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第47剣『人形で穴掘り』

 トレイシアが声を聞こえると言った地点、そこは崩れた洞窟であった。


 この現場を調べるために一行が馬車を止める。止めた反動で前のめりに倒れそうになる鎮也を左右にいた咲耶とトレイシアが腕を抱きかかえて支えてくれた。


「崩れたのはつい最近のようだ」


 周囲を警戒しながらカナリーが洞窟であった場所の状態を確かめる。

 イクスも足をもつれさせながら洞窟跡へと駆け寄る。


「カイザンギルドマスターから借りた地図にも洞窟のことは記されている。ここに洞窟があったことは確かだろう」


 そして最初に行方不明となった東エリアを担当した三人のギルドナイトたちの調査指定ポイントでもあった。


「それじゃみんなは、ここに生き埋めに……」


 唖然とするイクス。行方不明になった仲間を探してギルドナイトたちが洞窟に入り崩落に巻き込まれたとでも想像したのであろうが。


「いや、どうやらそれは違うようだ」


 カナリーはイクスにプラトンウルフたちを見るように促した。

 ギルドナイトたちの匂いを追跡しているウルフたちは洞窟の中ではなく、更に山の奥を目指そうとしている。


「この崩れた洞窟はギルドナイトたちが到着する前に崩落した可能性が高いな」


 痕跡は洞窟を通過しているのだ。最初の三人はわからないが、少なくとも後発のチームは崩落には巻き込まれていない。


 ホッと胸をなでおろすイクス、昨日から何度も目撃した光景だ、状況が変わるたびに絶望したり希望をもったりと百面相を繰り返している。


「イクス殿、貴公もギルドナイトの称号を持つ男なら、感情をそう表に出すな」

「え?」


 腕を組んだカナリーが厳しい眼つきでイクスを見据える。


「仲間の心配をする感情を否定はしない、それは人間として当然のことだ、しかし、我々は彼らの生存を信じ助けに向かっているのだ、結果が出るまで希望だけを信じ行動しろ、心配するのは街に残り歯がゆい想いをしている親族たちに任せてな」


 カナリーが浮き沈みの激しいイクスへ喝を入れる。


「我々は行方不明者たちへ、救出へ向かっている唯一の存在なのだぞ」


 突然の説教にクラリとしたイクスが後ろへ一歩二歩と下がるが、三歩目は下がらずに踏みとどまった。

 カナリーに言われたことを頭で整理するように手で顔を覆ってから、歯を食いしばり、そして背筋を伸ばした。


「忠告痛み入ります。醜態を晒しました。今よりこのイクス、ギルドナイトの名に恥じぬよう全力で仲間の生存を信じ行動します」


 まるでギルドマスターへ宣言しるかのような畏まった態度をカナリーへとする。

 それだけ今の忠告がイクスの中で響いたのだろう。


「うん、それでこそランクBとギルドナイトの称号を持つ男の態度だ」


 わかってくれればいいとイクスの肩を軽く叩き馬車へと戻る。


「昨日から感じてたけど、カナリーさんって結構冒険者ランクに括るよね」

「過去に何かランク関係で悔しい想いをしていそうですね」


 咲耶とレオフィーナはカナリーの冒険者ランクへの執着が気になっているようす。


「でも間違ったことは言ってないだろ、失った物への奪還へ向けての姿勢は評価してもいいと思うぜ」


 譲れないモノへの想いは鎮也にも共感できる部分はある。鍛冶師とて鎮也が誇りを持つように、カナリーのランクAの冒険者としての誇りを持っているのだろう。


「お、流石はマスター、あの不器用でお堅い性格も守備範囲ですか、お約束展開が期待できます」

「ないから」


 今日も元気にレオフィーナのお約束を聞かされた。


「この洞窟内に生存者はいるかわかるか」


 カナリーがプラトンウルフを使っている牧場長夫婦に確認を取ると、夫婦は首を横に振った。

 ウルフたちは洞窟跡から生きた存在を探知していない。


「カナリー殿、ここは山の奥に向かいましょう」


 前向きになったイクスが進言する。

 痕跡が奥へと続いている以上それは当たり前の判断なのだが。


「シズヤさん」


 トレイシアが洞窟を見つめる。彼女が言っていた声を持ち主はこの中にいるようなのだ。牧場長夫婦はもうこの中に生きている存在はいないと言っているが、素通りすることができないようす。


「まだ、声は聞こえるか」

「いえ、今はまったく、さっき聞こえた声が、その、最後の力を振り絞ったような、そんな声だったんです」


 それは、つい今しがた力尽きたということなのか。


「ここを調べることはできませんよね」


 鎮也たちも目的はあくまでも行方不明者の救出だ、生存者がいるかもしれない山奥へ向かうのが正しい行動ではあるが。


「声の主を調べれば、行方不明になった冒険者の手掛かりを見つかる可能性もあるよな」


 最初に消息を絶ったメンバーがいたかもしれない場所なのだから。


「シズヤさん、それって」

「悪い咲耶、カナリーと――」

「交渉して、私たちだけこの洞窟跡に残って調査できるように話してくるね」


 流石は咲耶さん、鎮也が全部を言い切る前にお願いしたいことを正確に理解してくれている。

 馬車から降りた咲耶が長い黒髪をなびかせ一行の先頭にいるカナリーの元へと行ってくれた。


「私も早く、サクヤさんのように役にたてるようになりたです」

「今でも十分役にたってくれてるよ」

「いいえ、まだサクヤさんの足元にも及びません」


 何故か咲耶の行動を見たトレイシアが闘志を燃やす。


「失礼しますマスター」


 そしてレオフィーナが咲耶のいなくなった御者台へ鎮也を支えるために腰を下ろした。

 もう頭がふらふらな鎮也は、支えてくれるだけで大助かりだ。

『梟の暗視』が呪いを飛ばせそうなくらい睨んでくるが、そこまで意識する余裕は鎮也には残っていない。


 話をまとめて戻ってきた咲耶が自分の席を奪ったレオフィーナを見て声を上げるのは、ある意味お約束な展開であった。






 救出本隊と別れた鎮也たち『七星剣』だけが洞窟跡に残る。


 この提案に、貴重な戦力をされている咲耶とレオフィーナが抜けるのを渋ったカナリーであったが、最初に行方不明になった三人が訪れた可能性を指摘して、強引に分かれる承諾を咲耶が取ってくれた。


「されマスター、どのような調査をしますか」

「穴を掘るだけなら私の魔法で一瞬だけど」


 土魔法を使える咲耶なら、崩れた洞窟に大穴を開けることも難しくはないが、それをやってしまうと中に埋まっている物も一緒に穿ってしまうので調査の意味がなくなる。


「正攻法で掘るしかないか」

「大変な作業ですね」


 人数はたったの四人、しかも唯一の男である鎮也は動ける状態ではない、トレイシアは自分で言い出したことだからと気合を入れ崩れた洞窟挑もうとしるが。


「シアは危ないから下がっていてね」


 咲耶に止められ、鎮也の横まで下がらされた。


「もしかして咲耶さん一人でされるんですか」

「まあ、一人っていうか魔法を使うだけだけど」


 さっき魔法が使えないと言ったばかりではないかと、トレイシアが首をかしげる。


「穴を掘る魔法じゃなくて、こうやって使うの」


 咲耶は洞窟にではなく、少し離れた地面に向かって魔法をかけた。すると土が盛り上がり、二メートルクラスの土でできた人形が立ち上がる。馬を作った造形魔法で今度は人型の巨人を作り出したのだ。


「この子たちに穴を掘ってもらうから、私たちは指示を出すだけね」

「なるほど、こんな使い方もあるんですね、魔法は発想力の勝負でもあるんですね、勉強になります」


 魔法職には手と出していなかったトレイシアが魔法にも興味をしめした。

 このマルチシスターが魔法まで覚えたらもう欠点は無いか知れない。


「洞窟の調査は私たちがやるから鎮也くんは寝てていいよ」

「すまん、そうさせてもらうは」


 男として女性だけに重労働をさせるのは気が引けるが、もう限界だ、体を起こしているだけでも辛い、咲耶が強引に分かれることを交渉したのは鎮也の休む時間を作りだすことも含まれていたようだ。

 とてもありがたい、鎮也は咲耶に感謝する。


「それではマスター、最後に。私とシアのどっちの膝で眠るか選んでください」

「あ~~~!」


 それを聞いた咲耶が声をあげた。


「サクヤは調査の指示を出さなければならないでしょ、こちらは任せてください」

「指示を出すだけなら座ってもできるよ、それにレオナの言うことも聞くように作ったから指示を出すのは私じゃなくても大丈夫」

「そうでしたか」

「知ってて惚けない」


 鎮也の意識がぼやけていく、遠くで従者たちの言い合いが聞こえるが、それさえも鎮也にとっては子守唄にしか聞こえなくなっていた。


「おやサクヤ、どうやらマスターの限界のようです。選ばれたのが私では無いことが残念ですが、ここはマスターの選択を尊重しましょう」


 限界のこえた鎮也の体が横へと倒れる。

 しかし、地面には倒れることなく鎮也の頭は途中で温かく柔らかいモノに受け止められた。






「え、え、あの、これっは!?」


 鎮也が倒れこんだ先、それはトレイシアに膝の上であった。


「シア、申し訳ありませんがそのままマスターを休ませてあげてください」


 すでに鎮也はトレイシアの膝で深い眠りに入っていた。


「う~~」

「ほらサクヤ、うなってないで作業を進めましょう」

「わかってるよ」


 少しだけ、トレイシアを羨ましそうにながめた咲耶は一度深呼吸して負の念を吐き出し作業を開始する。作り出した人形を一列に並べ、先頭の人形の手をつるはし形に変形させて崩れた洞窟を掘り出した。


 取り除かれた岩を土の人形たちはバケツリレーで離れた場所に積んでいき、人形一体の操作権利を貰ったレオフィーナは、取り除かれた岩に何か手掛かりが無いか調べていく。


「これは」


 岩を調べていたレオフィーナが、土の人形が持ち上げた岩の裏側に刺さっていた剣を見つける。剣は真ん中から折れており、刺さっていたのは切っ先の方であった。


 引き抜いて見れば、サビもないよく手入れされていた刃、埋もれてからそんなに日数は経過していないだろう。


「サクヤ、これを、もしかしたらギルドナイトの装備かもしれない」

「その岩があったのは、この辺だね」


 咲耶は手掛かりが埋まっているかもしれないポイントを集中して掘り返す。ほどなくして、今度は折れた柄の部分が掘り出された。


「レオナ、こっちも出た」


 二つを欠片をつないでみれば、折れ目がほぼ一致した。同一の剣だったと見て間違いない。


「まあまあいい剣だよね」

「深紅の秩序のメンバーが装備していた武器と同レベルぐらいですね」


 咲耶たちは鎮也のような鑑定眼は持っていないが、もう何年も鍛冶師の従者をしてきたのだ、それなりの目利きは持っている。付加されたスキルまでは読み取れないが、この折れた剣がレア度2程度であることは鑑別できる。


 カナリーの大剣はもしかしたらレア度3はあるかも知れないが、冒険団全体の平均はレア度2だろう。

 したがってこれはギルドナイトの誰かの持つ物である可能性が高い。


「よく手入れされてる、持つ主に大事にされてたのね」


 だがその持ち主は見つからない、生存者はいないと判断されたが、死者すら出てこないのだ。


「剣を残して崩落する洞窟から逃げ出したのかな」


 捨てれば身軽にはなるが、だったら鞘から抜いて捨てるのは違和感がある。逃げるだけなら剣以外の道具も捨ててあってもいいはずだ、だが、折れた剣以外は見つかっていない。


「崩落させた原因と戦っていた」

「もう少し、掘り返してみよう」


 さらに奥に手掛かりがあるかもしれない。

 咲耶が土の人形に指示を出し岩を持ち上げさせよと、岩に触れた瞬間、土の人形の腕が崩れ落ちた。


「これって、まさか対魔法結界」


 確認のために別の土の人形に触らせたが結果は同じだった。


「この岩の下に何かが埋まっていることは確かなようですね」

「それがシアさんが聞いた声を関係する何か」


 対魔法結界があるということは、ウーゴットの隠し資産に繋がる物もあるかもしれない。


「マスターには申し訳ないですが、起きてもらった方がいいですね」


 岩をどかすのに魔法以外の方法が必要になった。吹き飛ばすだけなら簡単なのだがそうはいかない。


 これが『七星剣』唯一つの弱点、鎮也たちは手加減が苦手なのだ。

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