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第45剣『夜襲と爆音』

「鎮也くん大丈夫」

「膝が動かなくなった」


 隠せばデメリットにしかならない、鎮也は自分の状態を正直に話す。


「レオナすぐに回復を」

「それより明かりが先だ、レオナ」


 レオフィーナはオジロを使って光源になる球体を作り出し、ヤマトが警戒している先の上空へ飛ばした。この光源のおかげでベースキャンプ周辺は昼間のような明るさになる。


「敵はどんな奴だ!」


 遅れてテントからカナリーたち『深紅の秩序』のメンバーが駆け出してくる。


「まだわかりませんが、いるのはあの球の下です」


 イクスが警戒する場所を伝える。

 全員の意識が茂みの先に集中すると、木々をなぎ倒しながら人の数倍はある巨漢が姿を現した。


「あれは、ギガントオーグルか」

「こんな街の近くになんで」


 巨大鬼ギガントオーグル、討伐Aランクの魔物だ。かたい皮膚は並大抵の武器や魔法は通用せず、倒すには大打撃を与える武器が必要になる。ランクA冒険団だとしても、倒す為の準備もせずに相手にするのは難しい相手。

 生息域はもっと人里から離れた秘境であり、馬車で半日の距離しかない山の中で遭遇していい魔物ではない。


「周囲警戒、奴は手下を連れている場合が多いぞ!」


 カナリーが警告を飛ばす。


 この魔物のもっとも厄介なところは、自分よりの下位の鬼種(オーグル)を手下として連れ歩くことだ、あれだけ堂々と姿を現したからには必ず手下が周囲に潜んでいる。


「左側に三体、回り込んでくるよ!」


 土属性を極めた咲耶が、振動を探知した、高速で移動する存在をみんなに知らせる。


 警告とほぼ同じタイミングで左側の茂みから、咲耶の言葉通り三体の魔物が襲いかかってきた。豹型の魔物に騎乗した鬼、騎乗鬼ナイトオーグルだ。


 咲耶の警告のおかげで奇襲を受ける前に全員回避することができた。動けない鎮也はレオフィーナが抱きかかえて避けている。


「助かったレオナ」

「回復をかけます」


 抱えられたまま回復魔法を受ける鎮也、何とか膝の感覚は戻ってきた、歩くことはギリギリできそうだが走るのは無理そうだ。


「シアは?」

「大丈夫です」


 鎮也がトレイシアを心配したが、彼女も臆することなくレオフィーナの動きについてきていた。


「レオナ、焼けるか」

「問題なく、しかしここはカナリーたちの腕を見ましょう、明日からの共同作業でどの程度歩調が合わせられるのか知っておかなければ」


 それは確かにある。出会った敵すべてをレオフィーナたちが瞬殺してしまっては、想定外の場面に出くわした時、対処が遅れてしまうかもしれない。


 鎮也は進言を受け入れた。

 レオフィーナにとってはカナリーたちの実力を知っておきたいもの本音であるが、実はまたレオフィーナたちだけで魔物を倒せばカナリーの鎮也に対する勘違いが強まってしまうことを恐れたのだ。


「昼間の魔法は使えないか」


 カナリーがナイトオーグルを牽制しながら咲耶に問いかける。ナイトオーグルは騎乗している魔物とセットで討伐Bランクとされている。奇襲が失敗しランクAのカナリーが正面から威圧をかければ警戒して、そうそう単純には突っ込んでこない。


「ごめん、あれを倒せるクラスの魔法だと山崩れが起きるかも」

「やはりか、そうなると火の魔法も無理か」


 山火事になること恐れての発言だろうが、その心配は不要でレオフィーナの魔法は燃やす相手を選別できるのだが、あえて伝えなかった。咲耶もレオフィーナの考えに同調したのだ。


「しかたがない、ギガントオーグルは『真紅の秩序(私たち)』が引き受ける」


 カナリーの仲間たちから心配そうな雰囲気が漂ってくる。


「大丈夫だ、自分たちを信じろ私たちはランクAの称号は掲げているんだぞ」

「私もお手伝いします」


 カナリーに続いてイクスも名乗りを上げた。


「助かる」


 二人が駆け出すと、一歩遅れて『真紅の秩序』の女性たちが続く、その背後へ襲いかかろうとしたナイトオーグルを咲耶が陰翼刀六黒を投げて牽制した。


「あなたたちの相手は私たちだよ」

「ナイトオーグルは騎乗魔獣と合わせてBランクです、一度に魔核が二個取れる相手ですが、単体にするとCランクなので値段が安く冒険者には嫌われている魔物です」


 トレイシアが親切丁寧に魔獣の説明をしてくれた。Cランクの魔核二つよりもBランクの魔核を一つ売った方がお金になる。


「シアは知識も豊富ですね」

「ギルドの書庫はタダでしたので」


 正確には登録した冒険者には無料で閲覧が許されている。街の一般的図書館は有料。


「つまり、相手はCランク六体でいいんだね」


 咲耶が六黒を投げ放つと、六つに分離してそれぞれがナイトオーグルを切り裂いた。

 避けても追尾する投擲刀はBランクの魔物程度では回避不可能だ。


「鎮也くん魔核の回収はする?」

「分配ってどうなってるんだろ」

「ああ、共同依頼って分配でよく揉めるんだっけ」


 あまり共同の依頼を受けた経験の少ない鎮也たち、ギルドではたまに冒険団同士が拾得物の分配でもめているところを見かけている。


「緊急で決めていませんでしたね、サクヤが倒したのですからマスターの物でいいのでは」

「いや、揉めそうだからカナリーたちに断ってからにしよう」


 この依頼を達成すれば大金が入ってはくるが、材料にも使える魔核は回収しておきた。今になって昼間もエッジオーグルの魔核がもったいなく思えてきた鎮也であった。


「余裕ですねシズヤさんたち」


 現在進行系で『真紅の秩序』+イクスとAランクの魔物ギガントオーグルの死闘が繰り広げられていた。


「Aランクの魔物が一体程度じゃ、慌てる必要はないかな」

「カナリーさんたちの方が優勢みたいですし」

「お約束で追加がきても慌てる相手ではないですね」


 咲耶の見立て通り勝負はカナリーやイクスたちが押していた。俊敏な動きでギガントオーグルを翻弄して、背後を取ったメンバーが攻撃を仕掛けている。だが防御の固い相手、かろうじてダメージを与えられているのは大剣を使うカナリーだけのようだ。

 ギガントオーグルが少しずつ傷ついていくが致命傷にはいたっていない。


「カナリーさんって大剣使いだったんだ、全身鎧着てるからランス系かと思ってた」


 ピンチになったらすぐに助けに入れる態勢を取りつつ咲耶はカナリーたちの戦力を分析する。


 全身鎧は重く小回りが利かないので、振る動作のある剣などとはあまり相性がよろしくない、それに引き替え突き特化のランスなどは、鎧の防御力と合わさり相性がいいのだ、咲耶がランス使いと間違えても無理はない。


「大剣を担いでなかったから、カナリーも収納型の魔道具を持ってたんだろうな、結構出回っているのかな」

「いえそれは無いですよ、収納型の魔道具を作れたのは帝国でも一人だけでしたので、その方がお亡くなりになってから製造方法は失われ、収納型の魔道具は値段が跳ね上がりました、今では一流の冒険者か貴族くらいしか持っていません」


 鎮也たちの足りない現代知識を補ってくれるトレイシアはとても助けになっていた。冒険者生活は力だけではやっていけないと改めて実感させられる。


「作れる人は、もういないのか、それじゃ入手は難しそうだな」

「はい、私も壊れている品をやっと購入できただけですから」


 問題がなければ、たとえ中古でもトレイシアが購入できる値段で売ってはいない。

 鎮也はトレイシアの魔法のポーチに鑑定眼を発動させた。


「――――――――――――――――

【名称】魔法の収納ポーチ

【製作者】リシャール・ビィ

【修復】トレイシア

【分類】魔道具 【レア度】☆☆☆(3)

【魔核】なし

【スキル】

※低下中『収納(7)』……生き物でなければ七つまで収納できる。

『保護』…………………収納した物を劣化させない。

【補足】

 帝国最高の魔導技師リシャール・ビィが伝説の聖剣鍛冶師が持っていたとされる魔法のカバンを再現しようと制作された魔道具。本物の魔法のカバンと違い、同種の物をまとめ入れはできない。

 壊れていたのをトレイシアが修復したが、機能は完全に戻らず、収納限界は現在五つとなっている。

――――――――――――――――」


 まさか鎮也の魔法のカバンを参考にされているとは驚かされるが、それより本当にトレイシアが修復していた。彼女はホントにマルチである。このまま成長したらトレイシアはどこまで大成するのであろうか、鎮也たちは仲間に恵まれた。


「機能は完全に戻せていないのか」

「わかるのですか」

「ああ、魔道具は専門じゃないけど、直せるかも」


 魔道具の知識はさんざん分解したので鎮也もある程度は理解していた。

 作り上げたゴーレムたちは帝国の最新型にだって負けない自信がある。性能をテストするために一度戦わせてみるのも面白いかもしれない。

 もしかしたら更なる改良のヒントを掴めるかもしれないし。


「鎮也くん、また職人モードになってるよ」

「マスター、一応戦闘中なのは忘れないでください」

「あ」


 完全に忘れていた。

 寝不足のせいで一つのことを考えると、その前に出来事はきれいに脳内から洗い流されている。


「ほら、マスター」


 レオフィーナが上を指差しと、ギガントオーグルが投げたと思われる木の幹が鎮也たち目掛けて飛んできた。


 悲鳴をあげるトレイシアを咲耶が庇い、大十手透徹をベルトから抜いた鎮也が幹を叩いて、弾き返す。いくら寝不足でもチートな体、回復してもらえればこれくらの力はまだ発揮できる。


「鎮也くん、カナリーさんたちそろそろ加勢しよっか」

「そうだな」


『真紅の秩序』の力はだいたい把握した。カナリー個人の力はランクAとして申し分ないが、冒険団全体としてはランクB程度ではないだろうか、これでランクAを名乗るには少し力不足気味、もしかしたらフルメンバーではないのかもしれない。


 それが鎮也が下した『真紅の秩序』の評価であった。


「素材を欲しがるかもしれないから、なるべく丁寧に」

「まかせて」


 咲耶がギガントオーグルへ六黒を投擲しようとしたら、後方のテントがガバリと捲られた。


「チマチマやりやがって、女が冒険者なんてやってるから、いつもでもそんな鈍足の雑魚を倒せないんだよ!!」


 男性用に割り当てられたテントの中から『梟の暗視』が現れる。


「あ、あっちも完全に忘れてた」

「どきやがれ、そいつは俺たちが倒してやるぜ!」


 テントの中で何かやっているようだが、鎮也の位置ではテントの幕が視界を遮り見ることはできなかった。

 だかギガントオーグルと対峙していたカナリーからは見えたようで、焦りの表情になる。


「退避しろ!」


 ギガントオーグルに対峙していた仲間を急ぎ退かせる。

 皆はギガントオーグルに背中を見せるのも構わずにその場を逃げ出した。


『真紅の秩序』やイクスたちが飛び退くと同時に、テント内から鼓膜に突き刺さるような爆音が鳴り響き、何かが射出される。

 高速の飛翔体はギガントオーグルの頭部に命中し、そのたった一撃でAランクの魔物の頭を吹き飛ばしてみせた。

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