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第51剣『ドラゴン鎮魂』

 魂が繋がったトレイシアへドラゴンの想いがダイレクトに伝わってきた。


 ……奪われた。


『奪われた、何を?』


 ……宝、大事な宝。


『宝物、それは何ですか?』


 伝わってくるのは途切れ途切れの単語、トレイシアはそれをどうにかして読み取ろうと精神を集中させる。

 鎮也から授かった竜交渉剣は間違いなくドラゴンとの会話を可能としてくれているのだ、後はトレイシアの頑張りしだいだと、伝わってくる想いをすべて受け止める。


 ……宝、奪われた。


 だが肝心の宝物の正体がわからない。


『宝物、それは何なの、教えて』


 ……宝、取り戻して欲しい。


『取り戻せるモノなの』


 ……取り戻す、初めて産み落とした、宝。


『産み落とした、もしかして赤ちゃんですか?』


 ……人間に奪われた。濁った刃の人間。奪われた。


 濁った刃とは、望まぬ使い手に使い続けられた聖雷剣のことである。


『赤ちゃんはどこに』


 ……山の奥、何度も呼んだ、悪魔に邪魔される。


 何度も呼んでいた。トレイシアが聞いていた声は親ドラゴンが子供を呼ぶ声だったのだ。怒りと悲しみを含まれていたのは子供を奪われたから。


 ドラゴンは子供をとても大事にする種族として有名だ。その強靭な生命力を持つため、ドラゴンは出生率が全種族でもっとも悪く、数百年に一度しか出産をしないと言われている。

 そのため子供を傷つけようものなら、烈火のごとく怒り狂い、ドラゴンによって滅ぼされた国の八割は子供に手を出したからだとも伝えられている。


 ……宝、奪われた、山の奥、悪魔いる。


『山の奥』


 悪魔という単語も気になったが、それは意識の片隅に追いやり咲耶は竜交渉剣を通して山の奥の気配を探っていく、相手がドラゴンであるなら発見できるとトレイシアは自信があった。聖雷剣ができると教えてくれるから。


 そして、山の奥で反応を見つける。


『いた、見つけた』


 弱ってはいるが、間違いなく小さいドラゴンの気配があった。ドラゴンゾンビよりもかなり小さい幼竜だ。


 ドラゴンもこの気配を感じていたからこそ生き埋めになりながらも命の続く限り呼び続けていたのだ。


『その赤ちゃんは私が助けます。だからもう苦しまないでください』


 …………。


『私の事を信じてもらえますか』


 ………………感謝。


 ドラゴンはトレイシアの事を信じてくれた。


 出会ったばかり、戦ったばかり、種族も違う、でもそんなことは関係無かった。魂同士が繋がっているのだ。この対話に嘘は存在しない。魂同士の会話には本音しかぶつけられない。


 だからこそドラゴンは信じてくれたのだ。

 もしこのドラゴンと生前に出会っていればテイムできていただろう。


『ありがとう』


 テイムとは相手を信頼し相手から信じてもらうことが何よりも重要だと、トレイシアは魔獣レンタル牧場の夫婦に教わっていた。まっすぐにな気持ちでドラゴンと対話したトレイシアは知らずにドラゴンすらテイムできる素質を備えていたのだ。






 濁っていたドラゴンゾンビの瞳に理性の色が戻っていく。


「うまくいったみたいだな」

「シアさん、はじめてなのに見事に聖雷剣を使いこなしたね」

「流石はマスターの見込んだ女性です」


 できるとは思っていても実際にドラゴンと対話している姿は鎮也に感動を与えていた。まさに想像していた通りの聖雷剣の使い方である。ウーゴットに握られていた時の嫌な思い出が塗りつぶされ、鎮也はとてもすがすがしい気持ちになった。


「喜ぶのはいいけど、救出も忘れちゃダメだよ」

「わかってる忘れない、収穫もあっただろ」


 もちろん、鎮也も忘れてなどいない。ここの崩れた洞窟の中には一人もギルドナイトがいなかったと知ることができた。この情報をイクスに伝えればきっと喜ぶだろう。


「あの石像の腕も気になりますね、魔力を封じられていたとはいえ、成竜を倒した存在と関係ありそうです」


 さきほどレオフィーナが顎を打ち上げたときに挟まっていた牙から外れ石像の腕は落ちていた。

 石にしてはしっとりとした柔らかい質感がある。


「私たちがいない間に開発された魔道具かな」

「かもな、少し気になる欠片ではある」


 鎮也は落ちていた木の枝でつついてみるが反応はない、ただの石像の腕である。だが妙に作りこまれていて、今にも動き出しそうな不気味さはあった。


「マスター対話が終わるようです」


 石像の腕を観察していると、トレイシアの対話が終わることをレオフィーナが教えてくれた。

 鎮也が顔を上げれば、ドラゴンゾンビから丁寧に竜交渉剣を引き抜くところであった。


 トレイシアの元にドラゴンゾンビの顔が降りてくる。

 もはや怒気はなく、理性を取り戻した瞳はしっかりとこちらを認識しているようだ。


「シア」


 ドラゴンゾンビの様子を見れば対話が成功したのはわかるが、流石の鎮也でも対話の内容なでは聞き取れない、どんな話をしたのかトレイシアから教えてもらわなければ。


「シズヤさん、このドラゴンは赤ちゃんを奪われたそうです」

「なるほど出産直後でしたか、もしかしたらウーゴットは身重で動けないタイミングに魔封じを取り付けた。何ともタイミングの悪い」


 ドラゴンの長い寿命の中で妊娠中の期間はとても短い、人間が成竜を討伐できる数少ないタイミングではあるが、数百年に一度の妊娠に人間の寿命でそのタイミングに遭遇するなどそうとうな運が無ければ無理だろう。


「なんて悪運」


 鎮也たが未来に飛ばされる原因となった、屋敷に魔道具が投げ込まれた時も最悪のタイミングであった。


 ウーゴットの事だ、魔封じを取り付け大量の魔道具を投入してドラゴンを捕まえた。竜交渉剣があれば操れると勘違いして、でも出来なかったから子供を人質に取ってこの山に閉じ込めじっくりと調教していくつもりだったのだろう。鎮也はこの推測で当りだと確信する。


「あいつが聖雷剣をほとんど持っていなかったのは、ドラゴンを捕まえる資金を稼ぐために売り払ったんじゃないだろうな」


 あいつや手下たちでは聖雷剣を使いこなせなかった、使いこなせなければ売って金に換えた方が得とでも判断したのであろう。その金で魔道具を揃えた。

 ドラゴンの子供も魔道具でどこかに閉じ込められているに違いない。


「シア、その子供は」

「山の奥にいます。この聖剣が居場所を伝えてくれました」


 トレイシアが示した方角はカナリーたちが向かった方角であった。


「まさか、ギルドナイトたちって幼竜にやられたって事はないよな」

「ちょっと鎮也くん、不吉なこと言わないでよ」


 不吉なのは重々承知しているが、いやな想像がどうしても出てきてしまう。


「生後すぐのドラゴンは空腹です。ましてや母親が傍にいないとなると、辺りのモノを手当たり次第に食べるでしょう」

「レオナまで」


 これはレオフィーナの冗談ではなく、ドラゴンの生体に詳しい彼女が希望的観測を捨て、もっとも可能性の高い推測を述べたのだ。


「ランクAとBの冒険団、戦闘力はほぼ互角ぐらいです、幼竜が生きているということは」

「いえ、どうも、悪魔が赤ちゃんを守っていると言っています」

「悪魔?」


 ドラゴンの口から吐き出された黒い石像の腕。これがその悪魔の腕であろうか。


「シア、その悪魔に心当りはないか」


 現代の情報はトレイシアが一番詳しい。

 過去の時代に悪魔など、デーモンと呼ばれる外見は悪魔に似ている中級ランクの魔物くらいしか思い浮かばない、だが、鎮也の知っているデーモンではドラゴンに傷を負わすことなどできない。


「ごめんなさい、私もさすがに悪魔はあまり詳しくありません、デーモン系列の魔物でしょうか」


 トレイシアにも心当たりは無かった。


「謝る必要はない、幼竜のいる場所へ行けば答えは見つかるはずだ」

「あの、シズヤさん」

「わかってる、幼竜を助ける約束をしたんだろ、助け出してやろうぜ、こいつもウーゴットの被害者だ」

「ありがとうございます」


 鎮也へ頭を下げたトレイシアはドラゴンゾンビに自分たちが赤ん坊を助けに行くと伝えた。


 それを聞いたドラゴンゾンビは山の奥へと向かい咆哮を飛ばした。


「マスター今の言葉は理解できました。『これから友が助けに行く』と言っています」

「そうか」


 咆哮を終えたドラゴンゾンビは力を使い果たし崩れ落ちる。


「死霊として現世にとどまっていられたのは怨念があったからこそ、その怨念が静まり理性を取り戻せば、もう死霊として存在することはできないよ」


 ゾンビとして活動していた力の源泉がなくなる。

 後はただ朽ちていくのみ、トレイシアに自身の赤子を信じ託した。

 苦しそうに呻きだすドラゴン。体が風化し崩れていくのだ苦しくないわけがない。


「マスター、私が火葬にしましょうか」


 苦しみを早く終わらすために、ドラゴンの姫が介錯役に名乗り出る。だが、もう一つの存在も自分にやらせろと以外な所から名乗り出てきた。


 鎮也の魔法のカバンから星色の光が放たれたのだ。


「まさか、お前もシアがいいのか」


 魔法のカバンを光らせた正体、それは竜交渉剣と同じく、鎮也が鍛え直して元の輝きを取り戻していた一振りの短刀型の聖雷剣。


「シズヤさん、その剣も聖雷剣ですか」

「ああ、そうだ、こいつもお前を主にしたいらしい」

「ええッ~!」


 シリアル145魂輪刀(ソウリントウ)。竜交渉剣と共にウーゴットに握られていた聖雷剣、イメージが悪いと鎮也が真っ先に鍛え直したのがこの二振りであった。そしてその両方共がトレイシアを主と選んだ。


「でも、私はすでにこの剣を譲渡されているのですが」

「問題ありませんシア、屋敷でメイドを務めているアリアも二振り譲渡されています。一人一振りとは決めていないですよ」

「え、でも、え?」


 三重奏剣もトレイシアに譲渡する予定なので、数ではアリアを抜くことになる。


「どうやらこいつは、自分を使ってシアにドラゴンを介錯してやれって言ってるようだ」


 このタイミングで出てきたのはそう訴えたいからだろう。鎮也にはなんとなく魂輪刀の気持ちが理解できる。こいつは命を救うために生まれた剣なのだから。


「いいよな二人とも」

「反対しないよ」

「同じく」

「え、え? え?」


 トントン拍子に継承されることが決定した。

 トレイシアがプチ混乱しているうちに継承の儀を行い、自分から押し付けるように魂輪刀がトレイシアの腕に収まった。

 星色の光がトレイシアを包み、いいから使えを訴える。


「ちょっとわがままみたいだけど、そいつもよろしく頼む」

「は、はい、よろしくお願いします」


 こんな適当に継承の儀をやっていいものかと鎮也も思うが、これまでがひどいすぎる使い手だったのだ、このぐらいのわがままは多めに見ようと、トレイシアが嫌がっていないからお願いした。

 そして鑑定眼を発動させる。


「―――――――――――――――――――

聖雷剣シリーズ シリアル145

【名称】「ソウリントウ」

【和名】「魂輪刀」

【製作者】星尾鎮也

【使い手】未登録

【分類】短刀    【レア度】☆☆☆☆☆☆(6)

【長さ】24センチ  【重さ】0.2キロ

【聖剣核】コハク

【スキル】トレイシア

『雷魔法(中)』……使い手が雷魔法を扱えるようにする(効果:中)

『身体若返り』…………使い手を若返らせる。

『肉体活性化』…………使い手の衰えた肉体を活性化させる。

『全・身体強化(小)』……使い手の身体能力を強化する(効果:小)

『回復斬(中)』……………剣を刺した相手を回復させる。

【奥義】

New『輪廻転生』…………さまよえる魂を正しい場所へと導く。

【補足】

 スキルの複合で擬似的不老を手に入れることができる。不死ではない。不老に特化したため戦闘能力はレア度6にしては弱い。もともと聖剣鍛冶師鎮也が病弱の友のために制作した剣であったが、友はこの剣の能力は使用せず絆の証として所持し与えられた生をまっとうした。友の死後、製作者である鎮也へと返還されている。

 二人目の使い手であるトレイシアに手に渡り、奥義が目覚めた。

―――――――――――――――――――――」


「なんか奥義を習得してる」


 これは鎮也にも予想外の事、これまで鑑定眼を使ってきて初めてNewなんて文字を見た。


 余程トレイシアとの相性がよかったのだろう。レア度が6を超えれば奥義が習得できるのかもしれない。


「シア、そいつなら間違いなくドラゴンに安らぎを与えられる」

「わかります、この魂輪刀が教えてくれました」


 トレイシアは苦しむドラゴンへ向き直り、魂輪刀を天へと掲げた。

 太陽の光を吸収した刃は光を拡散させてドラゴンの体を包み込む。すると苦しみに歪んでいた顔が穏やかになり、最後にトレイシアに感謝を伝えるように瞳を動かすと静かに眠りへとついた。


 奥義『輪廻転生』が発動したのだ。これでもう動く死体となることはない。

 体は光る砂となり風に吹かれて天へと昇っていった。

 トレイシアの前にドラゴンの魔核だけが残される。


「安らかな眠りを、赤ちゃんは必ず助け出しますから」


 トレイシアは目尻に涙を溜めながらドラゴンのために祈りを捧げた。






 彼女の祈りの邪魔をしないように距離を取る鎮也たち。


「ねえ鎮也くん、もしレオナの推測が当たってギルドナイトの人たちが幼竜のお腹に収まってらどうする?」


 咲耶がトレイシアに聞こえないように、とても心配そうな顔で聞いてくる。

 もし幼竜がギルドナイトを襲っていれば理由はどうあれ討伐対象になってしまうのか。


「大丈夫だろう」


 幼竜に手を出せば国が滅ぶという言い伝えもあるし、冒険者ギルドに登録している冒険者ならギルドから絶対に幼竜には手を出すなと注意されているはずだ。


「『梟の暗視』が心配ですねマスター」


 手を出すなと言われても、まれにちょっかいを掛けるモノがいるのは、ドラゴンの素材は爪だろうが鱗だろうか、高級な素材として取引されるからだ。金にがめつかったあの連中がはたしておとなしく見逃すことはできるだろうか、カナリーと一緒なのが唯一の救いだが。

 

「大丈夫だろう、多分」


 考えてもどうすることもできないので、レオフィーナの推測が外れることを鎮也はただ願うだけであった。

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