第50剣『ドラゴン魂』
最初に気が付いたのは、離れて見ていた剣獣状態のヤマトであった。
ヤマトの鋭い一鳴きで危機を察する鎮也たち。
「シア!」
「えッ!?」
鎮也は一緒にドラゴンの口に体の半分を入れていたトレイシアを抱きかかえて全力で後ろに跳ぶ。
まさに刹那的なタイミングであった、勢いをつけて閉じられた口、あとコンマ数秒遅れていたら、あの牙に突き刺されていただろう。
はらはらと牙にかすってしまった鎮也の前髪が数本落ちた。
「鎮也くん、シアさん」
「大丈夫だ問題ない、俺もシアも無事だ」
「は、はい、だいじょぶれす」
鎮也の腕の中で顔を赤くしたトレイシアもケガはなかった。ただ恥ずかしそうにモジモジとしている。
「おや、どうやらシアは男性に免疫が無いみたいですね」
「え、その、はい、男性に抱かれるのは、はじめてです」
「シア、レオナのからかいに素直に答える必要はないぞ」
「は、はい~」
腕の中でそうモジモジされては鎮也まで照れてしまう。
死んだはずのドラゴンが動き出したというのに、余裕を崩さない鎮也たちであった。
「それにしても生きてたとわな」
完全に息絶えていたと思っていた、生きているドラゴンの口に上半身を入れるなど、我ながら恐ろしいことをしたと鎮也は思う。
「違うよ鎮也くん、あれは死霊の類、動き出した死体だよ」
「強い魔力をもった魔物ほど、怨念を残して死ねばゾンビとなって甦ると資料で読んだことがあります」
「死霊の資料」
「レオナ、そんなどっかで聞いたことがあるようなダジャレはいいから」
真っ白に濁った眼で鎮也たちを睨み付けてくるドラゴン、牙をむき出しにして咆哮をあげた。
小石を吹き飛ばし、周囲の木々がざわめき、大地に響く。
ドラゴンゾンビは咆哮だけで山を揺らしのだ。
「この声は」
「どうかしたかシア」
「私が聴いていて声はこの声です。あのドラゴンの声だったんだ」
怒りと悲しみの声。このドラゴンがゾンビとなって復活するほどだ、相当に無念な想いを抱いたのであろう。
「レオナはわかるか」
突進してくるドラゴンゾンビを交わしながら鎮也たちは会話を続ける。トレイシアはさすがに危ないからと鎮也に抱えられたままだ。
「いえ、私には、もう言葉を話すだけの知能は残っていません」
言葉とは人間の言葉ではなくドラゴン同士の使う、ドラゴン語とでも呼ぶようなモノ。
元がドラゴンであるレオフィーナは意思あるドラゴンとなら会話もできるのだが、このドラゴンゾンビはすでに言語を解せなくなっていた。
「ってことは、シアが聴いていたのは、音的な声ではなく、魂とかから発する声だったのか」
普通に耳に聞こえる声ではなかったのだろう。ドラゴンと言葉を交わせるレオフィーナが聞き取れなかったのだから、これは鎮也の仮説であるが、シスターとしての素質と調教師としての素質を併せ持ったトレイシアだからこそ聞き取れた魂の叫びではないか。
「シア、何と言っているかわかるか」
「言え、明確な言葉ではないので、ただ、悔しい、取り戻したいという想いが強く伝わってきます」
振り下ろされるドラゴンゾンビの鍵爪を、体を一回転させて交わす鎮也、トレイシアの三つ編みが踊り、巻き起こる風圧を利用して大きく距離をとった。
「シズヤさん、私にあの子と話すチャンスをもらえませんか」
「話すチャンス?」
「はい、あの子の声が私にだけ聞こえたのは、きっと意味があると思うんです」
自分を抑え込むタイプだと感じていたトレイシアがまっすぐに自分の意見を鎮也へ伝えてきた。ドラゴンと対話する。一般的常識がある人からすれば自殺行為にしか聞こえないだろう。
しかし、ここにいるのは冒険団『七星剣』ドラゴンの一頭くらい、なんでもない。
「なるほどね、やっぱりシアには素質があるよ」
「素質、ですか?」
鎮也の見込んだ通り、いやそれ以上の素質をトレイシアは持っていた。これは生まれながらの才能ではなく、心優しく成長したトレイシアだからこそ備わった素質だろう、まさに鎮也が望んでいた存在そのものだ。
「時間を稼いでくれ、倒すなよ」
「まかせて」
「了解ですマスター」
いつもの気持ち良い返事を返してくれる従者たち、鎮也の前に並んだ咲耶とレオフィーナは主には近づけさせないとドラゴンの侵攻を妨げた。
ドラゴンゾンビが再び大口を開く、今度は咆哮ではなく、敵を焼く尽くすための紅蓮のブレスを吐き出したのだ。
「ゾンビがブレスを吐けば、自滅行為でしょうに」
ブレスと吹く同時に数本の牙が抜け落ちていた。
「セイッ」
咲耶がブレスへ陰翼刀六黒を投げつける。スキル『魔法破壊』発動、六黒の刃に触れた魔法を破壊するスキルだ。ドラゴンブレスは厳密には魔法ではないが、魔力を帯びているなら問答無用で破壊するので関係ない。
身を削って放ったブレスを防がれたドラゴンゾンビは背中の翼をはためかせ、空へと舞い上がる。
「その程度の知能は乗っていましたか」
ドラゴンゾンビの方が地上戦は不利だと空へ逃げたのだ。
「最強の種族たる誇りを捨ててまで醜くこの現世に留まるのには、そうとうな想いがあるのであろう」
レオフィーナがオジロで作り出した光刃を強く輝かせる。
「シアが聞いてやるから降りてこい」
強烈な踏切り、大地を陥没されるほどに強く蹴りだしたレオフィーナは一瞬でドラゴンゾンビよりもさらに上空へ飛び上がった。
背後を取られたドラゴンゾンビは、首だけを後ろにむけブレスを吐き出そうとしたが。
「遅い」
光剣が空を走り、広げられていたドラゴンゾンビの翼を根本から斬り裂いた。
咲耶とレオフィーナがドラゴンゾンビを押さえていてくれる間に、鎮也は魔法のカバンから一振りの小剣を取り出した。
それはウーゴットが持っていたドラゴンをテイムできる能力を持つ聖雷剣。シリアル332竜交渉剣である。
「シア、これを君に受け取ってもらいたい」
「これは」
星の輝きのような白銀色に光る美しい小剣。
「これさえあれば、例えゾンビだとしてもドラゴンとなら対話できるぞ」
「まさか、……これがシズヤさんが作り上げたという伝説の聖雷剣」
まるで初めて目にしたような反応しているが、シアはすでにシリアル111三重奏剣を持っている。まあ鍛え直す前の灰色状態だから実感が無かったのだろう。
「トレイシア、君にこの剣の正式な使い手になってもらいたい」
「…………はい」
少しだけ時間を空けたが、トレイシアはしっかりと返事をしてくれた。
「まだ自分さえ正確に理解していない未熟者ですが、伝説の名に恥じない使い手に成長することを誓います」
「ありがとう」
翼を斬り裂かれたドラゴンゾンビが大地へ落ちてくる。
続いてレオフィーナがプラチナゴールドの髪をなびかせながら鎮也の隣に舞い降り、咲耶も逆側の隣へ位置を取とった。
そして聖雷剣継承の儀が開始された。
「我、聖剣鍛冶師・星尾鎮也と」
「七星剣第一星・レオフィーナ」
「七星剣第二星・桜咲耶は」
「「「汝を聖雷剣の使い手として認める」」」
鎮也に握られていた竜交渉剣が光り輝き浮かび上がると、吸い寄せられるようにトレイシアの手へと収まった。
「聖なる雷の剣の使い手として、その尊き魂に恥じぬよう願う」
竜交渉剣の星色の光はトレイシアを包み込み、溶け込むように一体となっていった。
「ありがとう、私を選んでくれて、一緒に頑張っていきましょう」
トレイシアが手に舞い降りた竜交渉剣へとあいさつをした。
聖剣核であるキャッツアイが返事をするようにキラリと光った。
「これで譲渡は完了した」
鎮也は鑑定眼を発動させる。
「――――――――――――――――――――――
聖雷剣シリーズ シリアル332
【名称】「ドラゴン・パルレ」
【和名】「竜交渉剣」
【製作者】星尾鎮也
【使い手】トレイシア
【分類】短剣 【レア度】☆☆☆☆☆(5)
【長さ】30センチ 【重さ】0.4キロ
【聖剣核】ガーネット
【スキル】
『雷魔法(中)』……使い手が雷魔法を扱えるようにする(効果:中)
『テイム(ドラゴン)』…使い手にドラゴン限定のテイムスキルを授ける。
『調教』…………………テイムしたドラゴンを調教できる。
『貫通』…………………ダガー貫通力が上がる。
【補足】
テイムダガーシリーズ。ドラゴンのテイムに特化した杭型ダガー。突き刺したドラゴンを使用者の実力にもよるがかなりの確立でテイムできる。またテイムしたドラゴンを調教可能。初期のテイムダガーではドラゴンの皮膚に刺さらなかった失敗を生かして貫通スキルを追加した。
――――――――――――――――――――――」
「うん、問題ない、竜交渉剣もシアを使い手として認めてる」
「わかります、この聖剣を使えばあの子と会話できるって、やり方が頭に流れ込んでくる」
「よし、それじゃ俺たちはサポートに回るぞ」
鎮也たちは頷き合う。
「まかせて」
「了解」
地面に叩きつけられたドラゴンゾンビがゆっくりと起き上がる。ゾンビであるためか、翼を斬られても叩きつけられても痛みは感じていないようだ。
テイムをするための交渉をするには、一度、トレイシア自身が竜交渉剣でドラゴンを刺さなければならない。交渉するのに攻撃するのは矛盾しているが、テイムスキルを発動させたまま刺せば相手には傷が付かないようになっているファンタジー使用。
「シア、俺の後に付いてこい」
「はい!」
先頭に咲耶とレオフィーナ、続いて鎮也が走りだし、その後ろにトレイシアが走る。
この三人が前にいる以上、たとえドラゴンが相手でもトレイシアには傷一つ負わすことはできない。
突っ込んでいく鎮也たちにドラゴンゾンビが再びブレスを吹いてくるが、初見から防いでいる単純な攻撃、咲耶が六黒でブレスを防ぎ、踏み込んだレオフィーナがドラゴンゾンビの顎を刃を消した光剣で打ちあげた。
のけ反るドラゴンゾンビへ仕上げに鎮也が透徹で足を払い上げれば、体が大きく跳ね上がり無防備な腹が丸見えになる。
「行けシア」
「はい!」
トレイシアは鎮也に背中を押されドラゴンゾンビの懐に潜り込み、両手で握りしめた竜交渉剣を突き刺した。
トレイシアの想いとドラゴンの魂がダイレクトにリンクする。
これでもう言葉の壁も、種族の壁も存在しない。
あるのはただ対等な会話だけ、トレイシアはどうしてあんなにも怒りと悲しみを孕んだ声を出していたのかと、ドラゴンの魂に問いかけた。




