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第41剣『道中走破』

 予定よりも一時間以上遅れて救出隊は交易都市レフティアを出発した。


 遅れを取り戻すため道中ゆっくりもしていられない、馬も魔法で生み出した存在なので無理をしても怪我を負わせる心配はいらないと最初から全速力を出した。

 鎮也たちの馬車も最初はトロンバトルナードに引いてもらおうとおもったが、一台だけ角を持つ馬に引かせたら悪目立ちをしてしまいそうだと気が付き、他と同じ魔法で生み出した土色の馬が引いている。


 馬の能力が均等であるため、全力で走った場合もほとんど差がつかないことから、目的地である触らずの山を目指して縦一列に並んだ五台の馬車が疾走する。順番は先頭から『真紅の秩序』『レンタル魔獣牧場』『七星剣』『梟の暗視』の二台となっていた。


 風よけの全くない馬車なので咲耶たちは長い髪をなびかせている。その後ろで、全員酔っ払いの『梟の暗視』連中は、激しい揺れに耐えられず、夕べから高級店で飲み食いした物で自分たちの通過した道に印を残していった。


「いいか貴様ら、遅れたら減額ではなく取り消しだからな!」


 集団の先頭を走る『真紅の秩序』の馬車、その御者を自ら務める団長代理のカナリーが、遅れ気味になっている汚い梟たちへ忠告を飛ばす。


「ちくしょうが!」


 腐っても冒険団ランクBを持っている連中は、ギリギリのところでどうにか付いてきていたが、操っている馬が咲耶の作り出した魔法の馬だからこそできる乱暴な操作であり、本物の馬なら怪我をしていてもおかしくなかった。


「結果論ですが、あの方たちに馬を貸さなくてよかったと思います」


 牧場で長く働いていたトレイシアがあの乱暴な操作に一番嫌悪していた。


「咲耶、あの馬は持ちそうか」

「微妙かも、どうやったらあんなに乱暴にできるんだろう」


 道から反れそうになると、強引に手綱を引いて修正するを繰り返している。ここはまだなだらかな道だ、馬に任せて走ればそれなりにまっすぐ走れるのに、余計なことをして返って操作を難しくしている。


「あれが飲酒運転ってやつか」

「剣と魔法の世界でその言葉を聞くとは思わなかったわ」


 咲耶の作った馬がなんとか調整をして衝突を回避してくれているが、もし普通の馬だったら馬車同士の激突もあったかもしれない。


「他の旅人がいなくてよかったですね」

「いけませんシア、それはフラグと言うお約束です」


 すれ違う人がいないので、跳ねることはないと安心してトレイシアの一言に、珍しく慌てたレオフィーナが止めようとしたが、一度出た言葉は取り消せない。


「フラグ?」

「負のフラグ、数あるお約束の中で数個しかない私が嫌いなお約束の一つです」

「まさかだろレオナ」

「すみませんマスター、私のお約束センサーに反応があります」

「お前にそんなスキルはないだろ」


 とツッコミを入れつつも、鎮也は腰の透徹を確かめ、何が起こってもいいように警戒態勢をとった。


「オジロ!」


 レオフィーナが陽翼剣オジロを剣獣である鷲の姿へ変え前方へと飛ばした。

 羽ばたき一つで馬車の集団を追い抜いたオジロは進行方向の先を偵察する。


 鎮也たちはどんどんと小さくなっていくオジロから目を離さなかった。すると、豆粒のように小さくなったオジロが一度旋回して光魔法で作り出した光の球を信号弾のように打ち上げる。あの下で何らかの事態が起きているようだ。


 鎮也は馬車に魔力を流し込み車輪を高速回転させると、一台前のレンタル牧場の馬車を追い抜き、カナリーの馬車へと並走させた、鎮也が改造した魔導馬車だからこそできる芸当である。前から吹き付ける強い風に負けないように鎮也は声を張り上げた。


「止まるんだ、前方に異変がある!」

「了解した!」


 カナリーもオジロに気が付いており、すんなりと了承してくれた。

 停車するための行動を開始する。速度のついた馬車は急には止まれない、カナリーはまず後ろへ停止の合図を飛ばし、それから自分の馬車の速度を落としていく、先頭から止まれば玉突き事故になってしまうから急停車はしない。


 ゆっくりと速度を落としていく、まともな集団ならこれで止まれるが、このまま停止すれば後ろから『梟の暗視』に追突される可能性があるため鎮也とカナリーは頷きあうと、操作する馬車を自ら道を外れさせ道の真ん中に大きなスペースを作り停車した。


 魔物の調教師である牧場主夫婦が操作する馬車も問題なくカナリーの馬車を追い抜くと同じように道を外れて停車する。


 そして最後に問題の『梟の暗視』の馬車は案の定止まることができずに通過していく、手綱を強引に引いても馬車は蛇行するだけで止まれない。

 オジロが旋回している場所へどんどんと近づいていく。


「咲耶!」


 鎮也が咲耶に指示を出す。

 咲耶は瞬時に鎮也の意図を理解して、馬車を引いている馬の魔法を解除して土くれへと戻し、さらにその土くれを操り車輪へ粘土のように張り付かせてようやく停車させられた。


「なんだこの馬は、土でできていやがったのか」

「気が付いてなかったのかよ」


 馬車を下りた鎮也たちはオジロが旋回している下へと目を向けると、鍵爪鬼エッジオーグルの群れが大移動していた。このまま馬車を走らせていたら間違いなくあの群れに突っ込んでいただろう。

 振り落とされかけて文句をつけてこようとしていた『梟の暗視』たちもあの群れを見たら黙るしかない。


「数はざっと百五十匹前後か」


 鎮也が目算で魔物の数を割り出す。

 群れの中には馬のいない馬車を押している魔物もいる。きっとこの道を通った商人から奪った物だろう、乗っていたであろう商人はどこにも見当たらない。


「なぜだ、エッジオーグルがこんなひらけた道に、ルー奴らは森などに潜む魔物だろ」


 ランクAのカナリーでも初めて遭遇する光景のようだ、補佐のルーシアの助言を求める。


「考えられることは、縄張り争いに負けたとか食糧を食べつくしての住処の移動とかかな、どうするカナリー、殲滅するにも迂回するにも、時間取られちゃうよ」

「この道は他の旅人も使う道だ、あれだけの群れを放っておくことはできない」


 カナリーは殲滅を選んだ。これだけの人数がいれば迂回と殲滅にそれほど時間は変わらないとの判断だろう。だったらより被害が抑えられる方を取ったのだ。


「あれ~、時間をかけると減額じゃないんですか~、いいんですか~」


 空気の読めない汚い梟がカナリーの判断を冷やかしてきた。


「では貴様らの意見を聞こうか」

「んなもん決まってる、あの群れを突っ切ればいいんだよ、どうせDランクの魔物だ、突っ込んでくる馬車を見ればチリジリに逃げてくぜ」

「それでは、各所に散ったエッジオーグルに旅人が襲われる可能性をまき散らすことになる」


 群れならば別の森へ移動するかもしれないが、下手に数体のグループにしてしまうと、森への移動をあきらめ、道のそばに潜伏して旅人を襲うようになるかもしれない。


「別にいいじゃないかよ、他の事は」


 他者への迷惑は関係ないと切り捨てた。


「時間がないんだろランクA様、こんな所で会話をしている時間ももったいないぜ」


 今朝カナリーに言われたセリフを引用して言い返す梟のリーダー。


「馬車で突っ込み、奴らが向かってくる可能性もあるぞ」

「それなら大丈夫、俺たちには秘密兵器があるからな」


 梟のリーダーは自分たちの馬車に積まれている大きな包みをチラリと見る。


「あれがあればあんな群れ、簡単に蹴散らせるぜ」

「あいつ馬がいなくなったこと忘れてないか」


 まあ魔法ですぐに作り出せるけど、あんな奴らのために咲耶に魔法をつかわせるのは、どうにも鎮也は腹立たしかった。

 でもこのまま時間をかけられないのも確かなので鎮也は最初にカナリーが選択した殲滅を選ぶことにした。


「咲耶、レオナ、殲滅だ」

「まかせて」

「了解したマスター」

「ちょっと待てや雑魚がなに勝手にやろうとしてんだよ」


 鎮也へ掴みかかろうとした梟のリーダーの前にフォークのような灰色の槍剣をかざしてトレイシアが動きを止めてくれた。


「あの人たちなら大丈夫ですから、ここは任せてください」


 トレイシアはまだ鎮也たちの本当の実力はしらないはずだ、知っているのはリーザたちから聞いた話だけのはず。もしかしたら救国の英雄というまだ鎮也の知らない伝説も絡んでいるかもしれないが、トレイシアは鎮也たちを信じてくれている。


「魔法使い風の戦い方は好みじゃないけど」

「サクヤ、好みを優先できる場面ではありません」


 咲耶は六黒を抜き、地面へと突き刺し土の魔法を唱えた。


「ロックドーム」


 地面がわずかに揺れたかと思えば、エッジオーグルの群れを盛り上がった地面が覆い隠して土のドームを形成した。ただ一つ、こちらを向いた出入り口が作られている。


「オジロ戻りなさい」


 旋回していたオジロがレオフィーナの腕に舞い降りると刀身の短い剣へとその姿を変える。

 そしてレオフィーナは短いままのオジロ振るい火の魔法を唱えた。


「フレイムブレス」


 ドラゴンのブレスのような火炎が放射され、一つしかない出入り口からドームの中へ飛び込み大爆発。

 爆発の衝撃でドームは崩壊して大地へエッジオーグルの群れを飲み込んでいった。

 たった二つの魔法で百五十匹近い群れを全滅さえた二人に言い争いをしていたカナリーや梟のリーダーたちも押し黙ってしまった。

 みんな、一様に口をあんぐりと開けていた。






 それからは問題無く『梟の暗視』も問題を起こすことなく、目的地である触らずの山の麓まで到着した。途中に一度足止めを食らったが、いやその足止めを食らったおかげでうるさい連中が大人しく従ってくれるようになり予定よりも早く到着できた。

 計画では日が沈むまでに到着するとなっていたのだ。


「カイザンの話しだと、このまま道なりに山の中腹までは馬車でいけるみたい」


 地図を広げた咲耶が現在位置を確認する。


「まだ進めるのか?」


 近くで話を聞いていたカナリーが問いかけてきた、普通ならここまで走れば馬を休めるところだが、その普通が今回は当てはまらない。流石に酷使しすぎて足にひびが入っている固体もある。カナリーが操作していた馬の足もガタがきていた。


「そうだね、少し変えようか」


 咲耶が馬たちへ手をかざすと、周囲の土が浮かび上がり馬に吸い寄せられ体を作り変えていく、足が短く縮んで太くなった、スピードは出にくくなるが馬力は高くなっている。山道を駆け上がるには適した体型へと変形した。


「あれだけの魔法を使った後で疲れていないのか」


 土魔法の究極と呼ばれた魔法を無詠唱で使用する咲耶へカナリーは驚愕の視線を向けている。鎮也はこの時、カナリーが有名冒険団の代表だから魔法に詳しいのだと思っていた。


「まだ疲れるほどじゃないかな」

「急ごうカナリーさん、このペースなら日が落ちる前に中腹まではたどり着けそうだ」

「あ、ああ、そうだな」


 本来の予定ではこの場所で一晩を明かすことになっていたが、休憩いらずの土の馬は想定の半分の時間で走破してしまった。鎮也個人としてはこの場で休んですぐに眠りに就きたいが、それはあくまでも個人的な理由である。

 団体の目標が早まるならそっちを取るべきでだ。


「ここでのキャンプは中止だ、このまま山を登るぞ」


 カナリーはどこかボーとしたような気の向けた指示を出す。

 鎮也は咲耶の魔法がもっと目立つかと思ったが、冒険者たちの反応が意外に薄かったことに安堵した。


「やっぱり魔法って廃れてるんだな」


 究極の魔法を使っても反応が薄いのだから。


「シズヤさん、それは違うと思いますよ」


 荷台のトレイシアが鎮也の感想を否定した。鎮也は動き出したカナリーの馬車に遅れないように操作しながら何が違うのかと聞き返す。


「どういうこと?」

「みなさんの反応が薄いのは驚きすぎてリアクションに困っているだけだと思います。確かに街中では対魔法結界の普及で魔法は殆ど使用されていませんが、魔物を相手にする冒険者は使用している人たちは、今でも多いですよ」

「……え?」


 つまり冒険者の間では魔法は廃れていないってこと。


「そう言えば、ギルドナイトのイクスさんも風の上位魔法は使えるって言ってたような」

「深紅の秩序のパーティーにも魔法使い風の女性がいたね」

「冒険者ギルドのホールにも普通にいましたね魔法使い」


 廃れたと聞いたから、全てが廃れたものだと思い込んでいたが、冒険者の間ではまったく退化していないとなると咲耶の使った魔法がいかに高難易度であるかがバレているのか。


「もしかして、やちゃった」

「これって、また勧誘が大量に着たりして」


 咲耶は昔のしつこかった勧誘を思い出し顔色を悪くした。


「その対策に冒険団を作ったのですから大丈夫だと、思いますが」

「レオナそこは大丈夫って言いきって欲しかったよ」


 何事にも例外はある。冒険団に所属する冒険者を勧誘するのはマナー違反ではあるが、ルール違反ではないのだ。


「昔はそんなにしつこかったのですか?」


 昔を知らないトレイシアが控えめに訪ねる。魔法には疎い彼女はあまり想像ができないようだ。


「もう、相当に」


 口に出したくもないほど、冒険者集団のみならず、国や他の組織からの勧誘もあった。

 食事をしていても、宿にいても、冒険者ギルドにいても、勧誘、勧誘で当時の咲耶は大量のストーカーに狙われているようなモノだった。

 レオフィーナも火魔法の究極を使えたが、造形魔法の利便性には叶わなかったので、勧誘は咲耶ほど酷くはなかった。


「サクヤはマスター一途なでの勧誘など無駄だというのに」

「ちょっとレオナ!」


 落ち込んでいた咲耶が一瞬でイチゴのように赤い顔になった。


「本当のことでしょう」

「レオナ!!」

「なんです、もしやマスターへの想いは偽物ですか」

「誰もそんなこと言ってないでしょ」

「ほらみなさい」

「う~~」


 荷台が騒がしくなったおかげで、鎮也も眠気を何とかこらえることができていた、鎮也にとって何とも耳が熱くなる話であった。

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