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第53剣『真紅は考察した』

 意見交換。前方の『梟の暗視(ベィル・サーチャー)』の挙動と魔物の襲撃、双方を警戒しながらカナリーたちは各々が気が付いた点を報告し合う。


「じゃまずは、あたいから」


 冒険団の議論の場ではいつも切り込み役を担っている弓使いのソロティアが今回も一番手に名乗りを上げてくれた。彼女が話題を転がしてくれるおかげで議論がスムーズに進む。


「この山の気配はおかしい、夕べこそ襲撃はあったが、それまでも、今日に入ってからも魔物の姿どころか影さえ捕らえることができない、明らかに異常すぎる」


 人間の生活圏以外、どこに出没してもおかしくない魔物が、これだけ大人数の集団で移動しているのに遭遇しないこれはカナリーもおかしいと感じていた。


「何もないことが返って不気味で、いつもより神経がすり減っていくよ確実に」


 弓使いであるソロティナは警戒も担当している。視野の広い彼女ですら魔物の影すら今日は見ていないのだ。人数の多さに魔物側は警戒して逃げるならわかる。だが逃げる姿すらいまだに見ていない。


「冒険者なら、それこそ新人ですら異常を感じるはずだ、それなのに『梟の暗視(あいつら)』は、まったく異常を感じていやがらねぇ」


 改めて観察するまでもなく、前を行く馬車の男どもはイクスを除きまったく警戒している素振りは無い。未知のエリアに踏み込んで酒盛りをするなど考えられないことだ。

 イクスが注意するも『真面目ちゃん』や『騎士気取り』などと馬鹿にして酒の肴にしている。


「まるで、この山はいつもこんな感じだと知ってるみたいだ」

「なるほど、そう考えれば納得いくね」


 次に発言したのは御者台に座る団長補佐のルーシアであった。


「やっぱりあいつらこの山を前から知ってたんだよ、さっきの茂みだって、自然に道が隠れたんじゃなくて、明らかに偽装されてたもん」

「そうだったのか」


 茂みを抜けるときには放心していたカナリーは偽装などの発想すらなかった。


「巧妙に隠されてたけどね」


 遊撃手(レンジャー)であるルーシア。遊撃手とは主に斥候をこなす偵察要員や戦闘時などは遊撃を担当する身軽で器用な者がなる職だ。

 観察眼ならルーシアは間違いなく『真紅の秩序』の中で一番である。そんなルーシアですら隠された道は見つけられなかったのに、後ろからたいして見てもいなかった梟のリーダーが発見するのはおかし過ぎる。


「それにこの先の道も知ってそうだよ、あいつらウルフの追跡もほとんど気にしてないから」


 懸命に痕跡をたどるプラトンウルフたちをほぼ無視している先頭の馬車、あれではただ馬車が進んでいる先をたまたまウルフたちが歩いているだけだ。


「道を知ってる、つまり知ることのできる組織に属していた」


 三番手は博識の魔法使いクラネットが意見を述べる。


「救出依頼なのに、あの大砲は明らかに強力すぎ、まるであんな物が必要だとわかっていたとしか思えない」


 相手が最初から判明している討伐依頼なら、あの装備も納得できる。しかし今回の依頼は救出、攻撃力よりも早さが求められることを想定しなければならなかったはず。まさか街から半日の距離の山でギガントオーグルの襲撃を受けるとはどんなに経験を積んでも想像すらできないだろう。


 ギルドナイトたちが行方不明になった原因が強力な魔物の可能性も考えられるので、強力な武器の所持を否定まではカナリーにもできないが、もし一体の強力な魔物でなく、最初に遭遇したエッジオーグルなどの群れでの襲撃であった場合、狭い森の中では襲われればあの大砲は全く役に立たず、お荷物にしかならない。


「クラネット、この山を知る組織とは」

「一つしか存在していない、ウーゴット商会。その下部組織だったのでは」

「でもクラネットそれおかしくない? 下部組織も含めてギルマスのカイザンがすべて捕縛したはずじゃ」


 ルーシアが疑問を投げかける。


 念密な調査をした上でも捕縛であったはず、下部とはいえ十人以上で活動していた組織を見逃すなんて、切れ者と呼ばれるカイザンのイメージには合わない。


「いや、私もクラネットの意見は的を射ていると思うぞ」


 仲間のおかげで落ち着きを取り戻せたカナリーの脳裏にもおかしな点が浮かんできた。


「やつらはレフティアに拠点を移したばかりではないのか、開門の時間すら知らなかったぞ」


 この街に長く住めばウーゴットの存在は恐れて当然、緊急招集で集められた冒険団でレフティアに拠点を置く集団はウーゴットの名前だけですくみあがった。


 あの反応こそがレフティアで活動していた何よりの証拠ではないのか。


 恐怖しなかったのはレフティアの内情をしらない、到着したばかりであったカナリーたち『真紅の秩序』と鎮也たち『七星剣』。そして唯一の地元だと思われていた『梟の暗視』の三つ。

 もし梟たちがウーゴットの下部組織であるなら恐れないのも当然だ、庇護下にあったのだから。


 では、あの連中の正体はいったい。


「大砲の、冒険団、噂聞いた」


 最後に意見を述べたのは無口な獣人マラナ。彼女は『梟の暗視』と似た冒険団の噂を聞いたことがあるようだ。


「首都、ギルドで、聞いた」

「ロードイリスの冒険者ギルドか」


 ヴィレック帝国首都ロードイリスには帝国内の冒険者ギルドを統括するギルド本部がある。規模も帝国内最大の冒険者ギルドあり、連日帝都内だけでなく遠方からも冒険者が依頼や加入にために大勢が訪れている。


 当然各地からの噂も一緒に流れ込んでおり、ギルド内の酒場に座っていれば多彩な噂が耳にできる。そんな噂を集めて戯曲を作り商売している者すらいる。


「ルー心当りはあるか?」


 補佐役であり遊撃手であるルーシアは情報収集も担当していた。噂集めが趣味ということもあり、彼女は休みの日はギルド本部で一日噂を集めていることもあった。


「そ~言えば、剣みたいな細長い大砲を使って大物食いばかりしている冒険者集団が隣の海洋国家アナトリアから、流れて来たって噂があったような~」


 ランクBと認定された冒険団は一流として注目される。そんな連中が活動拠点を移せば少なからず話のネタにはのぼるだろう。ルーシアはかき集めた噂話の中からそれらしきものはないか検索をかけひねり出す。


「灰色で見た目ボロボロの大砲を使う冒険団、これも裏を取ってない噂だけど海大蛇サーペントも仕留めたことがあるって」

「サーペントはBランクの魔物だろう、そんな魔物を倒せる集団がどうして拠点を移したのだ」

「詳しくは知らないけど、何でもその大砲は火薬を使わない魔道具で、威力が強すぎて魔物と一緒に船を沈めかけたとか、なんとか?」


 魔物を倒して金にするのが第一、商船は護衛依頼を受けたわけじゃないので守る必要なしと、梟リーダーの性格ならやってもおかしくはなさそうだ。


「大砲、灰色、剣の形」

「見えていたのかマラナ」


 コクンと頷くマラナ。

 カナリーも撃った大砲を見ようとしたが暗闇で確認することは出来なかった。マラナは犬の獣人、夜目で見れたのだろう。


「火薬の、匂いも、無かった」


 火薬を使わない魔導の大砲。


「噂との符合も多いな、事実ならアナトリアでそれ以上の失態をしでかし居辛くなってウーゴットの下部組織に成り下がったか」

「団長、ウーゴットは威力だけはすごい魔道具を作っては、危ない組織に売り捌いてるって噂もあったよ」


 これはかなり信憑性の高い噂。

 大砲自体がウーゴットから購入した物なのかもしれない。


「意見を交換してよかった、証拠は何一つないが、あいつらには背中を見せてはいけないことがよくわかった」


 視野を広げ、仲間の意見にも耳を傾ける。この姿こそがルーシアたちが団長と認めたカナリーの本当の姿なのだ。


「ルー、ソロティナ、クラネット、マラナ、みんなありがとう」

「気にしない気にしない、私たちで頑張って昔みたいな『真紅の秩序』を作り直そう」


 結束力を高めた彼女たちは、どんな状況に陥っても切り抜けるために気合を入れ直した。






 それからも魔物の襲撃もなく、一行は見た目はだけは順調に進んでいた。

 そして先頭に行く梟のリーダーの乗る馬車が停車する。


「何があった」


 最後尾にいるカナリーが問いかけると、梟のリーダーがプラトンウルフを顎をしゃくって指した。


 ギルドナイトたちの痕跡を追いかけていた五頭のウルフが左右に分かれてお座りをしていたのだ。


「ここで二手に分かれたのか」


 ルーシアがカイザンから預かった地図を開いて現在地を確認する。

 一本は薄暗い渓谷に向かう獣道、もう一本は山頂へと向かう道になっていそうだと地図から読み取れた。どちらの先にもカイザンがギルドナイトに指定した調査ポイントの場所がある。


「こうなったらオレたちも二手に分かれようぜ」


 当たり前のように提案してくるが、もし何かが潜んでいるとすればランクAのギルドナイトを倒したかもしれない相手だ、戦力分散させるなど愚策でしかないが。


「わかった、その意見を採用しよう」


 カナリーは反対はしなかった。そのことに少し意外そうな顔をした梟のリーダーだったが、すぐにニヤケ顔に戻す。


「俺たちは道幅がある山頂ルートで行かさせてもらうぜ、あんたらは、その細い獣道を大好きな徒歩でいきな」


 先ほどのやり取りから、隠すことも無く敵対的とも思える言動を取ってくる。


「了解した、プラトンウルフを半分連れていけ」

「いらねぇよ全部そっちが持ってけ、俺たちの探査能力に魔物の力なんざ必要ない」


 隠された道を発見したことを誇っているようだ。


 先程までの視野が狭かったカナリーなら嫌味を正面から受け取り反応していたかもしれないが、すでに精神は安定している。その程度の挑発などには応じず、現状で最良の手は何かを考え実行する。


「エルラーク、貴様は連絡要員として『梟の暗視』に同行してくれ」


 まずは戦力にならない、不安要素の切り離し。


「なるほど、神速のボクに相応しい役割だね、一時的な団長代理としては良い判断だ」

「それでイクス殿、こちら人手が足りなくなるので、同行を願います」

「了解しました」


 イクスが梟たちの馬車を降り、カナリーたちと合流する。


「それじゃ、危なくなったら助けを呼べよ、そっちの取り分を回してくれたら助けてやるぜ」


 最後まで嫌味を言い残し『梟の暗視』の二台の馬車は山頂へと向かっていった。

 この場に残ったのはカナリーたち五人とイクス、そして五頭のプラトンウルフを連れた魔獣牧場の夫婦。

 彼女たちは梟の馬車が完全に見えなくなってから次の行動を開始する。


「ルー、マラナ」

「了解です団長」

「承知」


 遊撃手のルーシアと獣人のマラナは、気配を殺し音も立てずに『梟の暗視』を追跡していった。


「カナリー殿、これは」

「『梟の暗視』がウーゴットの下部組織であった可能性が出てきました。最悪、行方不明者の捜索どころか、こちらまであやつらに行方不明にさせられるかもしれません」


 最悪の展開は、梟たちがウーゴットの資産を独り占めするため口封じに襲いかかってくるかもしれない、それはあいつらが普通に捜索活動するよるも可能性は高いだろう。


「なるほど、カナリー殿もそう判断されましたか」

「ではイクス殿も」


 ギルドナイトのイクスもカナリーたちと同様の疑いを抱いていたようだ。


「彼らは三か月ほど前に来たばかりの冒険団なので情報が少なかったのですが、一緒に行動して確信しました。彼らにはウーゴット配下のゴロツキと同じ匂いがします」


 ウーゴットにずっと悩まされ続けていたレフティアの住民だからこそ嗅ぎ取れた匂い。

 緊急のため集めたメンバーの背後調査が完璧ではなかったことをイクスは悔やんでいるようだ。


「もし山頂に行方不明者がいた場合はあの二人が救出してくれますから」

「感謝します。流石はランクAの冒険団『真紅の秩序』ですね、もう対策まで練っていたとは、感服しました」


 怪しいとは感じていても何もできなかった自分とは大違いだと、本心から褒めるイクスにカナリーは恥ずかしくなる。梟たちが怪しいと気が付いたのはカナリーではなく仲間たちなのだから。


「ウチの女性メンバーは優秀ですから」


 自分がダメでも仲間の優秀さは真実だとカナリーは胸を張ってイクスの賛辞を受け取った。

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