー団長と合流するけど、それでいいよね」

「ええ、俺たちもそう考えていました」


 鎮也たちはそのまま馬車で獣道を進みだす。ここからは徒歩になると考えていた様子のルーシアは驚くが、鎮也の改造した馬車は獣道であろうと車体が通れる幅があれば進めるのだ。スピードを出さなければ揺れはほぼない、それでも徒歩よりも数段に早い速度で移動している。


「すごい馬車だね、これでデザインが良ければ帝都でも高値で売れるよ、私たちは間違いなく買うね」


 ランクAの冒険団からお墨付きを頂けた。

 帝都に拠点を置き活動するルーシアでもこんな高性能の馬車は見たことがないそうだ。


「その手があったか、いいかも、修正点は見た目か」

「帝都で商売するなら、やはりデザインは重要ですよ」

「こいつは、とりあえずの間に合わせで作ったから見た目は考慮してなかった、この状態からキレイな新品に仕上げるのは難しいぞ」

「でしたら逆の発想で、アンティーク風に仕上げるのはどうですか」

「おお、それ良いじゃん、外見が渋ければ年配の冒険者にも売り込めるかも」


 商売になると聞いた鎮也が一気に職人モードに突入してトレイシアも話に乗ってしまった。この二人はどうも物作りに関しては波長があってしまうようだ。


「鎮也くん、シアも今は職人モードやめようね」

「はい、すみません」

「ごめんなさい」


 シュンと小さくなって謝罪する二人。


「あはは、面白いね君たち、ねぇどうこの仕事が終わったら拠点を帝都のロードイリアに移さない、君たちとなら共同依頼とか受けられそうだし、今よりももっと多彩な仕事を受けられるようになるよ」


 ルーシアは昨晩テントにてカナリーが勧誘に失敗したことを知っている。だからなのか勧誘ではなく拠点を同じくして協力関係を築こうと提案してきた。


「確かにレフティアですることも終わったし、帝都には行かなきゃいけないとは考えてました」

「わお、選択の候補にあるなら帝都の優先順位を上げておいてよ、これでもランクAの冒険団だからね、結構顔は効くよ」

「目的のためにもコネができるのは正直かなり有りがたいな」


 聖雷剣を探すためにも、帝都は必ず行かなければならないだろう、ギルド本部もある。有益な情報が集まるなら、拠点を帝都に置くことは悪いことではない、森の屋敷には瞬間移動で帰れるから距離も気にならない。


「よかった、もし帝都に決まったらよろしくね」

「こちらこそ」


 ここで雑談は終わる。互いに口の滑りが潤ってきたところでルーシアが真面目な顔になる。

 今までの雑談は会話がスムーズに進むためのコミュニケーション、準備運動みたいな物、ルーシアが噂話を効率よく聞き出すために自然と身に着けた会話術であった。


「ここからはお仕事の話だね。そっちの成果は? 崩れた洞窟から何か見つかった」


 どう話せばいいか鎮也は悩む、洞窟を掘り返したらドラゴンが死んでいて、それがドラゴンゾンビとなって襲ってきたから、トレイシアが交渉して子供を助けると約束した。素直に話せばこんな所であるがはたして信じてくれるだろうか。


「ギルドナイトの遺体は一つも見つかりませんでした」


 あくまでもギルドナイトは誰もいなかった。これに嘘はない。


「ただ、ギルドナイトの装備品だと思われる折れた剣は見つけました」

「これです」


 咲耶がちゃんと馬車に積んできくれていた。折れた剣を取り出しルーシアに見せる。埋もれていたにしては新しい上物の剣。


「確かにギルドナイトの剣の可能性は高いわね」


 剣を調べたルーシアも鎮也たちと同じくギルドナイトの物であると推測をした。


「やっぱり襲われてたんだ」

「やっぱり?」

「梟どもがウーゴットの下部組織だったの、ギルドナイトの他に二つの冒険団が山に入ったって情報があったでしょ……」


 ルーシアは先程の走り去っていった男から聞き出した情報を鎮也たちに隠さず教えてくれた。鎮也たちには咲耶がいるため嘘をついていないことはすぐにわかる。


「……ってなわけよ」

「それがさっきの男か」


 急いでいたのは毒が塗られていると思い込んでいたから。


「あ、すれ違ったんだ」

「ダッシュで来た道を引き返して行きました、時間が無いって叫びながら」

「傷薬の効果抜群だね」


 情報交換が終わると、また雑談へと戻った。

 噂好きのルーシアはしゃべることも好きなようで馬車の上では絶えず誰かと会話をしていた。


「マスター、ルーシア。『真紅の秩序』の方たちに追いついたようです」


 御者台のレオフィーナが前方に『深紅の秩序』のメンバーがいるのを見つける。その先には砦があり、どうやらその砦を調べているようだ。

 レオフィーナは速度を落とし、なるべく音を立てないようにゆっくりと近づいていく、向こうもこちらに気が付いた、砦の前で周囲を警戒していたカナリーがこちらに近づいてくる。


「君たちか、ルーシアも、無事でなりよりだ」

「団長、急ぎ報告したいことが、懸念は当たってたよ」


 懸念が当たったと聴いてカナリーの眉間にしわができた。


「そうか、こちらは今砦の中をウルフたちに探ってもらっている。無人のようなのだが、どこか気配のようなモノを感じるのだ」


 無人なのに気配を感じる。とても不思議な砦のようだ。


「団長、ウルフの調査が終わったって、やっぱり無人だよこの砦」


 ウルフと共に砦の中へ先行調査をした弓使いソロティアが報告に戻ってきた。


 木の柵で全方位囲まれた小さな砦、石などで土台は固定されているが、ほぼ木造、戦のために急ぎ作られた簡易な砦のようだ。痛みがひどく最近作られたモノではない、かつてあった戦争の名残だろうか。


「ルーシア、報告は中で聞こう、無人の砦なら外敵の備えにも使えるからな。君らも御苦労であった、そちらの話しも聞かせてくれ」


 多少の不気味さはあるが、敵がいると分かった以上、無防備な外にいるよりはカナリーは砦の中の方が安全と判断したのだろう。

 鎮也たちもカナリーに続いて馬車ごと砦の中へと入る。


「確かに気配があるな」

「少年もそう感じるか、しかしウルフたちに調べてもらっても、何も発見できなかったのだ」


 それが先ほどの報告。

 鋭敏な嗅覚を持つプラトンウルフでも発見できなかった気配の正体。

 それでも鎮也はかすかにだが気配を感じ取った。息を殺して潜んでいるというよりも、弱り瀕死な者の息のようなか細い気配。


「いるな、確実に」


 咲耶もレオフィーナも鎮也と同じ気配を感じ取っていた。しかし、弱々しく場所までが特定できない。プラトンウルフたちも発見できなかったとなると相当だ。


「シズヤさん、ここにいるようです」


 そしてトレイシアが聖雷剣『竜交渉剣』を握り確信を持って宣言した。

 その剣が反応するということは、この弱々しい気配の正体は。


「シア、方角はわかるか?」

「あちらです」


 トレイシアが示した方角は砦の庭、柵と砦の丁度中間の何もない地面であった。


「あの下から感じます、間違いありません」


 鎮也は教えられた場所の気配を探っても、いるような、いないような曖昧な気配しか感じとれなかった。


「そこはもうウルフたちがしらべたぜ」


 直接調査したソロティアが教えてくれる。何も見つけられなかったと。


「ウルフの鼻をも誤魔化す何かがあるってことか」


 鎮也は鑑定眼を発動させ庭を睨んだ。

 すると――。


「――――――――――――――――――――――

【名称】偽装隠蔽の杭

【製作者】ウーゴット

【分類】魔道具 【レア度】☆☆☆☆(4)

【長さ】119センチ 【重さ】2.3キロ

【魔道核】聖雷剣ハレイジャクター

【スキル】

『偽装』…………刺した周囲の外見を偽装する。

『隠蔽』…………刺した周囲が察知され難くなる。

『※◎▼◇』……未収得

【補足】

 ウーゴットが蜃気楼を生み出す聖雷剣ハレイジャクターの能力に目をつけ、核として用いることで偽装と隠蔽に特化した魔道具として作り出した。魔獣の嗅覚すらも誤魔化す高性能だがコントロールが利かず、差した周囲を問答無用で隠蔽してしまうため、差した本人すら見失うことがある

―――――――――――――――――――――――」


「あの野郎、とことん人の剣をくだらないことに利用してくれるな」


 怒りで体温が5℃は上昇した、眠気なんぞ刹那的な速さで蒸発する。


 鎮也はズカズカと魔道具に近づきガシリと握りしめた。他のみんなには何も無い空間を掴んだようにしか見えなかったが、次の瞬間鎮也が腕を振り上げると、突き刺さっていた杭が抜け、これまでまったく発見することができなかった隠し扉が地面に姿を現した。


 トレイシアが感じ取った気配の正体はこの扉の先にいる。

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