第39剣『ハーレム候補のお約束』
衝撃的な光景、鎮也は記憶の片隅で咲耶が農業用と勘違いされて買われていったとは聞いてはいたが、実際に目の当りのするとショックはとてつもなく大きかった。
「あ、あの、なにか」
突然の鎮也の絶叫を浴びたトレイシアがビクリと体を震わせた。
「マスター、落ち着いてください、未来のハーレム候補がおびえています」
「だって、おい、あれだぜ」
レオフィーナのお約束のボケにもツッコム余裕を無くした鎮也が震えた指でトレイシアの持っている農業用フォークを指した。
鑑定眼を発動させれば、寝ぼけた頭にもしっかりと情報が流れ込んでくる。
「―――――――――――――――――――――――――――
聖雷剣シリーズ シリアル111
【名称】「フォークスライサー(灰色化)」
【和名】「三重奏剣」
【製作者】星尾鎮也
【使い手】トレイシア(仮)
【分類】槍剣 【レア度】☆☆☆☆★(5-1)
【長さ】172センチ【重さ】3.2キロ
【聖剣核】スターサファイア
【スキル】
※封印中『雷魔法(中)』……使い手が雷魔法を扱えるようにする(効果:中)
『斬鉄』…………固い鉱物を切り裂く。
『斬水』…………形の無い液体を切り裂く。
『斬魔』…………魔力で構成された物を切り裂く。
『飛び斬撃』……斬撃を飛ばす。
【補足】
聖雷剣初の三ケタゾロ目。聖剣鍛冶師である鎮也が、1が三つ並んだ形をフォークの先に例えて三つ又の槍剣を製作した。完成品は農業用フォークに似ている。
能力は斬撃に特化している、またスキルを発動させなければ斬らないことも選べる。
以前の使い手が相応しくなかったため灰色化していたが、認められる使い手と巡り合い徐々に灰色が薄れてきている。
―――――――――――――――――――――――――――」
「お前はそれでいいのか、農業用工具になってるぞ」
アリア以外で初めて聖雷剣自身が認めた相手と出会いたのに、その用途が農作業用って、剣としての誇りは無いのかと、全身の力が抜けた鎮也はガックリとその場に崩れ落ちた。
「でも、認めちゃってるんだよな、ステータスの使い手の部分がカッコ仮になってるし」
前の使い手が相当ひどかったのか、トレイシアに農業用として使われることの方が、万倍も増しに思えるほど辛かったのだろうか。
「鎮也くん、とにかく落ち着こう、大きく深呼吸してもっと前向きに考えようよ」
咲耶が二日酔いを介保するように背中をさすってくれる。
襲ってきた目まいが、ショックのせいか、寝不足のせいかはわからないが少しだけ精神が持ち直してくる。
「用途は外見上しょうがないよ、悪人が持ってなくてよかったじゃない、ね、そう考えよう」
「そうですマスター、ここはトレイシアが持っていたことを運命と感じ喜びましょう」
そうだよな、見つかったことを素直に喜ぶ、咲耶の言うとおり、ウーゴットのような盗人が持っているより何倍も増しだ。と鎮也は自身の心を整える。
二人の従者の懸命な励ましで、何とか立て直した鎮也だが、三日徹夜の上でのこの精神ダメージはかなり鎮也に効いていた。
「あの、私が何かシズヤさんに失礼なことをしましたか」
あまりの鎮也の奇行にトレイシアが不安そうに訪ねてくる。
「トレイシア、あなたは何も悪くない、ただ運命の悪戯に巻き込まれただけです」
「は、はぁ」
鎮也の事は咲耶にまかせたレオフィーナがトレイシアに説明をしてくれた。
それはもう包み隠さず。
鎮也が伝説の聖剣鍛冶師だということも、百二十年の時代を飛ばされたことも、盗まれた五百十二本の聖雷剣を探していることも。
「シズヤさんが、あの昔話に登場する聖剣鍛冶師、救国の英雄」
荒唐無稽な話であるのに、トレイシアは信じてくれた。それになんか鎮也の知らない単語まで飛び出してきた。なんだろうか救国の英雄とは。
鎮也は帝国とケンカしたことがあっても、救ったことなど一度もない。
「そうです、その救国の英雄です」
鎮也が知らないんだから当然レオフィーナも知らないだろうに、さも当然のように話を合わせるレオフィーナさん。
「そして、あなたが持っているその一見農業用フォークに見えるそれも、マスターシズヤが生み出した最高の剣の一振り」
「これが」
トレイシアが自分の持つ、農業用フォーク改め聖雷剣を見つめる。
「あなたはこの剣に認められました、それは同時にマスターシズヤのハーレムとして認められたのも同じ」
真面目に説明していたかと思いきや、レオフィーナは百八十度話題を回転させ暴走をはじめてしまった。
「ハ、ハーレム、私がッ!?」
「ちょっと待ていッ!!」
今度はどうにかツッコミを入れられるだけの精神力は取り戻していた。
ここで止めなければ大変なことになると、鎮也は空気すべてを使って待ったをかけた。先ほどの絶叫と合わせて喉がちょっとヒリヒリする。
「どうしたましたマスター、彼女なら申し分ないと思われますが、顔良し、性格良し、作業着で隠れていますがスタイルもサクヤより上と見ました」
「ええ~~」
「ちょっとレオナ!」
トレイシアが慌てて体を隠し咲耶が顔を赤くする。
「そういう問題じゃない!」
「問題? ああ、失礼しましたマスター、さすがにそこまでは考えが至りませんでした」
「なんだよ」
鎮也は、とてもいやな予感がした。鳥肌が立つほどに。
「ここはマスターが主人公固有の鈍感スキルを発動する場面でした。トレイシアはすでにマスターを少なからず想っていると仮定して、それをマスターが気づかずに自然な形で仲間として引き込むのがお約束ですね」
「仮定の時点でお約束から外れてるだろ」
鈍感スキルなど鎮也は持ち合わせていない。
「細かいことや矛盾は、後からこじ付けでどうにかするのもお約束です」
「それはお約束じゃなくて仕様だ」
長期連載作品などが、設定が多くなりすぎて、相反する設定が被った時におこなう苦肉の策であってお約束ではない。
「ちょっとレオナいい加減にしなさい」
静観していた咲耶もこれ以上はやりすぎだと、レオフィーナを止めにくるのだが。
「それではお迎えもきたので、後は若い人同士で、さぁサクヤいきますよ」
レオフィーナの方が近づいてきた咲耶の腕を掴むと自分から離れていく、取り残された鎮也とトレイシアは気まずく視線を合わせられない。両者の顔は赤く染まったまま。
「作業、続けようか」
「そ、そうですね」
互いに明後日方向をむきながら飼葉を積み込もうとするが、トレイシアが自分の持ってる道具のことを思い出した。
「あ、あの、これは」
「え、ああ、しばらく、持っててくれ、時間もないし」
「は、はい。前向きに見当します」
持っててくれと言ったらさらに顔どころか耳までも赤くするトレイシア。
「え?」
なぜに、聖雷剣の預けると話をしていたのに、どうしてトレイシアは恥ずかしそうに返事を先延ばしにするのだろうか。
「流石ですマスター、まさにお約束通りです。こんな近くで鑑賞できるなんて、私はなんて幸せ者なのでしょう、一生ついて行きますマスター」
「感動する場面かな」
同じ親、鎮也の叔父の手によって生み出された咲耶とレオフィーナ、言わば姉妹とも呼べる二人なのだが、趣味や考え方は正反対であった。
二人は近くの芝生に座り込んで鎮也たちのことを鑑賞していた。
「あ、あの、この剣を持つ人は、シズヤさんの、その、ハー……の候補なんですよね」
語尾のあたりが小さくなり、聞き取りにくかったが、何を言いたいのかはわかってしまった。
「私、救国の英雄に小さいことからずっと、憧れてたんです。でも、突然の事だから、実際のシズヤさんもかっこいいなって、リーザちゃんから助け出された時の話しも聞いてますし、えっと、えっと」
「え、ええっと、とにかく一度、落ち着こうぜ」
これはもしかしたら、レオフィーナの仮定が当たっていたのだろうか。
鎮也の全身に流れる血が沸騰したかのように頭の天辺まで上がってきて、耳たぶは炙ったように熱くなった。
「レオナの言ったことは、あまり気なし無いように」
「マスターそれはつれないです、せっかく彼女がその気になってくれたのに」
観客に徹していたレオフィーナが舞台を壊そうとする主役にクレームを付けてきた。
「いいから、レオナも手伝ってくれ!」
これ以上ふざけるなと少し強めの言葉を使った。
「わかりました。続きはマスターの体調が戻ってからにしましょう」
「続きはいいよやらなくて」
もう長い付き合いになるレオフィーナは引き際を心得ており、鎮也を完全に怒らせる逃走する。
それをやられたら結局鎮也は何もできなくなり、振り回されて終わる。
それからやっと騒がしくしながらも準備を終えて、咲耶が土魔法で作りだした馬に馬車を引かせてようやく集合地点に向かうことができた。
旅にはまだ出発してもいないのに、結構疲れている鎮也であった。
集合地点にはすでにカナリー団長代理率いる『深紅の秩序』のメンバーがエルラークを除き揃っていた。馬車を引く土の馬を見て彼女たちは驚きの表情であった。
「これはもしや、土魔法でも最高難易度の造形魔法か、ここまで精巧な馬を作り出せるとは、まるで生きているようだ」
カナリーが馬車を引いていた馬に関心を示す。外見は馬だが、土色一色なので生き物でないことはすぐにわかる。
「馬を見つけられなくて、しょうがなくの代案だ、目的地まで移動するだけなら問題ない」
「そうか、それにしても見事だ」
カナリーは完成度の高さを感心し、いろいろな角度から土の馬を観察している。
「マスター、深紅の秩序は女性が多いのですね」
レオフィーナが鎮也だけ聞こえるように耳打ちをしてきた。確かにレオフィーナの言う通り、姿が無いエルラークを除き、集合場所に着ているカナリーも含む仲間たちは五人全員が女性であった。
『深紅の秩序』の中の一人が鎮也の元へやってきた。茶色い髪をショートカットにした元気のよさそうな女性、防具をつけず厚手の服に腰には二本のショートソードという偵察が得意な遊撃士などが好んでする装備をしている。
「あなたが冒険団『七星剣』の団長さん」
「ああ、リーダーをやっている鎮也だ」
「私はカナリー団長代理の補佐をしているルーシアっていうの、よろしくね」
「よろしく」
手を差し出してきたので、鎮也も自己紹介をして手を握り返した。
「おお、さすが伝説の冒険団を名乗るだけあっていい腕してるね、手の皮も厚い、カナリーから聞いた通りの鍛冶師なんだ、将来有望って言ってたよ」
「それはありがたいですね」
「もっと喜んでいいよ、男に辛口のリナリーが、褒めるなんてめったにないことだから」
元気に言葉を浴びせかけてくるルーシア。眠い頭にはけっこうきつい会話であった。
「ルー、何を油を売っている。今日の依頼は救出なのだぞ、時間を無駄にするな」
「ごめんカナリーすぐ戻る。ごめんね怒られちゃった」
ぺロリと舌を出してカナリーの元へと戻って行く、口うるさく注意するカナリーの説教をルーシアは笑顔で聞き流しているようだ。まじめ一直線の団長とそれを陽気にフォローする補佐。この二人は性格は真逆だが上手く噛み合っているように見える。
メンバーも二人のやり取りは慣れているようで、ほほえましく見つめているだけで止めようとはしなかった。
「まったくお前は、そうやってすぐにはぐらかす」
「カナリーが固いだけだよ、力を抜ける時に抜いておかないと、いつか花瓶みたいに割れちゃうよ」
どうやら、口では団長代理より補佐の方が実力は上のようだ。
「マスター、一気にハーレム候補が五人も増えましたね、彼女たちは全員いいモノを持っています」
「頼むから冗談は今度にしてくれ」
「そうですか、別に冗談ではなかったのですが、ここはマスターの意思に従いましょう」
仲間が全員ハーレム候補なんて会話がカナリーに聞かれたら間違いなく鎮也も説教されてしまうだろう。
「君、我々がこの馬車を使ってもいいのか」
説教を一段落終了させたから、カナリーは自分たちの使う馬車を確認してくる。
「そう、その馬車が『深紅の秩序』の分だ、好きに使ってくれ」
「準備感謝する。こちらは早く着いたのでギルドから必要な道具を預かってきた、君たちの分もあるから受け取ってくれ」
雑用をしていたのは鎮也たちだけではない、今回の依頼は行方不明者の捜索が第一である。捜索に必要な道具などは冒険者ギルドの方が用意してくれていた。
五台の馬車の割り振りは、鎮也たち『七星剣』で一台。カナリーたち『深紅の秩序』で一台。レンタル牧場で借りてきたプラトンウルフたちの一台。そして今回の捜索チームの中で一番大所帯である『梟の暗視』が二台を使うことになっていた。
ギルドからの荷物の詰め込みも終わり、後は『梟の暗視』が到着しれば出発できるのだが、彼らは待ち合わせ時間になっても現れなかった。




