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第54剣『真紅が追跡する』

 山頂へと登る道、魔物の襲撃などまったく警戒せずにガラの悪い冒険団『梟の暗視(ベィル・サーチャー)』どもが進んでいく、後を二人の冒険者、ルーシアとマラナが付いてきているとも知らずに。


「やっぱり変だね、魔物どころか小動物までいない」


 物音は馬車の車輪と男どものバカ話しか聞こえない。

 気配を感じ取られたら、誤魔化しが効かない追跡をしているはずなのに、ルーシアたちはそれほど見つかる心配をしていなかった。


 警戒されていないのだから、視界にさえ入らなければどんな下手な追跡でも見つからないだろう。


「油断、しすぎ」


 これにはマラナもあきれている。


 追跡には絶対の自信を持つ二人が選ばれたのだが、これでは誰が追跡しても結果は同じであっただろう。

 力が発揮できずに拍子抜けしてしまうが、それならそれでいいと、ルーシアはありがたく情報を収集させてもらうことにした。


 目的地も近づき、部外者もいなくなった梟たちは、隠そうともせずバカ話の中に今回の件について話し始めた。一応『真紅の秩序』のエルラークも同乗しているのだが、違和感なくガラの悪い集団に溶け込んでいる。


「ここまで計画通りだと、笑いが止まらなくなるぜ」

「ちげえねぇ」


 ガハハと馬車が盛り上がる。


 その計画の内容まで話してくれれば助かるのだが、さすがに全員が把握していそうな計画の内容を改めて話したりはしないだろう。


 やはり何かを企んでいた、二人はこのままどこかで重要な情報を口にしないかと、こぼれてくるバカ話を拾っていく、内容があまりにも下品な物が多いのでルーシアは頭が痛くなってくるが、これも仲間のためだと奮起した。


「お~い、飲み過ぎた、ショウしたいから少し止めてくれ~」

「誰が止まるかバカ! 勝手に降りてシたら追いかけてこいよ、どうせ魔物は出ねぇ、これからお宝を積む馬車だ、中でしやがったらぶった切るぞ!」


 男の一人が用を足したいと言い出し馬車の停止を願うが、梟のリーダーは拒絶した。

 これから手に入れる宝の価値を少しでも下げる要素を無くすために、梟たちは馬車を清潔に使っているようだ、あくまでも梟たちの主観での判断だが。


「お宝って、やっぱりウーゴットって悪人の資産だよね」


 カナリーとの約束で資産はギルドを通し街へと返還する約束をしているはずだが、梟たちは自分たちの物する気のようだ。


「情報が、きた」


 男の一人が馬車から降り茂みに入る。馬車はそんな男を無視してそのまま進んで行ってしまった。


「本当に油断しすぎだね、カナリーじゃないけどとてもランクBの冒険団には見えないよ」

「実力、ディー、くらい」


 マラナの戦力評価、あの大砲を除けば梟たちはランクD止まりだと判断した。それはルーシアもまったく同感であった。

 二人は用を足して油断しまくっている男の背後を取り抵抗をさせる間を与えずに拘束した。


「お兄さん、ちょっとお話聞かせて」

「な、テメェらどうしてここに」

「冒険者が依頼中に警戒しないなんて冒険者失格だよ」

「ここ、臭い、移動する」


 マラナに襟首を掴まれた拘束された男は、片手で持ち上げられ、更に茂みの奥へと引きずっていく。


「放せよ、オレにこんなことしてダダですむと思ってるんだろうな」

「いいから、黙る」


 マラナが男の顔面を握りしめた、指が食い込みメキメキと軋みだす。


「ギャーーー!」

「マラナ、ストップストップ、返ってうるさくなってる」


 ルーシアに止められてマラナは腕を放した。支えの無くなった男がその場に崩れ地面に座り込んだ。


「お兄さん、あなたたちが何を企んでいるのか教えて」


 座り込んだ男と同じ目線になるようしゃがみこんだルーシアが丁寧に尋ねる。

 まるで親しい友人にでも話しかけるように。


「企むって何の話しだよ、オレたちはギルマスから依頼を受けて行方不明者の救出に――」

「ああ、そういうのはいいから」


 男の言葉を途中で遮るルーシア、その後ろでは手頃な拳サイズの石を拾い上げたマラナが片手で握り潰してみせた。

 男の前にパラパラと握りつぶした石の欠片を砂時計の砂のように落とす。


「ヒィーー!」

「マラナの握力は骨くらい簡単に潰せちゃうから、気を付けて話そうね」


 男の背後に回り込んだマラナは男の両肩にマッサージでもするように手を置いた。


 冒険者はきれいごとだけでやっていけるほど安全な職業ではない、魔物を相手にする以外にもランクAとなれば、妬みも受けるし、女性だけで行動していると不埒な考えを持ったやからに、からまれた経験も一度や二度ではない。


 盗賊相手なら迅速な情報を引き出すために尋問もする。その尋問を『真紅の秩序』の中で一番数をこなしてきたのがルーシアである。


「時間がもったいないからちゃっちゃと話そうね」


 笑顔だったルーシアの顔が真面目な表情へと切り替わった。


「計画ってなに、ウーゴットの資産を狙ううえで何をするの予定だったの?」

「お前らを襲って隠し財宝をオレたちだけのモノにするつもりだった」


 ルーシアに危険な気配を感じた男は観念し、計画の一部始終を話した。


 その計画とはほぼルーシアたちが推理した通りの物で、ウーゴットの下部組織であった『梟の暗視』はこの山に財宝の運搬を手伝っていたらしい、そのため隠し場所は当然知っている。ウーゴットが倒れ他の組織連中も捕まっていく中、下部組織に成り立ての梟たちは運よく捕縛リストには入っていなかった。


 だから財宝を独占しようと考えたのだが冒険者ギルド動きが想像以上早く持ち出す時間がなかった。そのため梟の構成員を二手に分け、ギルドナイトを襲撃する先行隊と街でギルドの動向を探る隊へと分けたのだ。


 計画通り山へと入ったギルドナイトが行方不明となる。

 カイザンの情報にあったギルドナイト以外にも山に入った二つの冒険団とは梟のメンバーで構成されていたようだ。


「先行した二つの冒険団は何人?」

「三十人くらいだ」


 三十人。冒険団にしては多い方だろう。だがそれでも、梟レベルの冒険団でギルドナイトのチームが倒せるとはルーシアには想像できない。


「あんたたちにギルドナイトが倒せるとは思えないけど」

「この山は、特に財宝の近くにはウーゴットの張り巡らせた罠が山ほどある。ギルドナイトが財宝を見つければ、その時罠を一斉に発動させたはずだ」


 対魔法結界に戦闘用ゴーレムなど各種最新鋭の魔道具が大量に、これだけの罠が同時に発動すれば仕掛けた組織すら乗り切ることは不可能だろう。


「この道の先に、山に隠されていたすべての財宝がある。その中には強力な武器もあったから、それを回収して、あんたらを襲う計画だ」


 今回の依頼は救出である。しかしそれは成功報酬ではない、遺体を発見し持ち帰っても、山の現状を知らせれば報酬は出る契約になっていた。そのため梟たちは報酬も独占しようと欲をだし、自分たち以外の冒険団も壊滅させるつもりでいたらしい。


「山に魔物がいないのもあなたたちのせい?」

「理由はわからない、けどここ一カ月で魔物の数が激減した、頭はドラゴンを飼ってるから魔物が逃げ出したって」

「ドラゴンですって」

「レフティアじゃ有名だぜ、ウーゴットの野郎がドラゴンを支配してるって」

「そういえばそんな噂も、あったような」


 確かに聞いたことはあった、でもそんな噂信じら悪わけもなく、冗談だろうと聞き流していた。


「ドラゴンすら操れる魔道具を持っていたらしい」

「いったいどんな魔道具よそれ」


 鎮也の作った聖雷剣だったなど、ルーシアには知る由もない。


「でもそんな強力な魔道具があるのは不味いわね、対策を考えないと」


 手に入れた情報を早くカナリーたちに伝える必要性を感じた。


「これが最後ね、ギルドナイトの人たちは?」

「…………」


 男は無言になりルーシアから視線をそらす。


「もう一度聞く、ギルドナイトをどうした」


 だがそんなことで許しはしない、突き刺さるような冷たい視線でルーシアは再度尋ねる。


「……もう生きてないだろう、この先で死んでるはずだ」

「そう、よく話してくれたわ」


 ルーシアは尋問を終え立ち上がると、腰から小さいナイフを取り出した。


「オ、オレを殺す気か」

「まさか、大事な情報をくれた人を簡単に殺すわけないじゃない」


 取り出したナイフで男の腕を浅く斬る。


「な、何をした」


 ナイフには緑色の液体が塗られていた。それが無害だとは到底考えられない。


「ご想像の通り毒よ、それも遅行性の、三日くらいなら普通に生活できると思うわ」


 三日という生々しい時間を提示する。

 ナイフをしまったルーシアは今度は皮用紙とペンを取り出し、サラサラと素早く何かを書き込んでいく。


「ど、毒だと、なぶり殺すつもりか」

「だからそんなに物騒なことはしないって、三日の間に解毒剤を飲めば助かるわよ」

「本当か!?」

「ええ本当よ、ただ私は解毒剤もってないけどね」


 あげてから落とす、男の感情はルーシアに完全にコントロールを握られた。


「はいこれ」


 ルーシアが書き上げた皮用紙を男の前に落とす。


「解毒剤はギルドマスターが持っているはずだから、その手紙を見せて計画のことを洗いざらい話せば解毒してくれるはずよ」


 アラナが男の拘束を解いた。


「あんたも冒険者だったなら、三日でレフティアまで帰れるでしょ、急いだ方がいいよ」

「ちっくしょう~~!」


 男は涙と鼻水をまき散らしながら、レフティアへと向かって走っていた。


「ルー、あくどい、それ傷薬」

「バレちゃった、でも効果は抜群だったでしょ」


 刃に塗られていたのはただの傷薬であった。三日が過ぎてもあの男の体には何の影響もでないだろう。手紙にはあの男から聞いた計画と塗った薬の名前も書いておいた、これを見れば切れ者のカイザンなら事情を理解してくれるだろう。

 部下を殺したという男を前にしてカイザンがどう出るかまではルーシアにもわからない。


「さて、マラナ。悪いけどあいつら追いかけて合流するっていう戦力を調べてくれないかな、このまま見逃すと魔道具で武装した厄介な盗賊の出来上がりだから」

「了解」

「私は一度戻ってカナリーたちに報告するわ、きっとあの団長なら討伐するって言うと思うから」

「同感」


 正義感の強いカナリーことだ、『梟の暗視』を許したりはしないであろう。それに今回の依頼は山での調査、できれば原因の解決まで含まれている。

 依頼を受けたランクAの冒険団として、このまま投げ出すわけにはいかない。

 ルーシアは偵察をマラナに任せ、カナリーと合流すべく来た道を引き返した。






 計画がすでにバレたとも知らず『梟の暗視』はギルドナイトを襲った仲間たちと合流すべく集合地点へとやってきた。

 ここは小さな山小屋が一つあるだけに見えるが、実は小屋の中は洞窟と繋がっており、それを隠すためも偽装であった。この山小屋にはすでに山中に隠された財宝がまとめられているはず、強力な魔道具を回収して『真紅の秩序』を襲う計画だ。


「あの生意気なランクA様はどんな泣き顔を見せてくれるか楽しみだぜ」

「オレはあのちっこい魔法使いがいいな」

「この変態野郎が!」

「団長だって似たようなもんじゃねぇですかい」

「ちげぇねぇ」


 梟たちの笑い声が山にこだまする。計画がうまくいき過ぎて笑いが止まらないらしい。

 だがその計画はすでにバレていることを、物陰に隠れたマラナが未だに監視していることすら気が付いていない。


「もう一つの冒険団はどうしやす」

「ああ、あの連中か、小僧を除けば上物揃いだ当然襲う、夜になるのが楽しみだぜ」


 自分たち以外を襲う計画なのだから、鎮也たちもターゲットに入っている。


「しかし、あの娘たちランクAより実力ありそうだったぜ」

「実力なんて関係ねぇ、重要なのは夜にオレを楽しませてくれるかだ」


 梟のリーダーは咲耶たちをも毒牙に掛ける妄想をしていた。


「でもよ、あの魔法を向けられたら」


 エッジオーグルを殲滅した時の魔法を思い出した部下が身震いする。


「よく観察しろよ、それが俺たちの特技だろうが、あのランクFの小僧を使うんだよ」

「小僧ですかい」

「あの強いお穣ちゃんたちはフラフラな小僧をとても大事に扱ってだろうが、きっとどこかの貴族の隠し種かなんかだぜ」


 まったくのハズレであるが、梟のリーダーは自分の推理が当りだと信じて疑わない。


「なるほど、つまりあの穣ちゃんたちはお守役だったのか」

「そうよ、隙をついて小僧を人質にとれば、お穣ちゃんたちは手を出せなくなるぜ」


 ここにもカナリーのように鎮也の実力を勘違いしている連中がいた。狙ったつもりは全くないのに、鎮也の睡眠不足は敵までも騙し油断させる結果となる。


「財宝の中には奴隷の首輪もあったはずだ、それさえ付けちまえば、いくら強くてもオレたちの命令に絶対服従になるぜ」

「すげ~さすが頭だぜ」


 ウーゴットが所持していた奴隷の首輪である。当然まともなものではなく、服従を強制させる魔道具だ。帝国では奴隷は禁止されているが、そんな法律を守る連中ではない。


「お~い、きたぞ、急いで財宝を積み込め!」


 梟のリーダーが山小屋へ叫ぶが誰も出てこない。計画ではギルドナイトを襲った先行隊が回収した財宝を抱え待っているはずなのだが。


「おい、何をしてやがる、早くでてこねぇか!!」


 再度怒鳴るがそれでも反応は無かった。


「オレ小屋の中を見てきやす」

「オレは小屋の裏側を見てきます」


 梟のリーダーの怒りを感じた部下たちが先行隊を探しに走り出した。


「まさか、あいつら宝を抱えて逃げやがったのか!?」


 梟のリーダーは裏切りを考えた。昨晩のベースキャンプを襲撃することは計画にふくまれていたが、まさかギガントオーグルなんて大物を仕掛けさせるなどは計画にはなかった。

 大砲で倒せたので許容範囲と判断していたが、まさか先行隊がこちらまで殺そうとしていたのではないかと疑いだす。


「うわ~~!」


 山小屋の裏側、馬車から死角になっている場所の様子を見に行った部下が悲鳴をあげた。


「どうした!」


 梟のリーダーは先行隊が襲って来たのかと思い、武器を手に部下を率いて悲鳴の現場へ向かう、そこには予想だにしていなかった光景が広がっていた。


 それは『梟の暗視』を監視していたマラナも驚愕させるほどのひどい光景であった。

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